AI CoEによるAIトランスフォーメーションの本格推進 第3回 AIトランスフォーメーションを加速するアライアンス機能

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2026.10.22
  • テクノロジー・トランスフォーメーション
  • AI
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生成AIは業務プロセスの自動化・半自動化へと活用範囲が広がっており、AIトランスフォーメーション(AIX)が本格化しつつある。こうした流れを受けて、全社的なAIXの加速、投資最適化、統制を目的に、AI CoE(Center of Excellence:中核組織)を立ち上げる企業が増えている。
本連載(全4回)では、AI CoEの立ち上げから実行に至るまでのアプローチについて解説する。

第3回では、AI CoE組織で具備すべきアライアンス機能を取り上げる。AI領域では内製化を志向する企業が増えているが、人材の獲得競争が激しさを増す中、必要な人材や技術をすべて自社で抱え続けることは、コストと組織の柔軟性の面で現実的とは言えない。自社で担う領域と外部の力を借りる領域をどう線引きし、その線引きをどのような運用で回すか。本稿では、AI CoEが直面する4つの壁を起点に、Make(内製)/Buy(購入)/Partner(協業)の判断基準と、窓口・承認・見直しの3つの定常業務を軸とした実践的なアプローチを解説する。

執筆者情報

  • 宮本 潤

    Director
  • 隈田 樹一郎

    Senior Manager
  • 清水 伸晋

    清水 伸晋

    Senior Manager
  • 田岡 将和

    田岡 将和

    Senior Consultant

内製回帰の潮流とその限界

本章では、当社調査をもとにAI領域で内製志向が強まる実態を示し、内製のみに頼る体制が抱える4つの限界と、AI CoEが外部活用で直面する4つの壁を整理する。

AIXの本格化に伴い、その司令塔としてAI CoEを立ち上げた企業が次に直面するのがリソースの壁である。長年、日本企業のIT・デジタル領域では、変革の大部分を外部ベンダーに委ねる「丸投げ」が課題とされてきた。その反省から、AIを競争力の源泉と位置付ける企業ほど、AI領域では内製化を志向する傾向が強い。

アビームコンサルティングが2025年11月に国内大手企業53社のAI推進責任者向けに実施した「生成AI利活用に関する成功要因調査」(以下、調査)の結果にもその傾向が表れている。生成AI活用を推進するうえでの組織・人材課題として、51%の企業が「人材不足」を挙げ、他の課題(部門連携不足、ガバナンス不備など)を大きく引き離した(図1)。さらに不足する人材の補完手段を尋ねると、「育成」48%、「採用」22%、「配置変更」7%と自前の手段に回答が集中し、「外部ベンダー活用」は22%にとどまった(図2)。人材不足を認識しながら、解決策は内製側に偏っている。

図1 生成AI推進上の組織・人材課題
図2 人材不足の補完手段

内製のみに頼る体制では越えられない4つの限界

しかし、自社のリソースだけでAIXを進めようとすると、スピード、専門性、雇用の不可逆性、リスク集中という4つの限界がある(表1)。

表1 内製のみに頼る体制が抱える4つの限界

とりわけ専門性の限界は調査の結果からも示唆される。期待を上回る効果を上げている企業ではデータサイエンティストがプロジェクトに関与する割合が71%と、期待を下回る企業(33%)より38pt高い傾向が見られた(図3)。高度専門人材の関与が成果を分ける一方、自由回答では「データサイエンティストの採用は給与水準的に難しい」「外部から採用するが他企業との取り合いが発生している」との声が複数挙がっており、採用による自前確保は容易でない。

図3 生成AIプロジェクトの職種別関与割合

つまり、「丸投げ」と内製一辺倒のいずれも解にはならない。問われているのは内製か外部活用かの二者択一ではなく、どの領域を内製し、どの領域を外部から獲得するかという境界の設計である。境界設計を誤れば、内製側では固定費化と組織の硬直化を、外部側ではロックインと重複投資を招き、いずれもAI投資の効率を損なう。そして、その境界を技術と市場の変化に応じて引き直し続ける仕組みを構築することが、AI CoEが担うべきアライアンス機能の中核となる。

