【イベントレポート】データ連携が開く未来――社会課題と経済成長を両立する「産業データ連携」の実践に向けて

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2026.04.27
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日本が直面する社会課題は、人口減少や環境規制の強化、頻発する災害など、年々深刻さを増している。これらの課題に対し、従来の企業単位や業界単位の取り組みだけでは対応に限界があり、組織やシステムを越えた「データ連携」への期待が高まっている。

2025年10月14日に開催された「CEATEC 2025」では、アビームコンサルティング執行役員 プリンシパル 未来価値創造戦略ユニット長の橘 知志が、「社会課題の解決と経済発展の実現に向けた産業データ連携の取り組み〜持続可能な社会の実現と未来型のまちづくり〜」と題して講演を行った。その中で、グローバルで加速するデータ連携の最新トレンド、日本が直面する課題、またそれに対する国内での実践・成功事例などを紹介した。本稿では、講演内容をダイジェストでお伝えする。

執筆者情報

  • 橘 知志

    Principal 未来価値創造戦略ユニット長

なぜ今、データ連携が求められるのか。その背景と企業による取り組みの現状

データ連携とは、「複数の組織・システム・サービス間でデータを互いに流通させ、複数のデータの組み合わせによって新たな価値を創出する取り組み」を指す。データ連携が求められる背景には、大きく4つの要因がある。

まず1つ目は、人口減少に伴う効率化・自動化の必要性という「社会トレンド・課題からの要請」である。2つ目は「環境規制や社会からの要請」、そして3つ目は安心・安全をはじめとする「社会・住民ニーズの多様化」である。

そして、4つ目には、IoT、クラウド、AIといったデータ収集・処理技術の進化という「テクノロジーの発展」がある。この急速な進化によって、従来は不可能だった大規模なデータ連携が実現可能になりつつある。

では、実際にデータ連携が実現すると、何がどのように変わっていくのか。従来の社会とデータ連携が進んだ社会を対比して説明する(図1)。

図1 データ連携によって期待される社会の進化

例えば、災害時の支援物資の供給においては、従来「手当たり次第に送り込むだけ」に近い状態だったものが、交通データなどを活用して現地状況を詳細に把握し、「必要な場所に必要な物資を迅速に供給」できるようになる。

また電力供給などのエネルギー分野では、施設ごとの個別最適から「地域全体の需給バランス最適化」が可能となる。さらに交通分野では、ドライバー任せの状態から「状況に応じた渋滞予測や信号制御の最適化」などへの進化が期待される。

こうしたデータ連携はさまざまな分野で着実に進展しているものの、企業がデータ連携を推進する動機は必ずしも主体的とは言えない。具体的には、そのモチベーションは「取引先からの圧力」と「規制対応」の2つに集約される。

「取引先からの圧力」では、品質や安全性に関するデータやサプライチェーン全体のトレーサビリティ確保など、特にサプライチェーンの川下企業(=顧客)からの要請が強い。顧客からの要請となれば、リソース不足でも断ることは難しく、これが結果的にデータ連携推進の原動力になっている側面が大きい。

また「規制対応」では、特に欧州発の環境規制――パリ協定やカーボンニュートラル実現に向けたScope3排出量の可視化要請などがある。対応できない場合は法令違反として罰則を受ける可能性があるため、否応なく取り組まざるを得ない。

このように「やらざるを得ないため取り組む」という状況にあるデータ連携だが、今後は自ら戦略的に目的や方向性を検討し、主体的に取り組むことが重要である。その意識変革があってこそ、社会的・経済的な課題と解決に向けた道筋が明確になる。

欧州主導で加速する「データスペース」構想――日本が温度差を克服するには

次に、海外の動向と日本の取り組みを対比し、グローバルなデータ連携の潮流を紹介する。トレンドとして見逃せないのは、現在議論が進んでいるデータスペースという構想である。これは、組織・企業だけでなく、業界や国をもまたいで、データを安全かつ自由に流通させる仕組みを模索する動きである。
この考え方に呼応し、欧州では2019年から「GAIA-X」という業界共通の自律分散型データ連携の仕組みの構築が進められてきた。米国のGAFAのようなプラットフォーマーによる中央集権的なデータ管理の考え方とは異なり、欧州の価値観にもとづいた分散型のデータエコシステムを目指している(図2)。

図2 欧州と日本のデータ連携に関する取り組み

さらに2023年からは「Manufacturing-X」として、製造業におけるデータエコシステムの構築が本格化した。これらは産業別に細分化され、組立製造の「Factory-X」、自動車の「Catena-X」など、ヒエラルキー構造で業界ごとのルール・標準が策定されている。
また、同図にはないが、韓国や中国でも欧州で進行中の取り組みへの連携を表明する動きが見られるほか、ドイツやアメリカなどではデータ連携の実装段階に進展しているプロジェクトも存在する。

