【イベントレポート】ケイパビリティで投資リターンを最大化する人的資本経営 ~NECに学ぶ、経営戦略と人材戦略をつなぐ実践~

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2026.02.25
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環境の変化を機敏に捉えつつ、不断の事業ポートフォリオ変革が求められる現代において、企業はどのように人材戦略と経営戦略を連動させ、実効性を高めていくべきなのか。その重要なキーワードとして注目されるのが「ケイパビリティ」である。
2025年11月に開催された「日本の人事部 HRカンファレンス2025-秋-」にて、アビームコンサルティングとNECによる特別講演が行われた。本セッションでは日本電気株式会社(NEC)ピープル&カルチャー部門HRビジネスパートナー統括部 HRBP戦略グループ ディレクターの高橋秀幸氏、ピープル&カルチャー部門 HRトランスフォーメーション統括部 CHROオフィスグループ ディレクターの栗城武志氏、そしてアビームコンサルティング 人的資本経営戦略ユニット シニアマネージャーの寄田貴久が登壇。「投資リターンを最大化する人的資本経営~ケイパビリティでつなぐ経営戦略と人材戦略~」と題する本セッションでは、ジョブ型人事制度の導入からHRBP機能強化まで、先進的な取り組みを進めるNECの実践事例をもとに、日本企業に最適な人的資本経営の在り方が語られた。その内容をダイジェストでお伝えする。
(本稿は、本セミナーを再構成しています。)

「ケイパビリティ=組織的な能力」で事業戦略と人材戦略をつなぐ

セッションの前半では、まずアビームコンサルティングの寄田が自社の人的資本経営実現に向けたアプローチについて紹介したが、最初に、後半で事例を発表するNECとのアプローチの違いについて触れておきたい。

アビームコンサルティングは、必要なケイパビリティを自社独自に定義し、人や組織を変えていく「ケイパビリティ型人材マネジメント」を軸に、日本企業にとって最適な人的資本経営の実現を目指している。一方NECは、会社と従業員が「選び・選ばれる」関係を深め、双方がともに成⾧する循環を作るための「ジョブ型人材マネジメント」へと段階的にシフトしながら、人的資本経営の実現に取り組んでいる。

冒頭で寄田は、「当社は人事施策や制度のコンサルティングを行いながら、人材の可視化やデータドリブンな人事戦略推進を支援しています。重要なのは、これを事業と連動させることです」と語り、人的資本経営の重要ポイントとして、①経営戦略・事業戦略との連動、②タレントポートフォリオマネジメント、③タレントマーケットづくり、④社外労働市場との接続、⑤投資とモニタリングの5つを挙げた。

「これらはいずれも重要ですが、必ずしも1番目から順番に進めていく必要はありません。むしろ会社ごとに人的資本や組織の課題は異なっているのは自然なことです。今まさに課題となっている部分から着手し、最終的に5項目が連動するのが望ましいでしょう」(寄田)

続いて寄田は、本題である「ケイパビリティで事業戦略と人材戦略をつなぐ」というテーマに触れた。「ケイパビリティ」とは、いわゆるスキルのみにとどまらず、企業個々の特性に応じて求められる組織的な能力を指すものであり、その中身は企業によって異なるとした上で、4つの具体例を挙げた。

① 技術的な競争優位を新たに獲得する高度な専門スキル
これまでになかった技術を新たに生み出すために必要な専門性の高いスキル

② コアコンピタンスをさらに高める独自スキル
既存事業の品質や競争力を一段と高めていくためのスキル

③ 新たな領域へのチャレンジを奨励する組織カルチャー
既存の事業にとらわれず、新規事業開発を促進する組織としての文化の醸成

④ 生産性を爆発的に向上させるデジタル・生成AIイネーブルメント
ITやAI活用によって、生産性を飛躍的に高める組織づくり

これらを踏まえて寄田は、「必要なケイパビリティを自社独自に定義し、人や組織を変えていくアプローチが必要です」と説明した。(図1)

