CX変革が停滞する企業の「競争力再構築」シナリオ ―「企業向けCX変革実態調査」から紐解く「3つの変革アプローチ」 ―

調査・ホワイトペーパー
2026.09.10
  • CX(マーケティング/セールス/サービス)
  • 顧客体験創出による事業成長
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CX(カスタマーエクスペリエンス)の重要性は理解し、施策も打っている。にもかかわらず、なぜ競争力向上につながらないのか――。こうした壁にぶつかる企業は少なくない。

アビームコンサルティングが472社を対象に実施した「企業向けCX変革実態調査)」では、95%の企業が何らかのCX変革に取り組む一方、CXを「業界内で圧倒的な強み」と位置づける企業はわずか5.1%にとどまることが明らかになった。多くの日本企業はCXを重要な経営テーマと捉え、顧客接点のデジタル化やAI活用を進めている。しかし「取り組んでも競争優位につながらない」という手応えの薄さが、投資の継続をためらわせている。同じようにCX変革へ取り組みながら、なぜ一部の企業だけが競争優位を築けているのか。その差はどこから生まれ、どうすれば確かな競争力へと結実させられるのか。

本インサイトでは、本調査の結果からこの差を生む要因を紐解き、停滞を打開するための具体的な3つの変革アプローチとステップを考察する。

執筆者情報

  • 家木 大輔

    家木 大輔

    Director

1. 「企業向けCX変革実態調査」のサマリー

今回、アビームコンサルティングでは、日本国内で事業を展開する企業のうち、売上規模1,000億円以上の日系企業(本社が日本にあり、主要な意思決定が日本で行われている企業)354社、グローバル企業(本社は日本だが、海外売上比率が高く、意思決定や事業運営がグローバルで行われている企業)96社、外資系企業(本社が海外にあり、日本法人として事業を展開している企業)22社の計472社を対象に「企業向けCX変革実態調査(以下、本調査)」を実施した。調査は、2026年3月3日~3月6日に、オンラインアンケート方式で実施した。

その結果、95%の企業が何らかのCX変革に取り組む一方、CXを「業界内で圧倒的な強み・選ばれる理由」にまで高められた企業はわずか5.1%にとどまることが明らかになった。多くの企業がCXに投資しながらも、明確な競争優位を築けずにいるのが実態である。

本調査から浮かび上がった論点は、大きく4つに集約される。

  • (1)

    CX投資の"分散"が競争力を阻む:推進に悩む企業は目的・ゴールが不明確なため、部門ごとの部分最適やトレンドテーマへ投資を分散させ、重点テーマへ集中できていない。

  • (2)

    差を生むのは「資金力」ではなく「仕組み」: 先進企業は、目的の明確化に加え、評価・インセンティブ制度によって組織を動かし、「成果と投資の好循環」を生み出している。

  • (3)

    先進企業でさえ、AIネイティブ時代の重点テーマは模索中:先進企業も「既存業務の効率化」が中心で、AIを前提とした「CX全体の再設計」には至っていない。ここに、推進に悩む企業が先回りできる勝機がある。

  • (4)

    勝ち筋は「3つの変革アプローチ」に集約される:①投資の集中(経営戦略化・成果可視化)、②人材不足への構造対応(外部知見活用と仕組み化)、③部門横断の連携(実行体制の型化と評価制度改革)——この3点が競争力逆転の起点となる。

(1)〜(3)が示すのは、CX変革の成否を分けるのが投資"額"ではなく、「重点テーマへ集中させる仕組み」の有無という事実である。だからこそ、推進に悩む企業に残された勝機は、先進企業がなお発展途上にある領域へ先回りして投資を集中させることにある。その具体策が(4)の3つの変革アプローチであり、本レポートで詳述する。

2. 日本企業におけるCX変革の現状

本章では、日本企業がCX変革のどの段階にあり、それがどこまで競争優位に結びついているのかを詳しく見ていく。

まず明らかになったのは、日本企業のCX変革がすでに着手の是非を問う段階を過ぎている事実である。現に、95%の企業が顧客接点の改善やデジタル強化、営業改革といった何らかのCX変革に取り組んでいる。しかしその一方で、CXを業界内で「圧倒的な強み」や「選ばれる理由」にまで昇華できている企業はごく少数にとどまるのが現状である。

