グループ連結会計の基盤統合とAIデジタル技術による「予測型経営」への転換

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2026.03.19
  • 経営戦略/経営改革
  • 財務会計/経営管理
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グローバル市場における競争環境の激化と不確実性の高まりは、企業経営の舵取りにおいてかつてないスピードと精度を要求している。特に日本企業が長年直面してきた「バックミラー型経営」、すなわち過去の数値を集計し、数ヶ月前の状況を振り返って意思決定を行う後追い型の管理手法では、変化の激しい環境に対応することが難しくなりつつある。
こうした状況の背景には、サステナビリティ開示の義務化(SSBJ対応)やROIC経営の高度化といった制度・経営要請の高まりに加え、AIをはじめとするデジタル技術の急速な進展、さらには深刻化する人材不足がある。これらに対応するためには、過去データの集計にとどまらず、リアルタイムに近いデータを基に未来を予測し、変化の兆しを捉えながら迅速に意思決定を行う「予測型経営」への転換が不可欠である。
本稿では、グループ連結会計の基盤統合を起点にAIをはじめとするデジタル技術を組み合わせ、予測型経営へ転換するためのアプローチを整理・提示する。

  • 阿部 勝矢

    阿部 勝矢

    Senior Manager
  • 橘 悟

    橘 悟

    Manager

連結会計を取り巻く環境変化

企業価値の軸足が有形資産からサステナビリティを含む無形資産へとシフトする中、連結会計は単なる財務報告の枠組みを超え、企業価値を統合的に可視化する基盤へと役割を拡張しつつある。本章では、連結会計を取り巻く環境変化を「制度」「技術」「経営」「人材」の4つの視点で整理し、予測型経営への転換を迫る構造的要因を明らかにする(図1)。

図1 環境変化の4つの視点

視点1. 制度 -非財務情報の統合とサステナビリティ開示の義務化-

財務情報と非財務情報の統合は、もはや任意の取り組みではなく、法的責任を伴う「事業継続の前提条件」へと位置づけが変わりつつある。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)によるIFRS S1・S2号の公表を受け、日本でもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が日本版基準の策定を加速させている。これにより、有価証券報告書を通じたサステナビリティ情報の開示は、実質的な法的義務として現実のものとなった。 この制度変更は、連結会計を「財務データの合算」から、「財務・非財務を含む多様なデータを統合・管理する仕組み」へと進化させることを求めている。加えて、サステナビリティ情報も財務情報と同などの厳格な内部統制と説明責任が求められる点は、連結会計の設定思想そのものの見直しを迫るものである。

視点2. 技術 -AIによるオペレーションの変革と自動化-

連結会計におけるIT活用は、従来の「集計の自動化」というフェーズを超え、AIによる「判断の自動化」と「異常検知の高度化」へと昇華している。AIがなぜその数値を異常と判断したのか、その根拠となる「ロジック」を可視化する説明可能なAI(XAI)の活用により、監査品質と効率の両立が現実的なものとなりつつある。
また、AI-OCRとデジタル・エージェントの融合は、従来のRPAでは不可能だった「文脈判断を伴う業務」を代替し始めている。例えば、AIが請求書を読み取り、過去の履歴から勘定科目を推論し、ビジネスチャットで承認を得た後、仕訳登録から支払リマインドまでを一連のプロセスとして自律的に実行するといった業務も実現可能となっている。

視点3. 経営 -予測型経営への強力な要請-

経営層のニーズは、過去の成績表を受け取ることではなく、限られたリソースをどこに配分すべきかを判断するための、「解像度の高いタイムリーな情報」へとシフトしている。また、資本効率を重視するROIC経営の導入が加速する中で、事業別・製品別といった粒度での資本配分や収益性の把握が、経営判断の前提条件となりつつある。しかし、複数事業を展開する場合、どの負債や資本投資がどの事業に紐付いているかを取引レベルで把握することは容易ではなく、結果として経営判断を鈍らせてきた。 この課題を打破するためには、システムに取引レベルでの詳細なデータ保持と、製品別・事業別など複数軸での柔軟なドリルダウン分析を可能とする基盤の実装が不可欠となっている。