図1. 事業戦略の実現に必要なケイパビリティと各社の事例

NECが展開する「戦略実行力と流動性を高めるジョブ型人材マネジメント」

こうしたケイパビリティの考え方を、実践として体現している企業の一つがNECだ。NECでは、ジョブ型人材マネジメントを軸に、戦略実行力と人材の流動性を高める取り組みを段階的に進めてきた。

その背景について、高橋氏は、NECがジョブ型の人材マネジメントの推進に当たって最も重視してきたことについて「会社と社員の関係性=選び、選ばれる関係」の構築であると説明し、会社側は戦略起点で人材を定義し集めていくが、それ以上に重要なのが社員側の視点だとし、次のように語った。

「組織として最高のパフォーマンスを発揮するには、社員のやりがいや仕事へのコミットメントをいかに引き出すかが重要です。こうした組織と個人の関係性を両者の視点で捉えながら、ジョブ型人材マネジメントの制度基盤を整備してきました」(高橋氏)

NECの人事改革は、2018年度から段階的に進められてきた。そのきっかけは、当時の経営における危機的状況だったという。高橋氏は、「当時の経営陣には、『社員の力を最大限に引き出せなかった』という深い反省があり、それを踏まえて改革に着手しました」と振り返る。

まず取り組んだのが、「キャリア採用の強化」と「評価改革」だ。キャリア採用強化は、外部人材の力を積極的に取り込み、多様性を高めるカルチャー変革のきっかけとなった。また評価改革では、市場環境の変化を踏まえ、「NECとして大事にすべき行動基準」を経営陣が策定し、それを重要な評価軸の一つに据えたことが、社員一人一人のマインドセット変革につながったという。

その後も、ジョブグレード体系やスキル体系、標準ジョブディスクリプション、さらにそれらにひもづく報酬制度といった制度基盤の整備を段階的に進めていった。2023年には、HRBP(事業に伴走する人事ビジネスパートナー)、CoE(人事制度・施策を企画する専門組織)、HRSS(人事オペレーションを担うシェアードサービス)からなる3ピラーモデルによる人事組織再編を実施するなど、基盤整備をほぼ完了している。

「現在は、いかに整備してきた制度を活用して事業戦略に寄与できるかという実践フェーズに入っています」と高橋氏は説明した。(図2)

こうした取り組みの成果も徐々に表れ始めている。株価、営業利益、エンゲージメントスコアのいずれも順調に推移しており、人材の「適材適所」という観点でも、流動性は着実に高まっている。2024年度実績では、NEC社員2万2000人のうち約5000人が何らかの形で流動し、新しい仕事にチャレンジしている。

図2. NECにおけるジョブ型人材マネジメントの進化と実践

出典:NEC 提供資料(本イベント登壇時使用資料)

事業戦略に連動した戦略的人材配置~ANS事業1200名増員の実績と課題

「人は制度だけでは動きません。現場のピープルマネージャーの力が重要になってきます」。そう語るのは、NEC ピープル&カルチャー部門 ディレクターの栗城武志氏だ。栗城氏は、HRBPとして事業現場と向き合ってきた経験を踏まえ、人材流動化の実際について語った。

「事業を成長させる中で、会社が人材に関われる時間は限られています。だからこそ、HRBPの体制や機能を強化し、現場と一体となって会社全体で取り組むことが重要になってきます」(栗城氏)

具体的な成果として栗城氏が紹介するのが、ANS事業(エアロスペース・ナショナルセキュリティビジネス=宇宙・防衛事業)への戦略的人材配置の取り組みだ。

NECは、主力のITソリューションやサービス事業の他にも衛星事業、海底ケーブル事業、防衛事業を展開している。近年は国家安全保障意識の高まりを背景にANS事業が急速に拡大しており、同社では2022~2025年度の4年間で約1200人の増員を目標に掲げた。すでに2024年時点で累計815名を確保し、目標の約7割を達成している。

注目すべきは、その人材確保の内訳である。815名のうち約半数が「戦略的異動」、すなわち社内の他事業からの人材活用で実現したという。栗城氏は「流動性が高まり、事業戦略に応じた人材補給ができる組織力が向上してきていると感じています」と手応えを語る。

