近年のAIやデータ活用の進展により、あらゆる業界で顧客を「属性」ではなく「関係性・行動」から理解する重要性が高まっている。本章では、1990年代以降の技術革新に伴う顧客体験の変化を振り返り、AI時代における顧客理解の起点を整理する(図1)。
1990年代後半からは小売業がECを開始し、Amazon、楽天などプラットフォームが台頭しはじめた。顧客はプラットフォーム内で商品を検索するようになり、企業側はAmazonや楽天のECプラットフォームで受けた注文に対する在庫管理・出荷管理、物流改革が求められるようになった。
2010年代後半以降、ECパッケージやSaaS型ECプラットフォームが増加し、各企業が自社ECを持つD2Cの流れが加速するようになる。顧客は自社ECでの顧客の購入履歴・閲覧履歴をもとにした商品レコメンドやメルマガの受信が可能となり、企業側はこれらの顧客体験を可能とするための自社EC導入・CRM業務改革が求められるようになった。これはコロナ禍の外出規制にて実店舗での購入が減少し、顧客の顔が見えなくなったことで対応が加速した。
近年では、顧客の個人情報や購買履歴といった従来のデータに加え、位置情報や行動ログ、コンテンツ視聴履歴など、よりリアルタイムかつ多様なデータを活用した顧客体験設計が既に進み始めている。
特に生成AIの進展により、顧客一人ひとりの関心や行動に応じたレコメンドやコミュニケーションの最適化がリアルタイムで可能となり、従来のセグメント単位ではなく「個客」単位での体験提供が現実のものとなりつつある。
また、ライブ配信やSNSと連動した購買体験の高度化により、顧客は単に商品を購入するだけでなく、コンテンツを楽しみながら意思決定を行う「エンタメ型消費」が一般化している。
このように、AIをはじめとする技術革新は、顧客体験を効率化するだけでなく、「熱量を高める体験」へと進化させており、企業には従来の販売チャネルを前提とした発想から、顧客との関係性そのものを再設計することが求められている。また、こうした顧客体験を実現するためには、顧客の行動や熱量を継続的に把握し、関係性を深化させることが重要となる。そのため、企業自らが顧客と直接つながるD2F(Direct to Fan)の重要性が高まっている。
今後は、こうした変化がさらに進み、顧客体験は単なる最適化に留まらず、熱量や共感を生み出す体験として一層進化していくと考えられる。