CX変革を促進するD2F(Direct to Fan)×エンタメ型消費:スポーツファンの姿から見えたファンタイプと消費行動(後編)

インサイト
2026.07.29
  • スポーツ&エンターテインメント
  • 小売・流通
  • CX(マーケティング/セールス/サービス)
  • 顧客体験創出による事業成長

価値観の多様化や購買サイクルの短期化、AIを介した消費行動の変化など、人々の購買体験が目まぐるしく変化する中、CX(カスタマー・エクスペリエンス:顧客体験価値)の向上に向けた取り組みがますます重視されている。アビームコンサルティングはスポーツ業界においてライブオークションという販売モデルを通した実証を行い、その結果、新たなファンの特性や購買行動を見出した。この知見はスポーツ業界に限らず、ファンを起点とする事業全般に共通する企業とファンの新たな関係構築モデル(エンタメ型消費)である。
そこで本インサイトでは、実証結果をもとに、あらゆる業界に応用可能な「D2F(Direct to Fan)によるCX変革」について前後編の2回に分けて紹介する。
前編では、D2F(Direct to Fan)の考え方と、スポーツ業界の実証から見えてきたファンタイプ・行動タイプを基に、顧客を「属性」ではなく「関係性・行動」で捉える重要性について紹介した。
後編となる今回は、AIをはじめとする技術革新によって顧客行動がどのように変化し、企業はどのように顧客との関係性を再設計すべきか、その具体的なアプローチについて紹介する。

※ D2F(Direct to Fan)とは、企業が代理店や小売店などの中間チャネルを介するだけでなく、自らファンと直接つながり、継続的な関係性を構築する考え方である。これにより、顧客データを活用した継続的なコミュニケーションや、一人ひとりに最適化した顧客体験の提供が可能となることで、顧客理解の深化、ロイヤルティ向上、LTV最大化を通じた事業成長につなげることができる。

執筆者情報

  • 久保田 圭一

    Principal
  • 森山 和美

    宮藤 真稔

    Senior Manager

AI時代に求められる顧客理解と顧客体験の変化

技術革新によるD2F(Direct to Fan)の広がり

近年のAIやデータ活用の進展により、あらゆる業界で顧客を「属性」ではなく「関係性・行動」から理解する重要性が高まっている。本章では、1990年代以降の技術革新に伴う顧客体験の変化を振り返り、AI時代における顧客理解の起点を整理する(図1)。

1990年代後半からは小売業がECを開始し、Amazon、楽天などプラットフォームが台頭しはじめた。顧客はプラットフォーム内で商品を検索するようになり、企業側はAmazonや楽天のECプラットフォームで受けた注文に対する在庫管理・出荷管理、物流改革が求められるようになった。

2010年代後半以降、ECパッケージやSaaS型ECプラットフォームが増加し、各企業が自社ECを持つD2Cの流れが加速するようになる。顧客は自社ECでの顧客の購入履歴・閲覧履歴をもとにした商品レコメンドやメルマガの受信が可能となり、企業側はこれらの顧客体験を可能とするための自社EC導入・CRM業務改革が求められるようになった。これはコロナ禍の外出規制にて実店舗での購入が減少し、顧客の顔が見えなくなったことで対応が加速した。

近年では、顧客の個人情報や購買履歴といった従来のデータに加え、位置情報や行動ログ、コンテンツ視聴履歴など、よりリアルタイムかつ多様なデータを活用した顧客体験設計が既に進み始めている。
特に生成AIの進展により、顧客一人ひとりの関心や行動に応じたレコメンドやコミュニケーションの最適化がリアルタイムで可能となり、従来のセグメント単位ではなく「個客」単位での体験提供が現実のものとなりつつある。
また、ライブ配信やSNSと連動した購買体験の高度化により、顧客は単に商品を購入するだけでなく、コンテンツを楽しみながら意思決定を行う「エンタメ型消費」が一般化している。

