「生成AIが切り拓くビジネス革命 ~驚きの成果を生む4つの成功ポイント~」第三回 ビジョン共有から始める全社的生成AI活用の価値最大化アプローチ

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2025.11.04
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本連載では、生成AIを業務に活用する際のポイントや実践的な知見を解説している。第三回となる本稿では、第一回で取り上げた「生成AIを業務で活用する際の4つのポイント」のうち、「生成AIのビジネス価値を最大化するためには、全社横断的なプロジェクトの立ち上げとビジョンの共有が重要である」というテーマを取り上げる。構想策定の段階において戦略的にビジョンを共有し、組織全体で生成AIの導入に取り組むための方法について、調査結果や事例を交えながら詳述する。

執筆者情報

  • 多鹿 健介

    多鹿 健介

    Senior Manager
  • 羽田 康孝

    木村 祐哉

    Senior Consultant

生成AI導入の鍵は
ビジョンの明確化と全社規模のスケール戦略

生成AI導入のビジョンを共有し、取り組みを全社横断・分野横断的に進めた方が、生成AIの導入効果を明確に認識しやすくなる傾向にある。当社が実施したビジネスパーソン向けの生成AI活用実態アンケートによると、生成AI導入プロジェクトの立ち上げ・構想策定時において重要なポイントとして、「生成AI導入を推進するための適切な組織体制が構築されていた」(73.2%)や、「生成AI活用に関するビジョンと何をしたいのかを明確にできていた」(39.9%)といった回答が多くを占めた(図1)。「何を目指すのか」という明確なビジョンと、それを支える組織体制が不可欠であることが伺える。

図1 生成AIプロジェクト立ち上げ・構想策定・ユースケース洗い出しで重要なポイント

さらに、特定の部署やユースケースに閉じた使い方ではなく、複数の部署で汎用的に生成AIを活用しているケースで効果を感じている方が多いことも明らかとなった。アンケートの分析結果である図2、3は、生成AI導入済で活用効果が期待以上の回答者を高効果層、期待以下の回答者を低効果層と定義し、高効果層/低効果層における活用部門数およびユースケース数の関係性を示している。
図2は、生成AIの導入効果と活用部門数の関係性を示している。高効果層のうち、4部門以上で生成AIを活用している割合は70.0%と高い。これは、生成AIの活用が単なる業務効率化にとどまらず、部門間での知見共有や連携が促進されることにより、組織全体の変革につながる可能性を示唆している。
一方、図3は生成AIの導入効果とユースケース数の関係性を示している。高効果層のうち、ユースケースが4つ以上の割合は75.4%と、活用部門数と同様に高い。生成AIを幅広い業務領域に展開することで、汎用性が引き出され、投資対効果を得られる可能性が高まる。

図2 生成AIの導入効果と活用部門数の関係
図3 生成AIの導入効果とユースケース数の関係

このような傾向を踏まえ、生成AIプロジェクトの立ち上げ・構想策定やユースケースの洗い出しにおいては、統一された明確なビジョンのもとで部門横断的な連携を強化し、リソースを最適に配分することが成功の鍵となる。生成AIの汎用性は、こうした全社的な取り組みによって最大限に発揮され、組織全体の変革を促す「スケール化」へとつながる。

部門ごとに異なる利害や関心が存在する場合、統一されたビジョンがなければ、一貫性のある成果を得るのは難しい。これは、オーケストラに例えると理解しやすい。各部門やチームはそれぞれ異なる楽器を担当するが、統一された譜面(ビジョン)がなければ調和の取れた演奏(成果)は得られない。また、指揮者(適切な組織体制)が全体をまとめ、個々のパートの力を引き出すことで、初めて大きな成功を収められる。このように、生成AIの汎用性を全社的に拡張し、「スケール化」を実現するには、統一されたビジョンの共有と部門間連携の強化が不可欠である。

