AI CoEによるAIトランスフォーメーションの本格推進 第1回 AI CoE立ち上げの要諦 ~生成AI利活用に関する成功要因調査から見える推進の壁と突破口~

調査・ホワイトペーパー
2026.02.27
  • AI
  • テクノロジー・トランスフォーメーション
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生成AIは業務プロセスの自動化・半自動化へと活用範囲を広げており、AIトランスフォーメーション(AIX)が本格化しつつある。こうした流れを受けて、全社的なAIXの加速、投資最適化、統制を目的に、AI CoE(Center of Excellence:中核組織)を立ち上げる企業が増えている。
本連載(全4回)では、AI CoEの立ち上げから実行に至るまでのアプローチについて解説する。第1回では、事例や調査結果をもとに、AI CoEを効果的に立ち上げるために必要な機能設計について考察する。

執筆者情報

  • 宮本 潤

    Director
  • 清水 伸晋

    清水 伸晋

    Senior Manager

AIトランスフォーメーションを加速するAI CoE

これまで多くの企業が生成AI活用に取り組んできたが、部門単位の試行が先行しやすく、成果が個人の生産性向上にとどまるケースが多く見受けられた。しかし、AIエージェントの登場により、生成AIは業務プロセスの自動化・半自動化へ拡大し、AIXが本格化している。
一方で、AIの適用範囲が広がり自律度(人の介在なしに業務判断・実行を行う度合い)が高まるほど、業務や顧客への影響リスクも増大する。すなわち、技術導入だけでなく、統制やAIと人の役割分担、業務・システム運用のあるべき姿も同時に問われる状況となっている。
こうした背景から、全社的なAIXの加速や投資最適化、統制を目的にAI CoEを立ち上げる企業が増加している。しかし、任命されたリーダーは「何から始めるべきか」「どこまでCoE組織で担うべきか」「既存組織とどうすみ分けるか」といった課題に直面し、立ち上げに苦戦している声が多く聞かれる。本連載では、国内企業のAI活用の現状と課題を整理し、AI CoEの立ち上げと実行に向けた具体的なアプローチを解説する。

AIトランスフォーメーションの現状と課題

アビームコンサルティングが2025年11月に国内大手企業53社のAI推進責任者向けに実施した「生成AI利活用に関する成功要因調査」によると、AIはすでに大半の企業で経営アジェンダとして位置付けられている。
具体的には、2025年12月末時点で93%の企業が生成AI推進を掲げており(図1)、47%の企業が活用ビジョンを、43%の企業がロードマップを策定している(図2)。

図1 生成AI活用の経営アジェンダへの反映状況
図2 生成AI活用のビジョンおよびロードマップの策定状況

生成AI活用の目的としては、業務効率化が96%と突出しており、次いでコスト削減、製品・サービス機能強化、顧客体験向上が挙げられる(図3)。このことから、短期的な生産性向上と中長期の価値創出が同時に期待されている状況であることが示唆される。

図3 注力する生成AI活用の目的

また、期待以上の効果を上げていると回答した企業では、DX部門やAI CoE部門など、全社横断的な専任機能が推進の中核となっている傾向が見られる。専任組織の主要機能としては、教育・啓発、方針策定、ユースケース創出が上位に挙げられる(図4)。

図4 生成AI専任組織の主要機能

一方で、生成AI活用の課題としては、組織・人材、リスク管理、費用対効果算出、データ整備、ガバナンスを挙げる企業が多い結果となった(図5)。特に組織・人材領域では、53%の企業で人材が不足しており、中でも生成AIに精通し、事業・業務への落とし込みやプロジェクトを推進できる人材が不足している。近年、業界を問わず人材不足は深刻化しており、これらの人材不足を抱える企業の半数が社内育成で人材を補っているのが現状である。AI人材確保が難しい情勢を踏まえると、人材育成やその前提となるノウハウ・共通アセットの蓄積といった、組織としての学習機能も専任組織の重要な役割であることが示唆される。