AI CoEが外部活用で直面する4つの壁

もっとも、境界設計の重要性を認識していても、その実行は容易ではない。調査の自由回答には「生成AI活用を推進できる人材が圧倒的に不足しており、外部からの支援で対応中」という声があり、多くの現場では戦略の整備を待たずに外部リソースの活用が既に始まっている。こうした状況で、AI CoE責任者が直面する壁は次の4つに集約される。

  • 壁1 不足リソースの特定困難:目指す事業モデル・業務像が定まっておらず、自社リソースの過不足を正確に特定できない。
  • 壁2 外部活用の判断基準未設定:何を内製し、何をどの条件で外部から獲得するかの全社統一の基準がなく、事業部門ごとに個別最適の判断が行われる。結果として、同種のツールを複数部門が別々に契約する重複投資や、案件が分散することによる全社としての交渉力の低下を招く。
  • 壁3 外部活用時のガバナンス未徹底:共通のルールがないまま外部連携が進み、セキュリティ・データ保護上のリスクが高まる。「野良AIやエージェントがあちこちに生まれている」「事業部門がシャドーIT的に導入を推進し、社内データの流出リスクが発生した」という調査の自由回答は、ガバナンスの空白が既に現実のリスクとして表面化していることを示している。一方で、厳格すぎるガバナンスによりスピードが落ち、変化への対応が遅れることも課題となりうる。
  • 壁4 パートナーポートフォリオの固定化:技術トレンドやベンダー勢力図が急速に変化する中、一度構築した提携関係が固定化・陳腐化し、変化に追従できない。

これらは個別案件の問題ではなく、外部リソース獲得の「戦略」と「日常運用」の両方が未整備であることに起因する構造的な問題である。4つの壁には、それぞれに対応する処方箋がある(図4)。壁1「不足リソースの特定困難」には経営資源の棚卸しを、壁2「外部活用の判断基準未設定」には全社共通の判断基準と相談窓口の一本化を、壁3「外部活用時のガバナンス未徹底」には安全かつ迅速にアライアンスを進めるガードレールを、壁4「パートナーポートフォリオの固定化」にはパートナーの定期的な見直しを充てる。次章でまず壁1・壁2に対応する境界設計を解説し、続く章では、その基準を日常業務として回しながら壁3・壁4に応える運用の仕組みを解説する。

図4 4つの壁と処方箋の対応

内製・外部活用の境界設計

本章では、自社で担う領域と外部から獲得する領域の境界を引く手順として、経営資源の棚卸し、獲得手段の選択、Make/Buy/Partnerの判断基準の3段階を解説する。

経営資源の棚卸し:AI時代の5大経営資源で過不足を可視化する

境界設計の出発点は、自社の経営資源を棚卸しし、不足を可視化することである(壁1「不足リソースの特定困難」への処方箋)。アライアンス理論で用いられる経営資源の区分は、AI時代において次の5つ再定義できる(表2)。AI CoEが戦略として定めた重点アジェンダごとに、この5つの観点で「何が充足し、何が不足しているか」を洗い出すことで、外部から獲得すべき対象が具体化する。

表2 AI時代の5大経営資源と外部調達の優先度

※生産資源(工場・設備などの物的資源)は、AIの文脈では推論インフラやデータ基盤に相当し、技術・データ資源に含めて解釈できる

外部リソース獲得の6つの手段

不足する資源が見えたら、次はそれをどの手段で獲得するかである。なお本稿では「アライアンス機能」を、提携という個別手段に限らず、外部リソース獲得全般を統制する機能として広義に用いる。主な手段は市場取引からM&Aまで6つに大別でき、スピード・コントロール度・投資規模・ノウハウ蓄積のプロファイルが異なる(表3)。

表3 外部リソース獲得手段の比較

表3が示すとおり、スピードとコントロール度・ノウハウ蓄積はトレードオフの関係にある。そのため、対象領域が汎用か自社のコアかによって、どの軸を優先するかを決めることが手段選択の鍵となる。

