デジタル技術の進展や新型コロナウイルスの影響により、金融機関の取引チャネルは急速に対面から非対面へとシフトしている。特にシンガポールをはじめとする東南アジア諸国では、デジタル化に対する受容性が高く、モバイルバンキング、オンライン融資、AIチャットボットの導入などが急速に進展している。
こうした流れの中で、金融機関は顧客利便性の向上と業務効率化を図る一方で、非対面チャネル特有のマネー・ローンダリング(ML)リスクへの対処が急務となっている。FATF勧告第10号※1や「Digital Identityに関するFATFガイダンス※2」でも、顧客の実在性や本人確認の困難さから生じるリスクが強調されている。加えて、各国当局も対応を強化しており、例えば以下が挙げられる:
- シンガポール金融管理局(MAS) は、モバイルアプリのサイドローディング検出※3やデバイス識別情報を活用したスクリーニング手法の導入を推奨
- インドネシア金融サービス庁(OJK) は、金融機関が顧客の本人確認(KYC)を電子的手段で行うことを認めており、第三者の技術を活用した非対面認証手法の要件と手続を規定※4
このように、顧客利便性とリスクコントロールを両立することが、金融機関の競争力と社会的信頼を左右する重要な経営課題となっている。
※1 金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)が定めた「顧客管理措置(Customer Due Diligence)」に関する勧告
※2 FATF(マネー・ローンダリングやテロ資金供与、拡散金融対策に関する国際基準を提供したもの。各国がこれらのリスクに対処するために実施すべき措置を詳細に示している
※3 ソフトウェアを通常の入手経路とは異なる手段で端末に導入すること。スマートフォンアプリを公式のアプリストアではなく、パソコンからケーブル接続で伝送して導入することなどが該当する。セキュリティチェックが不十分な場合があり、悪意ある攻撃者がマルウェアを仕込むリスクがある
※4 OJK規則第23号/POJK.01/2019