業界ごとに多少の偏りはあるものの、日本企業全体(N=354社)でCXが「圧倒的な強み」になっていると回答した企業はわずか5.1%(18社)にすぎない。これに対して「他社と同程度」という回答が37.3%(132社)、「他社より劣っている・課題である」という回答が16.4%(58社)を占める(図1)。つまり、CXを明確な競争優位として確立できている企業は一握りであり、「他社と同程度」まで含めれば過半数の企業が自社のCXを「他社と同等以下」と認識している。

本インサイトでは、CXを業界内で「圧倒的な強み」と回答した18社の企業をCX先進企業(以下、先進企業)、「他社より劣っている・課題である」と回答した58社の企業をCX推進に悩む企業(以下、推進に悩む企業)と定義する。

図1 CX変革レベル分布

売上規模別に見ると、5,000億円以上の企業(N=244社)では「圧倒的な強み」が6%(15社)、「他社より劣っている」が18%(43社)であるのに対し、1,000億円以上5,000億円未満の企業(N=110社)ではそれぞれ3%(3社)、14%(15社)である(図2)。売上規模が大きい企業ほど、投資余力や専任体制を確保しやすいと考えられるため「強み」と回答した割合が僅かに高い。しかし同時に、課題を抱える企業の割合も大企業ほど高い傾向が見られる。この結果は、資金力や組織規模そのものがCXの競争力を決定づけるわけではないことを示唆している。

図2 売上規模別のCX変革レベル

CX変革レベルの差は、成果面にも表れている。「投資を大きく上回るリターンを生んでいる」または「投資に見合うリターンは出ている」と回答した企業は、先進企業の77.8%(18社中14社)に上る一方、推進に悩む企業はわずか1.7%(58社中1社)にとどまった(図3)。母数が限られるため断定は避けるが、CXを競争優位として確立できている企業ほど、投資対効果の実感も高い傾向がうかがえる。

図3 CX変革レベルによるCX投資に対するビジネス成果の差

では、なぜ同じようにCX変革に取り組みながらも、これほどの競争力の差が生まれてしまうのか。真の競争力を獲得するためには、どのようなアプローチをとるべきなのか。次章以降、本調査から得られたデータをもとに、その格差を生む要因と具体的な解決策を紐解いていく。

3. CX推進に悩む企業の実態

本章では、推進に悩む企業が抱える全体課題・組織課題と、投資が分散する構造的な要因を明らかにする。

推進に悩む企業における全体課題を見ると、「CXの目的・ゴールが明確でない/社内で共有されていない」が51.7%、「部門間の連携が不十分で、全社横断で進められていない」が48.3%、「CXを推進するための体制・責任者が十分に整っていない」が36.2%となっている。さらに組織課題に目を向けると、「顧客対応が属人で、体験品質にばらつきがある」が46.6%、「部門サイロにより顧客体験を横断的に設計・改善できていない」が43.1%を占める(図4)。

図4 CX推進に悩む企業の現状課題・組織課題

共通のゴールや推進体制を欠いた状態では、マーケティング、営業、カスタマーサポート、情報システムなどの各部門が、それぞれの立場から部門最適でCXの取り組みを進めることになる。

実際に、推進に悩む企業の現状の投資テーマを見ると、「デジタルプロセス・AIエージェント活用」が46.6%、「営業プロセス改革」が43.1%、「マーケティング施策・ROI最適化」が37.9%、「カスタマーサポート高度化」が37.9%など、部門ごとの取り組みにリソースが分散しているのが実態である(図5)。

こうした取り組みは現場の課題に対する打ち手としては合理的であるが、部分最適な取り組みにとどまりやすく、さらに投資を集中できていないために、CX全体の中で競争力を獲得するまでに至らない。また、「CX成果指標設計と可視化」への現状投資はわずか1.7%にとどまっており、CX全体を部門横断で評価・改善する状態に至っていない現状が浮き彫りになった。

