経営アジェンダとしてのロジスティクス再構築(前編)

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2026.01.08
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はじめに

地政学リスクや気候変動、技術革新の進展により、企業を取り巻く環境は複雑化・不確実化している。こうした状況下で、企業はESGを企業価値の新たな基準とし、柔軟かつ持続可能な戦略の構築が求められている。また、少子高齢化と労働力不足が進む中、AIやロボティクスによる人材再配置とスキル再定義は急務であり、加えて、地方創生や再エネ投資など、持続可能な社会に向けた包括的な取り組みも必要だ。

こうした多様な変化を踏まえ、企業が持続可能な成長モデルへ転換するためには、経営戦略の再構築が不可欠である。

本稿では、物流を経営戦略の観点から捉え、企業が取り組むべき重点課題と変革の方向性を提示し、「ロジスティクスの再設計」の必要性を明らかにする。

執筆者情報

  • 羽田 康孝

    島村 明文

    Senior Expert
  • 羽田 康孝

    足立 武志

    Expert

1章 これからの物流課題

社会構造の変化、技術革新、環境問題の深刻化により、物流は大きな転換点を迎えている。はじめにで述べたような事業環境を踏まえると、激動の時代の変化に企業が追随していくための課題は、事業継続リスクへの強靭な対応と、グリーントランスフォーメーション(GX)を基軸とした社会的責任の遂行の2つに集約できる。

事業継続リスクへの対応

労働力不足への対応

労働力の減少により人材獲得競争が激化し、最低賃金の引き上げも相まって人件費は上昇傾向にある。加えて、貨物の小口化や短納期化により配送頻度が増し、現場の負荷が高まる中、物流サービスの品質低下も懸念されている。
これまでも多様な人材の活用や省人化の取り組みが進められてきたが、今後はさらなる自動化、業務効率の向上、働きやすい環境の整備が不可欠である。また、少子高齢化の進行に伴い、属人化したノウハウや作業品質の継承、次世代人材の育成も急務である。

経済的圧力への対応

人件費や燃料費の高騰が続く中、持続可能な収益構造を確立するには、物流業界に根強く残る多重取引構造の是正を通じた適正運賃の確保や、賃上げの着実な推進が不可欠だ。物流改正法やこれから施行される取適法など今後も強化されるであろう法規制への対応も求められる。さらに、過剰なサービスレベルの見直しや、ダイナミックプライシングのようなサービスの量と質に応じた価格設定を通じ、コスト増を適切に価格へ転嫁していくことも必要になる。

災害対応と社会的責任

激甚化・頻発化する自然災害は、道路や鉄道などの輸送インフラの寸断、物流拠点の被災による在庫損失や供給停止、さらに停電や通信障害による情報インフラの機能不全など、物流業務全体を停止させる深刻なリスクをはらんでいる。
自社の物流機能を守るだけでなく、社会インフラとしての責任を果たす強靭な物流体制の構築が不可欠である。

物流GXの推進

環境リスクや社会課題への対応は、企業価値と社会的信用を左右する経営の中核要素となっている。物流業界においても、持続可能な社会の実現に向けた積極的な貢献が求められており、特に、温室効果ガス(GHG)排出量削減とサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行は、今後の競争力を左右する重要な課題である。

GHG排出量削減への取り組み

エコドライブの推進、EVトラックや低公害車への転換、モーダルシフトの推進、再生可能エネルギーの導入、省エネ・脱炭素型物流施設への移行など、環境負荷低減に向けた取り組みは、企業の責務として不可避となる。なお、日本においては2027年からサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)に則った開示が義務化される。

サーキュラーエコノミーへの対応

平パレット、かご台車、通い箱などのリターナブル容器の活用拡大と回収精度の向上、配送資材の再利用・再設計、さらにはリサイクルや廃棄物回収などの静脈物流との統合による再資源化ルートの構築などが求められる。

図1 物流を取巻く環境と対応策(例)

2章 経営アジェンダとして物流を再定義する

前章で明らかにした物流の課題は、物流部門だけで解決できるものではない。企業全体が一丸となって取り組むべき、戦略的かつ本質的なテーマである。事業の持続可能性を確保し、収益への貢献を最大化するためには、物流を単なるオペレーションではなく、経営アジェンダとして位置づける必要がある。中長期的な視点に立ち、全社的な戦略として物流改革を推進することが、これからの企業競争力を左右する。

そこで、ロジスティクス分野の経営アジェンダとして以下の3つを提起する。

  • 従来の枠組みを超えた変化への対応力強化
  • 持続的成長を支える物流の再設計
  • 物流のプロフィットセンター化に向けた戦略的転換

従来の枠組みを超えた変化への対応力強化

物流業界は、労働力不足やEC拡大による負荷増に加え、環境対応など複合的かつ構造的な課題に直面している。従来の運営モデルを踏襲するだけでは、長期的な競争優位の喪失は避けられず、事業継続性の確保すら困難となる可能性がある。
このような環境変化に対応するためには、物流機能の再定義が不可欠である。
単なるコスト削減や効率化に留まらず、変化に対する即応性(アジリティ)と、予期せぬ事象に対しても業務継続を可能とする耐性(レジリエンス)を兼ね備えた体制を構築し、物流を”守り――企業活動を安定的かつ継続的に支えるための基盤――の機能”から“攻めの戦略領域”へと転換させることが必要だ。

