生成AI活用によるマーケティング業務の自動化とは

インサイト
2024.06.28
  • マーケティング/セールス/顧客サービス

生成AIの活用はビジネス環境に大きな変化をもたらすことが期待されている。マーケティング領域において、生成AIはどのような変化をもたらすのか。今回、アビームコンサルティング株式会社 ダイレクターの加治 達也、アドビ株式会社 専務執行役員の松山 敏夫氏の2名が、生成AIを活用したマーケティング業務の自動化をテーマにして議論を交わした。

マーケティング業務の課題

─マーケティングの自動化について検討されることになったきっかけを教えて下さい。

加治:アビームコンサルティング株式会社は、CXやマーケティング領域に限らず、戦略立案・構想策定から業務改革・設計、システム開発・導入までを一貫して手掛けています。

今回の取り組みのきっかけですが、我々はクライアントである航空会社様のマーケティング業務改革を検討していました。マーケティング業務は、大きく分類すると、戦略、施策、評価の3つに分けられます。戦略を策定し、施策を立案・実行して、評価する。シンプルに聞こえますが、現実には膨大なタスクが存在し、それを実行するための専門的な人材が必要ですが、充分ではありませんでした。既存の要員で日々の業務を回しながら、品質や効率を高めることはクライアントの社員一人ひとりにとっては大きな負担になっていました。

航空会社の場合、利用客はもちろん、エアライン市場を取り巻く外部環境についてデータ収集・分析して戦略を策定します。例えば、外部環境分析の結果、インバウンド需要の回復に伴って、コロナ禍の戦略から方向転換し、外国人旅行客をターゲットとして売上拡大を決定したと仮定します。

次に、戦略に合わせて施策を変更する必要があります。航空券の予約から実際に飛行機に搭乗し、空港を去るまでの流れの中で提供するサービスや商品の開発、デジタルを活用したセールスプロモーション施策までの全てに対して、施策を用意することになりますが、外国人旅行客という単一のセグメントでは効果的なコミュニケーションはできないので、セグメントを細分化し、施策を用意することになります。

各施策の実施に伴って、スピーディに評価・分析を行い、マネジメントへ報告する必要がありますが、結果と同じくらい原因分析と改善策の立案が重要になります。

マーケティングに携わる方であれば、この全てのサイクルを少人数で実行することが、どれほど大変なことなのか容易に想像いただけると思います。

─AI等のテクノロジーを活用し、データ分析を通じた深い洞察の取得が求められるようになり、マーケターの業務はさらに増加しています。

加治:どのチャネルで、どのセグメントのどのようなユーザーがどう反応したのか、また、カスタマージャーニー全体でみたときに、どの施策が最も売上に貢献したのかをスピーディに分析することに加えて、マーケティング施策の効果最大化に寄与する深いインサイトの獲得も期待されています。

しかし、専門知識を有する人材の採用や育成、また、高度なマーケティングを実行する仕組みを構築・運用することには限界があります。今、私のチームが取り組んでいるのは、クライアントのマーケティング業務のプロセスを深く理解し、テクノロジーと組み合わせて、クライアント社員が行っているマーケティング業務を高速化・自動化することや、制作会社等に外注されている業務を内製化した上で無人化することです。

アビームコンサルティング加治 アビームコンサルティング株式会社 Director 加治 達也

アビームコンサルティングが考えるマーケティング業務の自動化

─どのようにマーケティング業務の高速化・自動化を検討されたのでしょうか。

加治:航空会社様の事例では、戦略、施策、評価の各業務を整理したうえで、どこがボトルネックになっているかを議論しました。

マーケティング戦略を立案する業務プロセスでは、激しく変化する外部環境を分析し、売上増につながる新たな顧客セグメンテーションの発見が難しいといった「情報収集・分析・企画」にボトルネックがありました。施策の立案・実行の業務プロセスでは、データに基づき費用対効果を最大化するキャンペーンの企画・運用、個客のニーズに対応した施策パターンの設計・実行することなど、「工数」に関連する問題が多くありました。また、マーケティング評価の業務プロセスでは、考慮すべき変数が増えており、スピーディな要因分析や改善策の立案が難しいという問題が明らかになりました(図1)。

マーケティング業務の課題と生成AIを活用した解決策(事例:航空業界) 図1 マーケティング業務の課題と生成AIを活用した解決策(事例:航空業界)

こうした問題を特定した上で、ボトルネックとされる業務の高速化・自動化を実現する方法がないかチーム内でディスカッションを重ねた結果、文章生成AIや画像生成AIなどの技術を活用すれば、マーケティング業務を自動化することにつながると考えました。

クライアント社内では、従来リスクの観点から生成AI活用に踏み切ることが難しかったですが、生成AIに投入する内部データを秘匿化することで、情報漏洩リスクを低減することができます。自社データ基盤を構築するのが難しいというお客様でも、リスクに配慮して導入いただくことが可能です。

― アビームコンサルティングが考えるマーケティング業務の自動化についてお聞かせ下さい。

加治:当社は、コンテンツサプライチェーンの自動化に留まらず、「広告代理店や制作会社等に外注している業務の内製化と内製化した業務の無人化」をはじめ、マーケティング領域全体を対象とした業務の自動化・高度化の実現を目指しています(図2)。

