銀行の海外展開において、ガバナンス強化とオペレーションコスト最適化は経営課題として急速に重みを増している。特に各拠点で個別最適化された事務手続を地域標準へ統合する取り組みは、規制対応・リスク管理・人材制約の三面で経営判断を迫られる領域である。
本インサイトでは、銀行の海外拠点で実施された生成AI活用事例をもとに、海外拠点ガバナンス高度化において生成AIが果たしうる役割とその実践上の要点を論じる。
銀行の海外展開において、ガバナンス強化とオペレーションコスト最適化は経営課題として急速に重みを増している。特に各拠点で個別最適化された事務手続を地域標準へ統合する取り組みは、規制対応・リスク管理・人材制約の三面で経営判断を迫られる領域である。
本インサイトでは、銀行の海外拠点で実施された生成AI活用事例をもとに、海外拠点ガバナンス高度化において生成AIが果たしうる役割とその実践上の要点を論じる。
Tatsuya Oyama
銀行の海外展開においては、預金・為替・融資をはじめとする主要業務で、グローバルで広く利用されているパッケージシステムを導入して業務標準化を進めようという動きが加速している。このシステム導入の動きは、単なるIT基盤の統合にとどまらず、これまで各拠点の商慣習や現地当局規制に応じて拠点ごとに個別最適化・複雑化し、結果として拠点間で乖離・不整合が生じてきた拠点事務手続を、同一地域内の複数海外拠点間で標準的な事務手続(地域標準事務手続書)に置き換えていくうえでの大きなチャンスとも捉えられている。
しかし、このシステム起点での地域標準事務手続書の策定プロセスには、極めて難易度の高い構造的なボトルネックが存在する。
このように、システム導入により標準化を推進するためには、「実務への落とし込み時における高負荷」と「本部事務手続との整合性担保」という2つのチャレンジに対応する必要がある。次章以降では、これらの課題に対して生成AIをプロセスに組み込むことで地域標準事務手続書の作成リードタイムを劇的に短縮した事例をもとに、その実践アプローチと得られた価値を具体的に示す。
銀行の事務手続書作成プロセスに生成AIを組み込むことの目的は、作成リードタイムを大幅に短縮することに加え、担当者間の知見の差による記載粒度・表現のばらつきを統一し、アウトプットの標準化を進めることにある。これにより、拠点間の事務品質の均質化・標準化が実現し、本部が拠点間の例外・逸脱を把握しやすくなることで、ガバナンス管理が実効的に機能するようになる。
加えて、生成AIによる本部事務手続との機械的で網羅的なマッピングの実施は、単なる担当者の省力化にとどまらず、担当者による紐づけ作業の見落としを防ぎ、担当者はダブルチェックに集中できることも企図している。
これらの目的を結実させるためのアプローチとして、生成AIに対して「事務手続書を作成せよ」といった漠然とした指示を投じるだけでは不十分であり、より期待された結果を得るために生成AIの特性を正しく理解した上で、高度なプロンプトエンジニアリング(AIへの指示設計)を行うことが求められる。
具体的には、対象システムを導入した際の想定To-Beワークフローやオペレーションマニュアル、本部事務手続などの各種インプット資料を事前に生成AIに読み込ませて十分に学習をさせた上で 、人間(実務エキスパート)が作成した「正解のサンプル成果物(模範解答)」を提示する手法(Few-Shotプロンプティング)が有効である 。これにより、生成AIに対して生成すべきフォーマット、銀行事務手続として求められる記載粒度、および地域標準として求められる文脈を事前に学習させ 、最終的に狙ったフォーマット・文脈で高精度なアウトプットを生成AIによって自動生成できるようにすることが効率化のポイントとなる 。
上記のアプローチは以下プロセス①②の通りに進められる。
生成AIによる事務手続書の自動生成プロセスにおいて、以下のように処理を3つのステップへ分割し、生成AIへの処理負荷を分散させながら段階的に学習させる手法が有効である。
上記のような1つのプロダクトの事務手続書の新規作成に関して、人間が手作業で行えば1週間から数週間を要するこの一連のプロセスを、上記のような複数ステップの実行によってわずか数十分で約50%~70%の精度を持った1stドラフトとして自動生成させることが可能となる。
