【FIN/SUM2025|対談レポート】DXを成功に導くカギとは?デジタル通貨で実現する次世代の経営戦略(提供:DeBeyond)

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2025.04.17
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デジタル通貨フォーラム座長・山岡浩巳氏と、 アビームコンサルティング株式会社代表取締役CEO・山田貴博による対談の様子

こんにちは。「DeBeyond」編集部です。

2025年3月4日〜3月7日、東京・丸の内ビルディングにてフィンテック業界最大級のイベント「FIN/SUM2025」が開催されました。テーマは“真のマネタイズに挑む、次世代フィンテック”。私たちディーカレットDCPも協賛し、対談とワークショップを行いました。

今回はそのなかからデジタル通貨フォーラム座長・山岡浩巳さんと、 アビームコンサルティング株式会社代表取締役CEO・山田貴博さんによる対談の模様をお届けします。

山岡さんは日本銀行で金融市場局長、決済機構局長などを歴任し、現在はフューチャー株式会社取締役とデジタル通貨フォーラムの座長を務めています。

山田さんは大学卒業後、外資系コンサルティングファームに入社、日本オフィスと米国オフィスの双方で勤務し、米国では日系グローバル企業の製造拠点立ち上げなどを支援。帰国後はアビームコンサルティング株式会社で製造業、商社、金融、インフラ企業向けなどの幅広い領域のコンサルティングサービスを手がけ、2023年4月に同社の代表取締役社長CEOに就任されました。

金融、産業の最前線で長年にわたりご活躍されてきたお二人は、デジタル通貨とDXの関係をどのように捉えているのでしょうか?デジタル通貨が生み出す新しいマーケットとインフラとは?

 

1.DXの重要性:日本の産業のグローバル競争力を取り戻す鍵

デジタル通貨フォーラム座長・山岡浩巳氏 デジタル通貨フォーラム座長・山岡浩巳氏

山岡浩巳(以下、山岡):本日はよろしくお願いします。まず金融とDXについてお聞かせいただければと思います。フィンテックをはじめとするデジタルテクノロジーの発展に伴い、今改めて金融への関心が高まっています。デジタル通貨を含め、ブロックチェーンを取引決済に活用する取り組みも広がっていますし、ビッグテックと呼ばれる巨大企業がこぞってモバイルペイメントへ参入しています。

そうしたなか、DXによって日本の経済はどのように発展させられるのでしょうか?金融はどんな役割を果たすのでしょうか?経済を成長させるという観点からDXの重要性についてお聞かせください。また、これと関連して、ディーカレットに出資した背景についてもお聞かせください。

山田貴博(以下、山田):弊社は2024年9月にディーカレットホールディングスに出資させていただきました。目的はデジタル通貨等のテクノロジーによって日本の産業のグローバル競争力を取り戻すことです。そこには大きく2つの動機がありました。

1つはデジタル通貨がつくり出す新たな経済圏の可能性の追求です。デジタル通貨は新たな決済インフラになりますし、デジタル化された決済インフラはサプライチェーンなどの決済以外のインフラにもなり得ます。そうした金融以外の産業におけるデジタルテクノロジーの活用によるインフラの高度化に着目し、デジタル通貨がバリューチェーン全体の変革を推進していけるのではないかと考えました。

アビームコンサルティング株式会社代表取締役CEO・山田貴博氏 アビームコンサルティング株式会社代表取締役CEO・山田貴博氏

もう1つは新たな価値の創造です。われわれのクライアントの業務変革、もしくは事業競争にデジタル通貨を用いることで、新たな価値を提供できるのではないかと。出資にあたってこの点も大きなポイントとなりました。

そうしたなか、なぜ今DXが重要視されているかというと、皆様もご存知のとおり背景はさまざまです。サーキュラーエコノミー、GX、サプライチェーンのレジリエンスといった社会・環境課題への対応、さらにはインダストリー4.0や産業間のデータ連携といった産業構造変化への対応もあります。

また、ここ数年AI、ロボティクス、クラウド、WEB3といったデジタルテクノロジーが進化し、対応できる領域、変革できる領域が拡大することへの期待も高まってきたのだと思います。

ただ、なかでも重要なのはやはり、DXによって日本の産業のグローバル競争力をどう取り戻すのか、DXを活用して競争優位性をどう担保していくのかという点です。

私自身、デジタルテクノロジー活用の遅れは、日本の産業の競争力低下とイコールだと認識しています。そうした意味でデジタル通貨を含めたデジタルテクノロジーを活用し、変革を推進・実現することが、日本の産業の競争力を高めることにつながっていき、そうした背景の中、デジタルテクノロジーの活用が推進されているのだと捉えています。

2.デジタル通貨とDXの関係性は?

