大企業で新規事業を成功させる「最初の100日」─最速で動くチーム立ち上げのポイント(第1回)

インサイト
2026.02.09
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新規事業はどのようなチームが立ち上げるべきなのか?
本インサイトでは、大企業における新規事業のテーマや事業ドメインの選定から、ビジネスモデル構築に至る活動初期の「最初の100日」に焦点を当て、新規事業立ち上げに必要な機能は何か、チーム規模・体制はどのように設計すべきか、そして内製・外部の領域をどのように見極めるべきかという3つの問いに対し、大企業とスタートアップの取り組みの違いを踏まえながら、初動フェーズにおける実践的な示唆を提示する。

執筆者情報

  • 高松 和正

    高松 和正

    Senior Manager

1. 新規事業立ち上げに必要なのは7機能、初動は「顧客理解力」、「事業化力」

新規事業の立ち上げに必要な機能は、最終的に7つに整理できる。アビームコンサルティングのこれまでの知見では、新規事業立ち上げ初期の100日間においては、顧客課題を深く捉える「顧客理解力(リサーチ)」と、仮説を事業として具体化する「事業化力(プロダクト・サービス開発)」に集中させることが重要である。

新規事業立ち上げに必要な機能

新規事業を立ち上げる企業に必要な機能は最終的には以下の7つである(図1)。

  1. リサーチ機能:新しい技術の登場に伴う市場変化やルールチェンジ、業界/顧客の課題を理解する
  2. プロダクト/サービス開発機能:アイデアを「事業」として具体化する
  3. セールス/マーケティング機能:初期顧客の獲得と需要喚起を担う
  4. リード管理機能:顧客関係を管理する
  5. デリバリ機能:顧客へのプロダクト/サービス提供を実現する
  6. プランニング/ストラテジー機能:新規事業全体の方向性を定め、資源配分、ガバナンスを統括する
  7. ナレッジマネジメント機能:顧客理解やプロダクト/サービス開発の発想を得るための顧客に関する学習の蓄積と再利用を促す
図1 新規事業立ち上げの必要機能

出所:当社にて作成

大企業の強みは、法務や経理など既存事業で機能している組織能力を活用し、新規事業立ち上げや社内起業に取り組める点にある。
スタートアップのように、事業開発のステージの進行に応じてチームを立ち上げたり、外部人材を招聘したりすることなく、既存事業での経営資源をそのまま活用できる。
ただし、自社にとって初めての取り組み、例えばサブスクリプション型のマネタイズモデルなどにチャレンジする際は、既存事業の判断基準で厳しくチェックされ、頓挫する可能性や意思決定の遅さが制約となり得る。この場合、外部知見を活用してプロセスを整理し、理論武装しておくことが望ましい。
また、スピンアウトやカーブアウトを検討する場合は、本体の経営資源を活用するか否か、その方針を事前に明確化する必要がある。

最初の100日で必要な機能

大企業における最初の100日で直面するイベントは、マネジメント層への報告・上申であることが多い。新規事業テーマが決定した後、新規事業の構想から設計・開発フェーズへ移行する際の最初の意思決定タイミングである。
この段階で評価されるのは概ね以下の3点である。

  1. 課題は実在するか。
  2. 課題解決に関する市場は大きいか、成長するか。
  3. その課題解決は自社が担うべきか、独自性を盛り込めるか。

したがって、最初の100日で必要なのは、解くべき課題の抽出、事業性の見極め、競争優位の構築である。

創業チームの編成としては2010年代のシリコンバレーでは「3H(ハッカー(開発者)、ハスラー(ビジネス担当)、ヒップスター(デザイン担当))が有名だが、スティーブン・S・ホフマン著「シリコンバレー式 最高のイノベーション」ではさらに「ホットショット(専門家)」、さらに大企業では「政治家(リソースを確保し部門間調整に長けた人材)」と「オーガナイザー(プロジェクトを管理し経費を管理する人材)」の2タイプの人材が必要としている。

日本の大企業でのポイントとしては、海外にみられるようなジョブスクリプション(職務内容・責任範囲・成果基準を明確に定義した職務記述書)で人材が雇用されている訳ではなく、各機能型組織に人材が属するため、どのような人材をどこから集めるのかが現実的な打ち手となる。
我々の知見では、初期に必要な機能は以下の通りである(1人が複数役割を担うケースもある)。

  • 顧客を理解している人(リサーチ機能)
  • 事業に仕立てられる人(プロダクト・サービス開発機能)
  • 顧客を見つけられる人(セールス・マーケティング機能)
  • 数字を作れる人(プランニング・ストラテジー機能)

当社が実施した調査によると、顧客を理解している既存事業周辺領域ではアンケートなどによる「ニーズの定量化」(図2)が有効である。一方、顧客課題が特定できていない新規領域ではインタビューを通じて課題やその背景を把握し、「機会の具体化」を精査することが有益であることが明らかになっている。(図3)

図2 既存顧客からターゲット顧客・顧客課題をどのように決定したか?
図3 新規顧客からターゲット顧客・顧客課題をどのように決定したか?

