デジタル化の進展がもたらす貸金・クレジットの新潮流 ~Finatext×ABeamが語る組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)の最新動向と展望~

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2025.08.22
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「金利のある世界」「インフレの世界」の到来により、預金・貸付ともに大量の資金還流が始まっている。こうした環境下で、金融機関は従来の戦略を見直し、戦い方を変える必要がある。金利での消耗戦にならないためにも、各金融機関は独自の外部ネットワークでエコシステムを形成する必要があり、そのためにはクラウド・SaaS・APIといったデジタルの力が不可欠だ。さらに、こうした潮流の中、注目されているのが、組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)である。中でも、貸金・クレジットのSaaS化は、大きなビジネスの可能性を秘めており、金融以外の事業者の参入も加速している。
今回は、アビームコンサルティング 金融ビジネスユニット ダイレクターの上條洋が、エンベデッドファイナンスをリードする株式会社Finatext 取締役 クレジット事業責任者の大澤和明氏と金融業界におけるSaaS化や貸金・クレジット領域の組込型金融の最新動向、今後の展望について意見を交わした。

左から株式会社Finatext 取締役 クレジット事業責任者 大澤和明氏、アビームコンサルティング ダイレクター上條洋

金融業界におけるSaaS化の進展

上條:SaaSとは、これまでのように大規模なシステムを企業が自前で導入するのではなく、クラウドのプラットフォーム上にあるサービスを利用することを指しています。今、その波が金融機関にも訪れようとしています。金融機関が提供してきた銀行機能やサービスを、APIを利用して他社に提供するモデルは「BaaS(Banking as a Service)」と呼ばれ、「組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)」はその象徴的な存在と言えます。

事例も多数報道されています。池田泉州ホールディングスはBaaSを提供するGMOあおぞらネット銀行の基盤を活用し、01銀行株式会社(ゼロワンバンク)の名称で2025年2月に銀行免許を取得しました。また、三井住友フィナンシャルグループおよび三井住友銀行は、マネーフォワードとデジタルバンク提供の検討に向けた準備会社の設立を発表。三菱UFJフィナンシャル・グループは、みんなの銀行の基盤を活用したデジタルバンクを開業予定です。そしてNTTドコモは、BaaS基盤を持つ住信SBIネット銀行を子会社化しました。金融SaaS、中でもBaaSを取り巻く環境が大きな動きを見せていると感じます。

アビームコンサルティング ダイレクター 上條 洋

大澤:私たちFinatextグループは、金融×SaaSのフロンティアとして活動してきました。これまで金融領域では、一般にSaaS化が遅れていました。対して一般の事業会社の会計領域におけるSaaS化は、5年ほど前からクラウド会計ソフトのfreee、マネーフォワードなどの導入によって一気に進みました。大きな理由は、会計のプロセスは共通性が高く、定型化されているということです。そのため、企業の規模や業界を問わず、クラウドを導入することに抵抗が少なかったという背景があります。

一方で、金融業界も業務プロセスの共通性は高いものの、業界ならではの保守性が影響し、SaaS化に踏み出すきっかけがつかめない状況が続いてきました。ただ、さすがにオンプレミス(自社運用)の環境で事業を継続するわけにはいかないという事情もあり、クラウドにシフトする金融機関が登場しはじめ、現在のトレンドにつながっています。

株式会社Finatext 取締役 クレジット事業責任者 大澤 和明 氏

上條:私は金融機関のコンサルティングに携わっていますが、銀行の業務は法律で厳しく規定されており、全国どこの金融機関でも業務内容に大きな差はありません。まさに共通性が高いわけです。ところがこれまでは、リスク管理やセキュリティー対策など、業法への対応から、なかなか前例のないクラウド導入に踏み込めていなかったわけですが、いま、それが大きく変わろうとしている印象です。

大澤:現在の変化には、クラウド基盤自体の進化も見逃せないと考えています。当社グループは、AmazonのAWSをインフラにSaaSを提供しています。権限の管理などセキュリティー機能は刻々と進化し、一般事業会社だけでなく金融機関でも安心して利用できる環境が整備されました。

上條:ただ一方で、国内外の金融SaaSの進展には大きな差があります。その要因となっているのは、大手金融機関ごとの系列で異なるAPIの存在です。これが大きな障壁になっています。

欧米やアジアではAPIの仕様の標準化が進んでおり、金融機関の系列などに関係なくSaaSが利用できます。日本の遅れの大きな原因がここにあるのではと懸念しています(図1)。

