【イベントレポート】サーキュラーエコノミーを事業戦略に組み込むための変革アプローチと実践知

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2026.04.14
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気候変動、資源制約、地政学リスク、規制強化。企業を取り巻く前提条件が大きく変化する中、日本の製造業には、従来の大量生産・大量廃棄を前提としたリニア型の事業運営を見直すことが求められている。サーキュラーエコノミー(以下、CE)は、もはや環境対応の一論点ではない。資源制約下でも持続的に価値を創出し、収益性と競争力を再構築していくための経営アジェンダである。
こうした問題意識のもと、2025年6月、三井住友ファイナンス&リース株式会社、アミタ株式会社、アビームコンサルティング株式会社、サーキュラーリンクス株式会社、株式会社GXコンシェルジュの5社は、企業のサステナビリティ経営を加速させるトータルソリューション「Circular Co-Evolution(CCE)」の提供を開始した。さらに2026年1月にはSMFLみらいパートナーズ株式会社も参画し、構想策定から事業化、実装・運用までを見据えた支援体制を形成している。
CCE参画6社は共同で、企業価値向上とCE実現に向けた方法論、先進事例、実務上の論点を共有する全4回のセミナーシリーズ「サステナビリティ経営をともに実現するセミナー」を開催した。
本稿では、その内容を再構成し、企業がCEを事業に組み込むうえで押さえるべき要諦を整理する。

  • 荒井 志朗

    荒井 志朗

    Director

1. なぜ今、循環型ビジネスモデルを経営課題として捉え直す必要があるのか

近年、多くの企業がサステナビリティ経営を重要テーマとして掲げるようになっている。一方で、CEへの対応は依然として「CSRの延長」あるいは「3R施策の高度化」といった理解にとどまり、事業戦略や収益モデルとの接続が十分でないケースも少なくない。
本来、CEとは、資源投入と廃棄を最小化しながら、経済成長と環境負荷の分離(デカップリング)を図る経済モデルである。企業に問われているのは、開示や責任履行のために環境施策を付け加えることではない。製品・サービスの設計段階から循環を前提に据え、調達、販売、回収、再利用、再生までを含めて、事業のあり方そのものを組み替えていくことである。
この転換において重要なのは、リサイクルを循環の終点にしないことだ。長期利用、再利用、再生を前提とした設計思想に加え、回収や再投入を成立させるオペレーション、顧客との継続接点、トレーサビリティを支えるデータ基盤が一体となって求められる。環境配慮は、もはやコストとして処理する補助的なテーマではない。将来の供給制約や規制変化に耐える事業基盤を形成し、顧客価値と収益性を両立させるための戦略テーマとして捉える必要がある。

図1 CEは「環境施策」ではなく「事業変革」である
従来のCSR・3R中心の捉え方と、事業戦略・顧客価値・収益モデルまで含めて再設計する捉え方の違いを整理

こうした認識転換は、本稿全体の前提でもある。CEを事業化のテーマとして捉え直せるかどうかが、構想の質と実行の深度を左右する。

※ 3R:Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の3つのRの総称

2. 構想から実装までを分断しないことが、CE事業化の成否を分ける

第1回セミナー「サーキュラーエコノミーを経営にどう組み込むか?移行戦略への実現事例」(2025年8月開催)では、CCE参画各社が、循環型経営の実現に向けた支援アプローチと実践事例を紹介した。
アビームコンサルティングは、CE型事業の構想策定、静脈物流の実態把握、回収・再販を支える業務・システム基盤整備に関する支援事例を紹介した。その中で強調されたのが、サーキュラー型事業の構想段階においては、「顧客価値」「資源循環性」「収益貢献」の3つを同時に成立させる視点が不可欠であるという点である。環境性だけでは継続的な事業にならず、採算性のみを優先すれば循環性が十分に担保されない。顧客の運用課題や未充足ニーズを起点に、循環性と収益性を統合して設計することが、事業化の出発点となる。