全社規模の生成AI導入を支える
「論点フレームワーク」の有効性

生成AIプロジェクトには必然性が感じられにくい場合も多いため、先述の通り「何を目指すのか」という明確なビジョンを示すことが重要である。この明確化がプロジェクト推進の原動力となるため、スケール化を目指す過程では、具体的な課題を整理し、それを解決するための道筋を描くことが欠かせない。
課題整理のための方法はさまざまなアプローチが存在するが、その中でも有効な整理手法の一つとして、アビームコンサルティングが提唱する「論点フレームワーク」が挙げられる。
本フレームワークの開示は難しいため具体的な図示は省略するが、その要点は文章により説明が可能である。
生成AIの導入は、従来のデータ利活用と同様、検討すべき論点が多岐にわたるため、いずれの論点も疎かにはできない。そこで提唱する「論点フレームワーク」で網羅的に洗い出した各論点に優先度の濃淡をつけながら整理し、具体的な解決策を導き出すことが可能となる。
特に重要なのは、「論点を解く順番を考えること」である。生成AIプロジェクトの特徴は、すべての論点を一度に解決する必要がない点である。従来のシステム導入では、上流から下流に向かって計画を着実に進めるウォーターフォール型のアプローチが主流であった。ウォーターフォール型のアプローチは高コストで手戻りが難しい課題があったが、近年のクラウド技術の発展(仮想環境を即座に構築・拡張できる仕組みや、コンテナ技術を活用したシステム開発など)により、必要な部分から着手しても後から修正が効く柔軟なアプローチが可能になりつつある。
例えば、プロジェクトチーム内で白熱している論点や、関係者のモチベーションが高いテーマから着手することも一つの方法である。優先順位をつけ、進めやすい論点から着手することで早期に具体的な成果を得られ、プロジェクト全体の推進力を高めることができる。さらに、プロジェクトを通して得られた知見をもとに新たな課題を整理し、企画を進化させることも可能である。
次章では、本フレームワークの根幹論点となる「目的の明確化・対象領域の明確化」に焦点を当て、その重要性と活用方法について解説する。

目的の明確化・対象領域の明確化

生成AIプロジェクトにおいて、目的と対象領域を明確にすることは、プロジェクトの成功における重要課題である。特に、「社会課題から業務課題への落とし込み」という視点を持つことで、プロジェクトの方向性を広い視野で定めるとともに、関係者間における共通理解を形成する基盤を築くことができる。
生成AI導入に際しては検討すべき論点が多岐にわたるため、目的と対象領域が曖昧なままではプロジェクト進行中に計画の変更を余儀なくされ、リソースの浪費や効率低下を招く可能性が高まる。また、日々の業務課題からではなく、労働力不足や物価上昇、気候変動といった社会課題を起点とすることで、事業活動に広い視野を持ち込むことが可能となり、企業理念とも結びついた課題の整理が可能になる。
目的や対象領域を明確にするための具体的なアプローチのとして、以下の2つのステップを踏むことが有効である。

1.共通の社会課題に業界特有の環境を掛け合わせ
 業界課題を洗い出す

社会課題をベースに据えることで、業界固有の課題を俯瞰的に整理することが可能である。例えば、金融業界では労働力不足という社会問題を、金利変動および、それにともなう資金繰りに関わる流動性リスクなどへの対応といった業界特有の課題を掛け合わせて整理することで、課題を明確にする(図4)。このように大きなスケールから課題を細分化することで、生成AIで解決すべき課題を明確化する土台を構築する。

図4 金融業界における課題の整理

2.生成AIの具体的な影響と業界課題を組み合わせ
 業界への影響を具体化する

次に、生成AIがもたらす具体的な影響を業界課題に関連づける。例えば、生成AIが提供する効率化や自動化の特性を活用し、業務プロセスの見直しや新たなビジネスモデル創出に向けて整理する(図5)。マトリクスなどを活用することで、生成AIの影響を多角的に捉え、業界への具体的な適用可能性を網羅的に検討することが可能となる。

図5 生成AIが金融業界に与える具体的な影響

生成AIプロジェクトにおいても、目的と対象領域の明確化が例外なく成功の鍵を握る。社会課題を起点としたアプローチを採用し、2つのステップを通じて課題を整理することで、俯瞰的な広い視野と実現可能性を両立したプロジェクトの進行が可能となる。

生成AIを業務で活用する際のポイント

第三回では、アビームコンサルティングが提唱する生成AIを業務で活用する際の4つのポイントのうち、「1.生成AIのビジネス価値を最大化するには、全社横断的なプロジェクト立ち上げとビジョンの共有が不可欠である。戦略的にビジョンを共有し、組織全体で生成AI導入に取り組むアプローチが求められる。」について、具体的に解説した。

  1. 生成AIのビジネス価値を最大化するには、全社横断的なプロジェクト立ち上げとビジョンの共有が不可欠である。戦略的にビジョンを共有し、組織全体で生成AI導入に取り組むアプローチが求められる。
  2. 倫理的・法的なリスクが高い生成AIの導入では、適切な業務プロセスと運用管理体制のデザインが求められる。リスクを最小化し、ビジネスインパクトを最大化する方法について考える必要がある。
  3. 生成AIを効果的に運用していくには、大量の非構造化データを加工・蓄積でき、モデルやプロンプトのバージョン管理や生成AIアプリの出力結果のトレーサビリティを確保できるようなシステム設計が鍵となる。
  4. 生成AI導入では、現場で小さく試し、改善を繰り返すアジャイルなアプローチが効果的である。現場の期待と現実をすり合わせ、実際に使われる生成AIを導く方法が必要である。

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