現場を大切にする経営者は、日本にも数多く存在する。その代表が、京セラ創業者の稲盛和夫氏であった。ものづくりの原点は製造現場に、営業の原点はお客様との接点にあると考えた稲盛氏は、「現場主義に徹する」を自身の経営フィロソフィに掲げた。いわく、「現場は宝の山である」と。また、トヨタ自動車や本田技研工業など日本を代表するものづくり企業でいまなお実践されている「三現主義」も、現場で現物をもとに現実の状況を認識して問題解決を図ることを旨としている。
こうした現場にこだわり抜く姿勢の先に見えてくるものは何か。それは、顧客中心主義(カスタマーセントリシティ)にほかならない。ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のピーター・フェーダー教授によると、顧客中心主義とは、「選ばれた顧客のニーズに合わせて商品やサービスを開発することであり、その実現には企業と顧客との関係に関する古い考えを捨て、最も重要な顧客への商品開発を根本的に考え直し、新しい独自の方法を見つけること」だと論じている。
前出の稲盛氏も、顧客中心主義について「お客様のニーズに対して、いままでの概念をくつがえして、徹底的にチャレンジしていくという姿勢が要求されます」と述べている。
ここで重要なのは、「根本的に考え直す」「いままでの概念をくつがえす」という姿勢である。従来の「お客様は神様です」的に、顧客の「御用聞き」に徹してしまっては、本当の意味で顧客ファーストを実践することはできない。そこでは企業が主体となって、課題を抱える顧客の期待を上回る価値提供が求められる。そのためには企業固有の「強み」を再編集、再創造することが必要となる。
つまり、現場主義と顧客中心主義は表裏一体の関係であり、どちらが欠けても真の顧客価値を創出することはできないのだ。
だが、日々忙殺される経営者がこうした現場主義、顧客中心主義を実践するのは容易ではない。強い信念と自己規律が必要とされる。顧客重視の人間ほど、顧客理解のために現場の重要性をよく知っているからだ。
今回インタビューに登場するアビームコンサルティングの社長・山田貴博もその一人だった。新卒から30年以上、一貫してコンサルタントの道を歩んできた山田は、現場・顧客中心主義の苦労と喜びを知っているからこそ、「現場から離れてしまうことが嫌で、社長就任のオファーを固辞していました」と笑う。
成長を続ける同社の社長のバトンを引き継いでから2年半。いまも現場にコミットし続けている。社長になったことで、現場主義、顧客中心主義の意味が大きく変化したようだ。山田に、日本発のコンサルティングファームとしての矜持を聞いた。