デジタル時代の財務・経理 -Digital Finance-

IoTやAI、Big Data など、Digitalizationに関するキーワードをメディアで見ない日はない。事実、日本経済新聞では過去1年間で約7,000件の関連記事が掲載されていた(※1)。このようにデジタル化が叫ばれて久しい今、様々なビジネスや業務がデジタル化され、新サービスの提供、業務改革、人的資源の再配置、働き方改革が始まっている。

この動向は、財務・経理業務に関しても例外ではない。「簿記・会計・監査事務員の仕事は、今後10~20年間に98%の確率でコンピュータ技術によって自動化される」(マイケル・A・オズボーン(2013))(※2)や「多くの(全てではない)専門家たちが、彼らほどの能力を持たない人々や、高いパフォーマンスを発揮するシステムに置き換えられる」(リチャード・サスカインド(2017))(※ 3)といった見解に見られるように、本来なら財務・経理業務でもDigitalizationが進むはずである。

だとすれば、専門家たちの仕事はどのような内容にシフトしていくのだろうか。調査(※3)をもとに、デジタル時代の財務・経理、Digital Financeについて考察したい。

  • ※1. 2017/1/1~2017/12/31の日本経済新聞(朝刊・夕刊)での以下のキーワード含むニュースの件数
    (日経テレコンで検索)検索日時 2018年2月20日
    「デジタル化」:240件「人工知能」:2092件「機械学習」:84件「ディープラーニング」:97件「IoT」:1068件「モバイル」:487件「RPA」:22件「クラウド」:813件「ビックデータ」:545件
    「ブロックチェーン」:210件「第4次産業革命」:130件「 働き方改革」:1146件
    「スマートワーク」12件:「テレワーク」103件

    ※2. C.B.Frey & M.A.Osborne(2013)“THE FUTURE OF EMPLOYMENT:HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?”

    ※3. デジタル時代に求められる会計業務のプロセス、CFO組織の人材像、CFO組織のあり方を明らかにする目的で、東証一部上場企業および未上場の有力企業の財務・経理部門宛に郵送アンケート調査を実施した。


Digital TransformationとCFO組織に求められる変革

 

CFO組織はこれまでも、時代の要請に応じて広がる業務範囲や業務の高度化に対して、新たなテクノロジーを活用し、業務の効率化や高度化を推進してきた。
「経理」は「経営を管理する」が語源と言われるとおり、経理機能を中心としたCFO組織は経営の中核として、意思決定者の参謀たる役割を担ってきた。企業の過去と現在の姿を明らかにするために帳簿に向かい、膨大な伝票を処理し、データの正確性検証や集計業務に多大な時間を費やしてきたのである。企業の現状を経理的に明らかにすることは、今後の経営への示唆を得ることや資金調達を行う上で重要な事項であり、CFOに期待される大きな役割の一つであることに異論はないだろう。CFO組織における従来の「IT活用」も、いかに速く適正なコストでその実績把握を行うかを焦点に個々の業務に適用されてきた。

では、「Digital Transformation」とは何なのか。Digital Transformation という言葉を初めて用いたとされる論文『INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE』(※4)では、「IT の浸透が、人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させること」としているが、ここで改めて「デジタル技術」と言われるIT の活用によって企業がどう変化し、社会を変化させることを期待されているのかを確認したい。

『Digital Transformation』は、社内の5 つの変革が結びつくことによって生まれる。


Digital Transformationを実現する企業内の変革

  • ※4. Erik Stolterman, Anna Croon Fors(2004)“INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE”Umea University Information Systems Research Relevant Theory and Informed Practice, IFIP

  • カスタマーリレーションの変革:顧客接点の拡大、顧客要求の獲得
  • 基盤の変革:社内インフラの変化、社内外との高度なつながり、業務改革とコスト構造の変化
  • 情報の変革:顧客要求や社内無形資産のデータ化と分析
  • 意思決定の変革:意思決定ドライバーの変化、データの分析結果に基づくデータドリブンな意思決定
  • ビジネスの変革:顧客要求に応え、企業価値を高めるビジネスモデルの創出