図1 日本・欧米・アジアの金融SaaS構造の違い

大澤:APIは、データのやり取りの基本となるインターフェースです。日本では金融機関の標準規格が定められておらず、各社に委ねられてきました。では、誰がこの状態を変えられるのか。いろいろな解はあるかと思いますが、例えば当社のようなSaaSのプラットフォーマーが標準の規格を提案していくことで、金融機関全体のAPIのデファクトスタンダードが生まれるのではないかと考えています。

注目事例が続く組込型金融

上條:新たな成長機会の創出という観点から、非金融事業者による金融事業参入が活発化している昨今、まさに組込型金融のトレンドには目を見張るものがあり、BaaS基盤を強みとする金融機関が存在感を示しています。
 

JR東日本グループブランドで展開するネットバンクサービスである「JRE BANK」は、グループ内のビューカードが銀行代理業となり、楽天銀行がBaaS基盤を提供しています。百貨店の高島屋は、住信SBIネット銀行と提携し、「スゴ積み」と呼ばれる積み立てサービスを提供しています。これは、従来の「友の会」のサービスをデジタル化したものです。これまで女性客が中心だった友の会のサービスを、デジタル世代の30代~40代の男性客にも訴求し、新たな顧客層の取り込みに成功していると聞いています。

また、ファーストリテイリングが運営するユニクロでは、三井住友銀行と協業し「UNIQLO Pay」へ決済ソリューションを提供し、アプリの会員証をかざすだけで、あらかじめ登録した方法で会計ができる顧客体験の提供を実現しています。プロ野球チームの「北海道日本ハムファイターズ」は、同社ブランドの銀行サービスである「F NEOBANK」を住信SBIネット銀行と提供し、球場におけるキャッシュレス決済を可能にしています。

いずれの取り組みも、組込型金融により来店客数、来店の頻度、客単価などを伸ばし、顧客の囲い込みに成功しています。提供価値の向上を通じてロイヤリティの醸成も見込めるでしょう。このように、組込型金融が一般企業のマーケティングにおいても重要なツール・手段になってきており、今後ますます導入企業も増えると考えられます。こうした潮流の中で、Finatextはどのような役割を果たしているのでしょうか。

大澤:当社グループでは、「保険」「証券」「クレジット」の3つの分野で組込型金融の導入を支援しています。保険の領域では、不動産投資大手のGAテクノロジーズが運営するAI不動産投資サービス「RENOSY」(リノシー)において、不動産投資の際の火災保険を東京海上日動が提供、当社がテックプレーヤーとして協業しています。

証券では、セブン銀行に対して当社グループで証券事業を行うスマートプラスが、証券取引サービスを提供しています。具体的には、セブン銀行のアプリである「Myセブン銀行」で、商品のバーコードを読み込むだけで株式を購入できる投資サービスです。

クレジットの領域では、スマートバンクに対して、当社グループ企業で私が代表を務めるスマートプラスクレジットが、スマートバンクのAI家計簿アプリ「ワンバンク」に個人向け極度型ローンを組み込むサービスを始め、同ローンのユーザー数は急速に成長しています。

個人向けローンのSaaS化で進むゲームチェンジ

上條:組込型金融の中でも、今後さらに成長が見込まれているのが、レンディングと言われる、貸付・クレジットの領域です。各種統計資料にもとづく推計によると、2017年に37兆円だった個人向け貸金・割賦合計残高は、2024年には47兆円に伸びる見込みです。これはCAGR(年平均成長率)で見ると約3.4%という大きな数字です(図2)。

図2 拡大する個人ローンの市場規模

この急成長の背景には、昨今のデジタル化の進展があると分析しています。日本貸金業協会が実施した「資⾦需要者等の借⼊意識や借⼊⾏動等に関する調査結果」から、エンドユーザーによる無担保ローンの申込チャネルの利用割合を見ると、無人契約機、有人店舗、PC・Webが年々減っているのに対し、スマートフォンでの契約は2011年から2023年の間に約44%も増えています(図3)。

図3 高い利便性から、ローン申し込みチャネルはスマートフォンに集中

また、ローン申込チャネルのさらなる多様化も一因でしょう。API技術、AIスコアリングなどの進展により、一般事業者の金融事業参入のハードルが下がり、新規参入が続いています。LINE、メルカリ、ファミリーマートなど参入企業の増加に比例して利用者数も伸びているのではないでしょうか。

