物流の2024年問題の先を見据えた物流戦略

2024年2月2日

物流業界は、「2024年問題」という大きな壁に直面している。これは単なる法改正という一過性の問題ではなく、人手不足という日本社会全体の長期的な問題も含意している。昨今の複雑性を増すサプライチェーン環境にも適応でき、柔軟で機敏性のある物流基盤とは何か。将来の物流戦略の構想から、物流センターの拠点配置や庫内オペレーションなどの現場改善まで、物流基盤の強化の必要性について考察する。

(本稿は2023年11月22日株式会社YEデジタル主催オンラインセミナー「物流の未来予想図」での当社講演「持続可能なサプライチェーンを構築するための物流戦略」をもとに再構成しています。)

目次

サプライチェーンの現状からみる物流基盤強化の必要性

2024年4月よりトラックドライバーの時間外労働時間に年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用される。これに伴い「欲しい時に物を仕入れ、作り、届ける」という、これまでの当たり前が覆される。欲しい時に物が来ないことは売上機会の損失にもつながり、そのリスクを抑制するため在庫の積み増し、ドライバー採用費への多額の投入など、事業に与える影響は非常に大きい。
現在、新たな規制対象となる960時間を超えている割合は、トラックドライバーで約3割であり、規制発動により輸送能力で約14%(4億トン相当※1)不足する可能性があるとされている。具体的にいうと、現在1日1便で運べる距離750km(およそ広島―東京間)が今後500km(およそ大阪―東京間)に削減され、時間換算すると約4.5時間※2の運転時間が減ることになる。これにより、長距離輸送の人員確保やこの4.5時間をどう補うかが2024年以降の重要課題である。また、人手不足に起因して「2024年問題」が叫ばれているが、2024年が過ぎ去れば人手不足が解決するわけではない。国立社会保障・人口問題研究所の発表によると、2050年の日本の人口は1億468万人で、2020年度の1億2,614万人から17%減少するとの予測が公開されており、さらに深刻化していくのは明確である。
さらに、サプライチェーンを取り巻く環境は幅広く、適応しなければならない課題や問題が山積しているが、今は多くのシーンで現場作業者の努力や善意でなんとか耐え凌いでいるというのが現状である。2024年と差し迫った期限感に焦り、場当たり的な対処に終始するのではなく、複雑性を増すサプライチェーン環境にも適応できる確固たる物流基盤の検討が求められている。

  • 1 引用:国土交通省「物流の2024年問題について」
    2 現行長距離輸送(平均):実働16.5時間(休憩除く)≒輸送可能距離750kmで算出

解決へのアプローチ方法とは

では、これらの問題を解決するには、どうすればよいのか。大きく分けて、「物の流れと物量をコントロールする」と「人を確保する」の2つのアプローチがある。
「物の流れと物量コントロール」を紐解くと、4つの要素(①つなげる、②縮める、➂緩める、④伸ばす)に分解できる。
まず1つ目の「つなげる」は、幹線物流を現状のトラックから鉄道や船舶などの輸送手段へ転換するモーダルシフトである。また、他社との共同輸送へ転換することも検討できる。
2つ目は輸送距離を「縮める」ことである。供給先近くに生産拠点を配置することで輸送距離そのものを短縮できる。また、この配置により地産地消化の取り組みや地域活性化にもつながる。
3つ目はサービスレベルを「緩める」ことである。これには発荷主、着荷主の理解と協力が必要になるが、納入頻度やルート指定を見直すことで、トラック輸送をうまくコントロールできるようになる。
最後の4つ目は輸送時間を「伸ばす」ことである。現状では物流センター内でのトラックの荷待ち時間が多く占められており、この時間を削減することで、本来のトラックの輸送時間を伸ばすことができるのだ。
これら4つのアプローチがうまくコントロールできれば、間接的に労働環境(賃金アップ、労働時間削減、働きがい向上、ダイバーシティなど)が整ってくると考えられ、もうひとつのアプローチである「人を確保する」につながってくる。これらの解決には、生産・販売等の物流領域以外も含めたサプライチェーン全体最適視点でのサプライチェーンネットワークの再構築、また、物流センター運営最適化といった具体策を検討する必要がある。(図1)

 

図1 解決アプローチ策の4つの要素と具体策

図1 解決アプローチ策の4つの要素と具体策

サプライチェーンネットワーク全体の最適化

サプライチェーンネットワーク全体の最適化を検討するうえで重要になるのは、物流部門に閉じず各領域のデータを相互活用し、施策を検討することである。しかし、人手で各領域のデータを集約、分析、解答を導き出すのは困難である。そのため、デジタルツイン上にシミュレーションできるシステム基盤を整備し、仮想サプライチェーンを再現することで、膨大なパターンから最適解を導き出すことを推奨する。
例えば、物流効率を考慮した中継拠点の配置や最適な輸配送ルートの設計、輸送手段の変更を考慮した在庫配置、生産と物流の両方の効率を考慮した生産拠点の配置、そしてサービスレベル調整とコスト効果の分析などについて、what if(もしこうだったらどうなるのか)の観点をインプットすれば、最適化エンジンが条件に基づいて最適解を導いてくれるのだ。(図2)