モバイルデバイスの普及とインターネットによるつながりは、顧客の行動情報など、今まで入手が難しかった外部情報を社内にもたらしてくれる。また、プロセスのデジタル化や基盤のクラウド化は、少ないIT コストで業務コストの削減を実現するだけではなく、企業同士をシームレスにつなぎ、圧倒的な量の情報を自動で蓄積。AIをはじめとするデータ分析技術が、蓄積されたこれらの事実に基づいた情報を分析してくれる。ただし、それぞれの変革を個別に行っているだけでは「Digitalization=デジタル情報の活用」の域を出ず、個別業務への「IT活用」と大きな違いはない。デジタル情報の分析結果を企業としての意思決定に反映し、場合によっては、新たな商品やビジネスモデルを創出していくところまで実現することが「Digital Transformation」なのである。

5つの変革を通じて新たな価値を創造していく上でCFO組織が寄与すべきは、「働き方改革」を旗印に社内インフラ の変革を推進し、業務効率化とコスト低減を徹底していくことだけなのだろうか。答えはおそらく否だろう。「CFOとして認識している経営課題」という問いを設けアンケート調査したところ、多くの回答を集めたことが示すのは、CFO組織の効率化はCFOにとって喫緊の大きな課題であり、今後の労働人口減も考慮すると、継続的に効率化を徹底していく必要があるということだ。しかし、現状の業務を効率化し、速く正しく処理するだけでは、新たに得られたデータから意思決定を変え得るような情報を提供することはできず、今後、「経営・CEOの参謀」という役割を充分に果たせなくなると考えられる。CFO組織は、財務情報を扱う機能だけではデジタル時代の経営参謀にはなり得ない。デジタル時代に参謀としてあるためには、経営に有用となる情報を提供する新たな機能を装備しなければならないのである。デジタル時代に突入しつつある今、CFO組織が必要としているのは、効率化を意味する働き方の改革だけでなく、新たな機能を手にする意味での働き方の改革なのである。

調査において、「デジタル技術を適用した後、CFO組織の役割としてより必要となる機能」について回答を求めたところ、「経営への情報提供・CEO参謀機能」に6 割以上の支持が集まったのは、以前からCEOの参謀としての役割を担ってきたCFOは、今後もその機能を果たすべきとの認識があることの証だろう。では、デジタル時代のCFO組織は具体的にどのような機能を手にすれば、CEOの参謀としての役割を果たせるのだろうか。


デジタル時代のCFO組織

 

調査結果によると、デジタル技術によって削減された時間(リソース)を使って新たに行いたい業務について、多くの企業が「財務・経理の別業務」と答えている。CFO組織が実績管理業務(ここではいわゆる予算実績管理も含めた狭義の経理業務を指す)の効率化、自動化により余剰となるリソースをシフトする先は、やはり経理業務が中心となるだろう。しかし、先に論じたとおり、財務情報のみを扱う従来の経理業務を行っているだけでは、デジタル時代のCFO組織としては機能不足である。

企業は新たな顧客接点と情報量の増加という劇的な変化に直面している。これらの言わば新たなコーザルデータ(販売に影響を与える要因情報)を読み解き、多様化・短サイクル化するマーケットニーズに的確に応えた商品・サービスを迅速に提供していくことが、企業価値の最大化への重要な要素となる。従来のコーザルデータの分析業務は、ほとんどの企業でCFOまたはCFO組織ではなく、営業組織やマーケティング組織が管轄していた領域だろう。また、意思決定につながる重要な情報ながら、大量データと分析技術が求められる新たな業務領域であるため、この領域を所管する役割として最高デジタル責任者(Chief Digital Officer:CDO)を設置し、分析にはデータサイエンティストを採用する企業も増えている。これらのコーザルデータから導かれる需要予測は、それだけでもデジタル時代の意思決定の変革に大きく影響を与えるだろう。しかし、需要予測の精度が上がり、新しいビジネスの発想を得るだけで、意思決定やビジネスを変革させるに充分な情報の改革と言えるだろうか。事業運営を適切に導くには、需要予測の数量情報だけでなく、新たな商品やサービスの価値、期待される利益や効果を経理的な視点で測る必要があるのではないだろうか。

