【インド×日本企業】共創と変革が導くこれからのグローバル戦略(第2回) 日本とインド。強みを補完し合う関係が最大の成果につながる

Head of ABeam India Business 大村 泰久
News Focus

アビームコンサルティングは2025年7月、インドのアライアンス・パートナーで、およそ4,000人のテクノロジー人材を擁するOptimum Infosystemと協働し、IT人材が豊富なチェンナイにグローバルケイパビリティセンター(Global Capability Center、以下GCC)を開設した。今や国境に関わりなく押し寄せる事業環境の変化に柔軟かつ迅速に対応しながら自社の新たな価値創出に挑むには、自社のリソースに固執せず、デジタルテクノロジーやAIに通じたGCCを活用することが、大きな成果につながる。
すでにインドには1,800ものGCCが存在し、欧米のテック企業などは競って優秀なIT人材を抱えるGCCとの提携を進めている。一方で、日本企業のGCC活用はまだ限定的だが、ターニングポイントはどこにあるのか。アビームコンサルティングのインド事業責任者であり、今回のGCC開設をリードした大村泰久と、同GCCでGeneral Managerを務めるOptimum InfosystemのNanda Kishore氏の対話から導き出したい。

※本記事は、3回連続企画の第2回です。

<スピーカー>
Optimum Infosystem インド拠点
General Manager, GCC Nanda Kishore氏(写真右)

<専門コンサルタント>
アビームコンサルティング 
プリンシパル・Head of ABeam India Business
サステナブルSCM戦略ユニット 大村 泰久(写真左)

Optimum Infosystem インド拠点 General Manager, GCC Nanda Kishore氏とアビームコンサルティング  プリンシパル・Head of ABeam India Business サステナブルSCM戦略ユニット 大村 泰久

日本企業に新たな競争力をもたらす インドGlobal Capability Center(GCC)の可能性と戦略的価値

大村:ここまでナンダさん(Nanda Kishore氏)とは、GCCの開設に向けて一緒に取り組んできました。本当に感謝しています。改めて、読者に向けてご自身の紹介をお願いします。

Kishore氏(以下敬称略):こちらこそありがとうございます。私は、アビームコンサルティングと立ち上げたGCCのインド側の責任者をしています。今回のGCCの母体となっているOptimum Infosystemは、IT領域でコンサルティングなどを行う企業として、27年間ほど事業を行ってきました。今では、4,000人以上の高度IT人材を抱え、デジタル化推進の支援、人材の派遣などを行っています。支援先の業界は製造、金融サービス、小売りなど多岐にわたりますが、私たちが提供する価値を維持・成長させるため、需要の高いスキルや新興テクノロジーに対応したIT人材の獲得、組織設計、データセキュリティ、プライバシー保護に常に注力しています。今回のGCC立ち上げ・運用開始は、私たちがこれまで培ってきたケイパビリティを、日本の企業に対して提供できる意義ある機会であると大いに期待しています。

大村:インドのIT人材と聞くと、多くの日本企業の経営者は、安価な人件費を強みにしたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のリソースを想起するかもしれません。ところが現在は、約1,800ものGCCがインドに存在しており、自社のCoE(センター・オブ・エクセレンス)追求やイノベーション創出を目指す欧米のエンタープライズやビッグテックなどが、変革のサイクルをドライブするパートナーとしてGCCを競って活用しています。そうしたなかで、Optimum Infosystemを母体とする今回のGCCが持つ特徴とは何でしょうか。改めて説明をお願いします。

Kishore:今回運用を開始したGCCは、これまでアビームコンサルティングがグローバルに展開してきたコンサルティング体制の一部として、インドにおけるシームレスかつ統合された実働部隊に位置づけられています。この点は、最初に強調しておきたいと思います。

これまでインドでは、主に言語や文化の違いなどから日本企業のビジネス進出は限定的でした。しかし、私は数年にわたって日本でビジネスを経験しており、日本人の国民性や文化、それらに起因する企業のガバナンスや品質に対する意識の高さなど、他国にはない優位性を持っていることをよく認識していますし、尊敬の念を抱いています。私たちが今回運用を開始したGCCは、日本企業が大切にしているこうした日本らしさを担保しながら、製品やサービスをグローバルに展開するお手伝いができる点において、他のGCCにはないユニークネスを有していると自負しています。

