沖縄科学技術大学院大学(OIST)

沖縄科学技術大学院大学(OIST)

Customer Profile

会社名
沖縄科学技術大学院大学(OIST)
所在地
沖縄県国頭郡恩納村字谷茶1919-1
事業内容
5年一貫制の博士課程を置く大学院大学。教員と学生の半数以上を外国人とし、教育と研究は全て英語で行う。 59の研究ユニット(2017年8月現在)。

※会社名、肩書き、役職等は取材時のものです。

世界の科学技術の発展と沖縄の自立的発展への寄与を目指す大学院大学の経営基盤を構築。
財務会計と人事管理におけるビジネスプロセスの改革により、効率化とガバナンス強化を実現

様々なバックグラウンドを持つ多様な人材により世界最高水準の教育と研究を行う沖縄科学技術大学院大学(OIST)。大学のさらなる発展・グローバル化を目指し、より透明性が高く・効率的な業務の遂行を可能にするためアビームコンサルティングの支援のもと、財務会計と人事領域にSAP ERPを導入した。
導入プロジェクトには、グローバル標準の大学組織とOIST固有事情による様々なチャレンジがあったが、アビームは国内外のプロジェクト経験を活かし、計画通り完了させた。2つのシステムは順調に稼動しており、その成果の上にOISTではさらなる発展を推し進める構えだ。

プロジェクト概要

課題

  • 大学に求められる予算執行基準に則った財務会計プロセスと効率的な業務運用の両立
  • 煩雑な承認プロセスや、複数システムにまたがる非効率な仕組み
  • 日本発のグローバル標準の大学組織という特別な環境への対応

ソリューション

  • SAP ERPの導入・実装ノウハウ
  • 公共分野における業務プロセス・システム構築に関する知見と変革実現力
  • 多様な人材を巻き込むプロジェクトマネジメント力

成功のポイント

  • 財務会計・人事業務の見直しとシステム統合によりガバナンスの向上と透明性の高い業務プロセスを確立
  • SAP Fioriを活用し、ユーザーが利用しやすいシンプルなユーザーエクスペリエンスを実現
  • 拡張性を備えた多言語対応のERP基盤を構築

Story

ティム・ダイス 氏

チャレンジの多いプロジェクトでしたが、アビームコンサルティングが課題や認識の違いを正面から受け止め、食らいつくように積極的に取り組んだことがよい結果を生んだと思います

沖縄科学技術大学院大学
最高情報責任者
ティム・ダイス 氏

Story

プロジェクトの背景

大学のさらなる発展を目指しビジネスプロセスを再定義
財務会計と人事業務を支える経営基盤を短期間で刷新

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)は2011年に設立された5年一貫制の博士課程を置く大学院大学だ。国際的に卓越した科学技術に関する教育及び研究により、 沖縄県の自立的発展と世界の科学技術の向上に寄与することを目的としている。その基本コンセプトは、世界最高水準、柔軟性、国際性、世界的連携、産学連携、の5つだ。大学院大学の公用語は科学雑誌や国際会議で使われる英語、学生と教員の半数以上は外国人である。また、分野の壁を越えた共同研究や交流が推奨されていることは、単一の研究科・専攻のみを設けた博士課程プログラムやキャンパスの設計にも表れている。さらに、1名の教員に対して3名の学生という比率のもと、学生はトップクラスの教員による懇切な指導のもとで博士号取得を目指しているのも特色だ。国からの財政支援を受けながら、革新的な取り組みでイニシアチブをとるべく、自主性と運営の柔軟性が確保されている。
 OISTは設立以来6年余り、非常に速いスピードで成長してきた。その中で、情報システムは領域ごとに個別に構築され、利用される状況になっていた。さらなる国際競争力の強化を目指し拡大を進めるOISTにとって、より相応しい業務プロセス・システムの構築が急務との判断から、大きく3つのフェーズにより改革を進めることを決定した。1つ目が財務会計と人事の領域におけるビジネスプロセスのレビュー、2つ目が財務会計システムの再構築、3つ目が人事システムの再構築である。「急速に成長するOISTのスピードに適い、効率的に利用できるシステムを作りたいと考えました。当時のトップであったジョナサン・ドーファン前学長と話し合う中で、システムだけではなく、ビジネスプロセスや運営の仕方も考え直す必要があるという結論に至りました。そうした観点から、ビジネスプロセスのレビューを行い、それにもとづいて詳細な仕様書を作成、システムを一から作り直すことにしたのです」と、沖縄科学技術大学院大学 最高情報責任者 ティム・ダイス氏は語る。
 OISTでは、2014年度に第1フェーズとして、ビジネスプロセスをすべて洗い出し、As IsのプロセスとTo Beのプロセスをドキュメント化。2015年度に第2フェーズとして、財務会計システムの導入と関連ビジネスプロセスの変革を行い、2016年度に第3フェーズとして、人事システムの導入と関連ビジネスプロセスを変革することにした。