デジタル技術を活用し、その精度・速度を大きく改善していくのは、次の図の左側にある企画プロセスである。これまでは提供プロセスで得られた財務実績情報を元に市場展望や目標係数などを反映した仮説的な数値設定と、机上や試作による検証を経て計画値を固めることが多かった。しかし、商品やサービスの投入サイクルの短期化が求められる中で、現状のままでは企画プロセスを大きく短縮化することは難しく、無理に短縮すれば利益計画を充分に検証できないまま、見切発車することになる。顧客の求めにタイムリーに答えるためには、新たな商品やサービスの価値を迅速かつ正確に測らなければならない。従って、顧客情報や業務プロセス、取引ログといった社内外の非財務情報をデジタル化し、財務情報との関係性から財務実績の先行指標となるような非財務情報を特定して活用することで、シミュレーションや分析を容易にすることが求められる。


デジタル技術の活用で効果が期待される業務プロセス

 

新たな指標となる非財務情報と財務情報の関係性を理解し、企画プロセスにおいて顧客や資産のデータから適切な売価や原価を導き出して投資採算性を判断するには、CFO組織が有する経理スキルが必要となる。CEOに意思決定を支援する分析結果を説明するのも、やはりCFOの役割となるだろう。

つまり、デジタル時代のCFO組織とは、ベースとなる経理スキルを活かしつつ、デジタル技術を使いこなした正確なデータ分析、根拠の明確な事業予測や事業投資判断支援などを通じて、より事業サポートとしての機能を担う組織となることでCEOの参謀機能を果たすことになる。

上述したとおり、CFO組織がまだ実績管理の世界に捕らわれている中で、企業がCDOを設置したりデータサイエンティストを採用したりするのは、新たなデータと技術を用いたDigitalization を促進するためのものであろう。Digital Transformation の改革を実現し、CFO組織が実績管理から解放され、デジタル技術を用いて経営の参謀たる役割を改めて確立すれば、やがてCFOがCDOの役割も担っていくのではないだろうか。


デジタルKPI経営を支援して真のバリューセンターに

 

今後、CFO組織の経理人材は事業運営側へと活動の場を広げ、財務情報だけでなく非財務情報のKPI化を実現する。「デジタル時代のKPI」とも言えるこれらの指標こそ、Digital Transformation実現の中で起こる「情報の変革」のアウトプットとなるものであり、この事実に基づくデータ分析結果を根拠に“データドリブン”で次のアクションを起こしていくことが、「意思決定の変革」を促すと言えるだろう。


仮説検証型からデータ分析型へ -デジタル時代のKPI-

 

企業の収益を生み出すバリューチェーンの中に身を置き、蓄積した会計知識によってデジタルKPIを読み解き、パフォーマンスを最大化する。そして、新たな価値連鎖、事業連鎖を導き出す。それが、デジタル時代のCFO組織の役割と言えるだろう。

財務・経理機能を担ってきたCFO組織は、長い間バリューチェーンの外にある支援組織としてコストセンターの扱いを受けてきた。確かに決算組織は企業を存続させるために必要不可欠な機能ではあるが、付加価値を生むものではないのかもしれない。過去には社内、グループ内にサービスを提供する形でその活動を収益換算しようという試みが見られたが、ほとんどは支援組織側の評価や動機付けのための施策に過ぎず、企業に新たな付加価値を提供するものではなかった。しかしバリューチェーン側で企業価値最大化に貢献するデジタル時代において、CFO組織は真のプロフィットセンター、バリューセンターになり得るのである。

