【イベントレポート】AI時代の調達力をどう高めるか――AIエージェントの進化と「AI Ready」な調達業務への変革

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2026.09.28
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調達部門は今、コスト削減を担う機能から、経営判断を支える機能へと進化を求められている。物価・人件費の上昇、地政学リスク、GX(グリーン・トランスフォーメーション)/ESG対応が重なり、生成AIやAIエージェントの活用も、もはや一部の先進企業だけの課題ではない。一方で、「AIを試してはいるが、業務成果につながらない」「社内ルールや取引実績を踏まえた判断は任せられない」「属人的な確認や判断が残る」といった声も少なくない。AI活用を個人の試行で終わらせず、調達プロセスに組み込み、継続的な成果につなげられるかどうかが、今後の調達力を左右する。

アビームコンサルティングは、2026年7月24日開催の「Coupa Inspire World Tour Tokyo 2026」において、AI活用の成熟度モデルと、AIを調達業務の成果につなげる実装アプローチを紹介した。本稿では、その内容をもとに、AI時代に求められる調達力と、企業が今から備えるべき論点を整理する。

執筆者情報

  • 馬場 雅之

    馬場 雅之

    Senior Manager

AI時代に求められる調達部門の3つの力

調達を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化した。経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2026年版ものづくり白書」でも、収益性の高い企業ほど調達先の変更・多角化など、サプライチェーンの強靭化に積極的に取り組んでいる。
調達先の多角化は、単に取引先の数を増やすことではない。特定の国やサプライヤーへの依存度を把握し、供給が止まった場合の影響を見極め、代替サプライヤーの品質や供給能力を事前に評価して取引準備を整えることまでを含む。そこで求められるのは、先手を打ち続ける力である。

こうした環境変化を踏まえると、AI時代の調達部門には、まず価格高騰や地政学リスク、供給網の複雑化を早期に捉え、代替調達や調達先の多角化を先回りして準備する「先を読み、備える力」が求められる。加えて、コスト・品質・供給安定・リスク管理の優先順位が変化する中で、経営方針や調達戦略を購買ルールやサプライヤー選定に反映し、現場の取引へ素早く確実に落とし込む「意思を効かせる力」も欠かせない。さらに、定常業務を抜本的に省力化し、バイヤーが分析・交渉・サプライヤーリレーション構築といった本質的な業務に集中できるようにする「余力を生み出す力」も必要だ。重要なのは、これら3つの力を個別に高めるのではなく、調達DXとAI活用によって一体として強化していくことである。(図1)

AI活用が企業競争力に与える影響は、すでに明確に表れ始めている。先進的な企業では、AIを単なる試行や個人利用にとどめず、業務プロセスや意思決定の中に組み込み、経営成果につなげる取り組みが進みつつある。一方で、多くの企業ではAIの導入や試行は進んでいるものの、具体的な価値創出や継続的な成果にはまだ十分につなげられていないのが実情だ。競争力の差を生むのは、AIを利用しているかどうかではなく、業務に組み込み、調達判断の質とスピードを高められているかどうかである。

図1 AI時代に求められる3つの調達力

調達力を高めるAI活用の成熟度モデル

前章で示した「先を読み、備える力」「意思を効かせる力」「余力を生み出す力」を一体として高めていくには、AIを単なる個人業務の効率化ツールとしてではなく、調達プロセスの中で継続的に機能する仕組みとして組み込む必要がある。
その具体的な手段として注目されるのが「AIエージェント」である。AIエージェントは、質問に答えるだけでなく、与えられた目的に合わせてタスクを分解し、必要な情報を取得し、具体的なアクションまで実行できる。たとえば、購買規程やカテゴリー方針を踏まえて申請内容を確認する、過去の見積実績やサプライヤー評価を参照して比較観点を提示する、見積比較の結果をもとに次の処理へつなげるといった支援が可能になる。これにより、AI活用は情報収集や文章作成といった個人業務の支援にとどまらず、調達プロセスそのものを支える段階へと広がっていく。
ただし、AI活用は一足飛びに高度化できるものではない。自社の業務プロセス、データ整備状況、社内ルールの標準化度合いに応じて、実現できる支援の範囲は段階的に広がる。調達業務への適用を念頭に置くと、その進化は5つの段階で捉えることができる。(図2)