これと並んで私が責任者として重視しているところは、先ほど「シームレス」と表現したことに集約できます。私たちは、アビームコンサルティングがグローバルネットワークで提供するコンサルティングサービスにおけるCoEとして機能し、コンサルティングの過程で求められるAIを含むさまざまなデジタルケイパビリティを、リージョンを問わずデリバリーする使命を遂行しています。

その一環として、いっそうの成長やデジタルをフルに活用した変革を目指す日本企業の戦略的パートナーとして、貢献していきたいと考えています。ここで大切なことは、日本とインド両国の効果的なコミュニケーションを促進するチャネルの構築・活用、互いのカルチャーの深い理解を促す異文化交流と考えています。そうした双方の橋渡しにつながる施策の展開にも気を配っています。

具体例の1つが、インド側で実施している「デリバリープログラム」です。このプログラムでは、アビームコンサルティングが支援する日本企業が抱く「期待値」を、文化的背景も含めて把握し、日本企業が求める期日や品質、職業倫理をインドのスタッフの日常業務に落とし込んでいます。

また、バイリンガルのPM(プロジェクトマネージャー)もオンボーディングに参画、トレーニングを行って、継続的に橋渡しに適した人材を補強しています。こうした活動は、GCC活用に取り組む日本企業の支援機能である「イネーブラーハブ」(後述)とも密接につながっています。

日本式が最善ではない。ハイブリッドで最適解を模索

大村:私がインドで接した人材の多くは、事実やデータから新しい着想を得る能力にとても優れています。このケイパビリティは他にはないものであり、例えば生産現場から得られたさまざまなデータをもとに、業務プロセスの改善につながる提案をスピーディーにまとめることができます。こうした「データドリブン」の思考は、どこから生まれてきたのでしょうか。Optimum Infosystemの人的リソースの多くがホームグラウンドとするチェンナイの人材を例に教えてください。

Kishore:今回のGCCの母体となるOptimum Infosystemは、2015年からアビームコンサルティングの資本参加を経て、現在に至るまでインド南東部のチェンナイをベースに事業活動を行ってきました。チェンナイは、高いパフォーマンスを発揮する優秀な人材プールを有する都市です。それを支えているのが、インド工科大学をはじめとした教育のエコシステムです。こうした教育機関では、単にITやAIに資する専門性だけでなく、「論理的思考力」や「コミュニケーション能力」など、リベラルアーツ習得にも力を入れています。

こうした素養を身につけた人材は、専門性だけでなく日本企業の持つ高い職業倫理に対する理解力とコミュニケーション能力を持っています。こうした人材を生みだすチェンナイのエコシステムは一時的なものではなく、長く引き継がれてきたものであり、日本人との深いパートナーシップを築くうえでも、有利に働くと感じています。

また同時に、チェンナイ一帯の人材は地元に対する愛着が強く、地場でキャリアを築いていきたいと考えています。そのため、IT人材にとって「売り手市場」の現在においても、他のインドの大都市と比較して、短期での転職などの離職率が低い土地柄でもあります。そのため日本企業が求めるクオリティを、長期的かつ安定的な体制でデリバリーできます。

大村:インドには、IT推進のけん引役とも言えるバンガロールとハイデラバードがあります。これらの都市についても特徴を教えてください。

Kishore:ここまで述べたように、チェンナイは優れた人材が多い土地として魅力的ですが、他の都市にもそれぞれの特徴があります。まずバンガロールについては、早くからインドにおけるイノベーションハブだと言われてきた経緯があります。スタートアップのエネルギーにあふれ、グローバルに対する影響力も大きな都市です。一方のハイデラバードも、ITを中心に成長力の高い企業が集結しており、データ分析、プロダクトエンジニアリングに強みを持っています。

こうした都市には、いずれ劣らぬ活力があり、それぞれの魅力を持っています。私たちはチェンナイを基盤としていますが、これらの都市には、人口およそ14億人にもなるインド全土からタレントが集まってくるため、私たちも積極的に投資を行っています。これによって、支援先企業が必要とする最先端のテクノロジーや知識を備えた人材を提供できる体制を確保しています。