日本国内でも取り組みは進んでいる。2022年からは、一般社団法人データ社会推進協議会(DSA)が「DATA-EX」を推進。業界が自らデータ連携基盤をつくるための技術や標準を提供している。
また、2023年からは経済産業省を中心に、企業・業界横断でのデータ連携・活用の取り組みの場となる「ウラノス・エコシステム」(Ouranos Ecosystem)が立ち上がり、産学官連携によるアーキテクチャ設計、研究開発・実証、社会実装・普及に向けた取り組みが進められている。
その他にも内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)や、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による実証事業、経産省の調査事業、さらにIPAによるODS-RAM(リファレンスアーキテクチャモデル)の策定など、多様な政策やプログラムが展開されている。

このように、日本でも実証段階の取り組みは着実に進んでいる。しかし社会実装のフェーズにおいては、韓国やアメリカなど他国に比べて進展がやや遅れているのが現状だ。実証で得られた知見を迅速かつ効果的に社会実装へとつなげていくには、何が必要なのだろうか。

データ連携の障壁は「収益化」と「ユースケース不在」――2つの本質的な課題

日本が抱えるこうした課題は、データ基盤にどのようなユースケースを載せるのかということに起因している。これは、「誰が資金を投じ、どのように運営するのか」という問いに置き換えることができる。

同じ課題は海外でも見られる。オランダのTilburg大学は、155件の産業データスペースを分析したが、85%に当たる132件が収益化できておらず、補助金依存で長期的な自立運営ができていなかった※1

こうした課題に直面した例としてもう1つ挙げられるのは、日本のデジタル田園都市国家構想交付金※2の教訓である。財務省のレポートによれば、制度創設から3年間で約5000件(1件平均約1600万円)を支援したが約4割が指標に届かず、そのうち約2割の到達率は、50%にも達していなかった※3

失敗の要因は、①課題の適切な把握の不足、②部局横断的な体制と意思決定の欠如、③住民ニーズの調査不足、④本格実装前の実証事業の不実施などが挙げられる。

では、日本におけるデータ連携を成功に導く鍵は何か。ポイントは大きく2つある。1つは「優良なユースケースを創出し、広く参画を仰ぐこと」、もう1つは「事業を持続可能とするための資金計画を確立すること」である。加えて、どのようなユースケースが有望であるかを見極め、いかに持続可能な形で展開していくかが重要となる。そのためには、資金調達から運用までの仕組みを着実に構築することこそが、成功の要諦となる。

※1 オランダTilburg大学公表「Sustainable Revenue Models for Data Sharing Initiatives」
※2 デジタル技術を活用して地域課題の解決や魅力向上を図る地方公共団体への支援制度
※3 財務省公表「予算執行調査資料 総括調査票(令和6年6月公表分)デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装対応タイプ・地方創生推進タイプ(うち移住・企業・就業型)」

 

データ連携の取り組みの進め方(事例紹介)

事業の基盤となるユースケースと資金計画が整えば、いよいよデータ連携の実装段階となる。成功につながるポイントは、次の3つである。

①関係者間で課題認識を共有し、取り組みの目的を明確にして進める
②社会価値の創出だけでなく、持続可能な取り組みとするために経済価値も追求する
③官民連携によるエコシステムを構築し、複数データを組み合わせたユースケースを創る

特に①について、データ連携基盤の構築ではシステムの要件定義から入るアプローチも可能ではあるが、目的を設定しないまま進めると、壁に直面した際に存続の意義を問われかねない。こうしたポイントを押さえた成功事例を紹介する。

【実践例①】違法漁業の撲滅と、水産資源保護のためのトレーサビリティ構築

水産資源の枯渇や生態系破壊、漁業従事者の人権侵害などをひき起こす、いわゆるIUU漁業※4は、世界で年間1100万~2600万トンに上り、日本の年間水揚げ量の3~6倍に相当する。日本の輸入天然水産物の24~36%がIUU漁業由来とも推定されており、欧州や米国では来歴を証明できない水産物の取り扱いを規制し始めている。

この取り組みでは、まず製品提供側の関係者(漁船・漁港・加工会社)によるエコシステムを形成。漁港での水揚げ時に製品にIDを付与し、関連データをクラウド上で連携して消費者への公開を可能にした(図3)。

