ここで重要な点は、異動希望が叶うかではなく、「異動希望を言えたか、言えなかったか」にある。すなわち、「異動したい」と言える=自分のキャリアについて上司と対話できる環境があること自体が、退職を防ぐ大きな要因になっている。
「この数字を見て驚きましたが、現在はその要因に合わせた体制を構築しています。キャリアに悩む社員に対し、人事部だけでなく私を含む3人が相談窓口として対応していますが、相談者の多くが異動希望にチェックを入れています」(古田氏)
ワークプレイス変革でも、社内の会話を促進するための工夫が進められている。現在のオフィスは、FAXや複合機など全ての機能が各人の周囲に配置され、社員が動かなくても業務ができる「効率的な」環境になっている。しかし、その半面、会話が生まれにくいと判断した。
新しい高輪ゲートウェイのオフィスでは、コーヒーサーバーや複合機を1カ所に集約し、あえて社員を動かす設計を採用。他部署の社員と自然と交流する機会を創出しようとしている。
業務標準化についても、具体的な取り組みが始まっている。事業個別最適と全社最適のバランスを見ながら、組織設計、業務設計、IT設計を一体的に推進している。「例えば、貿易業務を一部のサンプル部署で標準化し、うまくいけば他の事業にも展開していく。一つ一つ当てはめながら、人的リソース、標準化、将来の生産性を検討しています」(古田氏)
さらに注目すべきはAI活用とシニア活躍という、一見すると正反対のアプローチを同時に進めている点だ。同社では、既存の生成AIサービスは情報漏えいやセキュリティの懸念があると判断し、社員による分科会を立ち上げ、自社独自のAIを開発・活用している。
その一方では、人財ポートフォリオの分析から、60代が4割を占める部署があることも判明している。
「60代の方々は組織への帰属意識が非常に強く愛社精神があり、20~40代の人を育て上げる力を持っています。AI活用とシニア活躍は対極の位置に見えますが、両方をしっかり設計しなければならないと強く感じています」(古田氏)
久保田は「人財ポートフォリオを可視化・検討したことで、育成、シニア活躍、AI活用のいずれが最適解なのか、あるいは新規採用すべきか、異動で対応できるのかといった、さまざまな選択肢を想定した議論が可能になりました。これが、Umiosの『人財ポートフォリオの構築』の大きな成果の1つです」と評価する。
そのうえで、アビームコンサルティングが提唱する「ケイパビリティ型人材マネジメント」の視点から以下のように補足する。
「『ケイパビリティ型人材マネジメント』では、経営と事業の対話を通じて必要なケイパビリティと人財ポートフォリオを定義し、社員をどうマッチングさせるかなどを継続的にモニタリングしていきます。Umiosの事例は、まさにこのフレームワークを実践した好例と言えるでしょう」(久保田)
関連リンク:「ケイパビリティ型人材マネジメント」で日本企業の低生産性・人材不足に挑む 第1回 なぜ今ケイパビリティ型なのか、背景とアプローチの全体像