これからの決済手段に求められる要件。 これからの決済手段に求められる要件。

山岡:続いてデジタル通貨がDXにもたらす効果についてお話をお伺いしたいと思います。

これからの決済手段に求められる要件については、概ね識者の意見が一致しているところかと思います。まず価値が安定していること。それから高度な取引に対応できること。そしてデータの活用やAIの活用といったいろいろな可能性に対応できることなどが、デジタル通貨に求められています。

価値安定のスキームが異なるステーブルコインとトークン化預金。 価値安定のスキームが異なるステーブルコインとトークン化預金。

山岡:このような高度な決済に対応できるデジタル通貨として、大きくトークン化預金、ステーブルコイン、CBDC(中央銀行デジタル通貨)の3つが考えられています。

このうちCBDCついては、今年1月末にアメリカの新政権が国内における発行や調査研究を禁止する大統領命令を出しました。これにより、今後アメリカ国内でCBDCが発行される可能性はかなり遠のいたと見られています。

一方、アメリカ新政権も民間デジタル通貨の整備には引き続き熱心ですし、国際的にも民間デジタル通貨への期待が大きい状況です。

民間デジタル通貨であるステーブルコインとトークン化預金は、価値安定のスキームが異なります。ステーブルコインは多義的ではありますが、一般的には国債などを裏付け資産として発行されます。たとえば100のステーブルコインを発行する場合、100の国債を担保として保有するという形です。

この方式については論点が多く、発行するコインと同じ分の裏付け資産を保有すれば発行益が得にくくなります。逆に裏付け資産の保有量を減らせば価値がステーブル(安定的)ではなくなるというリスクがあります。また、発行元がフルに裏付け資産を保有すれば、銀行の果たしてきた信用創造という役割が行われないことになり、このようなステーブルコインが支払決済手段として十分に供給され得るのか、これまでも議論が重ねられています。

それに対してトークン化預金は、民間銀行の預金をブロックチェーン、DLTを使って高度化したデジタル通貨とみることができ、性質としては預金同様、銀行の債務となります。したがって、銀行が現在果たしている信用創造機能をそのまま維持することができ、これにより、十分な支払決済手段の供給と民間主導の金融仲介を両立させることができると期待されています。近年はとりわけこのトークン化預金への注目度が高く、JPモルガンやシティバンクなど世界の主要金融機関も取り組みを進めています。

デジタル通貨フォーラムが構想し、ディーカレットDCPが開発したDCJPYもこのトークン化預金の一つと捉えることができ、これまでさまざまなユースケースの検討や調査研究を進めてきました。

デジタル通貨フォーラムのこれまでの取り組み。 デジタル通貨フォーラムのこれまでの取り組み。

山岡:DCJPYは「ビジネスゾーン」「フィナンシャルゾーン」からなる二層構造を採用していて、ビジネスゾーンでは自動的に取引を実行するスマートコントラクトを通貨に組み込めます。これによりモノとお金の動きを同期させ、安全な取引とすることができます。たとえば仕入れにおいては、部品や材料が納入されたら自動的に支払いが行われ、在庫の消し込みもできるといった仕組みです。

こうしたトークン化預金が日本のDXにもたらす効果について、どのようにお考えですか?

イベントでの対談の様子

山田:最も大きいのはデータの見える化だと思います。これまでも財務、経理、物流、購買、販売といったビジネス領域のデータは見えていたのですが、トークン化預金を含めたデジタルテクノロジーにより、サプライチェーン全体に渡りその見える範囲がさらに広がりました。

顧客が何を考え、どのような購買活動をしているのか。以前はマーケティング調査を通じてしか得られなかった情報が、購買活動データを分析することで把握できるようになりました。それはつまり、データを活用して新たなビジネスを創ることができるようになったということだと思います。

イベントでの対談の様子

山田:もう1つは産業間、企業間の連携です。たとえば海上輸送取引や貿易の効率化・自動化、ドキュメンテーションの省力化にデジタルテクノロジーが使われるようになってきています。デジタルの力によって変革の領域が産業間、企業間へ拡大し、今後さらに多くの産業同士、企業同士が繋がっていくことにより変革だけでなく、新たなビジネスも生まれていくでしょう。