アンケート、インタビューやレポートなどの一次・二次情報を収集し洞察を得て、提供価値へと変換し、事業コンセプトおよびビジネスモデルとしてマネジメント層に理解してもらい、承認を取り付けることが、成功の鍵となる。

機能配置の考え方

組織構造の観点では、アンドリュー・J・M・ビンズら著「コーポレート・エクスプローラー」において、「フォーカス型(CEO/事業責任者主導で推進)」、「ボトムアップ型(現場の発案を社内で効率的に育成する仕組み)」、「トップダウン型(企業トップ主導でポートフォリオ構築を目的に取り組む」の3つが示されている(図4参照)。
日本企業においては、既存事業でのコアを活かした新規事業の立ち上げを目指す場合、事業部内にチームを設置するボトムアップ型、既存事業にはない新たな領域での新規事業を目指す場合は、既存ルールの制約が少なく、不確実性の高い取り組みにチャレンジしやすいコーポレート部門にチーム設置するフォーカス型&トップダウン型の2つに大別できると当社は考えている。

図4 新規事業立ち上げの組織構造の選択肢

日本企業の場合、既存事業のコアを活かすなら事業部内にチームを設置(ボトムアップ型)、非連続領域に挑むならコーポレート部門に設置(フォーカス型+トップダウン型)が成功要因と言えそうである(図5)。各モデルで成功要因は異なるため、評価指標と意思決定権の設計を変えることが不可欠である。

図5 新規事業はアンゾフのマトリクス視点のどこに属するか?

2. チームの最適規模は「ピザ2枚ルール」

新規事業立ち上げにおいて「チーム規模はどの程度が適切か」という問いに対し、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスの提唱する「ピザ2枚ルール」は有効な指針となる。この原則は、コミュニケーションチャネルの指数関数的増加を抑え、意思決定スピードと学習効率を最大化するための実践的な考え方である。

マネジメントに成果を示すための迅速な意思決定と適正なチーム設計

新規事業は「千三つ」と言われるように、極めて高い不確実性を伴う。そのため、テーマ選定に過度な時間を費やし、結果として生産性や成果が問われるケースが散見される。重要なのは、顧客理解と事業化の実行力を兼ね備えたメンバーを中心に、迅速な意思決定を行うことである。
我々の知見では、「ピザ2枚ルールに基づく6名程度のチーム規模が最適である。社内の過剰な声に左右されることなく、顧客と事業を深く理解する人材を核に据え、スピード感をもって推進し、事業ドメインを早期に明確化することが肝要である。

適正なチーム構成

当社のプロジェクト経験では、新規事業チームはクライアント側3~4名、コンサルタント側2~3名の体制が多い。新規事業の成功事例として語られる「ガレージから生まれた革新的事業」では共同創業のケースが多く、少数精鋭でのコミュニケーションの重要性を示唆している。(図6)

図6 共同創業の強みを活かして急成長した代表企業

出所:当社にて作成

田所雅之著「起業の科学」では、スタートアップの理想的な共同創業者の組み合わせを「ボケとツッコミ」と表現しているが、大企業においても同様に、リーダーが孤立せず、同じ土俵で議論できるメンバーの選定が不可欠である。これにより、チームとしての学習速度が加速する。

チーム規模にみるリスク

当社の経験ではチームの規模は大きすぎても小さすぎても失敗のリスクが高い

  • 失敗例①:大所帯化による調整コスト増加
    多様な知見を求め、複数部署からメンバーを選抜した結果、10名以上の大規模チームになるケース。この場合、意思決定が停滞し、調整コストが増加する。責任の所在が曖昧になり、主体性が低下する。
  • 失敗例②:極端な少数精鋭によるリソース不足
    総勢2~3名でスタートするケース。経験豊富なメンバーがいればよいが、スキルの偏りや認知バイアス、視点不足のリスクが高い。さらに、実行リソースが不足し、活動が限定的になる。