ただし、手段の選択に先立って「なぜ外部から獲得するのか」を定義しておく必要がある。目的が曖昧なまま「AI先進企業との提携」というリリースだけが先行すれば、相互の価値交換が設計されない形骸化した提携に終わる。典型的な使い分けを2つのケースで示す。

Case 1:新サービス創出を目指す場合

アライアンスまたはJVにより、自社の業界知見・顧客基盤とパートナーのAI技術を掛け合わせる「共創」が基本形となる。調査結果でも、AIベンダーとの戦略的提携により業界特化LLM(大規模言語モデル)を共同開発し、将来的には業界向けの外部提供まで視野に入れる企業の例が見られた。

Case 2:業務の自動化・高度化を目指す場合

既製の生成AIサービスの購買やアウトソーシングが先行しやすいが、コアプロセスや機密情報を扱う領域では、アライアンス型のカスタマイズ開発により自社コントロールを確保する。また、インフラ・基盤層を現時点の価格・機能のみで選定すると戦略的ロックインのリスクを抱え込む。技術ロードマップの将来性を評価項目に加え、マルチクラウド/マルチLLMを前提としたアーキテクチャ方針を採る必要がある。

求める経営資源と手段をつなぐ判断基準

棚卸しで見えた資源の過不足と獲得手段を結び付けるのが、Make(内製)/Buy(購入)/Partner(協業)の判断基準である。重点アジェンダごとに「どの資源の不足は、どの手段で、どの条件なら外部から獲得するか」を全社共通のルールとして定義する(壁2「外部活用の判断基準未設定」への処方箋)。この基準が、次章で述べるアライアンス機能運用の前提となる。

表4は判断基準の設定例である。この例では、判断の順序をPartner、Buy、Makeとし、まずパートナーとの協業で実現すべきかを問い、次に購入で足りるかを問い、いずれにも当たらない自社固有の差別化領域に限って内製する。内製を最後に置くこの順序は、内製を「残す理由がある領域」に絞り込むための設計である。順序や条件は各社の重点アジェンダによって変わるが、基準を事業部門と共有できる問いの形で明文化しておくことで部門間の判断のぶれを抑えられる。

表4 判断基準の例

AI時代のアライアンス機能運用: 3つの業務の定常業務とナレッジ移転

本章では、判断基準を日常業務として機能させるためにAI CoEが担う「窓口」「承認」「見直し」の3つの定常業務と、外部の知見を自社に取り込むナレッジ移転の設計を解説する。

戦略と判断基準を整えても、運用が受動的なままでは壁は越えられない。多くの企業では、事業部門が個別に見つけてきたベンダーやツールをAI CoEやIT・法務部門が事後的に審査する、ゲートキーパー型の運用がとられている。先述した「野良AI」「シャドーIT」に関する懸念は、この運用に限界が現れたものといえる。事後審査を厳格化すれば推進スピードが落ち、緩めればガバナンス空白が広がる。この受動構造を転換するために、AI CoEが確立すべき定常業務は3つある(図5)。案件の入口となる「窓口」、案件リスクを審査する「承認」、パートナー構成を組み替える「見直し」である。

図5 AI CoEの3つの定常業務

業務1 窓口:相談の一元化とアセスメント

AIアライアンス案件の相談窓口を一本化し、初動段階で前章の判断基準を当てはめ、「既存の全社パートナーで解決できるか」「新規調達が必要か」を助言する。これにより部門の独自調達や重複投資を未然に防ぐと同時に、全社のニーズ情報がAI CoEに集約される。判断基準は、この窓口で日々使われることではじめて壁2「外部活用の判断基準未設定」への処方箋として完成する。なお調査結果では、期待を上回る効果を上げている企業はトップダウンで全社的なAI予算枠を確保している傾向が見られた。予算の権限が部門別のままでは調達は分散し続けるため、窓口の一元化は全社予算枠と一体で運用する必要がある。