図2 循環型ビジネスモデル成立の要件
「顧客価値」「資源循環性」「収益貢献」の三要素を同時に満たすことが、CE事業化の前提となる

アミタおよびサーキュラーリンクスからは、構想を前進させるうえでの推進体制や共創のあり方が示された。CEは単一部門で完結するテーマではなく、経営層、ESG部門、事業部門、現場機能がそれぞれ異なる論点を抱える。そのため、全社横断で推進する体制の設計と、試行錯誤を許容しながら成果と学びを共有できるパートナーシップの構築が重要となる。構想の巧拙だけではなく、組織の巻き込み方や意思決定の置き方が、移行の成否を左右することが改めて浮き彫りになった。
最後に三井住友ファイナンス&リースからは、クラウド型資産管理サービス「assetforce」を活用し、企業が保有するモノのライフサイクルを可視化・一元管理する取り組みが紹介された。資産情報や利用履歴を把握することは、業務効率化にとどまらない。再利用・再資源化の前提となるトレーサビリティを確保し、回収・選別・再投入の判断精度を高めるうえでも重要な基盤となる。CEは理念や構想だけで成立するものではなく、現場で運用可能な仕組みとデータ基盤を備えて初めて、事業として回り始める。

図3 CCEがカバーする支援領域
外部環境変化に対応するために必要な、構想策定、事業モデル設計、回収・再生、業務・システム、データ基盤、資金・推進体制までの支援領域を整理

各社の講演に共通していたのは、CEを環境対応の延長としてではなく、事業ポートフォリオの再設計や収益構造の転換を伴う経営課題として捉えていた点である。短期的には負担や投資が先行する局面があったとしても、それを一時的なコストとして扱うのではなく、中長期の競争力を獲得するための先行投資として位置づけ直せるかどうかが、企業の意思決定を分ける論点であることが示された。

3. 先進製造業の実践に共通する、実装の条件とは何か

第2回セミナー「循環で稼ぐ ~リユース事業拡大の裏側を深掘り~」(2025年9月開催)では、先進製造業におけるリユース事業の実践を題材に、CEの取り組みをいかに経営と接続し、実行可能な事業へ落とし込むかが議論された。

本セミナーでは、ゲスト企業を迎え、使用済み製品の大規模回収・再生を支える拠点運営や、製品ライフサイクル全体を通じて環境負荷低減と利益創出を両立させる取り組みが紹介された。印象的だったのは、これらが環境施策として後付けされたものではなく、経営がリーダーシップを取りながら、循環を前提とする事業構造への転換の中で磨き込まれてきたという点である。
議論を通じて見えてきた実装条件は、大きく4つある。

1つ目は、再利用を前提とした設計思想である。部品のモジュール化や易解体性を設計段階から織り込むことで、回収後の再生工程の効率と品質を両立しやすくなる。
2つ目は、使用履歴データの活用である。どの部材・ユニットが再利用可能かをデータに基づいて見極めることで、選別や再生プロセスの精度を高め、コスト最適化にもつなげられる。
3つ目は、品質基準の再定義である。再生材や再生部品の活用においては、「新品と同一」であることのみを目標にするのではなく、顧客が期待する機能、安全性、使用価値をどの水準で担保すべきかを再定義することが重要となる。
4つ目は、環境価値の市場訴求である。環境負荷低減やCO₂削減といった価値を、顧客にとっての購買・採用理由へと適切に翻訳できなければ、事業としての伸びしろは限定される。

図4 製品回収・再投入を前提にした際のCEサービス展開の例
設計、データ活用、品質基準、価値訴求を分断せずに一体に組み替えることで、従来型の売切モデルとは違ったCEサービスの展開が可能になる

本セミナーを通じて共有された示唆は明快だった。CEを事業として成立させるには、設計、データ、業務、品質、価値訴求を個別最適で進めるだけでは不十分である。これらを一体で組み替え、相互に接続された仕組みとして設計する必要がある。さらに、環境価値への貢献を組織内で共有し、現場の実践を後押しする文化を醸成していくことも欠かせない。