このように、AIをはじめとする技術革新は、顧客体験を効率化するだけでなく、「熱量を高める体験」へと進化させており、企業には従来の販売チャネルを前提とした発想から、顧客との関係性そのものを再設計することが求められている。また、こうした顧客体験を実現するためには、顧客の行動や熱量を継続的に把握し、関係性を深化させることが重要となる。そのため、企業自らが顧客と直接つながるD2F(Direct to Fan)の重要性が高まっている。
今後は、こうした変化がさらに進み、顧客体験は単なる最適化に留まらず、熱量や共感を生み出す体験として一層進化していくと考えられる。

図1 技術革新に伴う顧客体験の変化

情報過多・情報収集の多様化による顧客の多様化と企業のデータ活用

インターネットやSNS、AIの普及により顧客の情報接点は多様化・高度化し、従来の年齢や性別といった属性による顧客理解は限界を迎えている。加えて、生成AIを活用した情報収集や検索行動が拡大する中で、企業には従来のSEO(検索エンジン最適化)に加え、AIO(AI検索最適化)・LLMO(大規模言語モデル最適化)を見据えた情報設計や顧客接点の最適化も求められつつある。こうした変化によって、従来のペルソナ設定やカスタマージャーニーを前提とした一律的なコミュニケーション設計だけでは、顧客の実態を捉えきれなくなっている。

そのため、前編で述べた通り、ファンタイプや行動タイプといった「関係性」と「行動」を起点に顧客を捉え直し、どのようなファンを増やしていくのかというあるべき姿から逆算し、AI・テクノロジーを活用し、個客に最適化したコミュニケーションを設計していくことが重要となる(図2)。

加えて、消費行動は、日用品など機能価値を重視する「日常型消費」と、体験や共感、熱狂を重視する「非日常型消費」へと二極化が進んでいる。特にスポーツやエンタメ、ブランドビジネスにおいては、「推し活」に代表されるような愛着・熱狂を軸とした消費が拡大している。これにより、D2F(Direct to Fan)は単なる販売チャネルではなく、ファンとの関係性を起点にした価値創出モデルとして位置づけられるようになっている。このような環境変化の中で、顧客データは単なる分析対象ではなく、顧客との関係性を設計・最適化するための基盤となっており、AIを前提としたリアルタイムなデータ活用と意思決定が求められている。

図2 顧客の多様化と企業のデータ活用の変化

企業のD2F(Direct to Fan)促進に向けた課題とアプローチ

企業のD2F(Direct to Fan)促進を阻害する課題

D2F(Direct to Fan)が顧客との関係性を再設計する事業戦略上の要点となっている一方で、実際の推進現場では、既存事業構造や組織体制に起因する複数の障壁が存在する(図3)。アビームコンサルティングの支援実績をもとに企業のD2F(Direct to Fan)が進まない理由を紐解くと、主に以下の5点が挙げられる

  • 既存チャネル依存
    既存の小売店や卸売業者との関係に依存していることが多く、D2F(Direct to Fan)に移行することでパートナーシップを損ねるリスクがある。商品・サービスの企画から販売まで卸売業者に委託している場合、ファン特性を自社内で把握できていないケースも散見される。
  • 企業・ブランド認知度の課題
    既に市場で認知がある企業・ブランドでも直接ファンに商品・サービスを訴求するノウハウや戦略が不足している場合が多い。特にD2F(Direct to Fan)ではSNSの活用やオンライン広告などでの適切なターゲティングが重要となるが、自社内にこれらの領域における知見がなく、外部に委託しているケースが多い。
  • テクノロジーとデータの活用課題
    D2F(Direct to Fan)実現にあたっては、自社サイトやECプラットフォームを構築・運用する技術力、顧客データを効率的に活用するスキルが求められる。しかし、自社内でIT人材のリソースが不足していることが多く、データ分析やOne to Oneマーケティングを行えていない、または外部に委託しているケースが多い。
  • 物流・カスタマーサポートの課題
    D2F(Direct to Fan)では、ファンに商品・サービスを直接届ける物流ネットワークの構築や、購入後のサポート体制が重要となる。これらを円滑に運営するためにはリソース・コストがかかるため、この領域も外部に委託することが多い。
  • 組織文化と意思決定プロセスの硬直化
    特に大手のBtoC企業においては既存のビジネスモデルを変革する上での意思決定に時間がかかるため、D2F(Direct to Fan)のような迅速な変化への対応が自社完結では難しいことがある。イノベーションを受け入れる文化が不足している組織の場合、D2F(Direct to Fan)のようなプロジェクトは推進力を失いやすく、結果として従来の販売モデルに立ち戻ってしまうこともある。
図3 D2F(Direct to Fan)の推進を阻害する壁