視点4. 人材 -深刻な人材不足を打破するデジタルBPO戦略-

専門人材の枯渇と業務の属人化は、短期的には顕在化しにくいものの、中長期的には企業の存続やガバナンスを脅かすサイレント・リスクである。この課題を解決するためには、外部の革新を組織内に取り込む「デジタルBPO」への転換が不可欠と考える。従来のシェアードサービスセンター(SSC)は、グループ内の業務を集約するコストセンターとしての役割が主であった。しかし、縮小し続ける日本市場において、自社単独で優秀な人材を確保し続け、最新のDXノウハウを更新し続けることは現実的ではない。一部の先進的な企業では、SSCを「市場に開放」し、外部BPO企業が持つ最新の自動化ノウハウをビルドインすることで、変革のスピードと持続性を高めている。

連結会計のあるべき姿と課題

バックミラー型経営から予測型経営への進化

現代の企業経営においては、連結会計は単なる財務報告の手段ではなく、グループ全体の価値を最大化するための戦略的羅針盤として機能すべきである。
従来の連結会計は、各拠点で発生した事象を月次や四半期という区切りで締め、数週間をかけて集計するプロセスをとっていた。多くの企業はこの「バックミラー型経営」に多大な時間を費やしており、経営陣が数値を手にする頃には、意思決定に必要な情報の鮮度が失われているという課題を抱えている。
一方、「予測型経営」とは、企業活動にAIやアナリティクスを組み込み、状況把握から意思決定、実行までの一連のプロセスを連続的かつ高速に回すパラダイムシフトを指す。予測型経営では、連結会計システムは単なるデータの蓄積場所ではなく、将来の財務状況をシミュレーションし、リスクや機会を事前に可視化・検知するインテリジェンス・プラットフォームへと変貌を遂げることが求められる(図2)。

図2 連結会計のあるべき姿(予測型経営への進化)

実現を阻む4つの主要課題:足元の実務的障壁計

予測型経営の重要性は認識されているものの、多くの日本企業がその実現に苦慮している。その背景には、長年の慣習やシステム・データ設定の分断に起因する下記のような深刻な課題が存在する(図3)。

  1. 二重作業:制度連結と管理連結の乖離
    最大の障害は、「制度連結」と「管理連結」の乖離である。制度連結は、法的要件や会計基準に基づき、法人単位での正確性と網羅性を重視した合算を要求する。一方で、経営側が求める管理連結は、事業部別、製品別、プロジェクト別といった、法人格を跨いだ経営判断に資する粒度のデータを必要とする。この両者ではデータの粒度や切り口、持ち方が大きく異なるため、多くの企業では同じ実績データを別の形で作り直す「二重作業」が発生している。その結果、分析や将来予測に充てるべき時間を奪われ、連結会計が経営のスピードを制約する要因となっている。
  2. 複数基準対応:決算の複雑化
    グローバル展開が進む中、複数の会計基準への対応は、連結決算を構造的に複雑化させている。 特に、現地の法定基準で記帳している海外子会社の数値を親会社基準に組み替える作業は、専門的な知識と緻密な計算を要する。基準間の差異を調整するプロセスは、決算のリードタイムを延ばす主要因となっているだけではなく、属人的な判断に依存しやすい領域でもある。さらに、差異の内容を説明し、妥当性を担保するための監査対応負担も年々増大している。
  3. 開示スピード未達:タイムラグの壁
    予測型経営には鮮度の高いデータが不可欠であるが、現実には「開示スピード」が経営の意思決定スピードに追いついていない企業が多い。連結データの集計期間も依然として「締め日から数週間」という壁を越えられないケースが目立つ。多くの企業では、「前月の実績が確定する頃には、すでに当月も半ばを過ぎている」という状況が常態化しており、このタイムラグが将来予測やシナリオ分析の実効性を著しく低下させている。
  4. 内部統制リスク:属人化とプロセスの不透明性
    予測型経営の実現に向けてスピードを優先するあまり、内部統制が後回しになるケースも少なくない。属人化した連結処理は、計算ロジックのブラックボックス化を招き、計算ミスの発生や不正の余地を拡大させる。また、非効率な業務のままRPAなどのITツールを導入した場合、エラー発生時のリカバリーが困難になるなど新たな統制リスクを生むこともある。結果として、監査対応の長期化やガバナンス低下を招く要因となっている。

 