4. 自社のアクションへ落とし込むうえで必要な視点

第3回・第4回セミナー「貴社に最適なサーキュラーエコノミーのアクションプランを描く 選べるセッション&個別相談会」(2025年11月、2026年2月開催)では、第1回・第2回で共有された論点を踏まえ、参加企業が自社の課題に引き寄せて検討を深める場が設けられた。講演を一方向的に聴くのではなく、テーマ別セッションや個別相談を通じて、各社が実行課題を具体化していく構成が採られた点に特徴がある。

CEを「投資テーマ」として位置づけ直す

セッションテーマの1つである「CEの取り組みを事業戦略に融合させ、コストから投資に変える方法」では、CEの重要性を認識しながらも、事業としての位置づけが曖昧なために実行へ進みにくい企業の構造課題が共有された。中長期的なリスク低減や将来価値の創出を狙う取り組みは、短期収益を重視する評価軸の中では優先順位が下がりやすい。
これに対して提示されたのが、CEの取り組みを事業戦略の文脈で位置づけて説明する戦略ストーリー(Narrative)と、その効果を経営判断に耐える形で示す定量化の重要性である。資源調達リスクの低減、コスト構造の安定化、顧客関係の強化、新たな収益機会の創出といった価値を可視化し、中期経営計画や事業KPIと接続することで、CE施策は「環境関連部門が個別に対応するタスク」ではなく、「事業収益を左右する投資テーマ」として位置づけ直される余地がある。実際の先行事例を通じて、価値創造プロセスをどのように言語化し、意思決定に接続するかが議論された。

顧客価値起点で設計する Circular PaaS

2つ目のテーマ「顧客価値視点で発想するサービス化の事例と実践方法」では、新たな事業モデルとしてCircular PaaSを取り上げた。Circular PaaSとは、製品を売り切るのではなく、顧客に必要な機能や利用価値を継続的に提供しながら、提供側が裏側で保守、回収、再利用、再資源化までを一体で設計・運用するモデルである。
通常のPaaSが、保有から利用への転換によって継続収益化や顧客接点の強化を図るのに対し、Circular PaaSは、利用後の回収や再投入までを前提に事業を設計する点に特徴がある。顧客に見えるのは安定した機能提供であり、循環の実装はその裏側の事業基盤として組み込まれる。
本セッションでは、「循環」や「PaaS」から発想するのではなく、まず顧客の運用課題や非効率に着目することの重要性が共有された。顧客価値を起点にサービスを設計することで、保守、回収、再利用、再資源化までを無理なく組み込んだ事業構造を描きやすくなる。メンテナンス付きリースや法人向けPC・家電のリファービッシュ事例からは、こうした設計が回収効率の向上や継続収益の創出につながることが示された。

テーマ別セッションおよび個別相談では、参加者が自社の課題を持ち込みながら具体的な論点を深掘りする場面も多く見られた。先行企業の事例を学ぶだけでなく、自社の状況に照らしてどの論点から着手すべきかを整理できる場になっていた点は、本シリーズの大きな価値だったといえる。

5. セミナーを通じて見えてきた、CE実現の要諦

全4回のセミナーを通じて明らかになったのは、CEの実現には、個別施策の積み上げではなく、企業活動全体を見据えた変革が必要だということである。循環を前提とした事業・製品設計、部門横断で推進する組織体制、将来価値を経営判断へ接続する戦略ストーリーと定量化、そして実行を支えるデータ・トレーサビリティ基盤。これらを分断せずに捉え、段階的に組み上げていくことが求められる。
また、CEは環境部門に閉じた取り組みではなく、事業戦略、顧客接点、オペレーション、ファイナンスを横断する経営アジェンダである。だからこそ、構想だけ、システムだけ、あるいは個別施策だけでは前に進みにくく、複数の専門性を束ねながら、実装まで見据えて変革を進めていく視点が不可欠となる。

Circular Co-Evolutionでは今後も、サーキュラーエコノミーの事業化に向けた情報発信と支援を続けていく。サーキュラーエコノミーを「事業の競争力を高めるテーマ」として進めるには、どのように取り組むべきか。本セミナーシリーズが、その具体的な検討を深める一助となれば幸いである。


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