AIを活用したトランザクションバンキング業務の効率化アプローチ

インサイト
2026.03.10
  • AI
  • 銀行・証券
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トランザクションバンキングは、資金管理・決済・貿易金融といった企業活動の基盤を支える重要な銀行サービスである。中でも送金業務では、近年処理スピードへの要求が一段と高まっている。一方、現状はアジアを中心に各国規制などへの対応に手作業が必要となるため、十分なスピードで処理できていないのが実情である。そのため、銀行内の手作業でのオペレーションの改善に注目が集まっている。複雑な手作業が残るこの領域において、膨大な変数を高速で処理しながら学習を通じて自動化・高度化ができるAIの活用は、有力な解決策の一つと考えられる。
本インサイトでは、銀行業務におけるオペレーション効率化を検討している担当者に向けて、トランザクションバンキングにAIを活用するための具体的なアプローチと、導入時の留意点を紹介する。

  • 渡部 拓也

    渡部 拓也

    Director
  • Rei Kubo

    久保 玲

    Senior Manager
  • 岸本 深希

    岸本 深希

    Manager

銀行業界の課題とAI

トランザクションバンキングを含む銀行業務全体には、さまざまな課題が存在する。その中でも、クロスボーダー送金・決済の高度化はG20においても重要なテーマに位置付けられており、2020年11月には「送金の安全性とセキュリティを維持しつつ、より早く、安く、アクセス可能で透明性の高い(faster, cheaper and more accessible and transparent)」クロスボーダー決済の実現に向けたロードマップがG20で承認された。「コスト」「スピード」「透明性」「アクセス」の4つの観点で、2027年から2030年末に期限を置いた目標が設定されている(図1)。

図1 国際送金における4つの課題への対応に関する目標

(参考)Financial Stability Board「Targets for Addressing the Four Challenges of Cross-Border Payments」https://www.fsb.org/uploads/P131021-2.pdf

Swift(国際銀行間通信協会)の2025年の調査によると※1、送金指図が送金側の銀行から受取側の銀行に届くまでの時間は、目標値である1時間以内に概ね収まっている。一方で、受取側の銀行が送金指図を受け取ってから受取人に入金するまでの処理には時間を要していると指摘されている。入金処理に時間がかかる要因としては時差などもあるが、送金・入金に関わる規制などに起因する手作業対応の処理や確認がボトルネックになっているケースが多い(図2)。

図2 受取銀行で入金処理完了までに時間がかかる要因

中でも特に時間を要しているのは当局報告への対応である。送金業務では、送金目的に応じたさまざまな確認と証憑の添付が求められ、さらに送金側や受取側の国によってルールが異なるため、処理が複雑化している。送金システムの導入は進んでいるものの、その大半は入出金処理を中心とした機能にとどまり、取引内容に応じた判断や確認は人手で対応しているケースも多い。これは、あらゆるパターンを網羅するシステムを実装することが容易ではないことに加え、規制改定へ継続的に対応し続けることが難しいためである。

また、コンプライアンス確認も、かつては入金処理時間長期化の要因となっていた。しかし、近年ではAIを用いたソリューションも多く登場しており、特に欧米およびアジアの大手銀行ではAML(マネー・ローンダリング対策)や不正検知の分野において機械学習を活用し、誤検知の削減とより高精度な検知を実現している。HSBCではAIを活用することで、検知数を上げつつも、誤検知の件数を約60%削減することに成功している。これにより、誤検知に対する詳細分析や顧客確認に費やされていた時間が大幅に減少するだけでなく、金融犯罪の阻止そのものの高度化にも寄与している。
さらに、貿易金融においても、AIを用いて船積書類や保証状などからデータを抽出し、自動照合・分類を行うことで、処理時間の短縮やミスの削減につなげる取り組みが進んでいる。貿易金融領域では紙からデジタルへの移行も動きがあり、アジアの主要国でも法整備やプラットフォーム導入が進むなど、今後さらにAI活用の広がりが見込まれる。