図3 予測型経営の実現を阻む「4つの実務的障壁」

これらの課題を解決し、予測型経営への道を切り拓くためには、テクノロジーの導入にとどまらず、連結会計を支えるデータ設計と業務プロセスを根本から再設計することが不可欠である。次章では、これらの障壁を乗り越えるための解決の方向性について整理する。

解決の方向性

前章で示した4つの主要課題には、業務面とIT・テクノロジー(AIを含むデジタル技術)の両面から一体的にアプローチすることが有効である。

  1. 二重作業に対する解決の方向性
    業務面では、マネジメントアプローチに基づくセグメント情報と管理粒度を、子会社を含む各社の実務実態および予算統制との整合を踏まえて設計し、制度連結と管理連結の「完全一致」を目指すのか、あるいは調整・組替で対応するかといった基本方針を整理・決定する必要がある。
    IT・テクノロジー面では、管理・分析に必要なデータ項目を担保しつつ、同一の財務実績を前提に、多様な切り口で柔軟に分析できる仕組みの整備が求められる。
  2. 複数基準対応に対する解決の方向性
    複数会計基準への対応は、業務設計のみならず、IT・テクノロジー面での対応が不可欠である。複数基準に対応した元帳管理の仕組みをあらかじめ備えることが必須であり、さらに基準差異に応じた組み替え作業をシステム上で自動化できれば、決算業務の大幅な効率化が見込める。
  3. 開示スピード未達に対する解決の方向性
    連結決算の早期化を阻害する要因の中でも、特にデータ収集が占める割合は大きい。早期化に向けては、業務面ではAIエージェントによる督促など、IT・テクノロジー面ではAPIによる自動収集が有効である。一方で、親会社と子会社で会計システムが異なる限り、一定のリードタイムは構造的に避けられない。さらに、内部取引照合の差異確認には一層の時間を要するため、後述する基盤統合を含めた抜本的な解決策が不可欠となる。
  4. 内部統制リスクに対する解決の方向性
    属人性やプロセスの不透明性を排除するためには、まず業務ルールそのものを効率化・簡素化したうえで、標準化されたプロセスにIT・テクノロジー(AIデジタル技術を含む)を適用することが有効である。あわせて、自動化の前提とした処理内容の文書化や、AIデジタル技術で用いる判断ロジック・パラメータ定義の明確化へ業務をシフトし、説明責任を担保することが求められる。

これら4つの実務的な課題の解消にとどまらず、連結会計を真に「予測型経営」へ進化させるためには、AIを含むデジタル技術の活用と基盤統合の両面から、連結会計を支える仕組みそのものを転換することが肝要である。

■ 連結会計へのAIデジタル技術の活用
AIを含むデジタル技術の進化と連結会計アプリケーションの機能動向を踏まえると、今後の連結会計は、業務プロセスごとにAI活用を前提とした設計へとシフトしていくことが想定される(図4)。

図4 今後の連結会計トレンド

AIデジタル技術との協働・共生に向けた3つの論点

従来は、勘定科目体系の標準化、連結調整の生成方法、Excel作業の削減といった観点で業務検討やアプリケーション選定が行われてきた。しかし、AIデジタル技術との協働・共生を前提とする場合には、新たな論点への対応と、業務整理および人とAIの役割分担の明確化が不可欠である。

  1. データの粒度・構造の整理
    AIデジタル技術を最大限に活用するには、データをAIが解釈・学習しやすい粒度・構造・体系に整備することが大前提となる。勘定科目・品目・組織・取引先などのグループ内のコード不統一は処理を難化させ、たとえ共通コードに変換できたとしても、変換表の維持管理という新たな業務負荷を生むリスクがある。
  2. 例外処理の削減
    AIデジタル技術は過去データから学習するため、未経験または発生頻度が極めて低い事象への対応には限界がある。そのため、例外時の対応方針を事前に定義するとともに、暗黙の了解やデータ偏りなど例外を生み出す要因そのものを低減しておく必要がある。
  3. 説明責任の担保
    AIデジタル技術のブラックボックス化を回避するためには、説明可能性(結果に至った理由)・透明性(処理内容や学習データの開示)・監査可能性(第三者による検証や再現性)を考慮したうえで、業務に適用するAIデジタル技術を選定する必要がある。