図2 調達業務におけるAI活用の成熟度モデル

まずチャット期(Stage 0)では、市況調査や見積条件の整理、交渉論点の洗い出し、メールドラフト作成など、一般的な情報をもとにしたチャット形式の支援が中心となる。日々の調達業務における情報整理や文章作成を支援する段階である。
次のガイド期(Stage 1)では、社内の購買規程やカテゴリー方針を読み込ませることで、自社ルールに沿った回答が可能になる。これにより、購買規程に基づく申請内容の確認や、過去価格・仕様を踏まえた査定観点の提示など、より実務に即した支援へと発展する。
さらにタスクエージェント期(Stage 2)に進むと、AIはシステムから過去データや見積回答実績を参照し、見積比較やサプライヤー選定を実行した上で、その結果をシステムに登録するようになる。この段階を起点に、AIは単なる業務支援を超え、AIエージェントとして自律的に実行領域を広げていく。
エージェント協調期(Stage 3)においては、調達SaaSに加え、ERP、データ分析基盤、契約管理システムなど複数のシステムと連携し、購買プロセス全体をエンドツーエンドで支援する段階へと広がる。そして最終段階となるエコシステム接続期(Stage 4)では、サプライヤー側のエージェントとの連携も含め、企業間フローの自動化まで対象が拡大する。納期調整、契約条件交渉、取引実行といった社外とのやり取りもAIが支援・実行することで、調達業務は社内業務の効率化にとどまらず、企業間連携そのものを高度化する段階へと進化していく。

重要なのは、いきなり上位段階を目指すことではない。自社の業務プロセスとデータ整備の状況、社内ルールの標準化度合いに応じて、実現できる支援の範囲は段階的に広がる。まずは自社の成熟度に応じた到達段階を見極め、現実的な地点から着実に引き上げていく設計が、投資対効果を高める。

調達AIの精度を左右する情報整備と暗黙知の活用

調達業務におけるAI活用の段階を引き上げる上で欠かせないのが、AIに「何を読ませ、何を根拠に判断させるか」を明確にすることである。
チャット期のAIでも、情報整理・比較・ドラフト作成など日々の調達業務に幅広く活用できる。しかし、業務で安定した品質を得るためには、一般的な情報だけでは不十分だ。
現場では、「サプライヤーとの取引実績や評価を踏まえて交渉したい」「社内の購買規程に照らし合わせて手配・承認したい」「市況や購入品の仕様など専門的な知見を踏まえて分析したい」といったニーズがある。これらに応えるためには、AIに「何を読ませ、何を根拠に判断させるか」が決定的に重要になる。調達AIの品質を高めるために必要なデータ群は、従来のシステム管理範囲をはるかに超え、調達戦略・購買規程・カテゴリー方針・サプライヤー情報・取引実績・外部市況情報に加え、紙媒体の見積書・仕様書、さらにはバイヤーの経験・判断観点といった暗黙知までが対象となる。問題は、これらの情報が分散・非構造化された状態にあることだ。

この問題に対しては、主に2つのアプローチが有効となる。
まず1つ目は、AI-OCRによる非構造情報のデータ化である。従来のOCRは、精度を出すための事前学習や設定に一定の負荷があったが、現在のAI-OCRはレイアウトの違いに柔軟に対応し、文脈を踏まえた解析も可能になっている。たとえば、形式の異なる見積書や、図面を含む大型設備の仕様書から、コストドライバーとなる情報を抽出し、調達判断に使えるデータへと変換できる。
2つ目は、AIを使った暗黙知の言語化である。ベテランバイヤーが経験的に行ってきた判断や、担当者ごとに蓄積されてきた査定観点を、AIエージェントとの対話や過去資料の分析を通じて引き出し、整理する。個人に閉じていた知見を組織で再利用できる形に変えることで、AIが補助しながらナレッジを蓄積・活用するサイクルを構築できる。

このようにAI活用を定着・拡大させるためには、従来のシステム開発とは異なるアプローチが求められる。従来型のテクノロジー実装は、要件を固めて長いサイクルで「正しく作る」ことが中心だったのに対し、AIは短いサイクルで試して改善できるため、いかに素早くサイクルを回すかが勝負になる。そのために有効なのが、①個人試行、②利用者改善、③横展開という3つの改善サイクルを継続的に回すことである。(図3)