Story

アビームの選定理由

SAP ERPの標準プロセスとOIST固有の要件
最適なプロセスとシステムを構築するために尽力

 OISTでは、2つのシステムの再構築にあたって、フェーズ1で洗いだしたビジネスプロセスに基づいて詳細な仕様書を策定、製品と担当ベンダーをセットにして、入札を行った。その際に最も重視したのが、OISTの公用語が英語であるため、英語でも使えるグローバル対応のパッケージであることだった。また、提案するパッケージの導入実績はもちろん、日本の法制度への理解、海外大学における導入実績、OISTの将来的な拡大および業務拡張に対応する順応力といった点も欠かせない要件であった。
 入札の結果、SAP ERPを提案したアビームコンサルティングが、評価点数が最も高く、導入ベンダーとして選ばれた。「企業にERPパッケージを導入する場合には、業務を標準化して、パッケージが備えているビジネスプロセスに業務を合わせるのが普通です。OISTでも当初はそのアプローチで、カスタマイズやアドオンをできるだけ少なくしようとしました。しかし実際にはOISTならではの固有業務が多く、とても困難でした」と、沖縄科学技術大学院大学 ITディビジョン・エンタープライズアプリケーションマネージャー 太田 由香里 氏は語る。例えば経費を精算する場合、企業では、自身で申請や精算業務を行うセルフサービス形式が主流だ。しかしOISTでは、研究者や教員が研究に専念できるようそれぞれの研究ユニットに事務処理を行う研究サポートスタッフがいるため、財務部以外にも経理機能の配置が必要だ。また、学校法人であるOISTでは企業会計基準とは異なり、より透明性の高い厳格な予算執行管理を求められる。さらに、手続きや事務処理はできるだけ省略して研究に専念したい研究者と、規則に沿った手続きや予算管理を徹底する職員の間で、経理処理への立場の違いによるギャップが浮き彫りとなっていた。
 このようなケースでは、ERPパッケージが持つビジネスプロセス及び標準の機能とOISTが持つ固有の機能のギャップをどのように埋めていくか——これがプロジェクト全体に通底する、一貫した課題であった。アビームコンサルティングのCM(Change Management)チームは、そうした課題に対して個別および全体のコミュニケーション計画を策定し、プロジェクト期間を通して実行した。

 

太田 由香里 氏

アビームコンサルティングのスタッフの懸命な努力の結果、プロジェクトを計画通り完了させることができました。今後も私たちが考えつかないような提案と積極的なリードをして欲しいと思います

沖縄科学技術大学院大学
I Tディビジョン
エンタープライズアプリケーション
マネージャー
太田 由香里 氏

Story

プロジェクトを推進する上での課題

グローバル基準で運営される大学という
特殊性にキャッチアップ、計画通りに完遂

 2015年5月にプロジェクトをスタートさせた財務会計システムは、フィット・アンド・ギャップのギャップが特に大きく、そのために課題も多かった。一般企業における財務会計システムでは、予算と実績の管理は必要でも期中における案件の処理段階ごとの把握は求められない。それに対してOISTでは、予算は国からの補助金で賄われているため、案件別に単年度で予算を確保し、執行される都度、厳格に管理しなければならない。
 「OISTでは、まず使用を目論む段階で、何にいくらかかるのかを合理的かつ詳細に見積もらなくてはなりません。さらに実際に使った金額や用途が当初の計画と少しでも異なれば、その都度訂正処理が必要です。例えば企業では、出張費や会議費を申請する際、申請時点で予算を執行することはあまりなく、出張から帰ってきてから経費を精算するときや、会議が終わってから総額で精算処理をするタイミングで、予算が執行されることが多いと思います。しかしながら本学園では、申請時点で予算が執行されます。物品購入であれば納品されていなくても発注時点で予算を執行します。精算時に申請金額を上回っていた場合や、会議の参加人数が申請と異なる場合は、伝票の修正が必要です。このような処理を通常の企業の会計処理と同じように実行しようとすると、ギャップが生まれるのです」(太田氏)。それを解決するためにアドオンを行おうとするが、アドオンは最小限に抑えるという方針があるため、どこまでアドオンを許容するのか、現実的で経済的なワークアラウンドは何か、例外処理として残すのかという問題が生じた。また、レビュー結果にもとづくビジネスプロセスを実際の業務やシステムでどう実現するかにも壁があった。レビューと実際にシステムを実装しようとする際のズレの解決のために、プロジェクト全体で粘り強い取り組みを進めていった。
 加えてOISTは、他の大学と比べてユニークな組織構成で、教員の半分は外国人、学長も外国人、エグゼクティブも半分は外国人だ。そのため、プロジェクトマネジメントもグローバルスタンダードであるうえに大学組織という要素が加わった、特別なやり方が求められる。「例えば、日本では問題が発生した時にもすぐにエグゼクティブに諮らず、現場で解決のために懸命に取り組むケースが少なくありません。それに対して、OISTでは、問題が生じたらすぐに上長にエスカレーションする必要がある。ステアリングコミッティー内のオーナーは副学長で、問題がある場合には『早く判断してください』と副学長にプッシュしなければいけないのです」(ダイス氏)。アビームコンサルティングは海外での民間企業のプロジェクト経験はあるものの、外国人が大半を占める大学組織でのプロジェクトの経験は多くなかった。そのため、開発当初はプロジェクトマネジメントにおいて従来以上の認識合わせを要したが、プロジェクトが進むにつれてこの課題は徐々に解決していき、最終的にはプロジェクトをスムーズに進めることができた。
 こうした財務会計システムでの1年間の経験がベースになって、2016年4月に開始した人事システム・プロジェクトでは、課題の出し方や確認の仕方、プレゼンテーションおよび議論の進め方なども含めて、OISTのスタイルに沿う形で、効率的にステアリングコミッティーを運営することができるようになった。

