顧客理解から始めるブランドコミュニケーション ──価値を設計し、戦略へつなぐための「ブランド提供価値規定」

インサイト
2026.07.27
  • 消費財
  • 顧客体験創出による事業成長
  • CX(マーケティング/セールス/サービス)
  • 経営戦略/経営改革
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事業・製品・サービスを取り巻く環境が複雑化する中で、ブランディングにおいても「何を伝えるか」だけでなく、「どの価値を、誰に届けるのか」という設計そのものが、これまで以上に求められている。
本インサイトでは、製品・サービスのブランドコミュニケーションの出発点となる「ブランド提供価値規定」に焦点を当て、その重要性と設計のポイントを整理する。顧客理解を起点にブランド提供価値を定義し、戦略や施策へと一貫してつなげるための考え方とプロセスを、フレームワークと事例を交えながら解説する。

執筆者情報

  • 清水 慶尚

    清水 慶尚

    Principal
  • 澤田 憲一

    渡邊 丈祐

    Director

ブランドコミュニケーションが直面する環境変化

事業・製品・サービスを取り巻く市場環境は、年々その複雑さを増している。成熟市場における競争の激化や製品・サービスのコモディティ化により、「良いものをつくれば売れる」という前提は、多くの市場で成立しなくなっている。

こうした環境変化の中で、改めて重要性を増しているのがブランディングである。なお、本インサイトで扱う“ブランディング”は、企業イメージなどのコーポレートブランディングを指すものではなく、事業・製品・サービスといった「提供する価値そのもの」を対象とするブランドコミュニケーションの領域を指す。

この変化は単なるマーケティング上の課題にとどまらない。顧客に選ばれる理由を設計できない企業は、価格競争に巻き込まれ、収益性や成長余地そのものを毀損するリスクを抱える。すなわち、ブランドコミュニケーションは事業競争力を左右する経営テーマになっている。

ブランディングが重要性を増している背景には、大きく二つの構造変化がある。一つ目は、市場のコモディティ化である。機能や性能といった分かりやすい差別化要素は短期間で模倣され、顧客に選ばれる理由は「何ができるか」から、「それによって何が得られるのか」へとシフトしている。

二つ目は、製品・サービス、そして顧客の複雑化である。製品・サービスの高度化・多機能化が進み、一つの製品やサービスが複数の利用シーンや意味を内包するようになった。また、同時に顧客も多様化し、かつてのように「この商品はこの顧客向け」と単純に定義できる市場は少なくなった。例えば、コンビニやスーパーで販売している機能性食品でも、食事代替・間食・運動時の栄養補強など、複数の利用シーンが存在する。一つの製品・サービスに対して、複数の顧客セグメントが存在し、それぞれが異なる期待や判断軸を持っている。

このような市場環境では、提供側の意図した価値と顧客が実際に感じ取る価値の間にズレが生じやすく、顧客の文脈と整合しなければ十分に伝わらない。

こうした状況下で、もはやブランディングは「価値をどう表現するか」の話にとどまらない。誰に、どの価値を、どのような順序で届けるのかを整理し、顧客に選ばれる状態を意図して実現するための設計行為として捉え直す必要がある。それは、コミュニケーションの最適化にとどまらず、事業の競争力を高めるための戦略的な取り組みである。

「伝えているのに、伝わらない」ブランディングの課題

多くの企業が、ブランディングの重要性を十分に認識している。一方で、「製品やサービスの魅力を発信しているはずなのに、市場での反応が得られない」「機能や強みを訴求しているが、売上や認知拡大につながらない」といった悩みを抱えるケースは少なくない。この背景には、ブランドコミュニケーションにおける共通の課題が存在する。

代表的なのが、「機能」と「価値」の混同である。例えば、新規事業や新サービスの立ち上げにおいては、開発者や事業担当者が製品の機能や技術に精通しているがゆえに、「この機能があること自体が価値である」と捉えてしまうことが多い。しかし、顧客にとって重要なのは、その機能によって何がどう良くなるのかという体験価値であり、それが伝わらなければ関心は生まれない。結果として、「伝えているのに伝わらない」「正しいことを言っているはずなのに成果が出ない(売れない)」という状態に陥る。上記は一般消費者向け商材を例としているが、企業向けの商材でも同様である。