まず個人試行サイクルでは、個人レベルでプロンプトやコンテキストを調整しながら、早い段階で試行を重ねる。AIは仕様や挙動が見えづらい面があるため、まずは実際に使ってみることが出発点となる。次に利用者改善サイクルでは、実際に活用した現場の違和感や要望を収集し、プロンプトやナレッジの改善につなげていく。そのためには、検討段階から「誰に、いつ、どのように使ってもらうか」「利用者の声をどのように収集するか」を設計に組み込んでおくことが重要だ。
さらに横展開サイクルでは、個別の活用ケースから得られた教訓を整理し、テンプレートや標準部品として組織に還元する。成功事例だけでなく、うまくいかなかった事例も含めて共有し、週次のケース共有会などを通じて組織知に変えていくことが、AI活用の定着と拡大につながる。
また、業務プロセスへの実装においては、AIを一部の作業にだけ適用するのではなく、プロセス全体を人とAIの協働で再設計することが効果を最大化する。AIがドラフトを作り人が最終化する、AIが標準処理を担い人が例外対応する、AIが実行し人が統制するなど、特性に応じた役割分担が設計の核心となる。たとえば見積比較では、AIが一次評価を作成し、バイヤーが例外条件を判断するというように、業務ごとに人とAIの境界をあらかじめ定義しておくと定着が早い。汎用的な1つのAIで全てをまかなうのではなく、業務を専門性の異なる小さなタスクに分解し、シングルタスクエージェントを連携させながら業務全体を1つの流れとして支援する構成が現実的かつ効果的だ。

図3 AI活用の定着・拡大を加速する3つの改善サイクル

経営に貢献する調達機能へ向けた環境整備の重要性

AIは、ChatGPT、Claude、Gemini、Copilotをはじめ、主要モデルが競い合いながら急速に進化している。今後、どのモデルが主流になるのか、AIエージェントがどの速度で普及するのか、調達業務のどこまでが自動化されるのかを正確に予測することは難しい。だからこそ重要なのは、どのようなAI技術においても調達分野で共通して求められる土台、「調達AI Readyな環境」を今から構築することである。
調達AI Readyな環境とは、AIツールを導入することだけを指すものではない。調達戦略や購買ルールを整理し、取引実績やサプライヤー情報を活用しやすい形で蓄積するとともに、業務プロセスを標準化し、システム基盤とサプライヤー連携を整えた状態を指す。言い換えれば、AIが判断し、行動し、改善できるだけの土台を、調達業務の中に持っているかどうかである。

その観点から、調達SaaSの導入・活用は有効な対応策となる。標準的な調達プロセスが整備されることでデータ品質が向上し、ベンチマークやKPIの判断材料が蓄積され、サプライヤーとの直接連携によってAIが具体的なアクションを実行できる基盤が整う。さらに、MCP(Model Context Protocol)をはじめとする標準的な接続方式やAPIを適切に採用することで、AIモデルやエージェントと社内外のデータ・ツールとの接続性を高め、将来の技術選択肢を広げやすくなる。

AI Readyな環境がもたらす価値は、業務効率化にとどまらない。判断の速度と質が高まることで供給リスクへの耐性が増し、調達がコスト・品質・供給安定の最適点を継続的に探索できるようになる。これは、収益性とサプライチェーン強靱性の両面で経営に貢献する調達力へと直結する。
もっとも、基盤を整えるだけでは変革は進まない。実際の調達現場では、カテゴリーや部門ごとに異なる運用、例外処理、属人的な判断、サプライヤーとの個別事情が存在する。これらを無視してAIを導入しても、現場で使われない仕組みになってしまう。

重要なのは、構想策定から業務再設計、データ・基盤整備、実装、定着化までを一貫して進めることだ。現場の運用や判断基準を踏まえながら、AIが活用できるデータ、業務プロセス、システム基盤を整えていく必要がある。まずは、自社の調達データ、購買ルール、判断基準、人とAIの役割分担がどの程度整理されているかを確認し、AI Readyな環境の実現に向けて、何から整えるべきかを具体化することから始めてほしい。

アビームコンサルティングは、調達業務の深い知見、AI活用の実装経験、そして変革を組織に定着させるチェンジマネジメントを組み合わせ、AI時代の調達力向上と継続的な価値創出を支援している。AI Readyな調達環境の構築から実務への定着まで、企業の調達変革を実現するパートナーとして伴走していく。


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