【技術的・運用の壁を克服する実践的TIPS】
上記のような生成AIを実務で活用する際、よく直面する課題がある。インプットとなるプロンプトの指示やファイルの情報量が膨大になるほど、生成AIの「Attention(注意力)」が分散し、要点を見失ってアウトプットのクオリティが低下する、という現象である。
この課題に対する実践的なTIPSとして、プロンプトでは一括での大量処理を避け、インプットファイルをできるだけ少量化・軽量化して要点のみを学習・解析させたり、インプット(学習)の処理とアウトプット(生成)の処理を複数回に分けて段階的に実行したりと、プロセスを細分化することが有効である。
試行錯誤を重ねながらプロンプトを継続的に改善していくプロセスこそが、最終的にはより良いアウトプットを生み出すための要点となる。
上記①の処理を実行したとして、対象プロダクトの事務手続書が100%の精度で完成するわけではない。最終的には人間(有識者)によるダブルチェック、および加筆修正が必要となる。この人間による加筆修正作業は、プロダクトの複雑性にもよるが、おおよそ数日間は要する想定ではある。ともあれ、最終的には人間の手によって、実務上でも読み手が理解しやすく、かつ本部事務手続とのリファレンスも正しく紐づいた高度なガバナンスも両立した、効果的な事務手続書を完成することができる。
上述の通り、従来は1週間から数週間を要していた事務手続書の1stドラフト作成が、わずか数十分の自動生成処理と数日間の加筆修正作業へと大幅にリードタイムが短縮された。また、生成AIによる本部事務手続との自動マッピングは、担当者が実施する以上に正確かつスピーディーであり、ヒューマンエラーを極小化することにも寄与している。これらは単なる業務効率化にとどまらず、内部統制の網羅性を高め、本部ガバナンスの実効性を底上げするものとして捉えるべきである。
改めて強調したいのは、「約50%~70%程度の完成度」が持つ意味である。一見すると、「結局最後は担当者による手作業での加筆修正が必要ではないか」と思われるかもしれないが、しかしわずか数十分の処理でここまでの完成度まで精度を引き上げること自体が「質的な転換点」である。ゼロベースからの手書き作業という、担当者に過度な負荷を与えていた作業を生成AIが代替することで、担当者をその煩雑な作業から解放できるメリットは大きい。
そして、残りの30%~50%程度の領域、すなわちTo-Beワークフローやオペレーションマニュアル等では表現しきれない詳細処理、例外処理、微妙なリスク判断の肉付けに対して、担当者が100%の力と時間を注力できるようになったことが何よりも大きな恩恵である。生成AIが定型的な「型」の生成を引き受けることで、人間は本来発揮すべき知的判断業務に集中できる。これこそが、海外拠点ガバナンス高度化における生成AI活用の本質的な価値である。
本取り組みを通じて示されたのは、生成AIを海外拠点ガバナンス高度化に活かすうえで、技術の導入だけでは不十分であるという事実である。実効性を持たせるためには、以下2つの条件がそろっていることが求められる。
この2つの条件は、本取り組みのような事務手続書作成に限らず、プロジェクト管理業務や顧客サービス高度化、内部監査対応など、ガバナンス高度化に関わる幅広い領域に共通して求められるものである。また、本取り組みで実証された事例はまだ完成形ではなく、プロンプトの継続的な改善と生成AIモデルの進化により、1stドラフトの完成度はさらに高まることが期待される。海外拠点ガバナンスの高度化は、生成AIの進化とともに、その可能性を広げ続ける領域である。
アビームコンサルティングは、銀行業務への深い知見と生成AIの実業務へのインテグレーション力の両面を備え、本取り組みのような海外拠点ガバナンス高度化を支援している。本テーマにご関心をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合せいただきたい。
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