AIはパターン認識に優れており、定型的な確認であれば、AMLコンプライアンスは数秒~数分で完了できるケースもある。貿易金融においても、1件あたり30%〜70%程度の工数/処理時間の短縮※2も期待できる。AIによる時間短縮や業務効率化を図りつつも、金融業界で求められる正確性を担保すべく、一次対応にAIを活用し、その後に人が確認する手法を採用する銀行も増えてきている。

※1 (参考)Spotlight on Speed 2025
https://www.swift.com/ja/node/310345

※2 (参考)Impactsure implements an AIenabled trade finance solution for an Indian private sector bank
https://www.temenos.com/wp-content/uploads/2022/10/Trade-Finance-case-study-by-IBS-Intelligence_IMPACTSURE-TECHNOLOGIES_casestudy.pdf
(参考)Transform Trade Finance from Paper to Digital Excellence
https://acesw.com/solutions/trade-finance

技術潮流とデータ標準化

近年、金融業界においてAI活用が活発になっている背景には、AI技術の進歩に加え、国際的なデータ標準化の動きも大きく影響している。

技術潮流

AI技術は日々進歩しており、従来は人が担っていた文脈理解や判断業務についても、AIによる代替が可能となりつつある。取引内容の解析、リスク評価、書類の整合性チェックなど、複雑な判断を要する業務においても、AIは短時間で処理を行い、最適な対応を提示することが可能である。
加えて、マルチモーダルAIの進化も新たな可能性をもたらしている。テキストだけでなく、画像・音声・動画など複数の情報形式を同時に処理できることで、契約書や船積書類のスキャン画像、通話記録などを一括で解析し、判断に必要な情報を抽出することが可能となった。
また、AIは業務の「設計・実行・改善」を自律的に担う存在へと進化している。従来は一部工程の自動化に留まっていたが、現在ではAIエージェントが送金業務のフローを分析して、各プロセスの自動化範囲や人の判断が必要な箇所を自ら判断するなど、業務フローそのものを最適化する動きが加速している。複数の役割を持つAIエージェントが連携することで、処理時間の大幅短縮や品質向上につながり、トランザクションバンキングの効率性と競争力を根本から変革しつつある。

データ整備と標準化

AIの効果を最大限に引き出すためには、データの整備と標準化が不可欠である。2023年から2025年にかけて導入された国際金融メッセージ標準規格であるISO 20022により、送金電文データは構造化され、従来よりも30〜40%の追加情報が付加された。これはAIによる高精度な予測や自動化を支える重要な基盤となる。AIは構造化データを活用して、例外処理や照合業務の自動化、AML/KYC(顧客確認)の高度化を実現し、企業のERP(統合基幹業務システム)との連携による支払処理の効率化にも貢献する。従来は非構造化テキストや書類が多く、AIによる処理には限界があったが、ISO 20022によって送金情報が明確なフォーマットで整理されることで、AIが内容を正確に読み取り、判断することが可能となった。
こうしたデータ整備と標準化の取り組みによって、AIはより多くの業務を正確かつ迅速に処理できるようになり、STP(人手を介さず自動で処理が完結する仕組み)率の向上や業務の自動化を現実のものとしている。

トランザクションバンキング業務におけるAI活用例

AI技術の進化と送金データの標準化により、トランザクションバンキングには新たな活用可能性が広がっている。本章では、送金業務の処理時間課題の一つにもなっている当局規制対応に焦点を当て、AI活用の具体事例をご紹介する。

送金業務では、送金目的や関与する国の規制に応じて、各種ドキュメントや証憑の確認が求められる。これらの書類には、標準化された電子データから、非定型の紙媒体、さらには内容の精査を要する複雑な文書まで多様な形式が存在し、AIが得意とする処理も多く含まれている。

顧客からの送金依頼受付後、AIは送金内容や添付書類を解析し、各国の規制や銀行独自のルールに基づいて、証憑確認の要否を自動で判断する。証憑確認が必要と判断された場合は、その確認をAIが担うべきか、人手による対応が必要かを判断する。例えば、多角的な視点からの分析が求められるケースでは、人による対応が適切とされる。一方で、電子データや定型ドキュメントのように、形式が明確で内容の確認が容易な証憑については、AIによる自動確認が可能である。AIが自動処理可能と判断した取引については、契約書、インボイス、税務証明書などから必要情報を抽出し、送金目的との整合性を確認する(図3)。