図5 CX推進に悩む企業の現状投資テーマ

次に、将来の投資テーマを見ると、「現時点では投資対象が明確でない、または投資予定がない」が24.1%に上る。その上、将来の投資テーマは現状の投資テーマよりもさらに分散傾向が強まっている(図6)。この結果は、推進に悩む企業が既存の取り組みを終えた後に「次に何をすべきか」の確固たる指針を持てず、その時々の技術トレンドに翻弄されている状況を物語っている。

図6 CX推進に悩む企業の将来投資テーマ

つまり、推進に悩む企業の実態とは、CXの目的・ゴールが不明確であるがゆえに、部門ごとの部分最適やトレンドテーマへと投資を分散させてしまっている姿である。結果として、CX全体の中で「他社にない強み」を創り上げるべき重点テーマへ、戦略的に投資を集中できていないことが本質的な課題である。

4. CX推進における投資方針の違い

本章では、先進企業と推進に悩む企業の投資方針を対比し、両者を分ける「戦略型」と「コスト削減型」の思想の差を読み解く。

調査結果では、先進企業と推進に悩む企業では、CXへの投資方針にも明確な思想の差異があることが明らかとなった。

「短期ROIが見えなくても、長期的な競争優位・ブランドに資するなら投資する」という戦略型の投資方針を持つ企業は、先進企業では27.8%に上るのに対し、推進に悩む企業では5.2%と極めて低い。一方で、「コスト削減効果が明確な場合のみ投資する」というコスト削減型の投資方針は、先進企業が5.6%にとどまるのに対し、推進に悩む企業では25.9%と高い割合を占めている(図7)。

図7 CX推進に対する投資方針

この結果に対し、「先進企業はすでにコスト削減の取り組みを一通り終えているからではないか」という見方もあるかもしれない。しかし、新たな施策を展開する以上、どのような企業であってもコスト削減の要求が完全になくなることはない。そうした環境下にあっても、目先のコスト削減より戦略型の投資に重きを置いている点にこそ、CXを通じて業界内の競争力を獲得しようとする先進企業の強固な意志が窺える。

推進に悩む企業がコスト削減に重きを置くのは、それが「短期的に効果を可視化しやすい」ためである。問い合わせ件数の削減、対応時間の短縮、オペレーション工数の削減など、現場レベルの成果は定量化が容易であり、投資稟議における社内説明や合意形成のハードルも比較的低い。しかし、先進企業のスタンスが示す通り、コスト削減を積み重ねるだけでは真の競争力獲得には至らない。この投資方針を継続している限り、先進企業との格差は埋まりにくい。

では、推進に悩む企業は、経営層が投資方針さえ変えれば競争力獲得に踏み出すことができるのだろうか。過去に、投資方針を戦略型へと切り替えようと試みた企業も少なくないはずである。しかし、それでも思い通りに進まなかった組織的な障壁やジレンマこそが、今回の調査結果に色濃く表れていると考えられる。

組織の壁を越えて競争力を獲得するために、どうすればCX全体の中から重点テーマを選定し、戦略的に投資を集中させ、全社を挙げた実現へと推進することができるのか。次章では、一歩先を行く先進企業の実態を深く掘り下げ、その具体的なアプローチを考察する。

5. CX先進企業の実態

本章では、先進企業と推進に悩む企業を比較し、両者を分ける決定的な差がどこにあるのかを明らかにする。

調査結果からは、先進企業が「目的の明確化」と「組織を動かす仕組み」を両立させ、成果への好循環を生み出している実態が浮き彫りになった。

まず全体課題を見ると、「CXの目的・ゴールが明確でない/社内で共有されていない」は、推進に悩む企業の51.7%に対し、先進企業ではわずか5.6%と顕著に低い(図8)。目的やゴールが全社に深く浸透しているがゆえに、先進企業は「CX施策の優先順位や意思決定が定まっていない」という迷走状態に陥ることなく、投資すべき重点テーマを的確に絞り込めていると考えられる。