これらの壁を克服するためには、従来の販売モデルを前提とした発想から脱却し、柔軟な戦略展開や専門知識の導入により、事業構想立案までに仮説検証を行い、社内の合意形成を進めながらファン特性の理解も同時に深めることで事業の確度を高めていく必要がある。自社内に知見を蓄積しながら顧客との関係性を設計・最適化していくことが、事業を成功に導く鍵となる。

企業のD2F(Direct to Fan)促進に向けたアプローチ

D2F(Direct to Fan)は単なるマーケティング施策ではなく、事業・組織・テクノロジーを横断した変革である。そのため、変革の推進にあたっては、事業ステージに応じた段階的な取り組みが有効となる。アビームコンサルティングでは、以下の7ステップ・3フェーズでの推進を推奨している。

  1. 企業のビジョン、課題の把握
  2. 事業仮説立案
  3. PoC実施 -自社のファンタイプ/行動タイプ解明(AI活用、ヒアリング、アンケート、データ分析など)
  4. 事業構想立案
  5. 事業コンセプトと現状のファンタイプ/行動タイプに基づいた施策検討
  6. 施策実行のための組織・人材マネジメント
  7. 施策実行のためのDX・AI改革(EC、基幹、顧客基盤、マーケティングツールなど)

各ステップについて、詳しく解説していく。

1. 企業のビジョン、課題の把握

企業のビジョン、抱える経営課題を可視化して、新規事業創出や既存事業の収益拡大など企業が目指したい未来に対する現状課題とのギャップを把握する。

2. 事業仮説立案

事業仮説立案では、SWOT/PEST分析、VPC(Value Proposition Canvas)、BMC(Business Model Canvas)などのフレームワークを用いて、顧客/事業価値の探索・検証を行う。新規事業の場合は事業コンセプトの仮説立案、既存事業の場合は既存サービスの課題発見や顧客体験の変革テーマ設定から改善に向けたPoC検証項目策定までを進める。
ワークショップやディスカッションを通じて業界や企業の将来像を描きながら、ビジネスアイディアの着想に至るまでを段階的に固めていくことが有効となる。

3. 事業仮説の検証(PoC)によるD2F(Direct to Fan)変革のスモールスタート -自社のファンタイプ/行動タイプ解明(ヒアリング、アンケート、データ分析など)

事業仮説を基に、本格始動前のPoC検証を行い、自社商品・サービスの主要な顧客となるファンタイプ/行動タイプを解明する。既存事業の場合は自前の顧客チャネルを通して顧客ヒアリング、アンケート、販売データ分析などを行い、既存顧客のロイヤリティを高めていく。
これらに加えさらに成功確率を高めるために、AIを活用した顧客データ分析やAIペルソナ(デジタル上の仮想人物像)を活用したデジタルツインによるPoC・シミュレーションを組み合わせることで、顧客行動の仮説検証や施策シミュレーションを迅速に行うことができる。従来は時間を要していた仮説検証を短期間で繰り返し実施し、事業の精度を高められる。
新規事業で顧客チャネルを保持していない場合、または既存事業でも新たな販売方法へのトライアルを試みる場合には、アビームコンサルティングが提供する新規事業構想方法論の活用及びモデルケース・運用手順を用いたD2F(Direct to Fan)クイックマーケティングを活用する方法もある。特にプレ事業立ち上げ期においてはECプラットフォームの販売機能に加え、ライブコマース、NFT、BOPISなどの追加機能を活用した販売データを収集できるため、本事業投資前に適切な販売モデル、ターゲットとマーケティング方針や、事業コンセプトと戦略の確からしさを検証することが可能となる。

