――これまでのお話から、住友商事は地域課題を起点に事業を構想する「課題ドリブン」のアプローチを、アビームコンサルティングはデータやデジタルを活用して構想を具体化する「データドリブン」のアプローチを強みとしていることが見えてきました。両社の視点を掛け合わせることで、「モビリティ×まちづくり」はどのように進化していくとお考えでしょうか。
大塚:私たちの取り組みは、地域が抱える課題を起点に、さまざまなプレーヤーと連携しながら解決策を形にしていく点に特徴があると思います。たとえば現在進めている熊本の自動運転の実証実験も、その一つの例です。
――熊本の自動運転の実証実験が順調に進んでいる要因は何でしょうか。
大塚:「交通渋滞の緩和」と「バスの運行維持」という生活者自身の課題が明確だったこと、その課題解決に向けて市長が強いリーダーシップを発揮したことが大きいと思います。また、座組みとして地元交通事業者の理解と積極的な関与があったこと、打ち手である自動運転バスが、道路などの既存インフラをそのまま活用できる点にも現実味があったと思います。
橘:お話しを伺っていて私が感じるのは、車両など目に見えるフィジカルなものからのアプローチの方が、まちづくりが議論しやすいのではないかということです。どうしたらデータドリブンのアプローチで効果を出せるか考えて思い出したのは、バルセロナで毎年行われているスマートシティ関連のカンファレンスで見た、とある企業のデモンストレーションです。
発表内容は、サイバー空間に再現した現実社会同様の3DCG環境「デジタルツイン」を活用したまちづくり提案でした。この方法を使えば、市民の目の前で計画している建築物や道を追加したり変更したりすることができ、プロジェクトのビフォーアフターを視覚的に容易に疑似体験できるようになっていました。こうした仕組みがあれば、計画に対する地元の合意形成をサポートできるのではと感じます。
ただ、こうした手法以前に「モビリティ×まちづくり」というテーマを論じる時に考えておきたいのは、これまでこうしたプロジェクトは、特定の自治体を対象にするのが通常でしたが、生活者の行動は必ずしも自治体の境界とは一致しないということです。その辺りはどのように考えていらっしゃいますか。
大塚:ご指摘の点は、大いに共感するところです。当社も現在までのところ、モビリティとまちづくりをかけ合わせた施策において、自治体の枠を飛び越えたプロジェクトには取り組めていません。ただ、今後を見据えるうえで、幹線道路の路線バスを使った施策など、これまでの意識をもう一段飛び越えたところに次の可能性があると感じます。
バスの路線には基礎自治体をまたぐものや、中には広域自治体をまたぐものもあり、より生活者の活動に近いヒトやモノの流れを担っています。こうした幹線道路を走る公共交通を軸に、主要地点を結節点として支線を広げる人流・物流のモデル、いわば「フィッシュボーン(魚の骨)モデル」が、「モビリティ×まちづくり」のブレイクスルーになり得るのではと考えます。
――つまり、モビリティを単なる移動手段として捉えるのではなく、人やモノの流れを起点に都市の構造そのものを設計し直すという発想ですね。
橘:現状でも、鉄道とバスの組み合わせによるヒトの輸送はそれに近い構造を持っていますが、結節点に中小規模の人流・物流ターミナルを設ければ、ドラッグストアや衣料品店、スーパーマーケット、飲食店などロードサイドの大型店舗は、マイカー利用が主流だったこれまでとは異なる顧客を獲得できる可能性がありますし、宅配事業においても新たな配送拠点を構築できます。結節点のターミナルと産業クラスターの配置も新たな発想でデザインすることで、より効率のよいコンパクトなまちづくりがイメージできそうです。
単一の基礎自治体を超えるこうした新しいまちづくりをイメージするとき、各地で実績の出ている「リビングラボ」や、今後活用が期待される「観光地域づくり法人(DMO)」などがよいヒントになるかもしれません。リビングラボは、市民や企業・大学・行政が協働して、生活者視点で新しい商品やサービス、オープンイノベーションなどを生みだす枠組みです。一方のDMOは、観光庁がリードして進めているもので、複数の都道府県をまたがる「広域連携DMO」のほか、複数の市町村をまたがる「地域連携DMO」、基礎自治体レベルの「地域DMO」があります。観光を軸に、飲食や宿泊、文化財、さまざまなアクティビティをはじめ、交通事業者、農林漁業や商工業など、地域経営の視点に立って資源を観光軸で集約し、DMOを司令塔に地域の「稼ぐ力」を引き出そうという試みです。
またスタートアップがこうした枠組みに参画することにも意義があります。地場の企業とのオープンイノベーション誘発の機会創出につながったり、自社の商品やサービスに適したエコシステムを探り当てたり、またはVC(ベンチャーキャピタル)やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)との接点を持てるなどの効果も期待できます。こうした仕組みが、今後モビリティ×まちづくりにつながるポテンシャルを持っているかもしれません。
大塚:私たちも、東京・大手町に「MIRAI LAB PALETTE」という共創環境を用意するなど、スタートアップやオープンイノベーションの創発に力を入れていますが、こうしたプレーヤーがまちづくりや新しいモビリティのテクノロジー、サービス開発の原動力になってくれたらという期待を持っています。また、住友商事グループには、そうしたイノベーションの成長を後押しできるリソースを全国に有しています。
例えば、当グループのDX戦略やAI活用、グローバル展開を強力に支えるSCSK株式会社(2025年度完全子会社化)は、国内およびアジアに拠点を置いて事業活動を行っています。また、カーリース事業を行う住友三井オートサービス株式会社(SMAS)、日本最大のケーブルテレビ会社JCOM株式会社(J:COM)も、日本各地に幅広いネットワークを持っています。こうした体制に加えて、製造業を中心としたスタートアップエコシステム形成に知見のあるアビームコンサルティングの力を合わせれば、意義のある取り組みができるのではと感じます。