日本では、賃金の上昇が鈍い一方で消費者物価が上昇しています。個人の資金需要はこれからもさらに高まり、個人ローン市場の規模は、今後も拡大すると思われます。

大澤:おっしゃるように、当社でもこの個人向けローンの市場には注目しています。この市場でも組込型金融が大きなポイントになるのは間違いありません。

一般の事業会社の金融事業への新規参入が増加している理由には、既存のサービスとの連携が可能であることが大きいといえます。例えば、メルカリであれば、自社のフリマサービスで登録している本人確認情報やメルカリ上での行動履歴を、ローンの申し込みの際に連携することができます。ユーザーとしては、ローン申し込み時の手間を大幅に軽減できるメリットがあり、金融会社にとっても、申込者のメルカリでのトラブルの有無などの履歴を信用スコアとして活用できるメリットがあります。

申し込み以外の部分でも、利用者はほとんどの操作がスマートフォンで完結する利便性を手に入れることができます。面倒なIDやパスワードの入力をしなくても、指紋や顔で認証でき、次のローンの返済日などの情報をすぐに確認できます。

一方で事業者においてもメリットがあります。スマートフォンを通じて返済日や金額などを事前にプッシュ通知で伝えることができ、回収遅れを未然に防ぐことができます。回収遅れが発生すれば、リマインドの電話が必要となります。個人向けローンにおけるこの作業のオペレーションコストは大きく、これを軽減できる利点は大きいと言えます。

上條:Embedded Financeの国内市場規模をみると、PayPayなどが強みとする決済領域の市場規模は、今後も成長が期待されるものの、伸び率は鈍化すると予測されています。それに対して、日本の調査機関が調べたところでは、ローン領域の市場規模は先述のように伸びしろが大きいことが予想され、今後5年間でGAGRは130%を超えるといいます。

ただ、このようなビジネスチャンスの一方で、銀行の個人ローンのSaaS化は遅れています。アビームコンサルティングの独自調査によると、メガバンクではスマートフォンのアプリで完結するカードローンを提供していますが、地方銀行では依然として9割がWebなどで提供しています(図4)。

図4 地方銀行で遅れるスマホアプリ完結のカードローン

大澤:銀行のトランスフォーメーションが進んでいないのは大きな課題です。ある銀行では、ローンで貸付を実行する際に6つのステップがあり、それぞれのステップにおいて、紙のチェックシートで承認の押印が必要だとのことです。銀行の個人ローンは、アコム、アイフル、プロミス、レイクといった貸金業専業の事業者のシステムや人員を銀行が受け入れて業務を行っています。ただ、貸金専業の事業者側のシステムはどんどん進化しても銀行側とはシステム連携しておらず、オンプレミス環境で導入時のままのシステムで運用されている、というところも少なくありません。

これに対して私たちのシステムはSaaSで提供しているため、事業者がシステム改修やアップデートで時間やコストを費やす必要はありません。業務コストが下がれば、当然収益性が上がり、今まで貸せなかった利用者にも貸せたり、金利を少し下げても採算が取れるようになったりして、競争優位に立つこともできます。

こうした状況から、銀行にはDXによる成長の余地が大きく、当社も支援すべき領域と捉えています。

クレジットインフラストラクチャ「Crest」による貸金・クレジット変革

上條:SaaSの場合、事業者が貸金業を開始する際に必要な機能を適宜選択して利用できるメリットがあります。一足飛びに銀行のシステムを変えるのは大きな負担と時間がかかりますが、既存のシステムを生かしながら外部のシステムであるSaaSを活用し、少しずつ置き換えてく方法であれば、実現性は高くなります。

また、貸金業免許は銀行免許に比べるとハードルが低い点も見逃せません。Finatextのシステムを導入する事例はこれからも増加が見込まれるわけですが、改めてその特徴を教えてください。

大澤:当社の「Crest(クレスト)」は、まさに必要な機能をワンストップで提供できる金融SaaSです。ローンのシステムに求められるすべての機能を持っており、主要機能をそれぞれ単体で導入できますので、まずは必要な機能からサービス提供を開始し、徐々に拡張していくという使い方が可能です。実際に、ある貸金事業者では、Crestの収入証明書の確認システムだけを既存のシステムに追加するといった事例もあります。

上條:既存の金融機関では、ベンダーがスクラッチで独自のシステムを構築している例も少なくありません。CrestのようなSaaSとの違いは大きいですね。

大澤:当社はクラウドネイティブを標ぼうしており、Crestも当社がゼロから育ててきたプラットフォームです。例えば、ローンのキャンペーン施策1つとっても簡単に追加できますし、最近では、新たに返済額の調整機能も追加されました。Crestはプラットフォームですから、特定の事業者だけに機能を提供しているのではなく、利用しているすべての事業者が新規追加された機能を使用できます。こうした機能は、当社グループが貸金業者を持っていることから、「こんなことができればいいのに」といったものを開発し、頻繁にアップデートしています。利用する事業者は、それを利用するかしないかの判断を行うだけです。