持続的成長を支える物流の再設計

近年の自然災害の頻発やサイバー攻撃など、輸送インフラの寸断や物流拠点の稼働停止リスクは、これまで以上に現実的な課題となっており、企業の供給能力と事業継続性に直接的な影響を及ぼしている。

 “届かない・運べない”という構造的課題に対処するには、事業戦略との整合性を確保した中長期的な物流戦略の策定が不可欠であり、企業の持続的成長を支える物流の再設計、つまり物流機能そのものの構造的な見直しが急がれる。

物流のプロフィットセンター化に向けた戦略的転換

従来、物流部門は企業内においてコスト削減の対象として扱われることが多く、「売上高物流コスト比率」を重要なKPIとして物流を評価してきた。しかし、現場レベルでの効率化は限界に達しており、もはや利益創出への貢献余力は乏しい。

物流を単なるオペレーションにとどめず、サービス品質や顧客満足に直結する戦略的機能として再定義し、プロフィットセンターとしての可能性を引き出すことが肝要だ。配送リードタイムの短縮や物流品質の向上は、顧客体験の差別化や商品価値の最大化に寄与し、企業の競争優位性を高める重要な要素となる。
また、他社との共創を通じて、コスト構造の最適化と収益性の向上を両立させるとともに、GXを推進することで新たな価値の創出を図ることも、現実的かつ有効な選択肢である。

物流はもはや企業活動の裏方ではなく、経営の中核を担う戦略領域である。
複雑化する外部環境に対応し、持続的な成長を実現するためには、物流を経営アジェンダとして位置づけ、全社的な視点で再構築することが不可欠である。

図2 将来展望とロジスティクス経営アジェンダ

3章 未来志向の物流戦略における重点テーマ──ロジスティクス全体の最適コントロール

前章で提示したロジスティクス経営アジェンダはいずれも部門最適ではなく全社最適の視点から取り組むことが不可欠であり、経営層はロジスティクスを戦略領域として明確に位置づけ組織全体で意思を統一した改革推進が求められる。
本章では、これらを実効性があるものとするために必要となるロジスティクス計画と実行を統合的にコントロールするための司令塔について述べる。

ロジスティクスは、しばしば「物流」と同義で語られがちだが、本来はアジリティ(即応性)とレジリエンス(耐性)を高めるべく、モノと情報の流れを統合的に管理・最適化する戦略的機能であり、調達・生産・営業・物流といった各部門の計画を調整し、全体最適を実現することがロジスティクスの本質である。

しかし現実には、調達・生産・販売計画が優先され、物流部門の業務に大きな影響を及ぼすケースも少なくない。過剰在庫への対応として外部倉庫の借り増しや、物流波動に応じた車両・作業員の手配が常態化し、結果としてコスト増加を招いている。
こうした状況を打破し、全体最適を志向するロジスティクス機能へと進化させるためには、企業のサプライチェーン全体を俯瞰し、計画と実行を統合的にコントロールする司令塔が必要である。司令塔の実現にあたっては、以下の2つの要素が不可欠である。

  • デジタル基盤の整備
  • ロジスティクスオフィスの設置

デジタル基盤の整備──可視化と最適化を支える技術的土台

ロジスティクスの真価を発揮するためには、サプライチェーン全体を俯瞰し、最適な計画を立案する力と、その計画を確実に現場オペレーションへと落とし込む実行力が不可欠である。それらを支えるのが、必要な情報をリアルタイムで把握し、適切な意思決定をサポートするデジタル基盤である。

調達、生産、営業など関係部門間で製(仕)販在を調整しながら計画を立案するのが一般的だが、そこに物流の制約や意志が反映されていなければ、ロジスティクス全体としての最適化は図れない。そのためには、調達・生産・販売計画に加え、物流センターの出荷能力、輸送能力、保管キャパシティなどを統合的に可視化し、迅速な意思決定を可能とする仕組みが必要になる。例えば、店舗発注データや需要予測をもとに、複数荷主分の入出荷・配送・在庫ボリュームを算出し可視化、それに基づく車両手配や人員配置の計画立案をサポートする機能などである。

物流部門は、単品ごとのコストや改善効果を定量化しづらい特性があるため、定量データを収集・可視化できるデジタル基盤の整備が、部門横断の連携と全体最適を実現する鍵となる。

ロジスティクスオフィスの設置──部門横断の意思決定を可能にする構造

デジタル基盤が整ったとしても、縦割り組織のままでは全体最適な判断や実行は困難である。調達・生産・営業部門がそれぞれ独立して活動している状況では、物流部門の役割が相対的に限定されるため、他部門との連携を強化する取り組みは、より具体的な仕組みづくりが重要だ。

そこで必要となるのが、ロジスティクスの最適コントロールを担う専任組織「ロジスティクスオフィス」の設置である。複数部門から選抜されたメンバーで構成される恒久的な組織であり、物流部門の役割を高度化するとともに、部門間の利害調整に責任と権限を持つ司令塔となる。重要なのは、単なる調整役ではなく、全体最適な方針を主導し、関係部門を動かせる強い権限を持たせることである。

物流部門が他部門の事情に左右される構造を脱却し、ロジスティクス全体を俯瞰して主体的に推進できる体制を構築することが、実効性を確保する唯一の道である。

これからの物流改革においては、デジタル基盤による情報の可視化と、部門横断の意思決定を担うロジスティクスオフィスの両輪を備えた司令塔を構築し、企業価値の最大化と持続的成長を実現させるべく、ロジスティクスを戦略的に機能させることが重要である。

後編では、従来から指摘されている共同配送や物流センター効率化といったテーマについて掘り下げる。


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