CEATEC 2025から見えた「地域のスタートアップ共創を成功させる鍵」―オープンイノベーション実装への処方箋―

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2026.05.20
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2025年10月に開催されたCEATEC 2025では、「行政とスタートアップとのオープンイノベーションをどう進めていくか」をテーマに、2つのパネルディスカッションが実施された。1つは、愛知県の地域エコシステム形成と海外スタートアップとの協業実践。もう1つは経済産業省・NEDOによる国家政策と支援制度の全体像の紹介である。
政府、自治体、支援機関、民間企業という、それぞれ異なる立場からの議論を通じ、PoCにとどまることのない「真に実装される共創」の要件が明らかになった。本稿では両ディスカッションの要点をダイジェストで紹介する。

■ 登壇者

2025年10月15日(水)
愛知県企業×海外スタートアップ共創プログラム“Landing Pad”から紐解く「日本型オープンイノベーションのあるべき姿」

写真:左から
酒井智崇氏(愛知県庁 経済産業局 革新事業創造部 海外連携推進課 海外戦略グループ 主事)
神谷一光 氏 (株式会社FUJI イノベーション推進部 課長/FUJI Innovation Lab. Regional Director)
髙間勇希氏 (STATION Ai株式会社Xinnovation事業部オープンイノベーション推進課 課長)
モデレーター:吉祇ギャリー (アビームコンサルティング Intelligence & Research Institute Senior Consultant)

2025年10月17日(金)
「真に実装されるオープンイノベーションのための処方箋~政策と支援観点からみる共創の難所と克服策~」

写真:左から
鈴木裕也氏(経済産業省 イノベーション・環境局 イノベーション創出新規事業推進課 スタートアップ推進室 課長補佐)
和佐田健二氏(NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 スタートアップ支援部統括課 課長)
モデレーター:橘知志(アビームコンサルティング 執行役員 Principal Head of Intelligence & Research Institute)

「ものづくり県」愛知が直面する大変革期と、克服に向けた試み

2025年10月15日(水)に開催された<愛知県企業×海外スタートアップ共創プログラム“Landing Pad”から紐解く「日本型オープンイノベーションのあるべき姿」>で取り上げられた取り組みの舞台となった愛知県は、製造品出荷額47年連続日本一を誇る「ものづくり県」である。しかし、同イベントのパネルディスカッションにて愛知県庁経済産業局の酒井智崇氏は「今は100年に一度の大変革期です。例えば、愛知県の主力産業である自動車分野でも、自動運転や電動化、環境対応など、個社単独では解決が難しい課題が山積しています」と指摘する。

そうした中、愛知県内企業の1つとして、電子部品実装ロボットメーカーの株式会社FUJIで新規事業創出を統括する神谷一光氏は、オープンイノベーションに取り組む理由について「自社の海外売上比率が9割に達する中、海外顧客の多様な要求に対して、自社だけで対応することは限界を感じました。外部と連携し、迅速に価値を提供する必要があります」と語る。

写真:左から愛知県庁 酒井氏、株式会社FUJI 神谷氏、STATION Ai株式会社 髙間氏、
アビームコンサルティング 吉祇

こうした動きは、愛知県全体で加速している。 2024年10月、STATION Ai株式会社は、日本最大級のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」を開業。開業からわずか1年で、会員数は1,000社を突破した。会員の内訳はスタートアップ600社、パートナー企業400社である。入居企業も200社から400社へと倍増し、固定席や個室は満席となっている。また、同社は15億円規模のファンドを立ち上げ、スタートアップへの投資体制も整備している。

同社イノベーションデザイン部オープンイノベーション推進課の髙間勇希氏は、「愛知県は9カ国・22機関と連携し、グローバルなエコシステム形成を進めています。将来的に県内企業が海外との連携を必要とする際にも、すぐに動き出せる基盤づくりを目指しています」と述べた。

一方で、オープンイノベーションの取り組みは増加しているものの、多くがPoCの段階で止まってしまうという課題も浮き彫りになっている。STATION Aiに入居する400社の事例分析から、髙間氏は厳しい現実が見えると語る。

「入居に当たって、事前にテーマが決まっていない企業が多数いらっしゃいます。。『経営層から新規事業をやるように言われて、何となく入居しました』というケースも多いです。(髙間氏)

愛知県庁の酒井氏も、同様の課題を指摘する。

「協業やオープンイノベーションが目的化している会社は、なかなか前に進めません。着手時には、漠然としていても『何をやるか』というイメージを持つことが重要です」(酒井氏)

「PoCで終わらせない」実践ポイントと、行政による支援体制

では、成功している企業は何が異なるのか。FUJIの神谷氏は、自社が実践する「成功のためのセオリー」を例に挙げて説明する。

「当社では、事前に、具体的な探索対象やその目的、共創内容を設定します。その上で、必要な技術やサービスを持つスタートアップを探すことで、初めから成果イメージに基づく具体的な会話ができるようになります」(神谷氏)