図5 生成AI活用における組織の課題

つまり、AIの技術的有用性は理解されつつあるが、全社で運用するための戦略・実装・統制、そしてそれらを実行する人材の不足がボトルネックとなっていると言える(図6)。次章では、このボトルネックを解消し生成AIの効果を最大化するために、必要な機能を体系化し、代表的な組織パターンを示す。

図6 生成AI活用を全社で実現するうえでのボトルネック

AI CoEの機能と組織パターン

AI CoEで検討すべき機能は、次の9類型に整理できる(図7、図8)。AI CoEの機能設計は、戦略(⑤⑥)/実装(①②③④)/統制(⑦)のいずれの課題を主に解くかで優先順位が変わる。

図7 AI CoEの機能
図8 AI CoEの機能一覧と概要

いずれの場合でも重要なのは「すべてをAI CoEが担う」という発想を避けることである。経営戦略やDX戦略といった上位戦略と整合させつつ、既存のIT、セキュリティ、人事、法務、財務・経理、監査などのコーポレート部門、事業部門、さらにはパートナー企業との役割を明確化することが求められる。役割を明確にすることで、AI CoEはAIX推進に不可欠な機能に集中することができる。加えて、企業文化・組織文化に適した型を選択することも重要である。文化と合わない変革の進め方では、社内の抵抗により成果創出のスピードが低下するためである。ここでは、実務上よく使われる3つの型の例を示す。

(1) リーダーシップ型(⑤⑥中心)

全社の重点領域と投資優先順位を定義し、経営と現場の意思決定をつなぐ型である。AIビジョン・ロードマップの更新、ユースケースのポートフォリオ管理、価値検証の基準作りを主導する。実装は各部門に委ねつつ、成果の再現性と投資最適化(重複回避、共通化、撤退判断)を担保する。トップダウンで改革を進める風土に適した型である。

(2) 支援型(③④⑥中心)

現場でのAI実装速度を最大化する型である。設計リファレンス資料の整備、評価手順、プロンプトやコンポーネントの再利用、相談窓口の提供、教育・啓発による利用者層の拡大を担う。PoC(概念実証)にとどまらず、効果創出まで伴走する。ボトムアップで現場主導の推進文化が強い企業に適した型である。

(3) ガバナンス型(⑦⑥中心)

社員がAIを安心して利用できる境界線(ガードレール)を整備する型である。データ分類、利用ルール、監査ログ、外部提供判断、インシデント対応を標準化し、リスクを具体策に落とし込む。過度な禁止ではなく、許容される実験範囲を明確化し、“安全に速く学ぶ”状態を実現する方法である。機能分担を決める際は、「意思決定」「実行責任」「品質保証」の観点から問いを立てることが有効である(図9)。守りを重視する企業に適した型である。

図9 機能分担を決定する上での観点

こうした機能を検討したうえで、組織形態の検討も必要である。独立した中央集中型の組織とするか、事業部にも専任要員を配置する出島型とするかといったモデルが存在する。中央集中型は標準化と統制に優れる一方で、実行力が弱まりやすい。出島型は実行力が高い反面、重複投資が発生しやすい。したがって、重点領域は出島で推進し、共通基盤・ルールは中央で統括するハイブリッド型が現実的な解となりやすい(図10)。
また、人材育成やアセット・ナレッジの展開を狙い、AI CoEに各部門から人材を集めて一定期間の経験後に戻す逆出島型も存在する。成熟したAI CoEを核として取り組みをスケールするフェーズで有効である。

図10 AI CoEの3つの組織形態

また、上記のいずれのパターンを採用する場合でも、横展開の成否を左右するのは組織としての「学習の仕組み」である。次章で、AI活用の定着に必須となる学習機能について述べる。

