まず「人的資本経営」とはどのようなものなのだろうか。企業経営における有形の経営資源としては「ヒト・モノ・カネ」が挙げられるが、この中でも「ヒト」の部分を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげるのが、人的資本経営の考え方である。
人的資本経営が一般的になる以前にも、「人的資源」という言葉は存在した。資源がいつかは枯渇するものであるのに対し、資本は中長期的な成長が見込めるという点に違いがある。「人的資本」とは、具体的には「企業の従業員が身につけている技能」「経験」「人的なネットワーク」などを指す。従来は個人の努力や自己研鑽の範疇とされていた部分についても、企業として投資する対象となりつつあるのだ。
では、「人的資本に対しての投資」とは具体的にどのようなものなのか。その例のひとつが、昨今必要性が叫ばれている、従業員の「リスキリング(Reskilling)」である。リスキリングとは、簡単に言うと「働くために必要な知識やスキルを習得・学び直しする(させる)こと」を意味する。近年では特に、デジタル化と共に生まれ変わるであろう職業や、大幅な変化が起こるであろう職業に従事するためのスキル習得を指すことが多い。
一方で、リスキリングは数ある「人的資本に対しての投資」の中の一施策に過ぎない。「人的資本に対しての投資」には、経営戦略や人事戦略に基づいた従業員の能力開発、従業員のエンゲージメント向上施策、多様な人材が活躍できる環境や制度の整備など、人的資本の価値を最大限に引き出すための幅広い取り組みが含まれる。