RISE with SAPとAI。最新トレンドを駆使した変革の実例

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2024.10.18
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今や、世の中を席巻する勢いでビジネスや社会への本格的な活用が加速するAI。
本稿では、「トレンドを駆使した変革」をテーマに、RISE with SAPとSAPが提供するAIを駆使しいかなる変革を実現できるのか、そのキーポイントと具体的な当社の取り組みを解説する。
(本稿は2024年7月31日SAPジャパン株式会社主催イベント「SAP NOW Japan 2024」での当社講演「RISE with SAPとAI。-トレンドを駆使した変革の実例-」をもとに再構成しています。)

執筆者情報

  • 西井 新

    Senior Expert

アビームコンサルティングが考える、変革の3ステップ

今日の企業にとって最も重要なキーワードの1つが「変革」である。情報基盤の刷新から、業務効率化、データ活用のアジリティーを最大化するシステムへの移行、ビジネスそのものの変革。これらをいかに効率的かつ効果的に実現していくかが、全ての企業に問われている。

当社は、そのビジネス変革を牽引する環境に至るプロセスに、3つのステップがあると考えている(図1)。

まず、変革のステップ1は、コンバージョンである。これは、従来のSAP ECC(ERP Central Component、以下ECC)からRISE with SAPへの移行を指し、SAP S/4HANA®の基盤構築を意味する。これにより、AIを含むテクノロジーを利活用するための環境構築が実現する。
次に、ステップ2はクリーンコアである。クリーンコアとは、ERP(Enterprise Resources Planning)システムのコア機能をできるだけカスタマイズせず、標準機能を最大限に活用するという SAP が提唱する考え方である。クリーンコアの実現のために、アップグレードの足かせとなりうるアドオンを取捨選択し、その数を減らしていく。これにより、常時最新バージョンのSAP S/4HANA®の適用が可能となる。
最後に、ステップ3がトランスフォームである。当社では、SAP S/4HANA®で可能なトランスフォームによって、SaaS、IaaS、PaaSを駆使し、サステナブル経営やバリューチェーン変革などの重要な経営アジェンダを推進し、具体的なビジネス変革を実現できると考えている。

図1 アビームコンサルティングが考える変革の3ステップ

当社の取り組み事例に見る、変革の課題と解決

当社は前述の考えのもと、人事と財務経理領域を対象に、RISE with SAPへ移行した。初の試みとあって、移行のプロセスでは数々の問題が発生したが、今回はステップ1とステップ2においてキーポイントとなる当社の取り組みを紹介する。

コンバージョンにおけるダウンタイム削減
まず、ステップ1における取り組みでは、ダウンタイムの削減が重要課題の1つであった。システム移行におけるダウンタイムの長さは、事業・業務の継続や機会損失の回避といったビジネス上の最重要テーマと直結するためだ。

まず、移行のリハーサルにおける取り組みを紹介する。
当初、移行の精度を上げるために、移行のリハーサル環境を可能な限り本番に近い環境にすることを想定していたが、本稼働していないマシンに対して実施要件である24時間のサービスリクエストが利用できず、本番と同等のリハーサルを行うことが難しい状況となった。そこで、この解決のために、新サービス「ASR for Build(Additional Service Request for Build)」をSAPと共に創設した。これにより本稼働していないマシンであっても24時間のサービスリクエストを受け付けてもらえるようになり、スムーズなリハーサルスキームを実現した。

もう一つは、本番稼働に移行するタイミングでの取り組みを紹介する。
本番移行当日のダウンタイムの見積りを確定した後、SAPから14時間のダウンタイムを追加したいという要請があった。その理由や要請内容を精査した結果、コンバージョン作業とは直接連携しない作業の実施要請が複数あることが判明した。そこで、SAP ECS(Enterprise Cloud Services、以下ECS)※1との会話を通じ、緊急性の低い要請を後日の作業に振り分けることで合意形成を図った。その結果、14時間の追加ダウンタイムを7時間まで短縮することに成功した。

これらは一例であるが、移行には数多くの課題解決が伴い、イレギュラーな対応や緊急対応が求められる場面が生じうる。その重要局面でのキーポイントとなるのが、SAPとの緊密なリレーションシップである。特に、ECSのメンバーとの連携が、今後クラウド移行を検討するユーザーにとって非常に貴重な存在となるだろう。
上記2つの取り組みも、SAPとの強固なパートナーシップなしには実現できない取り組みであると自負している。SAPとの良好な信頼関係は、当社が長年にわたり実績を重ねてきたSAPとの協働を礎としながら、今回の移行では、ECSの責任者との月次定例を設定し、課題のフィードバックや改善のリクエストといった細やかなコミュニケーションを深めることで強化している。また、RISE with SAPの運用を理解し、ECSと移行計画を共有し、SAPと自社の役割やタスクを明確にすることも、移行におけるSAPとの協働のポイントである。

