当社は前述の考えのもと、人事と財務経理領域を対象に、RISE with SAPへ移行した。初の試みとあって、移行のプロセスでは数々の問題が発生したが、今回はステップ1とステップ2においてキーポイントとなる当社の取り組みを紹介する。
コンバージョンにおけるダウンタイム削減
まず、ステップ1における取り組みでは、ダウンタイムの削減が重要課題の1つであった。システム移行におけるダウンタイムの長さは、事業・業務の継続や機会損失の回避といったビジネス上の最重要テーマと直結するためだ。
まず、移行のリハーサルにおける取り組みを紹介する。
当初、移行の精度を上げるために、移行のリハーサル環境を可能な限り本番に近い環境にすることを想定していたが、本稼働していないマシンに対して実施要件である24時間のサービスリクエストが利用できず、本番と同等のリハーサルを行うことが難しい状況となった。そこで、この解決のために、新サービス「ASR for Build(Additional Service Request for Build)」をSAPと共に創設した。これにより本稼働していないマシンであっても24時間のサービスリクエストを受け付けてもらえるようになり、スムーズなリハーサルスキームを実現した。
もう一つは、本番稼働に移行するタイミングでの取り組みを紹介する。
本番移行当日のダウンタイムの見積りを確定した後、SAPから14時間のダウンタイムを追加したいという要請があった。その理由や要請内容を精査した結果、コンバージョン作業とは直接連携しない作業の実施要請が複数あることが判明した。そこで、SAP ECS(Enterprise Cloud Services、以下ECS)※1との会話を通じ、緊急性の低い要請を後日の作業に振り分けることで合意形成を図った。その結果、14時間の追加ダウンタイムを7時間まで短縮することに成功した。
これらは一例であるが、移行には数多くの課題解決が伴い、イレギュラーな対応や緊急対応が求められる場面が生じうる。その重要局面でのキーポイントとなるのが、SAPとの緊密なリレーションシップである。特に、ECSのメンバーとの連携が、今後クラウド移行を検討するユーザーにとって非常に貴重な存在となるだろう。
上記2つの取り組みも、SAPとの強固なパートナーシップなしには実現できない取り組みであると自負している。SAPとの良好な信頼関係は、当社が長年にわたり実績を重ねてきたSAPとの協働を礎としながら、今回の移行では、ECSの責任者との月次定例を設定し、課題のフィードバックや改善のリクエストといった細やかなコミュニケーションを深めることで強化している。また、RISE with SAPの運用を理解し、ECSと移行計画を共有し、SAPと自社の役割やタスクを明確にすることも、移行におけるSAPとの協働のポイントである。
クリーンコアの検討とそのポイント
次に、ステップ2であるクリーンコアを、どのように検討/実施するべきか解説する。
まず、その前提として、クリーンコアの定義は「SAPの標準機能に影響を及ぼさない、最初からクラウド志向で設計された機能拡張」であるが、アドオンを全く付与しないということではない。このため、SAP標準機能へのインパクトおよび標準オブジェクトの使い方にフォーカスし、クリーンコアを検討することがポイントになる。
クリーンコアの実現において最も重要なことは、自社システムの現状を正確に把握し、どのくらいクリーンコアの基準を満たしているかを明確にすることである。
そこでまず、コンバージョンにあたって、当社のECCのカスタムコード分析を行った。その結果、1583本のオブジェクトのうち、161本がコンバージョンの際にインパクトを与えることが判明し、この161本のアドオンをどうするのか、改修や破棄等の最適な手段への置き換えを実施した。
現在はアップグレードの段階に進んでおり、SAPが提供するツール「クリーンコアダッシュボード」の活用を検討している。これは、システムのアドオン状況を可視化するツールであり、このツールの分析結果をもとに、必要な対策を練り上げていくことができると考えている。なお、他にもアドオンの状況を把握する手段がSAPから複数提供されているため、有効に役立てるとよいだろう。