デジタル技術が急速に社会浸透する中、データの信頼性とプライバシーをいかに両立するかという論点について、各国で検討と社会実装が進んでいる。DFFT(Data Free Flow with Trust : 信頼性のある自由なデータ流通)や、SSI(Self-Sovereign Identity:自己主権型アイデンティティ)などが関連するキーワードとなるが、その技術的なコアの1つとなっているのが、デジタル証明書(VC: Verifiable Credential)である。
本章では、デジタル証明書が注目される背景として、データの信頼性やプライバシーをめぐる欧米と日本の制度整備および社会実装の動向を概観する。
まず、欧州では、eIDAS(Electronic Identification, Authentication and Trust Services : 電子識別、認証、および信頼サービス)として、EUの規制が2016年から施行されている。制度の異なる加盟国間で、信頼性のある電子取引・電子手続き・本人確認などを実現することを目的とする。2024年にはeIDAS2.0が施行され、2026年までに加盟国は国民が欧州デジタルIDウォレット(EUDIW : European Digital Identity Wallet)を利用できるようにすることが義務付けられている。
米国では、モバイル運転免許証(mDL : Mobile Driver's License)として、従来の物理カードに代わる、スマートフォンなどに搭載されたデジタル型の運転免許証が、2021年から各州で導入が進められている。デジタル署名による改ざん耐性・真正性を活用することで、運転免許証の券面偽造や不正借用などに対処できる。
日本では、Trusted Webと言われる政府のイニシアティブのもと、Webで流通するデータの信頼性を確保する仕組みとして、技術検証、ユースケース検討などが行われてきた。また、日本政府はデジタル社会の基盤としてマイナンバーを位置付けており、マイナンバーカードのスマートフォンへの搭載などの対応を進めている。
金融庁は2026年9月に「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」を立ち上げ、デジタル証明書などをAIエージェントが利用できるようにすることで、オンチェーンでの各種取引における信頼性の向上や利用者の利便性向上などに資することへの期待について言及している。
デジタル証明書は、制度・技術の検証段階から、ビジネスの信頼基盤として具体的な活用を検討する段階に移りつつある。