ビジネスと医療現場をつなぐ「ヘルスケア戦略」 ――アビームコンサルティングが描く異業種参入の筋道

インサイト
2026.01.26
  • 経営戦略/経営改革
  • 新規事業開発
  • 医療・健康・福祉
  • ヘルスケア
株式会社BizMed Consulting 代表取締役 安田英俊氏と、アビームコンサルティング ダイレクター 鈴木将史

ヘルスケアは、多くの企業にとって有望な成長領域と捉えられている。しかし、一方で、現場の医療提供体制は、社会保障費の増大、地域医療の経営逼迫、医療人材不足、制度・テクノロジーの過渡期といった様々な課題に直面している。こうした状況下で、「医療の現場」と「ビジネスの論理」をどう結び付け、「次の一手」を描くのかが問われている。

ヘルスケア領域に関心を持つ異業種の経営層からは、「医療や健康が今後の成長領域であることは理解しているが、何から始めればよいのか分からない」「医療機関との連携や規制対応を考えると、最初の一歩が踏み出せない」との声が聞かれる。
一方、すでに医療・ヘルスケア領域に関わる企業の経営層からは、「これまでと同じやり方では、次の成長ストーリーを描けない」「現場の実態を踏まえた新しいビジネスモデルを、一緒に考えてくれるパートナーがほしい」という本音も聞こえてくるのが現状だ。

こうした現実を前に、異業種・既存プレイヤーの双方が、医療現場と連携も含めた現実的な一歩を模索している。

本稿では、現役医師・医学博士であり株式会社BizMed Consulting代表取締役の安田英俊氏と、アビームコンサルティングのヘルスケアチームを率いるダイレクター鈴木将史が、日本のヘルスケアビジネスの現在地と、異業種参入の“最初の一歩”をどう設計すべきかを語る。途中からは、アビームコンサルティングの医療DXの専門コンサルタントである古道義隆、石間正俊の両名も加わり、ヘルスケアビジネスに不可欠なデジタル戦略をビジネス現場の合意形成にどう活かしていくかを議論していく。

執筆者情報

異業種が直面する「見えない壁」──医療の文脈をどう翻訳するか

──日本のヘルスケア市場に新たに参入しようとする異業種は、どのあたりでつまずくのか

鈴木:海外では、医療データを民間企業が活用して新しい価値を生み出したり、他産業の技術を取り入れてヘルスケアサービスを展開したりする動きがかなり活発です。実際、保険会社やセンシング・デバイス企業など、もともと医療とは距離のあったプレイヤーの参入が加速しています。
一方、日本では技術的には優れたソリューションを持っていても、それを「900万人いると言われる医療従事者と、その先の患者さん」に届けるところに高い壁があると感じています。医療は特有の歴史と文化のなかで発展してきた業界です。他業界と同じ感覚でサービスを持ち込んでも、医療現場の文脈にフィットしなければ受け入れられません。ここをどう翻訳し、橋渡し・最適化するかが、参入の成否を分けます。

安田:私が専門医からコンサルタントに転じ、起業したのも、まさにその「橋渡し」を担いたいと考えたからです。現場の医師120名を対象にアンケートを実施したところ、新しいシステムを導入しても85%が「業務効率化につながらなかった」と答えています。
背景には、現場の潜在ニーズが十分に掘り起こされていないことが挙げられます。医療従事者を相手にするヘルスケアビジネスでは、多職種協働や各種規制等の特有の前提やルールがあり、一般消費者向けビジネスと異なることから、「使ってみたけど、かえって忙しくなった」「本当に必要なところに効いていない」ということが起こりやすい。私は、医療者のインサイトに直接アクセスできる環境をつくることで、医療的にも社会的にも価値のあるビジネスが“産業”として自立していく土壌を整えたいと考えています。