効果最大化のために求められるAI活用の組織的学習機能

これまで述べてきた通り、生成AI活用の障壁は、全社推進のための戦略・実装・統制、そしてそれらを実行する人材の不足が大きい。不足する人材を補うため、社内教育や採用などによる人材確保を進める必要がある。一方で、獲得した人材が短期間で学習し、組織が保有するアセットを効果的に活用できる戦力となる仕組み、ならびに共通的なアセットやナレッジ化したノウハウなどをいかに再利用できるかが、長期的な視点で重要となる。このような組織の学習機能を適切に組み込むことで、企業全体の投資最適化を達成しやすくなる。AI CoEの本質的価値は、個別案件の成功確率を高めること以上に、学習の反復回数を増やし、学びを資産化して全社へ波及させることにある。まとめると、AI活用の学習機能を構築するためには、3つの“再利用”を実践することが重要である(図11)。

図11 AI活用の組織的学習機能を構成する3つの再利用

具体的には、(1)入口で基準を揃え、(2)成功パターンを抽出し、(3)テンプレート・コンポーネント・教育へ反映する循環を設計することである(図12)。この循環を試行することで、AIを組み込む案件創出や推進に要するコストの可視化・抑制を実現し、個々の取り組みの費用対効果を高めやすくなる。加えて、アセットの蓄積により人材・スキル不足への対応も容易となる。
これらの再利用機能を継続的に見直しながら、共通項目とナレッジ・人材を蓄積することで、生成AI活用における継続的学習が成立する。

図12 組織的学習機能の構築イメージ

生成AI活用の本格推進に向けて

本稿では、国内大手企業の多くがAIを経営アジェンダに掲げ、AIビジョンやロードマップを策定している企業も一定数に及ぶことを調査結果から述べた。一方、生成AI活用における組織・人材、リスク管理、ROI算出、データ整備、ガバナンスを課題とする企業も多いことが判明している。目的となる企業価値向上や業務効率化を推進するためには、適切な機能を備えるだけでなく、案件の成果と失敗をナレッジ・資産として蓄積し、再利用可能にする組織的学習機能を担うAI CoEを立ち上げることが成功の鍵となる。この学習機能が回ることで、部門ごとの試行が全社の再現性へ転換され、投資の重複を抑えつつ横展開が進みやすくなる。
アビームコンサルティングは、国内有力企業とともにAI CoE立ち上げとAIXをけん引してきた経験を有している。これらの知見に基づき、戦略・実装・統制におけるボトルネックを解消し 、「組織的学習機能」を実効性のある形で組み込む実行力が強みである。単発のPoCにとどまることなく、AIによる経営インパクトを最大化させる全社的取り組みへの昇華を伴走支援によって実現する。

本連載では、組織的学習機能以外の重要機能についても知見と調査結果をもとに掘り下げていく。
第2回では、全社戦略と整合した生成AI活用戦略の策定と実行の要諦を解説する。具体的には、取り組むべき重点アジェンダの特定、重点アジェンダに対する中期的・短期的な戦略への落としこみ、ロードマップ策定、「測定指標」ではなく「組織活動」に資するKPIの定め方を解説する。
第3回では、AI CoE組織で具備すべきアライアンス機能について解説する。生成AI技術や生成AIを活用したビジネスが日々誕生する変化の激しい昨今において、自社に不足し獲得すべき機能をスピーディに見定め、実装することが重要である。そこで、アライアンス時における連携設計、内製との分担、ナレッジ移転、統制などの要諦を解説する。
第4回では、生成AI活用を加速させる社内外へのコミュニケーションについて解説する。市場からの期待や企業価値向上のための外部発信と並行し、各部門で自律的な生成AI活用が進むなど、内部の意識改革を含めて行うことがAI活用を加速させる。そこで、具体的な展開モデルとともに、生成AI活用方針や成功事例や効果をどのように発信していくかべきかを解説する。
次回以降もぜひご覧いただきたい。


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