また、既存事業・既存サービスにおいては、別の形のズレが生じやすい。自社では「これが強みだ」「この点が評価されているはずだ」と認識していても、実際に顧客が選択理由として挙げているポイントは異なる場合がある。例えば、あるIT企業では、自社の技術力こそが選定理由だと考えていたが、実際には「導入後も伴走し、現場で使い切れるよう支援してくれること」が評価されていた。この場合、訴求すべき価値は単なる技術力の高さではない。「顧客がシステムの機能を最大限に活用できるよう支援する」という体験価値こそが、本来伝えるべき価値だったと言える。

このようなズレは決して特殊な事例ではない。問題の本質は、製品やサービスを「自社の視点」だけで捉え、その前提を疑わないまま価値を定義してしまう点にある。自社の常識や過去の成功体験を基準に価値を語ると、顧客が実際に見ている世界との間に、知らず知らずのうちに乖離が生じる。こうしたズレが意識的に把握されないまま蓄積されていくケースも少なくない。コミュニケーション施策の成否を「売れた・売れなかった」「反応があった・なかった」といった表層的な結果でしか検証できず、その結果、なぜ伝わらなかったのか、どこにズレがあったのかが整理されないまま、施策だけが積み重なっていく。市場の細分化が進む現在においては、この問題はさらに顕在化しやすい。

ここで重要になるのが、「顧客の視点」で自社の製品・サービスを見つめ直すことである。
顧客は何を目的にそれを選び、どのような文脈で価値を感じているのか。その視点に立って初めて、伝えるべき価値を整理し、言語化するための出発点が見えてくる。

ブランディングの設計図となる「ブランド提供価値規定」

ブランドコミュニケーションを検討する際、出発点となるのは、「ブランド提供価値」を明確にすることである。

ブランド提供価値の規定とは、ブランディングの設計図にあたるものである。「この製品・サービスを通じて、顧客はどのような価値(便益)を得られるのか」という体験価値を明確な言葉で定義し、それを起点に以降のすべてのブランドコミュニケーション施策が組み立てられていく。

ブランディングにおいて重要なのは、「機能」を伝えることから、「価値」を伝えることへと視点を切り替えることだ。機能とは、製品やサービスが備える特徴や性能である。一方、価値とは、それらの機能によって顧客にもたらされる便益や体験である。ブランド提供価値規定では、まず価値を定義する。その上で、「その価値は何によって実現されるのか」という裏付けとして、機能を整理していく。機能は主張すべき目的ではなく、価値を成立させる根拠として位置づけられる。

価値が何であり、その価値がどのような要素によって実現され、結果として顧客がどのような便益を得るのか。この関係性を言語化し、構造として整理することが、ブランド提供価値規定の中核となる。その前段として必要になるのが、外部視点からの製品・サービスの強みの棚卸しと、「顧客を的確に捉える」ための調査である。

ここで言う「顧客を的確に捉える」とは、単に属性や利用シーンを把握することではない。顧客がこの製品・サービスを通じて「何を実現したいのか」「どのような目的を持っているのか」を捉えることである。BtoCであれば生活の文脈の中で、BtoBであれば事業活動の中で、どのような役割を果たしているのかを丁寧に分析していく必要がある。

一方で、自社の製品・サービスを外部視点で捉えることは、容易ではない。事業活動の中で、知らず知らずのうちに「こういうものだろう」という認識が固定化し、本来は変数であるはずの前提を定数として扱ってしまう。顧客が何を価値と感じるかは変化し得るにもかかわらず、「顧客はこのように判断するはずだ」という思い込みが検証されないまま残り、価値定義が更新されにくくなるリスクは常に存在する。

だからこそ、顧客理解を改めて検証し、前提を更新するために、外部視点を取り入れる意義が生まれる。調査・分析を通じて市場特性を見極め、顧客と事業の関係性を構造的に整理する。その上で、緻密な論理構造に基づき価値を言語化していく。ブランド提供価値規定とは、単なる考え方ではない。ブランディングの設計図を描くための、実践的な思考とスキルの集合体と言える。

ブランド提供価値規定のフレームワーク

前章で述べた通り、プロダクトブランディングの出発点となるのは、ブランド提供価値規定という「設計図」を描き切ることである。本章では、その設計図をどのようなプロセスで構築し、戦略へと落とし込んでいくのかを整理する。