株式会社BizMed Consulting 代表取締役 安田英俊氏 株式会社BizMed Consulting 代表取締役 安田英俊氏

──ヘルスケアは巨大市場に見える一方で“どこで戦うか”が見えにくい

鈴木:ヘルスケアは、一見すると巨大な成長市場に見えますが、実態は「誰の、どの課題を、どのステークホルダーと解くか」をかなり具体的に定義する必要がある領域です。
例えば健康経営一つを取っても、生活者向けか、医療機関向けか、企業向けかで選択肢が全く変わってきます。こうした選択を曖昧にしたまま走り出すと、ターゲットも価値提案もぼやけてしまい、収益化やスケール化の壁にぶつかります。
だからこそ、私たちの役割は、「どのポジションで戦うべきか」「最初の一歩はどこか」を経営層と一緒に整理するところから始まります。

──構想段階から“共に”道筋を描くことが重要

安田:ヘルスケアビジネスに参入したい企業がコンサルタントに求めているのは、「完璧なビジネスモデルの青写真」ではありません。自社に足りない医療側の専門性を補完し、深い領域まで一緒に踏み込んで考えてくれる存在です。
自社の強みをヘルスケアビジネスに展開しようとしたとき、上流の構想は描けても現場への落とし込み方がわからないというケースは非常に多いと感じます。そこで重要なのは、「できないことはできないと言い、できる人に任せる」という割り切りです。ヘルスケアの知見を持つパートナーと組み、現場インサイトに到達するルートを確保することが参入のリスクを大きく下げます。

鈴木:アビームのヘルスケアチームもまさに同じ思想で動いています。私自身の専門性でカバーできないテーマであれば、チーム内外の適切な専門家をアサインします。「自社だけで完結させる」よりも、「できる人を素直に巻き込む」ことが、結果的にクライアントの価値向上になりますし、業界全体の健全な発展にもつながると考えています。

アビームコンサルティングが提供する“初動支援”──課題整理とロードマップ設計

──参入企業に対してアビームコンサルティングはどのような初動支援を行っているのか

鈴木:典型的なパターンは、「ヘルスケアビジネスに参入したいが、どこから検討すべきか分からない」というご相談です。その場合、まずは経営層とディスカッションしながら、次の3つのステップで整理していきます。

①ターゲットと課題・時間軸を定める
「ターゲットとなる生活者・患者・医療従事者は誰か」「ヘルスケア領域のどの課題に、どの時間軸で向き合うのか」を明確化

②自社の強みと参入ポジションの選択肢を描く
「自社の強みがどこで効くのか」を棚卸しし、取り得る参入ポジションの選択肢を共に描く

③前提条件とリスク・協業先を可視化する
「規制・医療制度・現場運用・データ・契約・ガバナンスといった前提条件」を洗い出し、「どこにリスクが潜んでいるか」「誰と組めば補えるか」を整理

そのうえで、「1〜2年で到達すべき状態」をゴールにロードマップを描きます。具体的には、初年度は限定した領域・パートナー・医療機関と小さく始め、そこで検証した成果と学びを次のステージにどう横展開していくかまでを一つのセットとして設計します。

アビームコンサルティング ダイレクター 鈴木将史 アビームコンサルティング ダイレクター 鈴木将史

安田:重要なのは、この初動フェーズで「医療側のリアリティ」を十分に織り込んでおくことです。日本は、人口対病床数では世界でも高い水準にあるのに、患者さんが必要なときに必要な医療を受けられていない場面がある。医療従事者の負荷も高く、給与や地位も相対的にじわじわ下がってきている。そうした現実を直視したうえで、「このビジネスは現場にとって本当に意味があるのか」「医療者が幸せに働ける環境づくりに貢献しているか」を問い続け、ビジネスに織り込み続けることが、長期的には事業の持続可能性を高めます。

健康経営・SaMD・治療アプリ──ヘルスケアビジネスの“筋の良し悪し”

