アビームコンサルティング、
日本企業におけるM&Aへの取り組みに関する実態調査を発表

M&Aによる目的達成率は45%止まり。役職別・業界別では評価にギャップ
プレスリリース

2025年10月30日

アビームコンサルティング株式会社

 アビームコンサルティング株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:山田 貴博、以下 アビームコンサルティング)は、日本企業におけるM&Aへの取り組み実態と企業価値向上の実現との相関を明らかにすることを目的として、M&A関連業務の経験のある経営層から主任・係長職までの300名を対象に調査を実施しました。

 M&A後の統合(PMI:Post Merger Integration)によってシナジー効果を創出し、企業価値を向上させるためには、「Post PMI」フェーズ(Day1〔法的統合完了日〕およびDay100〔完了後100日〕以降)において、クロスセルやブランド統合、購買・物流ネットワークの最適化や生産拠点の再編、IT基盤統合といったオペレーション改革を着実に実行することが求められます。
 こうした統合改革を実現するためには、M&A戦略の策定段階から中長期的な視点で各種変革の設計と予算確保を行うこと、そして統合の定着まで一貫して推進することが成功の鍵となることが、本調査により明らかになりました。

■調査結果概要

  1. M&Aによる目的達成率は45%止まり。経営層とミドルマネジメント層にて評価にギャップ
  2. 「金融・証券・保険」「自動車、輸送機器」「電気、電子機器」の各業界では、M&A目的達成率が過半数超えと高水準
  3. PMIを中期経営計画・人材戦略と一体設計した企業の45%が「改革を継続」

■背景
 近年、日本企業によるM&Aは拡大傾向にあり、その動きは加速しています。企業は「選択と集中」の方針のもと、非中核事業を売却し経営資源を再配分する一方で、サプライチェーン強化や新規事業創出を目的に、成長領域における買収にも積極的に取り組んでいます。国内市場の成熟や人口減少など構造的制約を背景に、M&Aは非連続な成長を実現するための重要な経営手段となっています。
 一方で、統合効果が一時的な成果にとどまり、想定していた企業価値の向上につながらないケースや、統合を終えてもグループ全体としてのシナジーが十分に発揮されないケースなど、統合後の経営に課題を抱える企業も少なくありません。M&Aを真の成長ドライバーとするためには、単なる買収の実行にとどまらず、統合後の経営変革をいかに実現するかが成否を分ける重要な要素となります。
 こうした状況を踏まえ、本調査ではPMIを起点とした経営変革に焦点を当て、M&Aの成否を左右する要因や、企業価値向上に向けた具体的な取り組みの実態を明らかにすることを目的としました。

■調査結果詳細

1.M&Aによる目的達成率は45%止まり。経営層とミドルマネジメント層にて評価にギャップ
 M&A実施後に「目的を達成した」と自己評価した企業は全体の45.3%にとどまり、半数を割り込む結果となった。

M&Aにおける目的の達成度をどのように自己評価しているか?

 役職別では、経営層の評価が最も厳しく、「目的達成」と答えたのはわずか15.3%にとどまり、「未達成」という回答は33.2%と、他役職と比較して最も多い結果となった。対照的に、「主任・係長」「課長」「部長」といったミドルマネジメント層では、約半数がM&Aによる目的達成を高く評価しており、経営層とミドルマネジメント層の間に大きな認識のギャップが存在することが明らかになった。
 この背景には、経営層が企業価値やシナジー創出といった全社的・中長期的な視点で統合効果を判断する一方、ミドルマネジメント層は業務の安定稼働やプロセスの円滑化といった短期的な成果を重視する傾向があると考えられる。

役職別 M&Aにおける目的の達成度をどのように自己評価しているか?