業務2 承認:ガードレールに基づく迅速な承認

AI CoEの統制は、事業部門のスピードを損なわない設計とすることが前提となる(壁3「外部活用時のガバナンス未徹底」への処方箋)。PoC段階は、あらかじめ定めた安全の範囲(ガードレール)の中で事業部門に自由度を与えて短期間で承認し、本番展開時にのみセキュリティ・データ保護などの重点リスクを厳格に評価する。ガードレールの構成要素は、調査で先行企業が実際に運用している仕組みが参考になる。具体的には、情報のランク分けによる利用可否の線引き、承認済みモデルのリスト化、プロンプト・ログ監査、外部モデル利用時の契約チェックなどである。「この範囲内なら数日で承認」という基準を事前に公開しておくことが、ガバナンスと組織学習の両立につながる。調査結果でも、期待を上回る企業ではこうした利用ガイドラインが「整備済かつ定期的に更新されている」割合が高い傾向が見られた。ガードレールは一度作って終わりではなく、技術や法規制の変化に応じて更新し続けることが前提となる。

業務3 ステージ管理・見直し:協業の進捗管理と四半期のポートフォリオレビュー

個別の協業は、情報収集、提携内容の協議、検証、ビジネスコミットといった段階(ステージ)に分けて進捗を管理する。AI領域は技術の入れ替わりが速いため、各段階に判断の期限を置き、期限が来たら次へ進めるか止めるかを決める。協議を長引かせないことが管理の要点である。

この管理を人手だけで回すのは現実的ではない。AI CoE自身がAIを使い、ステージ情報の鮮度を保つ工夫が有効である。例えば、候補パートナーの製品更新や資金調達、価格改定といった外部情報をAIエージェントに継続的に収集させ、情報収集段階を常に最新の状態に保つ。協議の議事録やメールから進捗を読み取らせ、判断期限の超過や停滞を検知する。既存ベンダーの代替候補を市場情報から定期的に提示させ、ロックインの兆候を早期に把握する。AIが収集と検知を担い、進めるか止めるかの判断は人が下す。この分担により、少人数のAI CoEでも多数の協業を並行して管理しやすくなる。

ポートフォリオ全体は、四半期ごとに見直す(壁4「パートナーポートフォリオの固定化」への処方箋)。ステージ管理で蓄積した進捗情報をもとに、成果の出ていないパートナーの入れ替えと、協議が滞ったままの候補の除外を定常的に行い、空いた枠を新たな候補に充てる。撤退を円滑に進めるため、契約時点でExit条項(撤退条件)や成果指標を織り込んでおく。ただし、見直しの基準は階層で変える。ツール・ベンダー層は費用対効果と代替可能性で判断して入れ替え、戦略・共創パートナー層は共創成果と後述のナレッジ移転の進捗で判断し、中長期で協働する。見直しの基準を明文化し、四半期ごとに実際に入れ替えを行うことで、ポートフォリオの固定化を防ぐ。

「使う」で終わらせないナレッジ移転

3つの定常業務は外部リソースを安全に速く「使う」仕組みだが、それだけでは外部依存が固定化する。戦略・共創パートナーとの協働には、第1回で述べた「組織的学習機能(3つの再利用)」を適用し、成果物の共通資産化、協働体制への自社人材の計画的な組み込み、案件終了時に内製化の範囲を判断するレビューを、あらかじめ設計しておく。内製と外部活用の境界は、一度引いて終わりではない。学習の進展に応じて、外部にある能力をいつ・どこまで内側に取り込むかを判断し続けることが外部依存の固定化を防ぐ。

AIXを加速する外部リソース獲得に向けて

本稿では、AI CoEが直面する4つの壁を起点に、内製と外部活用の境界を設計し、変化に応じて引き直し続けることがAIX推進の戦略要件であることを述べた。その実行は、経営資源の棚卸し、判断基準の策定、窓口・承認・見直しの定常業務の確立、ナレッジ移転の設計という順で進めることが有効である。アビームコンサルティングは、外部活用戦略の策定から経営資源の棚卸し、定常業務の設計・定着、ナレッジ移転まで、AIXを推進する企業を一貫して支援している。

第4回では、生成AI活用を加速させる組織ブランディング、社内外へのコミュニケーションについて取り上げる。次回もぜひご覧いただきたい。

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