ブランド提供価値規定は、顧客理解と事業理解を行き来しながら、論理的に積み上げていく必要がある。そのために用いるのが、ブランド戦略設計のフレームワークである。このフレームワークは、大きく「Research(調査・分析)」「Consideration(検討・精緻化)」「Planning(戦略立案)」という3つのフェーズで構成される(図1)。

図1 ブランド戦略設計の3つのフェーズ

調査・分析|顧客を的確に捉えるための調査・分析

最初のフェーズは、調査・分析である。ここで行うのは、単なる市場データの収集ではない。市場全体の構造を捉え、顧客を正しく切り分けることが目的となる。

重要なのは、「顧客は誰か」を一面的に定義しないことだ。多くの市場では、一つの製品・サービスに対して、複数の顧客タイプが存在する。それぞれが異なる目的や課題を持ち、異なる文脈で価値を判断している。このフェーズでは、顧客をセグメンテーションし、それぞれが「何をやりたいのか」「なぜそれを求めているのか」というインサイトまで掘り下げていく。表層的なニーズではなく、行動や選択の背景にある目的を捉えることが不可欠である。

また、どの切り口で顧客を分けるかは、市場特性によって異なる。機能重視で分けるべき市場もあれば、利用シーンや価値観で分けた方が本質が見える市場もある。こうした切り分けは経験と分析の積み重ねによって磨かれる領域であり、調査・分析のノウハウが問われる部分でもある。

検討・精緻化|提供価値を精緻化するワークショップ

次のフェーズが、提供価値を精緻化する段階である。まさに価値を結晶化する段階であり、ワークショップなどの集中討議の形式で、膝づめで議論・検討を行う。調査・分析によって見えてきた顧客像を前提に、「誰に、どの価値を約束するのか」を具体的に定めていく。このプロセスが、ブランドコミュニケーション全体の要となる。ここで定める方針が、その後のコミュニケーション戦略や施策展開の前提条件となり、全体の方向性を規定する。

ワークショップには、事業部や開発、マーケティングなど、関係者が参加する。立場や役割が異なれば、製品・サービスに対する見方も異なる。だからこそ、議論を整理し、視点を揃えながら合意形成を図るファシリテーションが重要になる。
このフェーズでは、「○○すべき(必ず満たすべきこと)」「○○したい(目指したい方向性)」「○○できる(現実的にできること)」といった視点を行き来しながら、過不足のない価値定義を行う。顧客視点を重視する一方で、売り手としての思いや戦略的意図を置き去りにしないことも欠かせない。

ここで曖昧さが残ると、後続の施策でズレが生じる。逆に、この段階で設計図を精緻に描けていれば、コミュニケーション戦略は一貫性を持ち、実行段階での判断も容易になる。

戦略立案|コミュニケーション戦略への落とし込み

最後のフェーズが、コミュニケーション戦略の立案である。ブランド提供価値規定を起点に、顧客へのブランディングに向けた情報発信の目標を設計。ターゲット別に獲得したいパーセプション(認知)を明確にしたうえで、そのために伝えるべき顧客への提供価値と強みを紐づけ、どの接点で、またどのようなステップで伝えていくのかを具体化する。
併せて、それらの発信の効果測定に向けたKPIを設計する。
重要なのは、このフェーズが「表現を考える場」ではなく、「設計図を忠実に具現化する場」であるという点だ。前段の設計が適切であれば、表現は自然と定まる。逆に、設計が曖昧なままでは、どれだけ魅力的な表現を用いても、ブランドとしての一貫性は生まれない。

ブランド提供価値構造を精緻化する

ブランド提供価値規定は、単一のメッセージを定めること自体が目的ではない。重要なのは、ブランドが約束する価値を構造として捉え、その全体像を共有可能な形で可視化することである。

例えば、中堅中小企業向けCRMシステムのSaaSソリューション事業を例に、ブランド提供価値規定を考えてみたい(図2)。

図2 ブランド提供価値構造の整理例

この事業が目指す姿は、「戦略的営業変革のパートナー」である。単に使い勝手の良いシステムを提供するのではなく、中堅中小企業のビジネスに対するインサイトや業種別の営業ノウハウを反映し、ソリューションがアップデートされ続けるSaaSを提供することで、顧客は営業プロセスそのものを変革できるという価値が得られる。また、単に高機能というだけでなく、実際に現場で利用する営業担当者にとって直感的で使いやすいインターフェースが実装されていれば、特別な学習を要することなく利用でき、操作にかかる時間の削減にもつながる。さらに、システム自体の使い心地が良く、自然と触りたくなるような設計がされていれば、結果の入力や活用が促進され、利用定着という価値も実現しうる。