大村:私たちが提供する GCCについて、ご自身ではどのような点にユニークネスがあると分析していますか。

Kishore:現在のGCCにつながるサービスは、25年ほど前から存在していたと記憶しています。当初は電機メーカーなどの製造業や金融機関が、コスト削減や業務効率の向上を目的としたBPOとして利用していました。現在もそうした目的でGCCを認識し、利用している企業は少なくありませんが、私たちのGCCはこうした従来型のGCCとは明確に異なります。

企業が現状のオペレーションの一部をGCCに委ね、コストを低減したり生産性を高めたりすることは確かに有効です。ただ、私たちはそれにとどまることなく、企業のコア業務における戦略的なオペレーションを実行する部隊として活動することで、イノベーションやトランスフォーメーションを実現するパートナーとしての価値を感じていただけると思います。こうした思いから、私たち自身もスタッフのマインドセットを共有して業務に臨んでいます。

大村:ナンダさんから、今回のGCCは日本とのシームレスな存在であると発言がありました。まさに私も、そこにこそ核心的な価値があると考えています。私たちは変革の構想から関わり、実行に至るまで一気通貫で実現まで伴走するのみならず、日本企業のCxOアジェンダに直結するベストプラクティスを提示できる存在となることを目指しています。

こうした私たちのGCCが提供するユニークな価値を裏づけるのが、先ほどナンダさんからも紹介のあった「イネーブラーハブ」の存在です。これは、アビームコンサルティングがGCC活用に取り組む日本企業のために組織したもので、取り組み初期に機能するものです。

ここでなぜ「イネーブル」という言葉を使っているのかを説明しておきたいと思います。まず第1に、アビームコンサルティングが日本企業に対してインドの優秀な人材を「活用・共創可能にする」という意味を込めています。そして第2に、私たちのGCCのインド側のメンバーが、日本のカルチャーや商習慣にフィットしたビジネスを遂行できるようになるという意味があります。こうした機能を充足させることで、理想とするシームレスかつ双方向なビジネスを創出する狙いがあります。

イネーブラーハブの役割の一端を、プロジェクトを進めるなかで欠かせない「進捗管理」で説明したいと思います。日本の仕事の進め方において進捗管理は、極めて基本的な確認事項であり、これによって現場もマネジメントも同様の認識が共有されます。逆にこの共通認識がないと成り立たないと、多くの日本人が考えています。

ただ、日本とインドの認識には差があります。日本人が細部まで厳格に進捗や品質を管理することを求めるのに対し、インドの一般的な考え方では、進捗の遅れが生じたとしても、それを報告することにさほど重要性を感じていません。むしろ報告すれば、相手を困らせてしまうと考えて、報告を控える傾向すらあります。

そのため進捗に遅れが出たとしても、報告より挽回することの方が重要と考えます。この原理で動く姿は、彼らにとって称賛すべき行動と捉えられていますし、今では私も、そこにリスペクトすべき点を見いだすことができます。これは「どちらが正しいか」ではなく、「多様性の理解」だと認識しています。

イネーブラーハブの活動において私が心がけているのは、例に挙げた進捗管理において日本式を貫くことを「クオリティマネジメント1.1」と位置づけ、その上で日本企業が求めるクオリティを、インドの国民性として自然でありつつ支援先にとって満足度も高い「クオリティマネジメント2.0」へとシフトさせていくことです。

Kishore:私も大村さんと同じ意識で業務に当たっています。日本とインドは、価値観や人材、経済的な強み・弱みなど、さまざまな面で特徴が異なりますが、それは当然のことです。それをどちらかに合わせるのではなく補完し合う関係になることで、双方の特徴を生かした成果につながると考えています。

ただその一方で、グローバル展開をしていくにあたり、認識しておくべき特性もあると考えています。日本企業では、新しい領域への挑戦に慎重すぎる傾向があります。その傾向は、欧米の企業と比較すると顕著であり、スピード感が重視される局面では不利になります。

加えて言語の違いもあります。ビジネスの場で世界標準となっている英語はインドでも広く使用されており、欧米との意思の疎通でストレスやタイムラグはそれほど感じません。この点で、日本の企業が海外の企業と何かを進める時、言語や解釈の違いからどうしても時間を要し、動きがスローになりがちです。こうした部分を、私たちが支援することで補えたらと考えています。