3. 外部に頼るのは構想の具体化とセールス/マーケティング領域

近年の新規事業は、サブスクリプションモデルなど、自社で未経験のマネタイズモデルを志向したり、新たなエコシステム構築を必要とするケースが増えている。しかし、企業文化や風土から内製に固執し、調査と議論に終始した結果、活動が停滞する事例も散見される。本章では、新規事業を成功に導く外部パートナー活用のポイントを解説する。

成功企業の2割は外部パートナーを起用

当社が日本の大企業を対象に実施した「新規事業取り組み実態調査」によると、単年黒字を達成した成功企業のうち約2割が外部パートナーを活用している(図7)。多くの企業は、自社社員を専任または兼任で確保しつつ、外部の専門性を補完している。

図7 プロジェクトの人員をどのように確保したか?

外部のスピードと知見の導入が成功確率を押し上げる

成功企業が外部パートナーに期待する役割は主に2つである。

  1. 構想の具体化力:サービス、アプリケーション、プラットフォームなどの仕組みを開発し、構想を実現する力。
  2. セールス/マーケティング力:構想した付加価値を顧客に届ける力。

特に、外部パートナー活用が成功に大きく寄与するのはコーポレート部門が新規事業を推進する場合である。コーポレート主導の新規事業は、既存事業の延長線上にないイノベーティブなテーマを選定することが多く、必要なケイパビリティが社内に不足していることが要因と考えられる。未経験領域では外部の力を借りて知見・経験を獲得することが重要である。(図8参照)

図8 外部パートナーに何を期待したか?

最初の100日において、特にコーポレート部門での新規事業開発の推進では事業機会を探索する際に外部パートナーを活用することが事業機会の発見に重要であることが窺える。調査会社のレポートでの市場規模や成長性だけに捉われず、社会においてどのような業界/テーマに事業機会がありそうなのかを、現場感のある客観的な見立てを取りいれることで、事業機会を見出し、テーマ選定につなげることができる。(図9)

図9 外部パートナーをいつ活用したか?

未経験領域では、外部の力を借りて知見や経験を獲得することが不可欠である。ただし、リーダーシップやマネジメントとの交渉を担う役割は、熱意ある社内担当者が責任を持って遂行する必要がある。これを怠ると、予算やリソースの獲得に苦労し、プロジェクトが停滞するリスクが高まる。

4. まとめ

新規事業のテーマ選定、事業ドメインの設定、ビジネスモデル構築に至る最初の100日間は、多くの企業にとって最大の難所である。経験値の少ない企業では、手順や適切な人材が不明確なまま時間を浪費するケースが多い。
本稿では、大企業における新規事業立ち上げの「最初の100日」に焦点を当て、当該期間における最適な機能配置、チーム設計、外部リソース活用の要諦を明らかにした。

第一に、必要な機能は最終的に7つに集約されるが、初動フェーズでは「顧客理解力(リサーチ)」と「事業化力(プロダクト/サービス開発)」にリソースを集中させることが肝要である。顧客課題の抽出、事業性の見極め、競争優位の構築が、最初の意思決定の基準となる。
第二に、チーム規模は「ピザ2枚ルール」に則り、6名程度のクロスファンクショナルチームが最適である。過大なチームは調整コストを増大させ、過小なチームはリソース・視点の偏りを招く。迅速な意思決定と学習速度の最大化を実現するためには、顧客理解と事業化の実行力を兼ね備えたメンバーを核とし、少数精鋭で推進することが求められる。
第三に、未経験領域や新たなマネタイズモデルへの挑戦においては、外部パートナーの活用が成功確率を高める。特にコーポレート部門主導の新規事業では、構想の具体化やセールス・マーケティング領域において、外部知見を積極的に導入することが有効である。一方で、リーダーシップやマネジメントとの交渉は、社内担当者が責任を持って遂行する必要がある。

総じて、大企業の新規事業立ち上げにおいては、既存事業の強みを活かしつつも、初動100日間で「顧客理解」と「事業化」に集中し、最適規模のチーム編成と外部リソースの戦略的活用を図ることが、持続的な成長と競争優位の確立に不可欠である。

この最初の100日を突破した後、事業性・実現性検証、事業立ち上げ、事業拡大の各事業フェーズで、どのような組織が、どのようなプロセスで活動すべきかについては、後編で詳しく解説する。

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