図3 AIを活用した送金プロセス例

送金側、受取側それぞれの国と送金目的を基に、必要な証憑を人手で判断する場合、時間を要するだけでなく判断ミスも起こりうる。また証憑チェックにおいても、契約書のような膨大な量の文章を確認する作業は、人手よりもAIで行う方が格段に速い。
さらにAIは、各判定やチェックの中で、取引内容に不明瞭な点がある場合でも、自ら調べ、必要に応じて人に通知することも可能である。これは従来のシステムと大きく違う、AIの特長とも言える。例えば、送金依頼の中に送金目的が明記されていない場合、AIは過去の取引情報を参照し送金目的を予測することができる。必要なドキュメントの充足チェックにおいても、受領書類フォルダをスキャンし、その中身を確認して必要書類が揃っているかどうかを短時間で判断することが可能である。
定型ドキュメントはルールベースで処理し、非定型ドキュメントについては、過去データを活用したAI学習により判定精度を向上させる。判断が難しいケースでは、AIが「人による確認が必要」と自動で振り分けることで、効率性と正確性が保たれる。さらに、人による確認が必要とされた場合でも、AIが書類の分類や内容抽出を事前に行うことで、確認作業の負荷軽減が期待できる。

AI活用における留意点

AIは自動化、効率化に大きく貢献できる一方で、活用には注意すべき点もある。特に銀行業務においては正確性が重要であるが、AIの精度は入力されるデータの質に大きく依存する。ISO 20022による送金データの整備は進んでいるものの、非構造や非定型データ、属人化されたプロセスが多く存在するため、元データの品質に依存するAI判断の正確性は留意する必要がある。取り扱う内容や判断に必要な情報の性質に応じて、AIに判断を委ねるべき領域と、人の介入を残すべき領域を明確に切り分けることが重要である。
例えば、標準化された送金指図や請求書などの電子データを用いる確認であれば、AIが活用できる。また請求書や契約書などのPDFデータから金額や日付項目を抽出し、関連データとの照合を行う処理についても、AIの活用が有効である。一方で、文脈理解が必要な判断やAIが不一致として判断したものの再確認、顧客との直接的なコミュニケーションを伴う判断についてはAIではなく、人で行う必要がある。

このように、「データアーキテクチャー」(銀行システムのデータ構成をすべて俯瞰した上でのシステム建築)に加えて、AI適用範囲や例外処理ルールの明確化、AI判断結果に対するレビュー・チェック体制の整備といったガバナンス設計もAI導入を成功に導くか否かの鍵となる。

まとめ:AIを活用したトランザクションバンキング業務の変革とアビームの支援領域

AIは、特定処理を自動化するツールにとどまらず、AIが自ら目標や目的に沿って実行すべきアクションを判断し、自律的に業務フロー全体を遂行する活用も可能になりつつある。
しかし、AIを導入するだけでは、その高度な能力を十分に引き出すことはできない。送金取引プロセスにAIを導入する場合、証憑などの関連データを電子化・標準化する仕組みを整備するとともに、取引処理の過程で蓄積されるデータを、レポートの自動生成やマーケティング、顧客満足度の向上といった他領域の機能と組み合わせて活用することで、より大きな効果が期待できる。AIの効果を最大限に高めるためには、AIが機能するためのシステムスキームの構築や、利活用しやすいデータ環境の整備、ガバナンスの設計が不可欠である。
アビームコンサルティングは、業務知見とAI技術の双方に強みを持つパートナーとして、将来のビジネスを見据えた構想策定から実装・運用まで、価値創出の加速に向けた伴走支援を行っている。

<支援内容>

  1. AI活用戦略の策定/データアーキテクチャー
  2. データ整備(ISO 20022及び既存データを含めた)
  3. PoC設計・モデル精度検証
  4. 業務プロセス再設計
  5. AIガバナンス・運用ルール構築まで包括的への支援

今後もアビームコンサルティングは、AIを起点とした業務変革を通じて、トランザクションバンキング領域を含む銀行全体の業務高度化と価値創出に貢献していきたい。

 


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