4. 事業構想立案

事業仮説とPoC結果を基に定めていた事業コンセプトを確立させ、ビジネスの方向性や目標を明確にする。本格始動に向けた軌道修正や社内上申に向けた事業計画書の作成を進めていく。

5. 事業コンセプトと現状のファンタイプ/行動タイプに基づいた施策検討(PMO/BPO)

事業コンセプトと現状のファンタイプ/行動タイプに基づいた適切な施策検討をPMOないしはBPO形式で推進する。割合の多いファンタイプ/行動タイプに応じた施策を投じ、効率の良いマーケティングを打つことで収益を最大化していく。必要に応じて新規事業構想方法論及びモデルケース・運用手順を用いたD2F(Direct to Fan)クイックマーケティングにてPoCを複数回実施、効果検証を重ねることでPDCAサイクルを高速に回し、ファン特性の理解精度を高めることで、分析結果を基にした施策検討が容易になる。

6. 施策実行のための組織・人材マネジメント(PMO/BPO)

施策実行に向けて、社内外に適切な人員配置がなされているかを精査し、必要に応じて新たな組織体制の検討、外部委託先の選定などを行う。組織・人材マネジメントを円滑に進める上での社内合意形成までを並行して進めることが重要となる。

7. 施策実行のためのDX・AI改革(EC、基幹、顧客基盤、マーケティングツール、AI活用基盤などの導入)

D2F(Direct to Fan)の施策実行にあたっては、必要に応じてDX・AI改革を進めることが重要となる。マーケティング方針の実現に向けて顧客チャネル、顧客基盤/MA、BIなどに不足がないか、基幹システムとのスムーズな連携ができるかなどを確認のうえで、システム機能配置を検討する。さらに、顧客データの統合・活用を前提としたAI活用基盤の構築や、パーソナライズ・需要予測・レコメンドなどの高度化により、顧客体験および意思決定の精度を高めることが可能となる。その後、導入すべき各システムを選定し、顧客体験・データ活用設計からシステム導入までを一貫して進めることで、ファンの顧客体験向上を目的としたデジタルおよびAIの変革を実現する。

上記の各ステップは大きく三つのフェーズに分け、第一フェーズでステップ1~3、第二フェーズでステップ4~5、第三フェーズでステップ6~7を実施し、フェーズごとに効果検証を行い軌道修正しながら着実に変革を推進していくことを推奨している(図4)。

図4 企業のD2F(Direct to Fan)促進に向けた進め方とアビームの支援内容

まとめ

D2F(Direct to Fan)によるCX変革は、単なる販売チャネルの拡大に留まらず、企業とファンの関係性そのものを再設計する取り組みである。顧客の多様化やエンタメ型消費の進展、AIをはじめとする技術革新を背景に、企業には顧客を属性ではなく関係性・行動から捉え、リアルタイムに最適化された顧客体験を提供することが求められている。

こうした変革は、社内リソースのみで完遂することは容易ではなく、構想から実装までを一貫して伴走できるパートナーの有無に左右される。以下、アビームコンサルティングがD2F(Direct to Fan)領域で培ってきた強みを紹介する。自社の推進体制や外部パートナー選定を検討する際の参考にしていただきたい。

  • ファンデータ・独自フレームワーク
    スポーツ業界における実証を通じて蓄積したファンの消費行動データを保有。そこから導出したファンタイプ/行動タイプの独自フレームワークを活用し、顧客を「属性」ではなく「関係性・行動」で捉えるアプローチを提供。
  • AIを活用した高速仮説検証(AI×PoC)
    AIペルソナなどのAIソリューションを活用した戦略仮説検証・顧客分析により、従来よりも高速かつ高精度なシミュレーションとPoCを実現。事業化前の意思決定を高度化。
  • 構想から実行までの一貫した支援
    スポーツ・エンターテインメント領域を中心とした豊富な支援実績を基に、新規事業構想からPoC、DX・AI改革、実行・定着までを一貫して支援。

アビームコンサルティングは、実証に基づくフレームワークとAIを活用した仮説検証アプローチを強みに、今後も企業のD2F(Direct to Fan)推進とCX変革に貢献していきたい。

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