アビームコンサルティングが目指すマーケティングの自動化 図2 アビームコンサルティングが目指すマーケティングの自動化

アドビが有する生成AI技術による解決策

─アドビが持つ生成AI技術ソリューションについてご紹介下さい。また、マーケターにとってどのようなメリットがあるでしょうか。

松山:アドビは、生成AIを利用してマーケティング部門がブランドに即したコンテンツを迅速にプランニング、制作、管理する製品である「Adobe GenStudio」を2024年のAdobe Summitで発表しました。Adobe GenStudioは、生成AIを活用して、マーケターがネイティブに統合されたワークフロー全体でコンテンツを迅速に立案、制作、配信、アクティベーション、分析できるようにします。時間やコスト増が負担となるコンテンツニーズに対する課題は、ブランド素材で学習した生成AIの活用に加え、自動化のために最適化されたテンプレート等の活用により、ノンデザイナーが簡単にクリエイティブの製作を行うことが可能になります(図3)。

マーケティングコンテンツの作成を高速化するオールインワン製品 図3 マーケティングコンテンツの作成を高速化するオールインワン製品

Adobe GenStudioは、直観的な操作により、さまざまなチャネルをまたいでマーケティングキャンペーンを展開するために必要なあらゆるツールを備えています。生成AIを活用して、マーケターや各チームが、ブランドのガードレール内で、高品質のコンテンツをセルフサービスかつ迅速に制作できるようにします(図4)。

生成AIを基盤とした直感的な制作ツールとの連携 図4 生成AIを基盤とした直感的な制作ツールとの連携

また、生成AIを使用してテキストや画像をレビューし、コンテンツがブランドガイドラインや製品ドキュメントを遵守し、ターゲット顧客に適していることを確認することもできます。

― 今年3月には、Adobe Summit 2024で生成AI時代の顧客体験管理(CXM)の未来像を発表されました。

はい。Adobe Experience CloudとAdobe Creative Cloudのイノベーションは、統合された顧客データに基づくインサイトを提供し、パーソナライズされたコンテンツの制作を大規模に行い、カスタマージャーニーのオーケストレーションで顧客エンゲージメントを向上させることにより、生成AIの活用によるビジネス価値を押し上げます。

今回発表した「Adobe Experience Platform AI Assistant」は、顧客体験を提供する担当者の生産性を向上し、対話型インターフェイスを通じて広範なチームへのアクセスを民主化し、新しいアイデアを引き出すことを可能にします。

また、B2CおよびB2Bの企業が、カスタマージャーニーのオーケストレーションを強化し、タイムリーかつパーソナライズされた顧客体験を提供することができるJourney Optimizer機能も発表しました。 アドビの商用利用可能なクリエイティブ生成AIモデルファミリーであるAdobe Fireflyに追加された新機能「構成参照」は、ユーザーに新たなレベルのクリエイティブコントロールをもたらします。

ABeam×アドビのコラボレーションによって創造できる未来の姿

― アビームコンサルティングとアドビのパートナーシップにより、どのようなマーケティングの未来を目指していくのでしょうか。

松山:アビームコンサルティングとのパートナーシップとAdobe Experience Cloud製品群が提供する価値によって、コンテンツサプライチェーンの自動化に留まらず、より広範囲なマーケティングの変革を目指したいと考えています。それにより、目の前の業務に忙殺されるのではなく、生み出した余力により、未来思考で新たなイノベーションを企画する人材が増えるのではと考えています。

加治:当社が持つ強みである「バリューチェーン全体の変革を伴走型で支援できるユニークなケイパビリティ」と、アドビの実績と技術を組み合わせることで、生成AIがもたらすパラダイムシフトを、クライアント企業様とアビームコンサルティングとアドビが一体となり、自らの手で切り開いていきたいと考えています。

さらに、特定企業の変革に留まらず、社会や地域を「顧客」とみなした広範囲なマーケティング(=エリア価値共創の取り組み)へ発展させていきたいと考えています。

アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 専務執行役員 事業本部長 松山 敏夫氏

松山 敏夫 氏
アドビ株式会社
デジタルエクスペリエンス事業本部 専務執行役員 事業本部長

30年以上にわたり、IT業界で要職を歴任。市場開拓の戦略を立案・遂行、強力な営業組織の構築、データに基づく効果的な販売戦略を実行するとともに、パートナー企業とのエコシステムの構築でも実績を収めている。2022年6月にアドビに入社し、日本市場のDigital Experience事業を統括している。前職のVAIO株式会社では、Executive Vice President(取締役)として、コンシューマ中心のビジネスから法人ビジネスへのシフトへと事業の成長を牽引。またそれ以前はIBM Japanでチャネルアライアンスビジネス全体のSales DirectorとしてSIer, コンサルティングファームなどとのビジネスをリードした経験を持つ。さらにHP Japanでエンタープライズセグメントの営業部門を統括し、営業部門のパフォーマンス全体の強化にも貢献している。

加治 達也
アビームコンサルティング株式会社
Director

製造・流通業をはじめ、銀行/保険、運輸、メディアなどの幅広い業界のクライアントに対し、マーケティング、セールス、カスタマーサービスといったCRM領域を専門として、20年以上のコンサルティング経験を有する。最近では、大規模プロジェクトのマネジメントに加え、新規事業の立ち上げ、新しい顧客体験の創造を目的としたサービスデザイン、統合顧客データ分析、ポイントプログラム、デジタルコマース、デジタルマーケティング等の戦略立案、プロセス改革、システム導入のプロジェクトに従事し、戦略×テクノロジーのハイブリッドなコンサルティングの経験多数。顧客中心主義経営に関するコンサルティングサービス開発のリーダーも担っている。


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