FUJIはこうしたコラボレーションの推進策として、2024年5月にベンチャークライアントモデルを本格導入した。また、新規事業創出の専任部署として2019 年に設置された社長直轄のイノベーション推進部では、独立予算と迅速な意思決定を可能にしている。加えて、情報収集やPoC拠点となるFUJI Innovation Lab.を国内外の5カ所に展開している。

「案件・課題はすべてリスト化し、複数のプロジェクトを並行して管理しています。経済的インパクトを事前に試算し、KPIを設定します。500万円程度の小規模予算、3~6カ月の短期間で案件を回し、2ヶ月ごとに経営層に報告して進捗状況を共有しています」と神谷氏は述べる。

STATION AiのSKIP(STATION Kinetic Innovation Program)も、同様のアプローチで会員企業のオープンイノベーション支援を進めていると髙間氏は語る。

「実践の取り組みを4つのフェーズに分け、一貫して伴走します。まず『定める』でミッシングピースを言語化し、『探す』でスタートアップをマッチング。『作る』でPoCを実施、『育てる』で事業化を推進します。ここで重要なのは、経営層を初期段階から巻き込み、PoC時に人・予算・時間などの経営リソースを投下し、筋道立てたストーリーで説得することです」(髙間氏)

愛知県庁の酒井氏は、自治体の役割における課題を率直に語る。行政支援やマッチングイベントが、事業会社とスタートアップの「お見合いの場」にとどまるケースは少なくないという。

「最終的に実装・事業化され、社会に貢献できているのはごく一部です。私たちは、そのノウハウを皆さんに共有し、成功例を増やしていく必要があります。連携から事業化までのプロセスを失敗例も含めてデータベース化し、愛知県地域の活性化につながるプラットフォームに育てたいと考えています」(酒井氏)

愛知県のAichi Landing Padは、その具体的な取り組みの1つである。これは、日本進出を目指す海外のスタートアップ企業と、県内企業とのオープンイノベーションを支援するプログラムであり、「2024年度は2カ月でアライアンス契約を締結した事例も生まれています。また2025年度はGX(グリーントランスフォーメーション)とマニュファクチャリングに特化し、18社の海外スタートアップを選定しました。」と酒井氏は成果を語る。

連携不足やミスマッチに起因する難所の事例

2025年10月17日(金)に行われたイベント<真に実装されるオープンイノベーションのための処方箋~政策と支援観点からみる共創の難所と克服策~>のパネルディスカッションでは、政策や支援の現場から多様な課題が議論された。

写真:左から経済産業省 鈴木氏、NEDO和佐田氏、アビームコンサルティング 橘

政府が2022年11月に策定した「スタートアップ育成5か年計画」は、前半の3年間で着実に成果を挙げている。経済産業省イノベーション・環境局の鈴木裕也氏によれば、スタートアップの数は、計画前の約1万6000社から直近では2万5000社へ、ユニコーン企業は6社から8社へと増加し、資金調達額も約1兆円規模にまで拡大したという。「前半戦ではしっかりと裾野を拡大してきました。これからの後半戦は、高さを出すために調達支援が重要になると考えています」と同氏は述べる。

一方で、こうした成果の裏側では、組織内の連携不足という課題も浮き彫りになっている。鈴木氏は、自身の経験を踏まえ、次のように指摘する。

「スタートアップと連携して新事業を創出しても、実際の担当部署と初期段階からコミュニケーションを取っていないと、実行段階でスムーズな連携がとれない事態になりかねません。社内では複数の部署が並行して動くため、初期段階から関係部署との早期調整と枠組みに適合する企画の整備が重要です」(鈴木氏)

また、NEDOスタートアップ支援部の和佐田健二氏は、コンソーシアム設計の失敗例を挙げる。これは需要と供給のミスマッチに当事者たちが気付かないまま進行してしまったケースである。

「ある材料系スタートアップが材料商社と組んで実装を目指しましたが、商社が求める品質を達成できず頓挫しました。商社は販売に必要な品質レベルを理解している一方、それを実現するためにスタートアップが直面する技術課題の把握と解決策を指南するのは難しく、両者の橋渡しをして解決に導く第三のプレーヤーがいなかったことが原因です。最終購買者とスタートアップの二者関係だけでは、限界があったことを示す事例です」(和佐田氏)

充実する助成金制度やガイドライン、人材育成の活用

実装支援に向けて、国や地域はさまざまな形で支援体制を整備している。NEDOのスタートアップ支援策では、起業前の個人に年間最大300万円、法人創業期には最大3000万円を支援するほか、ディープテック・スタートアップ支援事業として実用化研究開発・量産化実証に対象事業費の3分の2相当をNEDOが負担する補助金制度を設けている。

「さらに法改正により、研究開発領域だけでなく、事業開発の分野まで支援できるようになりました。その結果、研究開発初期から数十億円規模の商用化実証まで一貫して支援できる体制が整備されています」(和佐田氏)

