欧州連合では、再生可能エネルギーの比率向上を目指し、欧州全域の系統運用者による協調機関(ENTSO-E)が、「系統開発10カ年計画(TYNDP)」の実行にあたり、関係者を巻き込んだコンサルテーションを行い、費用便益の確認を行うプロセスを採用している。これは、EU規則2022/869「欧州横断エネルギーインフラに係るガイドライン」に定められている。
具体的な費用便益評価の項目は、ENTSO-Eが発刊しているガイドライン(第4版、2024年4月)において定義されており、日本が検討している3項目についても、(図2)に示すとおり、必ずしも便益として明示されているわけではないが、類似の論点が取り上げられており、着目点には大きな乖離がないことがうかがえる。
このうち、「大規模災害被災時等」に関しては、発生頻度が低く、影響度が高い災害のような事象については、定量的な評価の有効性は薄いとの立場から、アデカシー便益の一部として「停電コスト(VoLL:Value of Lost Load)」という定義を行い、貨幣換算の考え方に触れるにとどまっている。なお、このVoLLは、「停電がなければ供給されていたはずの電力に相当する消費者コスト」として位置づけられ、地理的要因、電源構成、利用者層(電力依存度)、停電期間などに依存するとしている。
一方、当該ガイドラインのとりまとめ段階では、エネルギー規制機関間協力庁(ACER)から、「EU規則2022/869の趣旨に則り、異常気象の影響については過去実績に限定せず、今後予想される高頻度かつ広範囲な災害を考慮し、レジリエンス性を評価するように」といったコメントが示されている。現時点ではガイドラインとしてはまだ整備されていないものの、「大規模災害等の事故ケース」に相当する評価も、今後考慮される方針であることがうかがえる。