Story

導入効果と今後の展望

財務会計、人事ともシステムは順調に稼動
予算執行における統制や透明性の向上を実現

 財務会計システムは、2017年度の予算配賦に間に合わせるために、2016年1月にカットオーバーした。OISTでは馴染みのないSAPの導入であると同時に、インフラの調達から、運用定義やトレーニングまでを含めて、通常は1年で行うところ8か月間という非常に短期でのプロジェクトであったが、大きなトラブルもなく稼動することができた。2016年4月からスタートした人事システム・プロジェクトは、勤怠管理が2017年2月、給与とその他が2017年3月に稼動した。「日本の大学や企業と全く違う形でのERP導入は、大変チャレンジングなプロジェクトでした。OISTは設立から間もない若い大学で、変化に合わせてビジネスプロセスも柔軟に変えていかなければなりません。とはいえ、まずはこのプロジェクトを計画通り完了させることができ、システムも順調に稼動していることは大変よかったと思います」(ダイス氏)。2つのシステムとも、ユーザーは入力者、申請者、承認者に分かれている。SAPアプリケーションのユーザーエクスペリエンス(UX)のパーソナライズ化とシンプル化を実現するSAP Fioriを使い、画面をWeb化。またモバイル対応も取り入れて24時間どこでも承認できる環境を実現したことで、特に承認者には「シンプルで非常に使いやすい」と好評だ。
 「以前のシステムは自由度が高く、権限管理はシンプルでした。それゆえ、悪意を持って使おうと思えば、不正操作ができてしまう隙間がありました。しかし現在は、権限を厳密に設定・管理し、詳細なログも取れるようになり、不正が入り込む余地はありません」(太田氏)。特に財務会計システムでは、例外処理が非常に多いものの、権限で設定した範囲のデータしかアクセスできないため、勝手な操作はできないようになっている。予め設定した権限以外の業務処理が必要になった場合、ユーザーはまずITディビジョンに連絡し、対応方法の検討を開始するというプロセスも確立できた。ITディビジョンでは、ユーザーの声や部門の要望をもとに機能改修や、あるいは改修せずとも可能な方法を検討し解決にあたる。これによって、予算執行に対する統制や透明性のより一層の向上が実現した。

図1 財務・会計システム導入スケジュール 図2 人事システム導入スケジュール

ビジネスプロセス全体の青写真を描き、
必要なシステムの導入やインテグレーションを図る

 OISTでは、今回導入した財務会計システムと人事システムをベースに、現在手作業で行っている業務のシステム化や、すでに導入されているシステムの向上を推し進めていく考えだ。大学設立から日が浅いので、未整理な部分もあり、ビジネスプロセス全体のグランドデザインを描くのもこれからだ。そこでグランドデザインを描いたうえで、個別に稼動しているシステムのインテグレーションやリプレイス、BIなど必要なシステム導入の検討や計画を立てていく。
 「これからもOISTは、加速度的に規模や領域を拡大していきます。いったんビジネスプロセスに合わないシステムを入れてしまうと、その切り替えには多大の費用がかかり、自由度が損なわれてしまいます。一方、システム導入の際に、ビジネスプロセスをきちんと設計して、妥当性のある予算でシステムを入れれば、その後システムを入れ替える必要もありませんし、運用費用も少なくて済みます」(ダイス氏)。そうした観点に立って、OISTでは今後ビジネスプロセスの変革とそれを支えるシステムの導入を図っていく計画だ。

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