一方で、量の確保は進んでいるが、今後はマッチングの質をいかに高めていくかが課題となっている。

「事前のオリエンテーションやスキルアップサポートを通じて、異動後も精力的にパフォーマンスを発揮できる体制を構築する必要があります。人数が増えて、一部にはなかなか新しい仕事になじめないケースも出てきているため、エンゲージメントの観点からも戦略的異動の量を確保しつつ、同時に実効性と質をいかにサポートするかが重要なポイントになってきます」(栗城氏)

この質の向上において鍵を握るのが、HRBPという役割だ。寄田は「本社の人事が質の部分に深く関わるにはやはり限界があります。その点でも、HRBPという機能がいかに確実に各事業にコミットし、サポートしていけるかが問われてきます」と示唆した。

HRBPを「共同経営者」と位置づけることで、より現場寄りのマインドを醸成

NECにおけるHRBPの役割について高橋氏は、「2023年に、3ピラーモデルに沿って人事組織を見直しました。その中でもHRBPに対する期待値が非常に高まっています」と語る。

NECではHRBPを、「部門のCHRO(最高人事責任者)」あるいは「ビジネスの付加価値を創造する共同経営者」と位置づけている。そのうえで、事業の『勝ち』にこだわり、オーナーシップを持って推進していくことを、マインドセットも含めて展開しているという。

「これまでの人事は、管理やサポートが主な役割で業務の現場からは『観客席寄り』だと言われがちでした。これからは自らフィールドに立ち、本当の意味で事業に貢献するパートナーになることを目指しています」(高橋氏)

では、HRBPは具体的にどのような業務に注力しているのか。栗城氏は、「こうした意識から、最近は活動領域を意識的に絞っています。以前も部門人事はいたのですが、評価・賞与等のプロセスサポートがメインでした。今回HRBPとして役割を再定義する中で、リソースマネジメントとタレントマネジメントという2つの領域にこだわって、部門と議論していく方針に決めました」(栗城氏)

まずリソースマネジメントでは、事業の人材ポートフォリオに照らしてどれだけの人員が必要かを検討する。そしてタレントマネジメントでは、その事業を引っ張っていくリーダー人材がどこにいて、どう育成していくかを議論する。栗城氏は、この2つをすみ分けつつ、両立することが重要であると強調する。

「適正な人員数を議論するには、ビジネスプランや価値を理解しなければなりません。またリーダー発掘には、現場にどんな人がいてどういうケイパビリティを持っているかを、これまで以上に深く知る必要があります。それらの業務にいかに時間を割けるかにチャレンジしながら、勝ちにこだわるHRBP実現に向けた調整を進めているところです」(栗城氏)

もっとも、こうしたHRBP像の変革は容易ではない。取り組みの中で難しかった点を栗城氏は次のように振り返った。

「NECには、もともと人との関係性をつくるカルチャーがあります。その延長で、ビジネスパートナーとの信頼関係構築も比較的うまくできていました。ただ、ビジネスについてリーダーと語る時間を増やしていく中で、メンバーの間に『従来の賞与調整のようなオペレーションだけやっていては不十分だ』という危機感が生まれ、自分たちの業務を見直す意識につながっています」(栗城氏)(図3)

図3. さらなる人事組織の強化を目指して3ピラーモデルによる見直しを実施

出典:NEC 提供資料(本イベント登壇時使用資料)

「人的資本ROI」で投資効果を可視化して経営判断につなげる

セッションの後半、寄田は「投資配分とリターンを意識したKPIマネジメント」について説明した。人的資本経営を真に機能させるには、人への投資がどのように成果につながっているかを、定量的に把握する仕組みが不可欠だと強調する。

「人的資本という以上、財務的にどのようにBSとPLに反映されるかを可視化したくなります。理想を言えば、人材ポートフォリオを構築したことで将来いくら稼げるのかを、無形資本としてバランスシート上に表せるとよいのですが、これをいきなり実行することは困難です。そこで、まずはPLの観点で見ていくのが現実的だと考えています」(寄田)