■ グループ連結会計の基盤統合
グループ経営に資する連結会計の実現に向けては、財務・非財務ならびに組織の壁を越えたデータ統合が重要である。グループ横断でデータ統合することにより、AIを用いた予測分析やサステナビリティ情報開示の義務化への対応が可能となる(図5)。

図5 グループ連結会計の基盤統合イメージ

こうしたデータ統合を実現する手段としては、親会社の単体会計と連結会計を同一基盤上で運用する方法が有力である。近年、ERPの連結会計機能が大きく進化しており、内部取引照合の前倒しや連結個社データへのドリルスル―、連結固有処理の自動化といった機能が実務レベルで利用可能となりつつある。加えて、将来的なデータ統合を見据え、個社データの収集方法についても選択肢が拡張・充実してきている。親会社の単体会計がERPで運用されている場合、連結会計も同一ERP上で運用することで、単体で保持・管理している財務実績、予算・予測、非財務データを連結へシームレスに連携・統合できる。
さらに、子会社の単体会計を親会社と同一基盤に統一すれば、スプレッドシートによる連結情報の作成・送付することなく、連結会計への自動連携が可能となる。加えて、連携粒度を明細レベルとすることで、内部取引照合の差異が生じた場合でも、明細データの参照のみで内容確認を完結させることができる。

連結会計を制度対応やグループ会社の経理間の効率化にとどめるのではなく、各社のマネジメントが主体的に関与し、最新のデジタル技術を最大限活用することで、未来志向の「予測型経営」を実現できる段階にきている。

具体的なアプローチ

予測型経営の実現に向けたアプローチは、「構想策定」「製品選定」「導入」の三つのフェーズに大別される。重要なのは、これらを単発の施策としてではなく、予測型経営への転換を見据えた一連の変革プロセスとして設計・推進することである。アビームコンサルティングは、豊富なIT導入プロジェクトの経験に基づき、クライアントの経営課題や価値創出の視点を起点に、個社ごとの業務・ITの実態に即した最新テクノロジーの知見を提供し、構想から定着まで一貫したプロジェクト推進を実現する。

【構想策定フェーズ】
業務・IT基盤の変革はグループ全体に影響するため、構想策定フェーズがとりわけ重要である。この段階での意思決定の質が、その後の投資対効果や定着度合いを大きく左右する。構想段階からグループ各社を巻き込んで検討することで、現実的なロードマップを策定できる。
まず、現状分析の一環として業務成熟度のアセスメントを実施し、連結会計(制度・管理)およびAIデジタル技術の観点から現状の課題と制約を可視化したうえで、目指すレベルを定義する(図6)。

図6 管理連結の業務成熟度モデル分析イメージ

ロードマップ策定では、クイックウィンの実行計画と最終到達レベルの実現スケジュールを整合させるとともに、グループ全体のIT投資計画や人材制約を踏まえた現実的な変革ステップとして整理することが重要である。

【製品選定フェーズ】
製品選定においては、最新のAIデジタル技術を評価軸に組み込みつつ、特定ベンダーに依存しない第三者・中立の立場で支援する。一方で、データ統合の観点からは、子会社の単体会計を早期に親会社基盤へ統一できないケースも想定される。そのため、連結会計アプリケーションの選定では、段階的な基盤統合を前提としつつも、当面の業務負荷を最小化できる柔軟なデータ収集・連結機能を備えていることが重要となる。

【導入フェーズ】
アビームコンサルティングは、IT導入およびグローバル展開の豊富なプロジェクト実績に加え、複数ベンダーが関与する大規模案件でのPMO実績を多数有しており、導入フェーズを安定的かつ確実に推進できる。
また、導入をゴールとするのではなく、稼働後は構想段階で描いた将来像の達成度を継続的に評価し、経営環境や制度要請、AIデジタル技術の進化に応じて改善を重ねていくことが不可欠である。

連結会計を取り巻く環境は、制度・技術・人材のいずれの観点からも、もはや部分最適では立ち行かない段階に入っている。
いま求められているのは、連結会計を単なる「決算・開示の仕組み」として捉えるのではなく、グループ経営を支える中核基盤として再定義し、AIを含むデジタル技術と一体で進化させることである。
アビームコンサルティングは、構想策定から導入・定着まで一貫して支援することで、連結会計を起点とした予測型経営への転換を、実行可能な現実解として提示し、企業変革を着実に前進させる。


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