山岡:DCJPYは昨年8月にサービスをローンチし、環境価値のデジタル取引を開始しました。ブロックチェーン技術は、グリーン電力がどうやってつくられたのかなどをトレースすることを可能にします。これにより、環境価値のプライシングや、環境関連取引におけるデジタル通貨を通じたリワードの提供なども可能になります。

環境価値など、これまで見えていなかったデータを可視化して全体としての最適を実現し、価値を広げていくというのは、山田さんがおっしゃったデジタルテクノロジーによる見える化とまさに重なりますね。

3.AIとトークン化預金の相乗効果

イベントでの対談の様子

山岡:次に、AIのような技術を日本の産業の成長・発展に活用していくにあたって、二層構造のトークン化預金はどのように貢献できるのか、ご展望があればお聞かせください。

山田:私自身、年末から年始にかけて多くの企業の経営層とお話をさせていただきました。その中で異口同音におっしゃっていたのが、日本の労働市場における人材不足課題です。たとえば製造業の現場では熟練工やエンジニアが相当不足していますし、コーポレート部門においては、経理や財務、人事、法務、ITなど専門性を備えた人材の不足が続いています。

こうした人材不足の解消へ向け、AIを活用し、専門性を備えた人たちの能力をデータで可視化し、それをAIに代替させるような取り組みも可能になってきます。今後はロボットやシステムがこれまで代替できなかったことをAIが代替し、さらに活用領域が広がっていくでしょう。その中で人がこれまでやってきた専門性の高い領域を、トークン化預金でどのように置き換えていくことができるか。決済だけに限らず、活用範囲拡大の余地は相当大きいのではないかと思っています。

山岡:DCJPYのビジネスゾーンで通貨にさまざまなコントラクトを組み込めるということは、言うなればAIのような最先端技術を活用して業務を省力化・効率化できる余地が広がることだと思います。より複雑な作業も含めてAIが効率化する余地をつくり、さらに高度な分野に専門性を備えたヒューマンリソースを充てる。その体制づくりは企業の経営戦略において非常に大切ですね。

4.インフラとしてのトークン化預金

山岡:続いてデジタルテクノロジーやトークン化預金を利用する企業に今後どういったことを実現していただきたいか、期待などがあればお聞かせください。

イベントでの対談の様子

山田:デジタルテクノロジーを最大限に活用いただきたいと思っています。業務効率化だけにとどまらず、業務のさらなる高度化、たとえば決済における不正防止、財務戦略の策定など、テクノロジーの活用の幅をもっと広げていってほしいと考えています。

その一方、決済以外の領域の可能性も大きいと思います。先ほど山岡さんがおっしゃった環境価値のデジタル取引はトークン化預金によって生まれる市場ですし、そうした新たなマーケットを作り出す可能性にも期待しています。そのなかでこれまでにないビジネスケースを作っていくというのが我々の仕事でもあるので、引き続き取り組んでいきたいと思います。

山岡:最後にデジタル通貨フォーラムやDCJPYへの期待や展望があればあらためてお聞かせいただけますか。

イベントでの対談の様子

山田:先週インドに行き、現地のいろいろな企業のトップの方とお話させていただいたのですが、そのなかでインディア・スタック(※)の話がありました。インドではデジタルテクノロジーを活用した産業・金融インフラを政府主導で提供し、そこに多くの民間企業が参画して様々な取り組みを実施し、デジタルインフラの整備やビジネスイノベーションを推進しています。

※政府・民間企業のデジタルデータ活用を目的に、インド政府が推進するデジタル公共インフラのプラットフォーム。個人識別番号をベースに複数のシステムが相互接続されている。

山田:その話を聞き、日本も産業の競争力を高めていくために官民が協力してインフラを提供していくべきだと改めて感じました。DCJPYはそのインフラの1つとして成長を期待しています。日本の産業のグローバル競争力を取り戻すドライバー、アクセラレイターのような存在になって欲しいなと。その観点から我々も引き続きプロジェクトに協力していきたいと考えています。

イベントでの対談の様子

山岡:アビームコンサルティングさんのようなエキスパートの方々にご参画いただけるのはありがたいことですし、DCJPYによって新しい価値、インフラをつくっていくために、デジタル通貨フォーラムも引き続き活動していきます。本日はありがとうございました。

※本記事は株式会社ディーカレットDCPが運営するデジタル通貨入門メディア「DeBeyond」より転載

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