このように、顧客が最終的に得られる価値は何か、そしてそれがどのような特長や機能によって実現されるのかを、顧客のベネフィットとサービスの要素を行き来しながら定義していくことが重要である。

顧客への提供価値と、それを支える具体的要素を構造として捉えることで、事業全体の価値設計や情報発信に一貫性を持たせることが可能となる。一方で、ブランディングの現場では、とかくメッセージやクリエイティブの表現そのものに注目が集まりがちである。しかし、本来重要なのは、単に伝えたいメッセージを発信することではない。「トップラインの向上のために、どのような認知を形成することが最も有効か」「そのために、どの提供価値を優先的に伝えるべきか」という戦略的判断基準として機能する点にこそ、このアプローチの本質的な意義がある。事業戦略や競争戦略の視点を持ち、その重要な実現手段としてブランディングを位置づけ、体系的に展開していくことが求められる。

さらに、この設計図はコミュニケーション施策にとどまらない。商品構成の見直しや新たな商品の開発、現場オペレーションの改善といった意思決定においても、「この取り組みは、どの価値を強化するものなのか」という共通言語を提供する。ブランド提供価値規定を「設計図」と呼ぶのは、このためである。価値構造が明確であれば、施策の優先順位や投資判断に一貫性が生まれ、組織内の議論も前に進む。こうして描かれた設計図が、その後のブランドコミュニケーションを戦略として機能させるための基盤となる。

「顧客」を共通言語にするブランディングの意義

最後に、ブランド提供価値規定のプロセスにおいて重要な点として、「顧客」を共通言語として戦略を捉え直すことの意義に改めて触れておきたい。

ブランドコミュニケーションの策定においては、一見完成度の高いアウトプットでも、戦略や施策に十分に活かされず一貫性を欠いてしまうケースは少なくない。一方で、ブランド提供価値規定のプロセスを通じて整理された概念やメッセージが、戦略や意思決定の場面で継続的に参照され、実務の中で機能し続けるケースもある。両者の差は、「顧客の視点」で調査・分析を行い、自社の提供価値をどれだけ丁寧に捉え直しているかにある。

顧客調査や分析を通じて、顧客の目的や判断軸が具体的に共有されている組織では、「顧客はこの状況でどのように考えるのか」「この文脈では、どの価値が意味を持つのか」といった会話が自然に成立する。そうした共通認識があることで、「では、自分たちはどうあるべきか」という議論も、感覚論ではなく一定の根拠を持って進めることができる。

その結果、コミュニケーション戦略に限らず、商品開発や営業活動、現場オペレーションに至るまで、判断基準が揃いやすくなる。個々の施策や判断が個別最適に陥ることなく、事業としてどの価値を強化すべきか、という観点から整理されるようになる。

顧客を共通言語として捉え、価値の定義を継続的に更新していくことが、ブランドを考える上での前提となる。その積み重ねが、結果として顧客に選ばれ続ける状態につながっていく。

おわりに

本インサイトで整理した「ブランド提供価値規定」は、ブランドコミュニケーションの起点であると同時に、事業戦略・プロダクト戦略・顧客体験設計・施策実行を一貫してつなぐための基盤である。一方で、顧客理解の深度、価値の言語化の精度、社内での合意形成、そして運用・改善の仕組みまでを揃えなければ、定義した価値が現場で形骸化してしまうケースも少なくない。

アビームコンサルティングは、クライアントの変革を実現する“Real Partner®”として、顧客起点のアプローチを重視し、顧客ニーズ分析や市場競争力評価などにもとづくマーケティング基本戦略の策定から、ブランド価値・顧客ロイヤリティ向上までを一貫して支援している。
さらに、顧客戦略の策定に加え、組織変革やテクノロジー導入を含む改革の実現、グローバル展開までを支援し、構想策定にとどまらず実現まで確実に導くことを強みとしている。また、AIをはじめとする先端テクノロジーを活用し、顧客データの分析や仮説構築を高度化することで、戦略立案から施策実行までの精度とスピードを高めている。
本テーマに関して興味のある企業担当者の方はぜひお問い合わせいただきたい。


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