──ヘルスケアビジネスの“筋”をどこで見極めるべきか

安田:健康経営関連のソリューションを例にすると、多くの企業はまず「to C(消費者向け)」を考えるかと思います。「人々の健康増進に貢献したい」という思いから、個人向けアプリやサービスを提供しようとします。しかし、多くの人は「まだ病気ではない状態」にお金を払う投資インセンティブは弱く、マネタイズに苦戦します。そこで次に病院向けのサービスを展開しようとするかもしれませんが、日本の病院の多くは赤字体質で、新しい取り組みに投資する余力が限られています。さらに病院ごとに運営事情も異なり、それぞれの病院ごとに営業して回る必要があることから、スケールメリットを得られにくい可能性があります。

このようなさまざまな検討の末に、多くの企業が「BtoB(企業向け)」や「福利厚生」の分野に行き着きます。しかし、この分野では「投資対効果」をしっかりと説明できる力が求められます。企業の健康への投資を単なる“コスト”ではなく“戦略的な投資”として認識してもらうためには、どの指標を用いてどのような効果が期待できるのかを明確に設計する必要があります。そのノウハウがない場合、導入されにくいのが現状です。ここで、ヘルスケア分野と企業経営の両方を理解したコンサルタントの役割が重要になります。

鈴木:もう一つ、ビジネス市場としての可能性が大きいと感じているのが、医療機器やSaMD(Software as a Medical Device)のような、医療的な信頼性を備えたプロダクトビジネスです。海外では治療アプリとして一般化しつつあり、企業の健康経営プログラムに組み込む動きも出てきています。ただし、日本で展開するには、薬機法や診療報酬制度、医師の処方プロセスなどを踏まえた設計が必要です。ここでも、技術やビジネスモデルを医療現場の文脈に翻訳し、どのルートで社会実装するかを描く支援は重要になっています。

“翻訳”と“合意形成”で価値を社会実装する

──価値を社会に実装する上で最も重要な視点は何か

鈴木:私たちが意識しているのは、クライアント企業を成功させるだけでなく、業界全体がより良く変わっていく筋道をつくることです。ヘルスケアのように公共性が高い領域では、一部のプレイヤーだけが得をする構造は長く続きません。我々は、さまざまな人や組織をつなげてシナジーを生み、その結果として医療の質も持続可能性も高まっていく状態を目指しています。
そのためには、資料を一つ作るだけでも、医療現場、経営層、行政、異業種プレイヤーそれぞれの言葉で語りつつ、「なぜこの取り組みが必要なのか」「何が変わるのか」を丁寧にすり合わせ、ゴールとプロセスを正確に合意形成する必要があります。ここが、ヘルスケアに特化したコンサルティングの腕の見せどころです。

安田:コンサル会社を選ぶ基準として、私が重視したのは「医療とビジネスの間に立ち、業界全体を良くしようとしているか」という観点でした。クライアント企業の売上拡大だけを見ていると、医療者や患者さんの視点が抜け落ちてしまうことがあります。ヘルスケアコンサルティングでは、「誰のための変革なのか」を常に問い続ける姿勢が不可欠だと感じています。

DXは目的ではなく「変革の手段」──小さな成功体験から合意形成へ

──DXを“現場で機能する変革”にするために何が必要か

新しいシステムや仕組みを現場に根付かせるためには、合意形成が欠かせない。その代表的な取り組みの1つが、デジタル技術を活用した医療DXである。ここからは、医療DXのプロジェクトを数多く支援してきた石間正俊、古道義隆も議論に加わり、DXをいかに“現場で機能する変革”として実装していくかを掘り下げていく。

石間:医療DXという言葉が広く使われるようになっていますが、「業務をデジタル化すること」と「DXによって何かを変えること」は別物だと考えています。デジタルはあくまで手段であり、本質は「現場と経営の行動や意思決定がどう変わるか」です。私たちは、長年ヘルスケアの現場に携わってきたメンバーが多く、「誰がどこで困っているのか」を具体的に描きながら、デジタルの使いどころを含めたDXの構想と実装を支援しています。

アビームコンサルティング マネージャー 石間正俊

アビームコンサルティング マネージャー 石間正俊

古道:私自身も、これまでの経験で「システムを導入したら、逆に忙しくなった」といった声を何度も耳にしてきました。そのため、私はツールを導入するだけでなく、「使い方までしっかりサポートする」ことを重視しています。現場が「本当に楽になった」と感じるような小さな成功体験を早い段階で積み重ね、それをきっかけに合意形成や横展開、ビジネスの成長ステップへと進めていくことが、DXを前向きに推進し、ヘルスケアビジネスの拡大にもつながる現実的な方法だと考えています。 