図3 サプライチェーンと連携するデータ

本事例における成功の鍵は3つある。1つ目は「ビジョンの共有」だ。IUU漁業撲滅という社会課題解決と、規制対応が進む市場への参入という明確な目的を共有した。2つ目は「経済価値の追求」。日本の水産物の競争力を生かし、欧州への輸出で資金を得て自走可能な仕組みを構築した。そして3つ目は、「監督省庁・地方自治体への活動紹介」により、支援の取り付けや環境整備を引き出したことである。

【実践例②】ヒトのIDとクルマのIDのかけ合わせによるサービス創出

2つ目は、移動手段を必要とする住民(高齢者など)とドライバーをマッチングするモビリティの事例である。ヒトのID(氏名・住所・免許証・支払情報など)とクルマのID(車種・位置情報・稼働状態・運転スコアなど)をかけ合わせ、ライドシェアのようなサービスの実現を目指している。

本事例の成功の鍵は、関係企業間で協調領域と競争領域を明確に切り分けた点にある。まずデータの収集や提供においては、個社単独では得られない情報や、連携によって価値が生まれるデータを整理した。次にデータ連携の仕組みづくりにおいては、各社共通の業務プロセスやデータを対象に、ルール策定と規格統一を実施。さらにサービスの提供段階では、各社の強みを生かし、利用者や生活者に寄り添ったサービスを検討した。この3層構造により、参加各社の協調と競争のバランスを実現した。

【実践例③】車両データを活用した、都市災害状況の可視化

3つ目は、特定非営利活動法人ITS Japanが複数の民間企業と行政機関とともに推進する取り組みで、①車両ワイパーの動作データをもとに、降雨状況を高解像度で把握、②ドライブレコーダー画像と通行実績データで、道路冠水の状況を可視化するというものだ。

移動する自動車のデータを連携・統合することで、面で道路状況を可視化し、災害対応の迅速化に貢献している。当初は多種多様な企業が関与するため足並みがなかなかそろわなかったが、目的を「モビリティデータ活用による防災・減災の実現」に絞り込むことで、協調感を醸成した。

【実践例④】電力消費データを起点とした生活者サービスの展開

4つ目は、地域需要家への電力供給における環境価値の創出を目指す取り組みである。自治体と企業が連携して電力データを収集・分析することで、生活者の行動パターンを推定する。その結果を踏まえ、ライフスタイルに合わせたCO2削減方法を提案し、環境に優しい生活への行動変容を働きかける。

本事例の課題は、個社単体の取り組みでは収益化が難しいことだった。電力消費データと他のデータをかけ合わせ、新たな価値創出につなげる共創先の探索が鍵となる。

※4「Illegal」(違法)、「Unreported」(無報告)、「Unregulated」(無規制)のもとに行われている漁業活動の総称。

データ連携実現に向けた3つの「次の一手」――他社との共創が道を開く

ここまでさまざまな事例を見てきたが、データ連携を成功に導くためには、戦略的な目的や方向性を明確にし、主体的に取り組む姿勢が不可欠である。加えて、プロジェクト全体を通じて意識すべき重要なプロセスがある。
まず取り組みの初期段階では、たたき台となる案を用意し、関係者とともに議論しながらブラッシュアップすることが望ましい。また、座組の構築時には競合他社を含む多様なステークホルダーを巻き込み、それぞれの立場や思惑を整理しながら合意形成を図ることが求められる。さらにプロジェクトを持続的に進めるためには、社会的価値の創出に加え、どのように収益化を実現するかという視点も欠かせない。
これらのプロセスを経て、データ連携の基盤が整い、プロジェクト全体の円滑な推進につながる(図4)。

図4 データ連携実現に向けたプロジェクト推進プロセス

最後に同図を踏まえた上で、以下の3点を「次の一手」として示したい。

①産業・社会トレンドを把握し、連携が求められるデータを特定・整備する
②事業やサービス全体を俯瞰したユースケースをデザインする
③ユースケース企画を自社で練り続けず、他社や自治体、団体へ持ち込み討議する

繰り返しにはなるが、他企業や組織との共創により、Win-Winな企画・仕組み・座組をつくることが、社会へ新たな価値を提供できる足がかりになる。そこでは、企業活動のコアとなる部分には主体的に取り組み、トレンド理解や事例研究など周辺領域では、外部の知見を活用することを検討したい。

アビームコンサルティングは、社会のトレンドや先進事例の理解、他社の戦略研究、共創型の座組のつくり方などにおいて、知見やケイパビリティを提供している。ぜひ、データ連携による社会課題の解決と経済成長の両立を実現していただきたい。


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