ここで寄田が提示するのが、「人的資本ROI」という指標だ。その計算式は、分子に『売上-(総費用-人的資本投資)』、分母に『人的資本投資(人件費、施策投資など)』を置き、そこから1を引いたものになる。

「ここで重要なのは、『人的資本投資を減らせばよい』という話ではないことです。この指標では、人的資本投資が総費用から差し引かれるため、投資削減が目的化しやすい側面があります。しかし、人的資本ROIは、あくまで『どこに、どれだけ投資すれば事業成功に貢献できるのか』を判断するためのツールです」(寄田)

KPIマネジメントを考えるうえで重要な課題となるのは、人材と業務のミスマッチである。日本の大企業の約80%には「人とポジションのミスマッチ」が存在するという調査結果がある。こうしたコストパフォーマンスの悪い部分の人材を、注力領域へシフトさせる。あるいは、社内外で流動させることも選択肢となってくる。寄田は「こうした投資の最適配分によって、人的資本ROIという指標を最大化していく。これが人的資本経営の実践だと考えています」と説明した。(図4)

図4. リターンを最大化する人的資本ROIの考え方

続いて寄田は、企業事例としてSOMPOホールディングス株式会社の2025年統合レポートを紹介する。同社は「生産性向上指標」として人的資本ROIを開示している。特徴的なのは、人件費だけでなく教育投資や職場環境整備も含めた指標設計を行っている点だ。

さらに、同社は1人当たりの労働生産性利益も併せて開示している。金融業界は労働生産性が可視化しやすい面もあるが、人への投資という観点を明確にしている点は注目に値する取り組みと言える。

寄田は「人的資本ROI指標を使う際、重要なのは絶対値そのものではありません。この指標を最大化するために、どこに人的資本投資を行うのか。そのマネジメントプロセスにこそ、本質的な意義があります」と強調。人的資本経営が単なる開示や報告のための取り組みではなく、経営判断を支える実践的なツールとして機能させるべきだと語った。

日本企業の強みを生かした段階的変革で、人的資本経営を目指す

ディスカッションの終盤、寄田がNECの2人にコメントを求めた。それを受けて高橋氏は、日本企業共通の課題に言及する。

「私たちは、日本のいわゆる大企業病からいかに脱却・変革していくかという課題に取り組んでいます。同じ悩みを抱えている企業の皆さんも多いと思います。課題や知見を共有しながら、互いに高めていければと思います」(高橋氏)

一方の栗城氏は、自分たちの取り組みが道半ばであることを率直に明かし、今後の展望について語った。「まだまだ調整中の部分が多く存在します。2026年3月に公開予定の人的資本経営レポートで、より詳細な取り組みをご紹介する予定です」(栗城氏)

今回のNECの事例が示すのは、ジョブ型への急激なシフトではなく、日本企業の強みを生かした段階的な変革の道筋だ。具体的には、経営戦略と人材戦略を連動させてHRBP機能を強化、現場と協働しながら人材ポートフォリオの最適化を進める。そのうえで実効性を人的資本ROIといった指標で可視化していく一連のプロセスを、いかに稼動させるかのチャレンジと言ってよいだろう。

最後に寄田は、「アビームコンサルティングは、NECグループの一員として、こうした取り組みを共に推進しています。ケイパビリティ型人材マネジメントという考え方を軸に、これからも日本企業に最適な人的資本経営の実現を支援していきます」として、セッションを締めくくった。

まとめ

本稿では、ケイパビリティを軸に経営戦略と人材戦略を接続し、戦略実行力を高める人的資本経営の実践について、アビームコンサルティングの考え方とNECの取り組みを通じて整理した。ジョブ型人材マネジメントの制度基盤整備に加え、HRBP機能の強化により現場と協働しながら人材流動性と配置の実効性を高めていくプロセス、さらに人的資本ROIのような指標で投資効果を可視化し経営判断につなげていく視点は、多くの企業にとって示唆となる。今後もアビームコンサルティングは、ケイパビリティ型人材マネジメントの考え方を軸に、日本企業に最適な人的資本経営の実現を支援していく。


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