PoC止まりを越えるとは、AIを本番環境に移すことだけを意味しない。何をやめ、何を任せ、誰をどう配置し、どの成果を財務に反映するかを決め切ることである。仕組みは整っても、これを決め切る経営の意思がなければ、AXは動かない。
AXのリーダーシップとは、AI利用を奨励することではない。止めるべき施策を止め、業務と意思決定を再設計することである。PoCの撤退判断、業務廃止の決断、意思決定基準の更新──これらはいずれも、現場の合意形成だけでは動かない。経営が責任を持って担うべき領域である。特に重い決断は、人材配置にある。エース人材は、低採算事業の撤退・再生、SCM改革、品質・規制対応、海外子会社管理、M&A後のPMIといった、AIでは代替できない難所に配置されなければならない。AIが選択肢を提示できても、最後の意思決定と関係者を動かす責任は人が担う。問うべきはエース人材の人数ではなく、十分な責任と権限を持って難所に配置されているかである。
すなわちAXの成否は、技術導入の問題ではなく、経営の意思決定をどこまで徹底できるかで決まる。やめる権限を行使し、難所にエースを置き、構造と数字に基づいた全社最適を選び抜く。ここまで実行されて初めて、AIは変革実行の中核機能となる。
本シリーズでは、構想(第1回)、財務規律(第2回)、変革実行(本稿)という3つの観点からAXを整理してきた。第1回では「なぜ、何を変えるべきか」を構造的ボトルネックとして診断し、第2回では「どこに投資し、どう回収するか」を財務規律と資産化メカニズムとして整理し、本稿では「どう実行し、何をやめるか」を価値実現レイヤーと経営の意思決定として論じた。本シリーズを貫く一点の問いは、AIをいかに導入するかではなく、AIを前提に経営をいかに再設計するかである。構想なき投資は焦点を欠き、財務規律なき実行はROIを蒸発させ、実行なき構想はPoCに沈む。構想・財務規律・実行は、いずれか一つでも欠ければAIは企業価値に接続しない。この三位一体を担い切れるかが、AX時代の経営力の本質である。これは、AI部門やDX部門の課題ではなく、経営層が直接担うべき経営アジェンダである。
今後もアビームコンサルティングは、AXにともなう難しい意思決定に、経営と現場の双方に入り込んでハンズオンで伴走していく。構想策定にとどまらず、業務・データ設計、AI実装、EAとの接続・本番化、人材再配置、財務成果の実現までを一貫して支援する“Real Partner”として、企業のAIトランスフォーメーションを企業価値の向上へつなげていく。