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技術起点の新規事業開発における5つの誤解とその解決策

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2022年1月5日

技術起点の新規事業開発における5つの誤解とその解決策

R&D部門が始める新規事業開発における誤解

 日々多くのクライアント企業から様々なご相談を頂く中で、R&D(研究開発)部門から新規事業推進についての相談を受けることがあります。そうした中で感じるのは、多くの企業は多額の資本を投下して研究開発を進めており、総じて高い技術力をもっているということです。しかし、自社が保有する技術力を次なる成長の推進力に変えられていない、という課題感が共通しています。

 こうしたケースでは、高い技術力があるがゆえに技術をいかに製品や機能に盛り込むかといった供給者側の議論に終始してしまい、顧客側の視点が欠けてしまっているのが現実です。その背景として、R&D部門の方が下記のような誤解を持っているケースが多くみられます。

① 圧倒的な技術力/製品の強みがあれば必ず成功する
② 技術の粋を集めたのだから、高額でも売れるはず
③ Nice to Have(あったらいいな)を形にすれば受け入れられる
④ 事業成功において(多少誇大広告気味でも)注目度を高めることが何よりも重要
⑤ 一つの道(当初の計画や考え方)を愚直に突き詰める(継続すること)ことが成功への近道

R&D部門が始める新規事業開発における誤解


当社が分析した範囲では、例えば、技術起点の誤解の事例としては、①の技術を優先しすぎてその他の要素(デザインなど)がおざなりになってしまったと見られるケースや、代替品の台頭によって付加価値が薄れてしまうケース、➁の事例のように顧客にとって高すぎると感じる値付けをしてしまうケースが挙げられます。いずれも自社の圧倒的な技術があれば成功すると誤解し、事業として成立させることができなかった事例と言えるでしょう。

 また顧客のニーズに応えるために技術を活用しようとする際に起こりがちなのが③や④の誤解です。➂の事例はそれぞれ一定の顧客のニーズを捉えていたものの、それぞれの商品やサービスは顧客にとって「Must have(ないとだめ)」ではなく「Nice to have(あったらいいな)」であり、期待した販売は実現できなかったと考えられるケースです。また④の事例では、消費者に自社が実現できることよりも大きな期待を抱かせてしまい、市場から淘汰されてしまいました。

 誤解が生じやすい理由としては、多くの企業でこれまで継続的な研究開発の取り組みが事業の競争優位性を支えてきたことから、成功体験に縛られやすいという点が挙げられます。本来は、事業において対象技術が持つ優位性(特許や相対的な強みではなく、本来持っている「価値の源泉」)に着目し、その技術をどのように生かし、提供価値に変換していくかに焦点を当てるべきです。その提供価値をいかに発掘していくかについては、これから詳しく述べていきます。  

技術力を「価値がある」と判断するのはあくまで顧客

 優れた技術が商品化され製品として市場に広まるというのは、一つの成功パターンです。これまではそうした成功パターンが製造業を支えてきました。しかし、先行きが不透明なVUCA時代と言われる昨今、既存の事業ドメインに限定した事業開発や成長戦略の検討は難しくなっています。例えば、製造業でもサービス業への参入を模索したり、観光業でもデータ販売業をしたりと、これまでの事業形態を大きく変えることも議論する必要が出てきています。技術力の高さを示すことの言い回しとして、「○○においてNo.1」という順位(優位性)を示す表現が用いられますが、言い換えると、市場には同じ技術で戦うNo.2以降の企業が存在するということであり、唯一性を訴求するメッセージとしては弱くなってしまいます。一見自社に技術力がありそうに思えたとしても、提供する機能に対して消費者が必要性を十分に感じられない場合には、当然ながら、期待する結果を得ることは難しいでしょう。

 ⑤の新技術にいち早く投資をしていた事例や決済手段リコメンドサービスを提供していた事例では、自社の技術力に価値があり、その道を突き詰めることこそ成功への近道であると誤解し、市場選択を誤ってしまったと言えるでしょう。市場のニーズを軽視し、自社技術が最も生きるきる領域での商品/サービス開発に腐心したことで、事業の方向転換が遅れてしまったのです。