 

図2 サプライチェーンネットワーク最適化

図2 サプライチェーンネットワーク最適化

ここで一つ事例を紹介する。ある企業で最適な拠点配置と温度帯混載輸送の推進を支援した。需要の頭打ちに対する過剰な物流体制の見直しと物流特性を踏まえた分析・企画の属人化の解消が課題として顕在化しており、これらを解決するために、ネットワーク最適化による拠点要件の検証(拠点数、立地、機能(温度帯の統合/分散)と、配送シュミュレーションによる実現性の検証を行った。これにより、想定される全シナリオ(拠点数×立地×機能)から、配送費10%、車両台数9%削減、拠点固定費においては20%の削減が可能なコスト最小の物流モデルを特定した。

物流センター運営最適化

「2024年問題」ではトラックドライバーの人手不足にフォーカスされがちだが、物流センター内でも慢性的な人手不足が続いている。さらに、取り巻く環境(災害・疫病、労働力確保の競争激化、物流負荷の高まりなど)が大きく変化していることを考慮すると、物流センターのデジタル化・省人化・自動化の推進は避けられない。従来のリソースに頼り、目先の業務を乗り切る短期視点の運営から脱却し、今後起こりうる環境変化への適用を検討する必要がある。

先に、物流センター内でのトラックの荷待ち時間が多く占めていると述べたが、荷待ち時間の短縮にはデジタルを活用していくのが近道だ。
例えば、TMS(輸配送管理システム)でトラックの入構時間を管理、コントロールすることで、バース(物流センターでトラックが接車し、荷物の積み下ろしをする場所)へのスムーズな誘導が可能になる。また、トラック接車後の時間を短縮することも重要になる。庫内の作業進捗や作業者リソースを加味した、現場作業者への的確な配置指示(何人・誰を・どこに)を行うことで、接車後すぐに入荷荷捌き等の作業を行える庫内オペレーションの実現が可能となる。このようにトラック入構予定や庫内の作業進捗・作業者リソースを正しく捉え、オペレーションに活かすことで、トラックの構内滞留時間の短縮が実現できる。
考慮が必要なのは、自動化が推進されると庫内オペレーションの難易度は上がるという点だ。柔軟性が高い人中心のオペレーションから自動化が推進され、各工程に人と自動化設備が共存すると現場のオペレーションコントロールは複雑性が増し、現場を正しく捉えることが難しくなる。
そこで、リソース・モノ・プロセスを統合管理する倉庫実行システム(WES)をシステム基盤として活用し、物流センター全体の生産性を最大化するオペレーションを実現することが必要となる。
マテハン・ロボットとの接続性の簡易化、また、人を含めたリソースの制御・稼働データ取得によるプロセスとの統合管理が可能な倉庫実行管理システムにより、人やロボット・自動化設備等への現場への最適な指示出しが可能となり、倉庫業務全体の最適化や生産性向上に期待ができる。なお、当社ではWESを活用した物流センターのDX支援を行っており、YEデジタル社の倉庫自動化システム「MMLogiStation」を軸としている。大きな特長として、メーカーの制約がないため自由に設備を選択・追加が可能、また、プラグイン機能を有している為WCSとも簡単に連携できる。

 

図3 庫内情報のデジタル化

図3 庫内情報のデジタル化

最後に、データドリブンな庫内運営を実現するために、2024年春にYEデジタル社と共同開発した意思決定支援ダッシュボード「Analyst-DWC」をリリースする。本ソリューションは庫内稼働状況の可視化・分析により、さまざまな場面における意思決定を加速させることが可能なクラウドダッシュボードである。
WMSなど物流倉庫で使用されているさまざまなシステムと幅広く連携し、倉庫現場における意思決定の手順を標準化した機能を搭載することで物流業務におけるスピーディーな意思決定を促進し、生産性向上を図る。
目前に差し迫っている2024年問題や慢性的な人手不足の解決、今後起こりうる環境変化に柔軟に対応できるような物流基盤の強化をぜひ検討してもらいたい。

アビームコンサルティングは、物流市場における多様な業務変革を支援してきた知見と、デジタル社会における企業・組織のさらなる変革促進に向け様々な企業と協業し、物流全体のDX推進の実現に貢献していく。

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