クリーンコアの検討とそのポイント
次に、ステップ2であるクリーンコアを、どのように検討/実施するべきか解説する。
まず、その前提として、クリーンコアの定義は「SAPの標準機能に影響を及ぼさない、最初からクラウド志向で設計された機能拡張」であるが、アドオンを全く付与しないということではない。このため、SAP標準機能へのインパクトおよび標準オブジェクトの使い方にフォーカスし、クリーンコアを検討することがポイントになる。

クリーンコアの実現において最も重要なことは、自社システムの現状を正確に把握し、どのくらいクリーンコアの基準を満たしているかを明確にすることである。
そこでまず、コンバージョンにあたって、当社のECCのカスタムコード分析を行った。その結果、1583本のオブジェクトのうち、161本がコンバージョンの際にインパクトを与えることが判明し、この161本のアドオンをどうするのか、改修や破棄等の最適な手段への置き換えを実施した。
現在はアップグレードの段階に進んでおり、SAPが提供するツール「クリーンコアダッシュボード」の活用を検討している。これは、システムのアドオン状況を可視化するツールであり、このツールの分析結果をもとに、必要な対策を練り上げていくことができると考えている。なお、他にもアドオンの状況を把握する手段がSAPから複数提供されているため、有効に役立てるとよいだろう。

※1 クラウド移行に関してSAPユーザーを支援するグローバルチーム

SAP AIの活用

SAP S/4HANA®には、AI活用をスタートするための機能が多数用意されており、当社は、それらをSaaS、IaaS、PaaSの3種類に大別できると考えている(図2)。
このうちSaaSは、ユーザーに身近なサービスであるが、導入に新たな投資が必要になる。その一方で、比較的コストを抑えて活用できる機能がIaaSとPaaSである。例えば、マシンラーニングの機能(ISLM)や、サブスクリプションで利用できる生成AIのシナリオ(SAP Business Technology Platform(以下、BTP))が提供されている(図2)。

図2 SAP AIの種類

特にBTPは、領域ごとに多彩なサービスが提供されており、90種類のサービスが存在する(2024年9月13日時点)。当社はこのうち26種類のサービスを活用している(図3)。現在進めているAI活用の試みの一例としては、財務経理領域のビジネスプロセスであるO2C(order to cash)の高度化に向けて、2つのAI関連サービスとISLMを組み合わせている。O2Cは受注から入金までの一連のプロセスで、特定の業界によらない汎用的なビジネスプロセスかつ、顧客満足度や企業の収益性への影響力も大きいことから、O2Cをテーマに設定した。複数の部門が関わりながら、多くのプロセスを実行していくO2C業務は、販売・購買、入出庫、会計といった各プロセスで、伝票入力作業などの人の手作業への依存度が高い。そのため、作業工数の多さや入力ミス、頻繁な手戻りといった非効率性が課題の1つになっている。そこでAIを活用することで、与信管理や受注処理における書類確認の自動化や、一連の業務で生じるメール送信の自動化といったO2Cの正確性・効率性の向上、さらには商品配送の遅延有無をリアルタイムで予測し、エンドユーザーに自動で通知するなど、顧客体験向上に資する付加価値提供にもつなげられると考えている。

AIの利活用におけるポイントとして、どのようなテクノロジーやツールを利用するのかではなく、自社が取り組むビジネステーマを設定することが重要である。テーマを明確にした上で、その解決に向けてどのAIをどう選択し、どう組み合わせていくのかを考えることが求められる。

図3 アビームコンサルティングにおける、BTPによるAI活用例

変革を志すSAPユーザーの創造的パートナーへ

最後に、今後SAPを活用したビジネス変革では、SAPの最新フレームワークを理解し、自社に取り込む一歩を踏み出せるかが変革の鍵になる。
変革に向けて自分たちができることは何かを改めて考えるヒントになれば幸いである。

アビームコンサルティングは、SAPの地域戦略サービスパートナー「Regional Strategic Service Partner(RSSP)」として、世界で最初となる参加パートナーとして協力関係を結んでいる。このSAPとの協働を通じ、最新のSAPテクノロジーの知見や強固なパートナーシップを深めている。今後も、今まで培ってきた豊富な経験やノウハウをもとに、確かな変革に導く創造的パートナーとして、企業や社会の変革に貢献していく。


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