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事業開発をドライブさせる仮説検証
~カギは営業活動~

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2022年8月29日

事業開発をドライブさせる仮説検証 ~カギは営業活動~

進まない仮説検証

 新規事業開発において、事業コンセプトやビジネスモデルの初期仮説を創るところから始めるアプローチは一般的と言えます。多くの企業でも、エスノグラフィー(行動観察調査)やアイディエーションプログラム(アイディアを出し合い、精査するプロセスを学ぶプログラム)を通じ、どのようなビジネスを展開すべきか、そのビジネスモデルはどのようなものか、といった仮説構築を事業開発の検討の起点としていることでしょう。
 しかし、そうして構築された仮説は、多くの場合、デスクトップリサーチを通じて得られた情報をもとにしたものであったり、あるいは事業開発の担当者の個人的な経験/想いを起点としたものであったりすることがあります。検討起点としては非常に重要なのですが、新規事業で狙っていく不確実性の高い、もしくは自社にとって馴染みの低いマーケット/顧客の実態を捉えられた仮説になっていない可能性が高いことに留意する必要があります。
 つまり、初期仮説としてのビジネスモデルやコンセプトが妥当かどうか、検証/再構築を繰り返し、時には自己否定をしながらアップデートし、精度を高めていく必要があるということです。そして、その重要性は多くの方が認識しているはずであるにも関わらず、実態としてはそうなっていないケースが散見されます。
 例えば、図1の①アイディアの“種”発掘や②ビジネス案作成といった初期仮説の段階から多くの情報を時間をかけて収集し、完成度の高いものを仕上げようとする試みや、そうしてこだわって創った初期仮説を棄却しきれずに、それを「正」として図の③以降のステップも進めてしまう、といったことがあります。そうした場合、マーケット/顧客の実態と乖離したビジネス、まさに「絵に描いた餅」となってしまうことはご想像に難くありません。仮説を過大に重視するからこそ、仮説検証や以降の事業開発が推進できない、と言えます。

図1 事業会社の新規事業検討プロセス(例)

図1 事業会社の新規事業検討プロセス(例)

 

仮説検証のキードライバーとしての「営業機能」

 事業開発フェーズがある程度進み、初期仮説も粗方できあがり、事業計画化していくにあたっては、その仮説の確からしさを検証・ブラッシュアップしていく必要があります。そのためには、想定顧客に対する調査やそのためのPoC(実証実験)を推進していくことが求められます。
 ただし、先述のように、その調査はデスクトップリサーチや一般的な定量調査では、自社が新たに創造するマーケットや今まで接してきていない顧客の真の課題を捉えきれません。そのため、具体的な想定顧客にとって、仮説としてのVP(Value Proposition:提供価値)やサービスモデル、その根拠となる顧客が持っていると思われる切実な悩み(ペインポイント)が、自身の体験や現場感をもって語れるような「手触り感」のあるものかどうかを確かめていかなければなりません。
 加えて、仮説の確からしさを検証するだけでなく、さらに事業化以降の後続フェーズを見据え、どのような顧客に拡販できそうか、その顧客は具体的にどういったセグメント(業種や規模、心理など)なのか、といったところまでイメージを持っておくことも重要なポイントとなってきます。つまり、新規事業推進にあたっては、初期的な想定顧客だけでは不十分であるとも言えます。
 そういった初期仮説の確からしさの検証及び拡販対象の顧客特定に向けて重要となってくるのが「営業機能」です。これは、初期的な想定顧客に対し、実際に足を運んで密にコミュニケーションを図り、ビジネスモデルやサービスモデルをブラッシュアップすべく、顧客を組み込んでいくアプローチです。初期的に仮説として立てた顧客課題も、顧客との対話を経て洞察を深めることで変化が生じます。表面的に「困ってそう」と思うことも、芯を辿れば別の根本課題(顧客ジョブ)に行き着くことはよくあります。
 例えば、よく言われる事例として、ファストフードチェーンのミルクシェイクの話があります。ミルクシェイクの売上を伸ばすべく、顧客アンケートを実施し、要望に応えてフレーバーなどを追加したものの成果が芳しくなかったため、来店客の行動をつぶさに観察した結果、ミルクシェイクを買っている顧客にはドライバーが多く、「長い運転時間中に退屈しのぎになる」ために買っている、ということがわかった、というものです※1。このように、表面的には見えていない顧客課題を発掘し、VPをブラッシュアップしていくためには、何より顧客に直に接する機会を作ることが大切です。
 また、そうして顧客課題を突きとめることで、今接している顧客以外にどのような顧客が同様の課題を有しているか?という拡販対象にも焦点が定まっていきます。上記のミルクシェイクの例に即して言えば、ドライバーのように「長時間の作業で手持ち無沙汰になっている」ことの多いセグメントは同様の課題を持っており、ミルクシェイクの価値が受容される可能性が高い、といったように、拡がりがイメージできます。
 ここから言えることは、机上の仮説の精度を高めることに時間や労力を割くのではなく、初期的に創る仮説はあくまでも「仮説」としてラフなものに留め、顧客の元へ足繁く通うことで(=営業機能を通じて)ビジネスモデルやサービスモデルの価値を向上させることが可能、ということです。
 また、このアプローチで重要なのは、「クイック&ダーティ(粗くても良いから素早く)」に仮説構築・検証をしていくことです。冒頭で述べたように、仮説構築やその資料化に力点を置くことは重要ではあるものの、仮説はあくまでも仮説であって完璧にはならない、と念頭に置いたうえで、顧客からのフィードバックとそれによるブラッシュアップを前提に、営業アクションに早々につなげていくことが事業開発をドライブさせていくことになります。