2.「金融・証券・保険」「自動車、輸送機器」「電気、電子機器」の各業界では、M&A目的達成率が過半数超えと高水準
 業界別にM&A後の目的達成率を比較した結果、「金融・証券・保険」「自動車・輸送機器」「電気・電子機器」では、過半数の企業が「目的を達成した」と自己評価しており、他業界と比べて高水準であった。これらの業界では、業界特有の規制対応や製造プロセス・サプライチェーンの標準化を重視する背景から、早期に緻密な統合計画を策定し、現場レベルまで人材を派遣するなど、徹底したPMI対応を行う傾向が強く、これが目的達成率を押し上げていると考えられる。
 一方、「食品・医薬・化粧品」「情報処理・SI・ソフトウェア」「卸売・小売業・商業(商社含む)」では、目的達成率が他業界に比べ相対的に低い傾向が見られた。顧客の意向や地域特性、現場の変化に機動的に対応する必要があり、プロジェクト/店舗・拠点単位の運営が中心となる業界では、統合による現場業務の変更を最小化する方針が採用されやすい。その結果、全社横断の統合計画や業務設計、人材再配置の優先度が低下し、統合効果の発現が遅れるリスクを孕んでいると推察される。

業界別 日本企業におけるM&A成功率

3.PMIを中期経営計画・人材戦略と一体設計した企業の45%が「改革を継続」
 構想段階からPMI施策を中期経営計画や人材戦略と一体的に設計した企業では、PMI終了後も45.1%が「M&Aによるシナジー創出のための改革を継続推進中」と回答した。一方、一体設計を行わなかった企業では、改革継続率はわずか12.3%にとどまった。
 この結果から、PMI施策と経営・人材戦略を切り離して進めた場合、M&Aによるシナジー創出に向けた改革施策が定着しにくくなる傾向が明らかになった。その背景には、PMIが独立して進行することで、全社的なモニタリング機能が働かず、改革が早期に収束してしまうという構造的な課題があると考えられる。

PMI施策の中計・人材戦略との一体設計・実行×改革継続率

■PMIを成功に導く、企業価値向上実現の4つのポイント
 今回の調査を通じて、日本企業におけるPMI施策の実態と、そこに潜む課題が明らかになりました。アビームコンサルティングは、これまで培ってきたM&Aによる事業再編・構造改革支援の知見・実績をもとに要因を分析し、PMIを成功に導き企業価値を向上するための4つのポイントを導き出しました。

ポイント①:Day1以前における統合全体構想の確立
近年のM&Aは取引の規模・複雑性が一層高まり、単なる取引成立ではなく、「統合による企業価値の向上」が真に問われる時代となっている。しかし、現場ではクロージング業務や交渉対応に追われ、統合の全体構想を描けないままDay1を迎えるケースも少なくない。こうした状況では、戦略的な統合目標への取り組みが後手に回り、価値創出の機会を逸する可能性が高まる。
PMIを成功に導くためには、Day1以前から統合の目的や価値創出の方向性を明確にし、戦略を具体的な施策へと落とし込むことが不可欠である。ディールプロセス(企業間で行われる買収や合併に関する一連の取引)段階でTOM(Target Operating Model:統合後のガバナンス・業務・組織・人材・システムの運営モデル)やTSA(Transition Service Agreement:移行サービス契約)を早期に整理し、体制・人材・ガバナンスを一体的に設計し必要なケイパビリティを確保することが、統合後の迅速な価値創出につながる重要な基盤となる。

ポイント②:買い手と対象会社をつなぐ「統合推進人材」の戦略的配置
PMIにおいて買い手企業のルールを対象会社に一方的に適用できる場面は限られており、相手企業の文化や労働慣行との整合性を踏まえた丁寧な調整が不可欠である。この配慮を欠くと、現場での摩擦や抵抗が生じ、結果として統合効果が低下する可能性がある。実際、現場で生じる衝突や対立の根本原因は、単に企業文化の違いそのものではなく、その違いを乗り越えるためのガバナンス設計や人材配置戦略が欠如していることにあると考えられる。
なかでも重要なのが、デューデリジェンス(企業買収や投資の際に行われる調査・分析)段階から関与し、経営層の戦略意図を現場に橋渡しできる「統合推進人材」の戦略的な配置である。この人材が経営の意図やM&Aの背景を現場に即した形で伝え、理解浸透を促すとともに、制度設計を通じて文化的摩擦を緩和することで、統合を推進する大きな原動力となる。

