サステナビリティ情報開示を巡る議論がグローバルで加速しており、中でも主に注目されているのは、「気候変動」「生物多様性」「人権」「人的資本」の4つのテーマである。
まず気候変動においては、2015年のパリ協定以降、世界全体でカーボンニュートラルへの動きが加速しており、日本でも2020年のカーボンニュートラル宣言を受け、第7次エネルギー基本計画では大幅なCO2削減目標が掲げられた。また、世界経済フォーラムの「グローバルリスクレポート2025」では、経営層が考える今後10年間の世界リスクの上位4つを異常気象、生物多様性の喪失と生態系の崩壊、地球システムの危機的変化、天然資源不足といった環境分野が占めている。
次に生物多様性は、生きものたちの豊かな個性と繋がりのことを指し、気候変動とも密接に関連している。具体的には、開発や資源の過剰消費といった人間活動による自然や動植物の喪失のほか、気温上昇による生息地の喪失や食物の喪失、災害発生による生物の喪失であり、気候変動により生態系が崩れると生物多様性が失われる。この生物多様性の喪失は、植物のCO2吸収能力を低下させ、気候変動を加速させる負のループを生むことになる。
3つ目の人権については、2011年の国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を受け、各国で法制化が進んでいる。具体例として、強制労働や児童労働に服さない自由、雇用及び職業における差別からの自由、人種・障害の有無、宗教、性別・ ジェンダーによる差別からの自由など「人権尊重」の取り組みの対象は広範囲に及ぶ。ここで重要なポイントは、サプライチェーン全体での取り組みが求められている点であり、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」に則ると、直接的な取引先だけでなく、間接的な取引先も含めて人権への配慮が必要になる。
そして4つ目の人的資本とは、従来「コスト」と捉えられていた人材を「資本」として認識し直す考え方を指す。現在は少子高齢化、AIの普及、働き方の多様化などで、人材戦略の重要性がかつてないほど高まっている。2011年国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」により、企業の果たすべき人権保護・尊重における役割と責任、企業に求められる行動が明確化されており、日本でも、2023年から有価証券報告書での人的資本開示が義務化されたのは周知の通りだ。
サステナビリティ情報開示の必要性が高まる背景には、①機関投資家からの圧力、②若年層のサステナビリティ意識の高さ、③社会課題の顕在化といった3つの要因がある。2006年の国連による責任投資原則(PRI)発足以降、足元では国際競争力確保のため揺り戻しはみられるものの、総じてESG投資は拡大基調であり、株主資本主義からステークホルダー資本主義への転換も進んでいる。
また、これからの将来を担うミレニアル世代・Z世代のサステナビリティに対する意識が高く、サービスの価値訴求や優秀な人材の確保にはサステナビリティに関する取り組みを強化する必要がある。そして、地球温暖化の実感や、生物多様性への関心、強制労働問題の報道など社会課題が身近になり、企業への取り組みの要請が強まっている。
こうした情報開示の必要性の高まりも受け、企業が情報開示に取り組む意義としては、「説明責任」「長期的な未来オプションの創造」「投資の呼び込み」「優秀な人材の獲得」の4点が挙げられる。これらは相互に関連しており、サステナビリティへの取り組みを単なる「コスト」ではなく、企業価値向上の機会と捉えた意識が問われるだろう。(図1)