 重要なのは、技術力を生かして特定の「顧客のジョブ」を解決するために、保有している技術力を提供価値に変えることです。なぜなら、顧客は「自分のジョブ」を解決できない限りは、その製品やサービスの利用を選択せず、別の方法での解決方法を探ることになるからです。

※顧客には解決したいジョブ(課題)があり、その解決のためにサービスを雇用するという、ジョブ理論の中で提唱されている概念。『イノベーションのジレンマ』などの著者で知られるハーバード・ビジネススクールのクリントン・クリステンセン氏らが発表。

技術力を生かした新規事業開発には顧客接点の確保が重要

「いかに顧客視点を持てるか」が事業の成否を左右する一方で、多くの企業のR&D部門は顧客との接点を持つことができていません。顧客との対話を持たずに新規事業開発を進めると、供給者目線の強い事業になってしまい、コストをかけてプロトタイプや製品を作っても、失敗することが多くなります。

 技術力を事業の推進力(稼ぐ力)に変換するためには、対象技術を顧客が抱えているジョブの解決に結び付けることが必要です。特に、事業開発におけるコンセプト創造や事業仮説の検証は、兎にも角にも顧客の視点や市場からのフィードバックを踏まえて進めることが定石です。

技術力を生かした新規事業開発には顧客接点の確保が重要


 技術力を生かした事業開発を成功させるには、そうした検証を内部的なプロセスとしていかに取り込むかがカギになります。具体的には、顧客接点を持つため、営業部門を検討チームに巻き込み、既存の取引先へヒアリングを行うことなどが有効な手段として考えられます。また、外部の知見者などへのインタビューの実施や外部アドバイザーをチームへ招聘するといったことも、客観性を持った検討を進める上でも効果的です。

 顧客接点を活かした仮説の検証によって、事業として成立し得る提供価値かどうかを見極めることができます。そして、多面的な活動を通じてより多くの顧客の声を集め、現状の仮説を磨き込んでいくことで、事業の構築や拡大が成功に近づきます。

技術力の活用は新規事業開発の起点になりうる

 R&D部門の方々からの相談を受ける中で意外だったのは、とある技術を説明いただく際に具体的な実装された際の機能を例示していただくことが多く、技術に精通していなくてもユースケースをイメージできる反面、技術そのものの独自性が失われて見えてしまう点です。R&D部門の方々としては良かれと思い、こうした技術を機能へ変換した説明を行っているようですが、事業開発の検討では逆効果となるケースがあります。なぜならば、技術力を特定の機能と読み替えて、その機能で解決できることが○○です、というような「Nice to Have」を実現するための技術という見せ方になり、技術が本来持つ価値を活かしきれなくなってしまうためです。

 これを回避し、技術力を新たな競争力として正しく捉えるためには、R&D部門の方に詳細なヒアリングをする必要があります。例えば、APIなどで活用が広まっている画像解析一つ取っても、静止画像の見分けが得意なのか、動画における挙動の特徴を捉えるのが得意なのかなど、その背景にある技術の強みはそれぞれ異なります。対象技術がどういった分野や状況において力を発揮し、どういった状況では特徴が出ないのかを様々な角度からヒアリングし、技術の独自性や優位性を多面的に捉え、根源的な要素を抜き出していきます。そうして対象技術が持っている「価値の源泉(特定文脈、環境下で唯一性を発揮する)」を特定することにより、技術がどのような事業に活用できるか、視野を広げて検討することができるようになります。価値の源泉については、別のコラムで詳しくご紹介します。

 企業がこれまでどのような研究を行い、知見を蓄積してきたかによって、対象技術にどのような「価値の源泉」があるかは異なりますが、それらを事業に繋げていくアプローチには共通する部分が多く存在します。強い技術力がありながら、事業開発に生かしきれてないという企業のご担当者は、是非一度ご相談ください。新しい観点で自社の技術力を認識するための支援をさせて頂きます。

戦略ビジネスユニット BizDev Mentor

菅原 裕亮