ポイント③:統合直後の短期アクションプラン対応にとどまらない「Post PMI」への展開
統合の目標を「最低限の業務・制度の統合」にとどめてしまった結果、統合直後の短期的な対応に追われ、その後に必要となる本質的な統合施策が停滞し、企業価値の向上に結びつかないという課題を抱える企業が増えている。特に、Day1・Day100以降の中長期な企業価値向上を担う「Post PMI」フェーズでは、クロスセルやブランド統合、購買・物流ネットワークの最適化や生産拠点の再編、IT基盤統合といったオペレーション改革の推進が求められる。
こうした改革を実現するためには、中期経営計画とM&A戦略を連動させ、戦略策定やデューデリジェンスの段階から中長期的な視点で予算設計や部門横断的な推進体制を整備することが不可欠である。具体的には、これらを手動する統合推進組織(IMO:Integration Management Office)をあらかじめ構築し、統合後の定着まで一貫して推進することが、Post PMIフェーズにおける企業価値の早期最大化の鍵となる。

ポイント④:現場任せにしない統合実行
PMIを現場任せにしすぎると、統合業務がタスクレベルの対応にとどまり、意思決定の遅れや経営層と認識ギャップを招くリスクがある。統合を現場任せにせず、経営層が最前線でリーダーシップを発揮することは、意思決定の質とスピードを飛躍的に高め、組織全体を動かす推進力となる。さらに、変革を持続的に進めるためには、経営層の積極的な関与に加え、行動変容を組織文化として定着させる制度的な仕組みが必要である。
具体的には、シナジー創出を経営KPIとして経営会議で扱うこと、進捗レビューを制度として組み込むこと、そして経営層自らが現場に足を運び、課題を直接把握したうえで重要議題として取り上げ、迅速な意思決定で解決に繋げることが求められる。こうした仕組みを通じて、経営層のリーダーシップと現場の実行力を結びつけ、組織全体として持続的な変革を推進する体制を確立することが可能となる。

■調査全文
本調査結果の全文は、下記リンクよりご確認いただけます。
https://www.abeam.com/jp/ja/insights/159/

■調査概要
 調査名:日本企業のM&Aへの取り組みにおける実態調査
 調査期間:2025年8月1日~8月4日
 調査方法:インターネット調査
 調査対象者:M&A関連業務の経験のある主任/係長職以上
 回答者数:300名

■アビームコンサルティングのM&Aによる事業再編・構造改革支援
アビームコンサルティングは、M&Aによる事業再編・構造改革において、戦略立案から統合、変革の定着まで、M&Aプロセス全体を一貫して支援します。オーガニック・インオーガニック双方の成長戦略を踏まえ、短期的な統合にとどまらず、中長期的なシナジー創出までを見据えた支援を通じて、統合効果を最大化し、企業価値の向上を実現します。さらに、データアナリティクスやAIを活用した高度なデューデリジェンスや、クロスボーダーM&A対応など、先進的な支援モデルを構築し、企業が描く将来ビジョンの実現をともに推進します。https://www.abeam.com/jp/ja/trend/MergersandAcquisitions/

アビームコンサルティング株式会社について

アビームコンサルティングは、アジアを中心とした海外ネットワークを通じ、それぞれの国や地域に即したグローバル・サービスを提供している総合マネジメントコンサルティングファームです。戦略、BPR、IT、組織・人事、アウトソーシングなどの専門知識と、豊富な経験を持つ約 9,000 名のプロフェッショナルを有し、金融、製造、流通、エネルギー、情報通信、パブリックなどの分野を担う企業、組織に対し幅広いコンサルティングサービスを提供しています。アビームコンサルティングは、企業や組織とともに新たな未来を共創し、確かな変革に導く創造的パートナーとして、企業や社会の変革に貢献します。
ホームページ:https://www.abeam.com/jp/ja/

本件に関するお問い合わせ

アビームコンサルティング株式会社
経営企画グループ コミュニケーションユニット 小玉 絵梨香
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