セミナー後半の座談会では、SGホールディングス、Booost、アビームコンサルティングの3社が、SSBJ対応を見据えて進めたシステム基盤刷新の取り組みを振り返った。
SGホールディングスグループは、佐川急便を中核とする総合物流企業グループである。45以上の国と地域に200社を超えるグループ会社と、約1,600以上の拠点を有し、多数の車両やエネルギーを使用する物流企業として、環境対応を経営課題の一つに位置づけている。2028年3月期からのSSBJ適用を見据え、十分な準備期間を確保するため、早い段階から対応に着手した。
同社グループでは、それまで10年以上にわたり独自開発した環境管理システムを利用していた。主な集計対象は国内のエネルギー使用量や料金で、Excelで集計する拠点やシステム対象外のグループ会社も存在した。データ入力には手作業も多く残り、集計に相応の工数を要していた。従来の任意開示には対応できていたものの、SSBJによる法定開示や第三者保証を見据えると、これまでの仕組みのままでは対象範囲の拡大に対応しにくい。そこで、より広い範囲から、正確かつタイムリーにデータを収集できる基盤への刷新に踏み切った。
プロジェクトは、2026年4月の新システム稼働から逆算し、2024年にスタートした。目指したのは、単なる開示・保証対応ではない。国内外の環境情報を一元管理し、その先で蓄積したデータを経営判断や戦略にも活用できる基盤である。
一方、SGホールディングスのESG推進部門にとって、本格的なシステム導入は初めての経験だったという。
「体制づくりや予算化、スケジュールなど、何から始めていいのかも分からず、手探りの状況でした。そうした土台の部分からアビームコンサルティング様に支援してもらいました」(SGホールディングス 平本氏)
アビームコンサルティングは、プロジェクト立ち上げ段階から、大きく3つの観点で支援した。第一は、現状の洗い出しである。実際の業務現場に入り、画面への入力作業や操作時間まで確認しながら、業務全体の流れとボトルネックを可視化した。第二は、To-Be(あるべき姿)の設計である。現状を踏まえ、booost Sustainabilityの標準機能で対応する領域、業務プロセスの変更で対応する領域、追加開発する領域を切り分けた。第三は、効果の検証である。工数やコストの削減だけでなく、有価証券報告書の開示期限までに必要なデータを収集・集計できるのか、その先で非財務データをどのように分析・活用できるかまでを検討した。
さらに、プロジェクトを進めるうえでは、SGホールディングスグループの社内意思決定プロセスや組織特性への理解も欠かせなかった。外部からの提案をそのまま持ち込むのではなく、社内で誰に、どのような順番で説明すれば合意につながるのかを把握し、実行に移しやすい形へと落とし込んでいった。
「SSBJに向けてシステムを導入することはゴールではなく、スタートです。その先に何を目指すのか、そこへ至るためにどのようなステップが必要なのか。最初に全体像を一緒に描いたことが、その後のプロジェクトを進める上でも有効だったと思います」(アビームコンサルティング 豊嶋)
システム移行では、10年以上にわたり蓄積してきた独自要件を新システムへどこまで引き継ぐかが大きな論点となった。
既存システムは、長年の運用を通じてSGホールディングスグループの業務に合わせて作り込まれていた。それだけに使い勝手のよい機能も多かったが、すべてをそのまま新システムへ移行すれば、柔軟性や拡張性を損なうおそれもある。
「なぜこの機能があるのか、というところから明らかにする必要がありました。一方で、独自の要件をそのまま新システムへ移行すると、柔軟性や拡張性がなくなってしまうという懸念もありました」(SGホールディングス 平本氏)
そこで、既存機能の目的まで立ち返り、標準機能で対応するもの、業務変更で対応するもの、追加開発するものを一つひとつ整理していった。Booost側でも、追加開発が必要となる要件について、他社でも活用できるベストプラクティスとなり得るものは標準機能へ取り込むアプローチを採用した。
「標準で対応できない場合には、まず業務やプロセスの変更・工夫で対応できないかを検討します。そのうえで追加開発が必要なものについて、他社にも活用できるベストプラクティスとなりうる要件は、標準機能への取り込みを検討する考え方です」(Booost 中西氏)
こうした準備を経て、新システムは2026年4月に稼働した。現在はシステム操作の習熟と導入効果の検証を進めている段階だが、手入力からCSV取り込みへの切り替えにより、一部業務では入力負荷の軽減が見られている。また、稼働後のデータ集計も大きな混乱なく、予定したスケジュールで完了した。
「まだシステムの操作に慣れていないため、時間が劇的に減ったという段階ではありません。ただ、旧システムでは手入力が中心だった部分をCSVで取り込めるようになり、入力担当者からは工数が減ったという声が出ています」(SGホールディングス 平本氏)
今後は、Scope3や海外グループ会社へとデータ収集の対象を広げるとともに、集約したデータを各グループ会社でも活用できる体制を整え、脱炭素に向けた移行計画の策定や経営判断に活かせる指標へと発展させることも視野に入れている。