また組織課題においても、「経営層と現場のCXに対する認識にギャップがある」という回答は、推進に悩む企業の25.9%に対して先進企業は5.6%にとどまる(図9)。経営層のコミットメントと深い理解が現場の安心感を醸成し、担当者がボトムアップで重点テーマの選定や変革に挑戦しやすい環境を生んでいると考えられる。

図8 CX推進上の全体課題
図9 CX推進上の組織課題

さらに、部門を超えた連携を後押しする仕組みにも、両者には決定的な差が存在する。部門連携を促す仕組みに関する設問では、「部門横断の顧客指標が各部門長のボーナス査定に直結している」が16.7%(推進に悩む企業は1.7%)、「成功事例への表彰やスポットボーナスがある」が27.8%(推進に悩む企業は5.2%)であり、先進企業がいずれも顕著に高い数値を記録した(図10)。先進企業は、こうした評価・インセンティブ制度を構築しているからこそ、現場の担当者はそれらを「自分事」として捉え、部門を横断してCX変革を強力に推進できていると考えられる。

推進の原動力を現場の「精神論」に依存しがちな推進に悩む企業とは異なり、先進企業は制度によって組織を動かし成果につなげている。成果につながるからこそ、経営層も次なる投資へと前向きに資金を投入できる。この「成果と投資の好循環」の構造こそが、先進企業が圧倒的な競争力を獲得できた本質的な要因と考えられる。

図10 CX推進において部門を超えた連携を後押しする仕組みの有無

実際に、CX先進企業の現状投資テーマを見ると、「マーケティング施策・ROI最適化」が72.2%、「ターゲット戦略・顧客セグメント・ABM」が66.7%、「営業プロセス改革」が61.1%と高い(図11)。売上成長や競争力向上に直結するテーマへ集中的にリソースが投入されていることがわかる。さらに、将来の投資テーマにおいては、「CX成果指標設計と可視化」「CX組織・人材・評価制度の変革」、そして先進AI活用へと、投資の領域を着実に広げている(図12)。

図11 CX先進企業の現状投資テーマ
図12 CX先進企業の将来投資テーマ

しかし、現時点で競争力を獲得している先進企業であっても、その優位性を維持するための次なる課題も同時に顕在化している。先進企業の現状課題を見ると、「CXに必要な人材・スキルが不足している」が61.1%、「顧客データやCX指標(NPSなど)を十分に活用できていない」が50%に上る。これは、推進に悩む企業(それぞれ39.7%、13.8%)を大きく上回る数値である(図8)。

取り組むべき重点テーマが明確に見えているからこそ、それを実行に移すための「専門人材の確保」と、成果を精緻に把握するための「データ・指標による成果可視化」という、より高次元な課題が浮き彫りになっていると考えられる。事実、将来の投資テーマとしても、「CX組織・人材育成・評価制度の変革」が16.7%、「CX成果指標設計と可視化」が22.2%と、競争力を維持するための強固な基盤整備を現在進行形で進めていることが伺える。

一方で、AI活用領域に目を向けると、興味深い実態が見えてくる。先進企業は、推進に悩む企業に比べてAIの活用自体は先行している(図13)。しかし現時点では、顧客対応(チャットボット/音声ボットなど)や顧客データ分析・セグメンテーションといった「既存業務の高度化・効率化」が中心である。つまり、推進に悩む企業と同様にAIを前提とした「CX全体の再設計」にまで至っているわけではないことが分かる。投資先もまだ分散傾向にあり、「AIネイティブな時代において、改めて何を重点テーマとすべきか」という論点は、先進企業にとってもなお未解決である。

図13 CX推進におけるAI活用領域

先進企業が成果可視化を重視しているのは、既存施策の継続是非を判断するためだけではなく、AIを前提とした「CX全体の再設計」を見据え重点テーマを再定義する上で、その投資対効果をあらかじめ精緻に把握しておく必要があるためと考えられる。

