以下に金融業界、東南アジアという観点で特に注意すべきポイントを4点示す。
(1) セキュリティ
金融業界は顧客の財務情報など機密性の高いデータを扱っており、セキュリティやデータ保護には十分注意する必要がある。入力したデータが外部に漏洩しないよう、強固なセキュリティを構築することに加え、業務ごとに入力してよい情報を制限するなど利用者に向けたルールやガバナンスの整備も重要となる。弊社では複数のクラウドサービスにおけるセキュアな環境構築の実績があり、ルール・ガバナンス策定の支援も行っている。
(2)ハルシネーション対応
生成AI利用時のリスクとしてハルシネーションと呼ばれる、AIが誤った情報を生成してしまう現象が挙げられる。厳密性や正確性が求められる業務では、このリスクへの対応は必要不可欠となる。生成AIの出力結果を人が確認するプロセスを設ける、RAGと呼ばれる外部データを参照させる技術を用いるなど、人が誤りに気づける仕組みや、そもそもAIが誤った回答を生成しづらくなるような仕組みが必要である。例えば保険会社のCS業務の効率化支援ではAIが生成したメール文章を人がレビューを行うプロセスを設けている(3(2) Abeam LLM Partner導入事例参照)。
(3)ローカル規制対応
各国の法規制やガイドラインによって、提供できるソリューションに制約が生じることがある。例えばインドネシアでは個人情報を国外に保存することが禁じられており、利用できるAIモデルに制限が生じた事例がある。アビームコンサルティングではGPTのようなファーストオプションとなる生成AIモデルに加えて、OSSモデルの調査も進めており、業務要件にあったモデルの選択が可能である。
(4)多言語対応
東南アジアでは複数言語への対応がシステム要件となることが多く、各言語で回答の妥当性や精度を評価する必要がある。生成AIシステムの開発では、回答の精度を評価し精度改善するプロセスが必須であり、できる限り各言語のネイティブ話者を巻き込み、正しく回答の妥当性を評価することが重要である。
また、複数言語のドキュメントが存在する場合、ナレッジベース※の構築をどの言語で行うか検討が必要である。入出力時点で主言語に統一して出力する方法や、ナレッジベース自体を言語ごとに用意するといった方法が考えられるが、業務要件やデータの特徴に合わせて最適な手法を選択する必要がある。
加えて、対象言語によっては、そもそも生成AIモデルが対象言語に対応していない場合もあり、特定言語に特化した生成AIモデルが必要になることもある。
※ ナレッジベース : 生成AIが企業独自の情報をもとに回答を生成できるよう、参照情報をまとめたデータベースのこと
ここまで述べたように、生成AIはこれまで機械での代替は難しいと考えられていた、多様な業務に対して適用できる可能性がある。その一方で、導入にあたっては、業務知見、生成AI、インフラなど多様な専門性が必要であり、単純に既存のサービスを導入するだけでは、効率化に繋がらないケースも多い。アビームコンサルティングは金融業界に対する深い業務知見と、生成AIやクラウドに関する技術力を組み合わせ、生成AIによる業務課題解決を推進している。