対話型鑑賞は、1980年代にニューヨーク近代美術館で開発された教育プログラム「Visual Thinking Strategies(VTS)」を起源とする。専門家が一方的に解説するのではなく、ファシリテーターからの質問を手掛かりに参加者が主体的に問いを立て、作品を読み解く手法である。美術知識の有無を問わず、まず目に見える事実を観察しながら丹念に拾い上げ、そこから生じた曖昧な印象や仮説を言語化する。さらに、「その印象はどの視覚情報に基づくのか」「ほかの解釈はあり得るか」と問いを重ね、互いの意見に傾聴しながら合意ではなく共感できる解釈に近づけていく。正解が一つに定まらない状況で思考の解像度を上げていくプロセスに価値の重心が置かれているのが特徴だ。
近年はアート思考への注目も相まって、対話型鑑賞は経営層から現場社員まで、さまざまなビジネスシーンでの活用が広がっている。当社では2021年にMOMATからプログラム提供を受けて以来、ビジネスへの応用を進めてきた。企業変革の最前線に立つ当社社員を対象とし、独自に延べ35回・230名超(2026年1月時点)の実践を積み重ね、回数を重ねた人ほど多様な視点で良い問いを立て、共創の質を高められるという手応えを得ている。加えて、短時間でも心理的安全性を高め、率直な意見を交わせる場づくりを促す即効性も期待できる。アビームコンサルティング本社にて定期的に開催しているクライアント企業向けイベント“ART MEETS BUSINESS”では、15分程度の短い対話型鑑賞を実施し、来場者にアートを起点とした創造的な対話が生まれる瞬間を提供している。今回は舞台を美術館に移し、経営層の皆様に時間をかけてアートを通じた対話と思考を深めていただく場を設けた。