Crestは、現在は極度ローン、証書型ローン、目的別ローンの3つの種類のローンを提供していますが、間もなく個品割賦と呼ばれるショッピングローン、クレジットカードにも対応する予定です。近い将来には住宅ローンの対応も視野にいれています。

図5 Crestのサービス内容(出典:Finatext)

Finatext×ABeamの協働が導く未来の金融

上條:これから貸金業に参入する企業は、それに足る体制や業務プロセスを構築しなければなりませんが、その一部をBPOとしてFinatextに委託してサービスインすれば、参入までのリードタイム短縮につながりますね。

大澤:「BPaaS(Business Process as a Service)」とも表現されますが、業務プロセスそのものをクラウド経由で外部に委託する企業は、これからもっと増えてくると思います。当社グループがそれを受託できるのは、業務プロセスそのものを自動化するCrestを運営するプラットフォーマーであることに加え、1日数百件ものローン申し込みに対応する貸金の事業者でもあるという強みを持っているからだと言えます。

上條:個人ローンの中でも大きな残高割合となっている、住宅ローンも大きなテーマになりそうですね。

大澤:住宅ローンは大きいマーケットですから、当社としても必ず取り組みたいと考えています。ただ、個人ローンと比べると金額も大きくなります。スマートフォンで数分あれば手続き完了、というわけにはいきませんので、挑戦しがいのある分野です。

上條:「金利のある世界」「インフレの世界」の到来によって、ダムの水が放流されるように、預金・貸付ともに大量の資金還流が始まりました。変化に合わせて、金融機関も戦い方を変える必要があります。「金利で集めた預金は、金利で逃げる」と言われるように、金利での消耗戦にならないよう、各金融機関が独自の外部ネットワークを活用してエコシステム(地域経済・デジタル経済)を形成していってほしいと願います。
そのためにも、クラウド・SaaS・APIといったデジタルの力は不可欠です。その担い手として、既存のレガシーシステムに縛られない新しい金融デジタルイネーブラーが必要であり、Finatextはその舞台をけん引できる企業だと考えます。

今後さらに活用が広がると見込まれる組込型金融の分野を中心に、ぜひFinatextと我々の協働で新しいサービスを創出していきたいと考えています。具体的には、アビームコンサルティングが支援する都市銀行や地方銀行などの新事業企画において、よりスピーディーにサービスを実現するためにFinatextと連携することも考えられます。

さらに、そうして生み出されたサービスは、金融機関のみならず、今後、金融関連の免許を取得するであろう多様な異業種向けにも提供できると考えています。

当社は、コアバリューとして「同じ未来を見つめ、同じ成功を喜び合える『リアルパートナー』」を標ぼうしています。ぜひ、Finatextともリアルパートナーとして、日本の金融のSaaS化の促進、ひいては日本経済の活性化に寄与していきたいと思っています。

大澤:ありがとうございます。当社グループとしても、共に日本の未来を築く一翼を担えたらと願っています。


株式会社Finatext取締役 クレジット事業責任者
株式会社スマートプラスクレジット 代表取締役
大澤 和明 氏

京都大学経済学部卒業。三井物産に新卒で入社しフィンテック・ビッグデータ領域の事業開発や事業投資に従事した後、PayPayにてフィンテック領域の戦略策定および事業開発を担当。2023年にFinatextに入社し、2024年4月にクレジットインフラストラクチャ事業責任者に就任。また、同年6月にFinatext取締役、および、スマートプラスクレジット代表取締役に就任。

株式会社Finatext取締役 クレジット事業責任者 株式会社スマートプラスクレジット 代表取締役 大澤 和明 氏

アビームコンサルティング株式会社
金融ビジネスユニット ダイレクター
上條 洋

国際会計事務所、IT系コンサルティングファーム、外資系戦略コンサルファームを経て2017年アビーム入社。都市銀行・地方銀行を中心とした金融ビジネス企画・マーケティング戦略策定に主に従事。BaaS、組込型金融をテーマに、金融×異業種のデジタルエコシステムの構築に尽力。

アビームコンサルティング株式会社 金融ビジネスユニット ダイレクター 上條 洋


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