CFO組織がデジタルKPIとそこから導かれる将来予想を提供し、事業への提言をしていくことで、経営も今後の利益を最大化するためのアクションを迅速に起こすことが可能となる。

現在、様々な企業で活用されている経営ダッシュボードは、企業の「今」を端的に表現する意味では有効である。一方で、そこで表現されるKPIは、例えばROEなどの財務指標をトップダウンでブレークダウンした定量指標であることが多い。これは、人間の力ではデータ処理能力に限界があり、企業内の全ての取引を整理・分析することができないため、サマリーされた過去の実績数値を元にKPIを設定せざるを得なかったからだと考えられる。会計という営みそのものが、仕訳という原単位を集計し、企業成績を財務諸表の形で表現するものであると考えれば、当然なのかもしれない。

AIや機械学習を活用した分析では、人間の処理能力を超え、全ての取引データを分析して相関関係を導き出すことが可能となる。CFO組織の観点からも、今までの主流だった伝票に整理されているデータあるいは勘定科目単位に整理されているデータを超えて、あらゆるデータとの相関関係が提供されていくことになる。トップダウンで検討を進める従来のKPI設定の考え方では、売上増大に関係するのは営業員の顧客訪問件数である、といった整理になるかもしれない。しかし、デジタル技術を活用すると、売上増大に最も大きな影響を与えているのは、訪問件数ではなく顧客訪問の時間帯である、といった整理になる可能性もある。


Digital Financeを実現するDigital Dashboard対応済み

 

デジタル時代の経営ダッシュボードは、財務指標をベースに設定されたKPIを定点観測的に示すだけではなく、データ分析に基づいて企業をより良くするための示唆に富んだ情報を含めなくてはならない。このためには、財務情報か非財務情報かに関係なくあらゆるデータに向き合い、分析結果に対してインテリジェンスを与えられる人材が必要になる。なぜなら、AIや機械学習では、相関関係を表すことはできるものの因果関係を示すことはできないからである。なぜこの結果になるのかを判断し、企業をより良い将来に導くのは、依然として人間の役割なのである。

そして、その役割を果たすのに最も適しているのがCFOおよびその組織である、というのが結論である。デジタル技術の適用後にCFO組織の役割としてこれまで以上に求められる機能は、「経営への情報提供・CEO参謀機能」である。CFOおよびその組織の軸となる会計の専門知識に、データ分析、統計学などの知見を加えることが最も合理的であるからだ。

これからのCFO組織に求められる中心的な役割は、過去の実績の正確性や信頼性を担保する決算、開示に加えて、デジタルKPIの因果関係を見出し、未来のビジネスへの提言、示唆をしていくことであり、これこそがデジタル時代の経理業務「デジタルファイナンス」であると考える。

米国の著名な経営者リー・アイアコッカはその自叙伝「Iacocca:An_Autobiography(アイアコッカーわが闘魂の経営)※5」の中で「豆を数える人がいなければ、会社は無駄なエネルギーばかり放出し、ついには倒産する。だが豆ばかり数えていては、需要に応え、競争に勝つことができない。」と述べた。CFO組織はこれまで経営に資する情報を提供するために財務・経理機能を充実させてきた。BPRやIT活用により「いかに速く正しく豆を数え集計するか」に取り組み続ける中で、本来の目的を見失い、豆を数えることだけを目的としてしまっている。デジタル時代の到来は「経営の管理者」たるCFOとCFO組織のあり方を見つめ直すよい機会になる。デジタル時代の今こそ、CFO組織は企業価値の最大化を行う組織となるべきである。

  • ※5. 「アイアコッカ わが闘魂の経営」(1985) リー・アイアコッカ 著 徳岡 孝夫 訳 59頁

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