営業機能の補完 ~パートナーレバレッジの有効活用~

 ここまで、事業開発における仮説検証の重要性、そしてそのための営業機能の有用性を説明しましたが、事業開発チームにはリソースが十分備わっていないこともよくあります。既存事業側に人員が偏重していたり、一人が複数の役割を担っていたりと、新規事業開発の営業活動・仮説検証にリソースを割けないこともままあります。
 特に、想定顧客に対して仮説の確からしさを検証する場合や、拡販先となりうるセグメントにも手を広げて調査するにあたっては、数社にアプローチするだけでは不十分で、相応のN数が求められるため、限られたリソースで営業機能を担保することが困難です。
 そうした場合、自社外のリソースを有効活用し、営業機能を補完していくことも検討できます。例えば、以下のような社外パートナーを活用することで、不足リソースの補完と自社にはない視点の獲得の両立を図ることも可能です。
  • チャネルの有効活用
    • 新たに開拓しようとしているマーケット/顧客は、自社では接点がないことも多いですが、普段取引のあるチャネル(ディストリビュータなど)は他業種とも取引のある場合があります。そういった自社にはないパイプを持つチャネルに顧客接点を補完してもらうことも有効です。
    • 同時に、新たなサービスの販路として当該のチャネルを利用する場合、ビジネスモデルとしてそのチャネルが有効かどうかの検証も兼ねることが可能です。
  • 外部専門家(コンサルティングファームなど)の有効活用
    • チャネルと同様、自社にはない顧客接点の調達や、外部の視点で気づかなかった観点を補強することが可能です。
    • アビームコンサルティングでは様々な業種の新規事業開発に関する検討や実行支援を通じた多様なナレッジもあるため、ビジネスモデル仮説の構築方法や検証方法といった推進そのものに関わる有用な示唆を得られることもメリットです。
    • 我々が関わったプロジェクトでも、新規プロダクトを実際に想定顧客のもとに持ち出し、トライアルしてもらうことで反応やフィードバックを引き出すような支援を行いました。まさにクライアント側で不足する営業リソースを補完しつつ、顧客に対する検証やエバンジェリスト化を推進したアクションをロールとして担った事例となります。

 このように、自社外に目を向けることで、営業機能の補完や仮説構築・検証に向けた副次的な効果を得ることができますが、「機能」として無機質に組み込むだけではうまく働かない可能性があることにも留意が必要です。これまでお伝えしたように、顧客に対して直に検証を行うことは大事ですが、大事だからこそ、検証したい仮説としてのビジネスモデルやサービスモデル、その価値をパートナーに理解・納得してもらったうえで検証しなければ、ピントのズレた仮説検証になってしまうことも危惧されます。そのため、可能な限り初期仮説を構築する段階からパートナーを巻き込むことで、認識の齟齬を回避しつつ、検証パートナーとして成立させるための取り組みが重要となってきます。

 アビームコンサルティングは新規事業開発やその際の仮説構築・検証(顧客インタビューやPoCなど)に関する多くの経験や幅広い知見を活かし、これまで述べてきたような事業開発をドライブさせるアクションに繋げるためのご支援が可能です。また、単一の「補完機能」ではなく、ビジネスモデルに共感し、それを成立させる「パートナー」としてクライアントに伴走いたします。
 事業開発における推進力にお悩みの方は、一度お問い合わせください。
 
※1 クレイトン・M・クリステンセン(2017) 『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ノンフィクション)より引用

戦略ビジネスユニット シニアマネージャー

河野 三四郎