また、AI活用が加速したとしても人材不足がすべて解消するわけではない。施策運用の自動化や効率化によって現場のオペレーション負荷は一部軽減できるものの、新たなCX変革を牽引する専門人材は依然として不可欠である。それどころか、CX全体のグランドデザインや全社横断の意思決定といった高付加価値領域を担う「高度人材」の重要性はむしろ高まっていく。先進企業では、こうした専門人材の育成や採用強化、さらには組織改革をセットで進めることで、この深刻な人材課題に対応しようとしている。

このように、先進企業は現時点で優位に立っているものの、その持続に向けた「成果可視化」「人材・組織改革」、そして「AI時代の重点テーマ見直し」は依然として途上にある。

これこそが、現在推進に悩む企業にとっての最大の勝機と言えるだろう。旧来の部分最適の改善を脱し、AI時代を見据えた重点テーマへ先回りして投資を集中させ、全社一丸となって推進することができれば、先進企業との差を一気に縮め、逆転の競争力を築くことは十分に可能である。

6. CX推進に悩む企業の処方箋 ― 競争力を築くための3つの変革アプローチ ―

推進に悩む企業が真の勝ち筋を見出すには、まず「顧客起点」の本質に立ち返る必要がある。企業の競争力とは、その本質において「顧客に選ばれる理由」そのものだからである。AI時代の到来によってどれほど顧客とのデジタル的な距離が縮まろうとも、ターゲット顧客ごとに自社の強み・弱みを見極め、「なぜ自社でなければならないのか」を掘り下げる重要性は変わらない。

本章では、先行する先進企業との差を縮め、さらに先回りして競争力を築くための「3つの変革アプローチ」を、それぞれ具体的なステップに落とし込んで提示する。

一方で、企業変革はそれ自体が目的ではない。目的はあくまで「顧客に選ばれる理由」の創出であり、変革はそのための手段に過ぎないことを常に念頭に置くべきである。

アプローチ①:CXの経営戦略への昇華と「成果可視化」による投資の集中

第1に変革すべきは、CXを現場の局所的な改善活動から、「企業価値を最大化するための経営戦略」へと再定義することである。全体最適の視点から自社の強みを構築すべき重点テーマに絞り込み、リソースを集中投下する仕組みづくりが不可欠となる。これを単なるスローガンに終わらせず、経営戦略の枠組みへ組み込むためには、以下の3つのステップによる「経営管理サイクルの確立」を具体化する必要がある。

  • 全社成長戦略への位置づけ:CXを単なる営業・マーケティングの施策ではなく、企業の持続的成長を支える「非財務資本(社会・関係資本)」の蓄積活動として定義し、中期経営計画など企業戦略の最重要アジェンダの一つとする。
  • CX経済性の立証(成果可視化):経営指標(売上、営業利益、LTV、解約率など)と顧客体験指標(NPS、CSATなど)の相関関係を数理モデルなどで明確にする。「どの顧客体験指標が1ポイント改善すると、いくらの財務成果が生まれるか」という因果関係を解明する。
  • 「戦略枠予算」の確保と選択・集中:短期的な自部門の成果に左右されやすい既存の部門予算とは別に、経営直下に全社共通の「CX戦略投資予算」を確保し、最優先テーマへトップダウンで機動的に投資する。

先進企業が成果可視化の取り組みを将来投資テーマとして重視しているように、推進に悩む企業においてもこの仕組みの構築は急務である。どの接点のどの施策が新規獲得・離脱防止に繋がり、最終的な企業価値へ直結するのか。この変革アプローチを通して、「経営層から現場までが最優先すべき重点テーマを共通理解している状態」を構築することが極めて重要である。

アプローチ②:外部知見の戦略的活用と、仕組み化による「人材不足」への構造的アプローチ

第2に、多くの企業が直面している「CX専門人材の不足」という壁の突破である。自社での人材育成や採用強化は不可欠だが、戦力化には相応の期間を要する。競合他社に先んじて重点テーマを推進し、競争力を早期に確立・維持するためには、コンサルティングファームをはじめ、外部の専門人材や知見を活用することが現実的かつ有効な解となる。