こうしたNEDOの支援事業の中でも特に注目されるのが、2024年度に創設された「大企業等のスタートアップ連携・調達加速化事業」である。これは大企業とスタートアップがコンソーシアムを組み、1.5億円以内の事業について2/3の支援を受けることができる制度で、コンソーシアム全体で計上する費用のうち70%以上がスタートアップの費用であることが必要となっている。従来の直接支援とは異なり、スタートアップと大企業の協業を前提とした点が特徴である。
開発費の補助だけでなく、共創における実践的なガイドラインも整備されている。経済産業省は2025年4月に「共創パートナーシップ 調達・購買ガイドライン」を公開し、具体的な事例を踏まえたベンチャークライアントモデルに基づき、各フェーズの実務とひな型を整理した。

さらにNEDOでは、「研究開発型スタートアップ支援人材の養成に係る特別講座(NEDO SSA)」も展開している。和佐田氏は「毎回40名規模で座学と合宿を実施し、スタートアップ支援のポイントを理解してもらいます。多様なバックグラウンドの参加者によるコミュニティが形成されており、2026年も継続予定です」と語る。

スタートアップ成長支援におけるM&Aの重要性

経済産業省の視点から鈴木氏は、さらなるオープンイノベーションやスタートアップ共創に向けて、行政がファーストカスタマーになる重要性を強調する。

「スタートアップは知名度も信頼性も大企業と比べ不足している場合が多いです。行政があえてリスクを取ってファーストカスタマーとなり、実績と結果を世の中にフィードバックしていく。この循環が、次の調達につながると考えています」(鈴木氏)

スタートアップの成長支援という観点では、M&Aの重要性も高まっている。和佐田氏は、米国ではIPOは1割、M&Aが9割という現状を踏まえ、日本におけるM&A拡充の必要性を示唆した。成功例として、大手自動車メーカーと米国ITスタートアップのケースを挙げる。

「2019年のスタートアップ買収後、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)とアクセラレーターが自動車メーカーの経営層を含めて、買収先の価値を社内に徹底的に浸透させました。結果として現在、スタートアップのCEOは親会社である自動車メーカーの取締役として、グローバルソフトウェアのUI/UXの責任者を担っています。買収したスタートアップのCEOを意思決定に参画させたのは、自社にない価値を同氏が持っていると認めたからです」(和佐田氏)

この事例に関連して、鈴木氏は中間支援者の役割の重要性を改めて強調している。

「文化もスピード感も異なる相手との協業では、言葉のプロトコル翻訳が必要です。中間支援者を間に挟むことで、直接言いにくいことも言える。広いネットワークと比較情報を提供できる人材が重要です」と述べている

2つのディスカッションから見える「成功のノウハウ」

今回の2つのパネルディスカッションを通じて、スタートアップ共創を実装へ導くための共通項とも言うべきノウハウが明らかになった。

  1. 「協業の目的化」を避けること
    開始時に「これをやる」という明確なイメージがないまま進めても、初期段階から関係部署と調整し、枠組みに適合する形で企画を具体化しなければ、実現には至らない。
  2. ミッシングピースの言語化
    FUJIの神谷氏が実践する「具体的な共創内容をまず想定する」アプローチや、STATION AiのSKIPプログラムにおける「定める」フェーズは、自社の求めるべきスタートアップを可視化する有効な手法となる。
  3. 経営層の早期巻き込み
    FUJIが社長直轄のイノベーション推進部を設置したことや、髙間氏が「PoC時に経営リソースを投下し、筋道を立てたストーリーで説得する」と述べているように、決定権を持つキーパーソンを初期段階から巻き込むことがプロジェクト推進の鍵となる。
  4. 案件を「小さく早く回す」こと
    FUJIが実践する「3~6カ月、500万円規模の案件を繰り返し、頻繁に経営層と状況を共有し、必要に応じてピボットの判断を下す高速PDCAサイクル」は、スタートアップとの共創においてスピードを生み出す。
  5. 中間支援者の活用
    NEDOの和佐田氏が指摘するように、最終購買者とスタートアップの二者関係だけでは技術課題の橋渡しが難しい。経済産業省の鈴木氏も「文化もスピード感も違う異なる相手との協業では、言葉のプロトコル翻訳が必要」と述べており、第三者の存在が重要となる。
  6. 行政や地域の新しい役割の実践
    鈴木氏の言うように、「ファーストカスタマー」として行政がリスクを取って実績をつくり、酒井氏が提言する「ノウハウのプラットフォーム化」により地域全体で共有する循環が、次の調達につながるダイナミクスを生み出す。

本稿でご紹介した2つのパネルディスカッションは、オープンイノベーションが「特別な取り組み」ではなく、変革期を生き抜くための「通常業務」へ進化しつつあることを示している。そこで問われているのは「一歩を踏み出す決断」であり、その際には、専門的な知見を持つパートナーの活用が有効だ。
アビームコンサルティングは、スタートアップやオープンイノベーション領域において、官公庁や企業、各種支援団体など幅広いパートナーと連携したプロジェクト実績と豊富な知見を有している。今後も企業の新たな挑戦や取り組みを支援し、持続的な発展に貢献していく。


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