アビームコンサルティング シニアマネージャー 古道義隆

アビームコンサルティング シニアマネージャー 古道義隆

医療者が幸せに働ける環境をつくる

──現場の声をどう変革に結びつけるべきか

安田:そうですね。医療DXに限らず、ヘルスケアの変革は、現場の声をどこまで深く汲み取れるかで決まると思っています。キーオピニオンリーダーの意見だけでは、必ずしも現場のトランスフォーメーションは起きません。実際に患者さんを診ている医師や看護師、事務スタッフの声をすくい上げ、「その病院なりの、あるべき姿」を一緒に言語化していく。そこから逆算してソリューションや仕組みを設計することで、初めて意味のある変化が起きます。

鈴木:私は、「医療従事者が幸せに働ける環境をつくれば、医療は必ず良くなる」と考えています。医療従事者の給料や地位が下がり続けると、若い世代が医療の世界を目指さなくなってしまう。そうなれば、患者さんが安心して医療を受けられる土台そのものが揺らぎます。だからこそ、データ活用や業務効率化の議論も、「最終的に医療従事者と患者さんにどんな良い変化をもたらすのか」という視点から設計したいのです。

株式会社BizMed Consulting 代表取締役 安田英俊氏と、アビームコンサルティング ダイレクター 鈴木将史

アビームコンサルティングのヘルスケアチームが提供する価値

──アビームコンサルティングはヘルスケア領域にどのような価値を提供できるのか

鈴木:当社のヘルスケアチームは、ヘルスケア領域に特化してきた戦略コンサルタントを中心に、医療DXやサイバーセキュリティ、医療情報・個人情報保護の法制度といった専門性を持つメンバーで構成されています。製薬・保険・不動産・商社・ITなど多様な業界での経験もあり、そうした知見を医療現場の文脈に合わせて翻訳しながら、戦略立案から実行までを支援しています。
「ヘルスケアで何かを始めたいが、最初の一歩がどこか分からない」「構想はあるが、医療現場への落とし込み方に不安がある」といった段階からご相談いただくケースも多く、課題整理やロードマップ設計、小さな成功体験づくり、現場との合意形成といった初動フェーズを一緒に伴走していくことが私たちの役割です。我々が旧来から掲げる「Real Partner®」という考え方の通り、構想づくりだけでなく、価値が現場に届くところまで責任を持って支援していきたいと考えています。

安田:医療の現場とビジネスの世界の両方を知る立場から言うと、ヘルスケアにはまだまだ「もったいない」取り組みがたくさんあります。現場の声が十分に反映されていないがゆえに成果が出ていない施策、医療従事者の知見が事業に生かされていないケースです。

だからこそ、これからヘルスケアに挑戦する企業には、「医療者ときちんと対話し、インサイトにアクセスできるパートナー」と組んでほしい。アビームのように、専門性の異なる人材とネットワークを束ねてプロジェクトを進められるチームは、その意味でとても心強い存在だと感じています。

ヘルスケア戦略を、共創で前へ(まとめ)

ヘルスケア戦略は「価値設計」「翻訳」「合意形成」「実装・定着」という一連のプロセスとして成立する。
アビームコンサルティングのヘルスケアチームは、これからも多様なパートナーと協働しながら、ヘルスケア領域における新たな価値の社会実装を進めていく。異業種からの新規参入、既存事業の再構築、健康経営やデータ活用の高度化など、「ヘルスケアで何かを始めたいが、自社にとって最初の一歩がどこか悩んでいる」と感じている方は、まずはお気軽にご相談いただきたい。最初の一歩の設計から、小さな成功体験の積み重ね、スケールの実現まで、私たちが「Real Partner®」として伴走する。


Contact

相談やお問い合わせはこちらへ