なお、人材不足に関しては本調査における外資系企業のデータから非常に示唆深い特徴が確認された。全体課題の中で「CXに必要な人材・スキルが不足している」と回答した割合は、日本企業全体の48.9%に対し、外資系企業は36.4%にとどまる(図14)。この背景にあるのが、組織構造・プロセスの違いである。「IT部門とビジネス部門の連携が十分でない」は日本企業の32.2%に対し外資系企業は9.1%、「稟議・承認プロセスが多く、CX改善のスピードが遅い」は日本企業の23.2%に対し外資系企業は4.5%と顕著に低い(図15)。これは、外資系企業が明確な役割分担、円滑な部門連携、迅速な意思決定プロセスといった組織の仕組み化によって、人材不足による影響を構造的に抑制している可能性を示唆している。

図14 CX推進上の全体課題(日本企業 vs 外資系企業)
図15 CX推進上の組織課題(日本企業 vs 外資系企業)

この「外部知見の活用」と「組織の仕組み化」を両立させ、人材難を構造的に解消するために、以下の3つのステップによる「高生産性な変革推進体制」の確立が求められる。

  • 外部パートナーを活用した「重点テーマの垂直立ち上げ」:重点テーマ推進にあたり人材が育つのを待つのではなく、初期フェーズから外部の専門人材・専門知見を取り入れる。これにより、短期間で目に見える成果や早期の成功体験を創出し、社内の変革機運を高める。
  • パートナー伴走型の「リスキリングとノウハウの内製化」:外部への単純なアウトソーシングで丸投げにせず、外部の専門人材と自社メンバーが協働する体制を組む。実際のプロジェクト推進を通じて、社内メンバーへ実践的なCXスキルや方法論を移転させ、中長期的な自立化を推進する。
  • 外資系企業に倣った「意思決定プロセスのスリム化と役割明確化」:業務プロセスそのものを再設計する。具体的には、承認ステップの削減や電子承認の徹底による「稟議スピードの向上」、およびIT部門とビジネス部門の定常的な協働動線を確保するための「役割の明確化」を行い、少人数の専門人材でも最大のパフォーマンスを発揮できる「高効率の実行体制」を確立する。

短期的にはコンサルティングファームなどを戦略的に活用して競争力を垂直立ち上げしつつ、その推進過程で社内にノウハウを蓄積して自走する。並行して、外資系企業のように個人のスキルに依存しない効率的な連携プロセスを標準化していく。この変革アプローチを通して実現すべきは、「少数の専門人材であっても、全社を巻き込んで迅速にCX施策を実現し、自律的に改善サイクルを回し続けられる組織状態」である。労働人口の減少や専門人材の獲得競争が激化する日本市場だからこそ、この「属人化しない高効率な推進モデル」の確立が持続的な優位性を確保する最大の防壁となる。

アプローチ③:「実行体制の型化」による部門横断連携の確立と表彰・評価制度の変革

第3に、組織の壁を越えた連携を後押しする仕組みの構築である。CX重点テーマは全社一丸での推進が不可欠だが、従来の部門最適の組織構造や評価制度がその足枷となっている。CX変革の成功確率を引き上げるためには、部門横断で自律的にビジネスが回る「実行体制の型化(仕組み)」だけでなく、表彰やインセンティブによる「評価制度の刷新(動機付け)」を同時に確立する必要がある。具体的には、以下の4つのステップによる「部門横断型の顧客価値創出サイクル」を構築する。

  • 顧客起点での横断組織の常設:事業部や職能(営業、マーケティング、カスタマーサポート、情報システム)の壁を越え、カスタマージャーニーごとに責任を持つ「全社横断の専任プロジェクト組織」を常設し、既存部門の利害から離れて「顧客起点」で議論・意思決定できる体制を確立する。
  • 顧客データの一元管理と全社へのリアルタイム共有:部門ごとに分断されている顧客データ(購買履歴、行動ログ、問い合わせ内容、NPS回答など)を統合データ基盤(CDPなど)に一元化する。全社へ開放することで、全部門が共通の「事実」に基づいて施策を議論・実行できる環境を整える。
  • 部門間における「連携ルールと対応基準」の標準化:カスタマーサポートが受け付けた顧客の声に対し、どのような基準で優先度を判断し、開発・IT部門へ共有して、何日以内に改善を完了させるか、など部門間の役割と期限を明確に定義する。個人や部門の善意に頼るのではなく、業務プロセスとしてルール化することが不可欠である。
  • 成果に応じた「評価・表彰制度」の導入:「実行体制の型化」の構築と並行し、先進企業が実践している評価の仕組みを導入する。具体的には、顧客満足度やNPSといった全体の指標を、各部門長のボーナス査定に連動させることや、部門の壁を越えて成果を出したプロジェクトへの表彰・特別手当の支給を行う。これにより、現場の主体性と「自分たちの課題である」という当事者意識を自然に高める仕組みをつくる。