また、ぜひ日本企業の経営に関わる方々に認識を新たにしていただきたいことがあります。繰り返しにはなりますが、「インドは低コストのオペレーションセンター」から脱し、今や世界のイノベーションやデジタルトランスフォーメーションのハブにシフトしているということです。

これに気づいた欧米の企業がこぞってインドのGCC活用に乗り出しています。この認識の差は、言語や習慣の壁よりも重要だと受け止めています。アメリカのビッグテックやドイツの世界的なソフトウエア企業は、R&Dや設計、戦略立案、デザインなど、企業の成長を左右する領域でGCC活用を加速させています。日本企業もぜひ、オープンにさまざまな可能性を探っていただきたいと思います。

日本企業にとって今回の協業が特に魅力的だと言える理由はいくつかあります

第一に、文化的にもオペレーション的にも親和性が高いことです。日本のクライアントは精度、信頼性、そして長期的な関係性を重視します。私たちが構築したGCCモデルは、こうした価値観を反映しており、すべてのプロセスを品質と透明性を核に設計しています。

第二に、アビームコンサルティング、そしてその先にいるクライアントが、高度なテクノロジーとコンサルティングの人材にアクセスできる点です。インドはERP、クラウド、アナリティクス、AI、DXなどの領域で卓越した専門性を有しており、アビームコンサルティングのケイパビリティを補完し、より迅速なイノベーションを可能にします。

第三に、コスト効率です。従来のアウトソーシングモデルとは異なり、戦略、デリバリー、知的財産の所有権を保持しながら、インドのデリバリー体制が持つスケーラビリティと柔軟性を享受できます。

第四に、スピードとアジリティです。グローバルに同期したオペレーティングモデルにより、24時間体制でサービスを提供できるためタイムラインを加速し、変化するクライアントニーズに迅速に対応します。

これらを兼ね備えた私たちのGCCは、継続的なイノベーションの拠点として機能します。アビームコンサルティングが注力するデジタルモダナイゼーション、サステナビリティを含む次世代ソリューションを支え、日本企業にとってますます重要性を増す領域を後押しします。このシナジーによってアビームコンサルティングは、日本企業のグローバル競争力強化とデジタルトランスフォーメーションの進展を強力に後押しします。

私の役割はこのシナジーの土台を構築、運営し、GCCが一貫して業務の卓越性、文化的な調和を提供できるようにすることです。私たちが有するアドバンテージを存分に活用して、世界に通用する新たな企業価値を生みだしていただきたいと思います。

大村:長年の現地での取り組みから、インド市場に対する理解が深いアビームコンサルティングと、日本への理解とリスペクトが深いナンダさんをはじめとしたITプロフェッショナルが提供するシームレスな支援体制で、支援先企業の価値を最大化していけると確信を持っています。ナンダさん、これからもよろしくお願いします。


略歴

大村泰久
アビームコンサルティング プリンシパル・Head of ABeam India Business
サステナブルSCM戦略ユニット

2001年新卒でアビームコンサルティング入社後、日系企業のグローバル基幹システム刷新案件を中心に多業種・多地域の案件に従事。2016年から9年間、アビームコンサルティングのSAPビジネスのグローバル責任者としてアライアンス戦略を推進。2024年にインドビジネス立ち上げのリーダーに就任。40社近い在インドの日系企業の実地調査に基づき、いまインドに求められるオファリングを整備。2025年よりGCC(グローバルケイパビリティセンター)をOptimum Solutions社とインドに設立、運用を開始。

Nanda Kishore
Optimum Infosystemインドオフィスゼネラルマネージャー
ITコンサルティングにおける25年以上の経験を持ち、現在はインドGCC(グローバル・キャパビリティ・センター)オペレーションを統括。グローバル企業の大規模なDX、業務プロセス改革を主導。ERP戦略と導入、プロセスコンサルティング、オペレーショナル・エクセレンスに深い専門性を有し、高い成果を上げる変革プラクティスの構築・拡大において優れた実績を有する。
また、日本企業とのビジネス経験も豊富で、日本の企業文化や品質基準に対する深い理解とリスペクトを持つ。
アビームコンサルティングとの協業により、インドGCCの立ち上げと運営をリードし、日本企業のグローバル展開を支援。異文化の橋渡しと、シームレスな協働を実現する戦略的パートナーとしての役割を果たしている。

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