経営環境の変化のスピードが増すばかりの昨今、企業グループ内での組織再編(以下グループ再編)が増加傾向にある。
経営環境の変化のスピードが増すばかりの昨今、企業グループ内での組織再編(以下グループ再編)が増加傾向にある。
当社にも多くのグループ再編に関連する相談が持ち込まれる。多くの相談は外部環境の変化に合わせてグループ内の組織体制を見直したいというものだが、なかには経営陣の世代交代にともない、旧世代時代に構築した体制を見直すという企業の内部環境の変化にともなう相談も増えている。グループ再編は単なる手続き的な対応が必要とされるのではなく、対象事業の企業グループ内における位置づけやグループ全体のビジョン検討も必要となるケースが多い。本インサイトでは、前後編の構成でグループ再編に伴う諸問題やその対応ポイントについて考察する。
田邉 俊史
和田 光正
永井 淳
多くの企業は、成長戦略の一環として事業多角化や企業買収(M&A)を積極的に推進してきた。その結果、複数のグループ会社群による連結経営を行っている企業も多い。
しかし、事業環境が目まぐるしく変化するなか、企業グループ全体の競争力を維持・強化していくためには、グループ内の組織構造や機能配置を定期的に見直し、最適化する「グループ内再編」が、経営上の重要なテーマとなっている。
一般的にグループ内再編は、以下の目的をもって実施される。
事業ポートフォリオの集約
グループ内での機能集約
ガバナンス構造の最適化
上記のうち、特に①事業ポートフォリオと②グループ内での機能の集約を目的とした組織再編については、事業の統合を伴うケースが多い。当社がこれまで支援してきたケースにおいても、グループとしての全体最適を目指すべきことは理解しつつも、これまで各社は個別最適を追及してきたため、事業統合に当たっては、再編当事者の心理的な抵抗が少なからず存在している。
こういった状況を踏まえつつもグループとして企業価値を高めあるべき姿に向かうため、グループ内再編の検討・実行を行う際に留意すべきポイントについて考察したい。
親会社と子会社の間には、同一グループ内であっても異なる組織文化や自立性を重視する風土が存在することを認識する必要がある。統合を推進する際に、相手側の組織文化や風土を十分に考慮せず、親会社のルールや方針を一方的に適用しようとすると、現場の反発やモチベーションの低下を招き、結果として統合によるシナジーや期待した効果が得られなくなるケースも少なくない。
例えば、企業文化の違いを鑑みない統合を行うと、統合される側の従業員は新しい環境に適応できず、統合そのものに対し不満や不信感を抱くリスクがある。その結果、優秀な人材の離職が相次ぎ、期待していたシナジー効果を十分に得られない事態に陥ることが考えられる。また、文化の違いが組織内の摩擦を引き起こし、業務の効率が著しく低下するケースも少なくない。
これらの問題は、100%子会社を統合する場合でも、決して例外ではない。たとえ、以前から継続的に業務上の交流があったとしても、統合される側の組織は独自の文化を持ち、これまでのフローや考え方を維持したいという意識が根強く残っていることが一般的である。そのため、統合プロセスにおいては、「完全子会社だから問題なく統合できる」と安易に考えるのではなく、双方の文化を尊重しながら対等な立場での会話を重視し慎重に進めることが必要である。
統合には現場の心理的な抵抗が伴う。特に、被統合企業の業績が好調である場合により顕著に表れることが、これまでの当社の支援実績からも見えている。これは、新しい業務手順への適応に対する不安、既存の業務方法への愛着、さらには新たな上司や同僚との関係構築に対する抵抗などが主な要因である。
このような問題を未然に防ぐためには、統合のビジョンを繰り返し周知し、理解を深めることが不可欠である。統合責任者は、被企業のトップマネジメント層に対して統合の目的や方針を直接説明し、経営層の意図を明確に伝えることで、懸念点を事前に把握し、対策を講じることが求められる。また、統合方針を関係部門の責任者や現場のキーマンに共有し、早期に巻き込むことで、現場での受け入れをスムーズにすることができる。加えて、オープンな対話の場を設け、従業員の懸念や疑問に向き合うことが、円滑な統合の鍵となる。
事業統合を成功させるには、統合後の事業体制や業務プロセスを明確に定義し、関係者間で時間をかけ共通認識を持つことが不可欠である。特に、被統合企業が統合企業の基本方針や経営戦略に適応が必要な場合、影響範囲を明確にし、適切な対策を講じることが求められる。そのためには、統合企業の基本方針や経営戦略を詳細に整理し被統合企業のビジネス・モデルおよびプロセスと突合し、統合後に双方のキーマンによって許容可能な取引と困難な取引を明確にする必要がある。
例えば、統合後に特定の商材の取扱いを禁止する場合、商材の取り扱い可否を判断する基準及びプロセスについての議論や、既存取引先への対処方針などを被統合企業のキーマンと検討し納得を得て実行可能な計画とする必要がある。
現場の理解を得ないまま被統合企業のマネジメント体制や権限を大幅に変更すると、混乱を招き、事業の継続性が低下する可能性がある。そのため、既存の体制を尊重しつつ、統合企業への円滑な承継を図ることが重要であり、とくに中核部門については従来の方針や意思決定プロセスを可能な限り維持することが望ましい。
ここまで、企業文化や心理的抵抗および業務プロセスの観点から子会社統合成功への要点について触れてきた。
後編では、ブランドポリシーやビジネスポリシー、会計制度、ITシステムの統一などの観点から子会社統合成功に向けたポイントをご紹介する。
相談やお問い合わせはこちらへ