共通の組織とデータ、明確な運用ルールという「強固な枠組み」をつくり、評価と表彰という「強力な動機付け」を掛け合わせる。これにより、これまでの縦割り組織にありがちだった「自部門の利益や都合」を最優先する内向きの力学を根本から排除する。この変革アプローチを通して構築すべきは、「フロントからバックオフィスに至る全部門が、顧客データを共通言語として扱い、自発的に連携して実現・改善し続けられる状態」である。個人の善意や精神論に依存せず、組織の仕組みとして「顧客起点」を日常の業務に溶け込ませてこそ、先進企業に匹敵する持続可能な全社推進力を獲得できる。

以上、提示した3つの変革アプローチは、あくまで推進に悩む企業が停滞を打破するための骨子にすぎない。実際の変革において極めて重要なのは、自社の組織風土や既存のIT資産、現状の人的資源に応じて、これらのステップを最適にカスタマイズし、独自のロードマップへと落とし込むことである。企業の置かれた状況によっては、アプローチの順序を入れ替え、まずは「データの一元管理」や「評価制度の刷新」から部分的に先行着手するといった機動的な進め方も求められるだろう。

既存の枠組みにとらわれることなく、自社固有の強みを活かした独自の具体策へと昇華させ、将来における圧倒的な競争力の獲得、部門横断での持続的な競争力の維持に向けて、確固たる決意でCX変革へと踏み出していただきたい。

おわりに

本調査を通じて、推進に悩む企業の実態が浮き彫りとなった。目的やゴールが明確でないまま、顧客接点の改善や効率化といった部分最適な取り組みを重ね投資が分散した結果、独自の競争力を築ききれずにいる企業は少なくない。

この状況を打破すべく、先進企業や外資系企業の事例をもとに「3つの変革アプローチ」を提示した。ただし、これらを実際に推進する際には、制度や仕組みの設計と同等に、現場の理解や配慮が重要になる。

推進に悩む企業において、現場の担当者たちは決して手をこまねいていたわけではない。多くの場合、既存の仕組みや組織構造の制約のなかで、限られたリソースを工夫しながら取り組みを続けてきた。

このような現場の実態を把握せず、経営層が強力なトップダウンのみで抜本的な変革アプローチを強制すればどうなるか。現場にとっては、これまでの努力が否定されたと感じるだけでなく、新たな重点テーマの提示による負荷を強いる結果となり、心理的抵抗を招きかねない。それは変革の推進を阻む最大の障壁となり得る。

したがって、変革の実行においては単に制度の刷新にとどまってはならない。既存の取り組みの価値を正当に評価し、現場が抱える実質的な負荷や制約を深く理解した上で、経営層と現場が目指すべきビジョンと具体的な進め方をすり合わせる「丁寧なコミュニケーション」が不可欠である。

アビームコンサルティングは、CXの目的・ゴール設計を通した経営戦略の見直し、成果の可視化、重点テーマの選定・構築・定着化、そして部門横断の連携を可能にする組織改革や意識改革まで、全社変革を一貫して支援する体制を有している。戦略の立案能力や制度や仕組みの設計力だけでなく、変革の主役である現場担当者に伴走し、構想から確実な成果創出に至るまで、組織の現実に即して実行する力が強みである。

CX変革の勝ち筋について、より具体的な進め方をご検討の際は、ぜひ一度ご相談いただきたい。


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