サマリー:世界経済を取り巻く不確実性が増す中、経営者はどのような判断軸に基づいて意思決定し、人と組織を動かすべきなのか。新しい時代のリーダーシップと経営のあり方とは。
アビームコンサルティング 代表取締役社長 山田貴博
サマリー:世界経済を取り巻く不確実性が増す中、経営者はどのような判断軸に基づいて意思決定し、人と組織を動かすべきなのか。新しい時代のリーダーシップと経営のあり方とは。
環境変化のサイクルは短くなり、世界経済を取り巻く不確実性は増している。企業の舵を握る経営者の役割と責任は、かつてないほど重い。こうした時代に、経営者はどのような判断軸に基づいて意思決定し、人と組織を動かすべきなのか。そして、持続的な成長をいかに実現するのか。新しい時代のリーダーシップと経営のあり方について、アビームコンサルティング代表取締役社長の山田貴博に聞いた。
予測不能な出来事が世界経済を揺るがす。そのたびに、ビジネスの前提も変わる。経営者が戦略の見直しを迫られる場面も増えているのではないか。
「環境変化の兆候をいかに捉え、それを企業の意思決定にどう反映し、経営資源の再配置や現場の行動につなげるか。経営者には高度な判断と実行が求められます。情報があふれる中で、それが自分たちにとって何を意味するのかを見出すことが難しくなっている。その意味を、みずからの判断軸に基づいて意思決定へ変える。それが経営者の役割だと思います」とアビームコンサルティング代表取締役社長の山田貴博は語る。それは、日頃から自分自身に問い続けていることでもある。
コンサルティングファームとして同社が重視するのはアウトカム、すなわち成果である。アウトプットではない。
「たとえば、ある部門のコストを削減しただけでは十分とはいえません。そこで生まれた人材や資金を成長事業に再配置し、人が新たな能力を獲得して、企業の競争力が高まって初めてアウトカムとなります」
組織や人材を動かすことは、経営者の主要な役割の一つである。
「経営者はみずからの判断軸に基づいて戦略を定め、その方向を示す必要があります。同時に、その判断軸を言語化しなければなりません。なぜこの未来を目指すのか、何を守り、何を変えるのか、どのような成果に責任を持つのか。組織の判断と行動の起点となる言葉をつくる。それが、経営者に求められるコンセプト・メイキングです。現場との対話を繰り返し、一人ひとりが自分の仕事と結びつけて語れるナラティブにすることが欠かせません」
組織を導くリーダーシップの形も変わりつつあるという。
「経験と実績のある人物が明確な方向性を打ち出し、組織を引っ張る、というのが従来のリーダー像。しかし、環境変化が速く、AIも瞬時に答えを出す時代には、答えを持っているだけでは組織を導けません。これからのリーダーは、組織が向き合うべき『問い』を見出し、対話を繰り返せる人です」
「答えを出す人」ではなく、「問いを立て、対話する人」。その時々の状況に応じて適切な問いを投げかけ、異なる経験や専門性を持つ人たちの知を引き出す。そのうえで、みずからの判断軸に従って選択し、方向性を定める。問いと対話によって組織の意識と行動を変え、成果につなげる。ここに、これからの新しいリーダー像がある。
このリーダー像の輪郭は、山田が長年接してきた日本企業の経営と現場から形づくられた。
「私のリーダーシップ論は、日本企業の経営者や現場と向き合う中で得た実感がもとになっています。経営層に見えていない変化の兆しを現場が捉え、それを顧客価値に変える。事業の柱が変わっても、長期視点で粘り強く育て直す。信頼を基点に異なる立場の人たちを巻き込んでいく。こうした強みを持つ日本企業は、分断が進む世界を再接続する役割を担えると思います」
日本企業の強みには、大きく3つの要素がある。現場力、長期視点、そして信頼を基点とする経営である。
「自律的に考え行動する現場の力、粘り強く長期視点で事業を育てる経営姿勢、信頼を基点に関係者を動かす力。これらは日本企業が培ってきた強みです。ただし、持っているだけでは競争優位にはなりません。現場力は、デジタルやAIと結びつき、経営判断につながって初めてオペレーショナル・インテリジェンスになる。信頼は、属人的な関係に留めず、組織やエコシステムを動かす経営インフラとして機能させてこそ持続する。長期視点は、事業モデルを問い直し、将来の選択肢をつくる力として使ってこそ意味を持つ。現代の経営能力として、日本企業の強みの『再定義』が求められています」
日本やアジアの企業がこうした強みを経営能力へと進化させ、志を共有する国や企業、パートナーをつなぐことができれば、分断する世界に新たな価値創造の基盤を築くことができる。
アビームコンサルティングは「クライアントファースト、ピープルファースト」を掲げてきた。これは同社のフィロソフィーであると同時に、経営上の判断軸でもある。そのうえで、アウトカムにこだわってきた。
「クライアントの成長と成功を徹底的に追求する。そのための戦略や方策を考え抜き、実行し、成果の定着まで支援する。変革が成果につながれば、関わった人も成長します。そこには、クライアントの社員も、パートナーも、私たちのコンサルタントも含まれます。クライアントの成長と人の成長が互いを促し合い、次の変革を生み出していく。その循環を大切にしています」
企業や組織がアビームに期待するのも、完成した答えを外から持ち込むことだけではない。戦略、業務、テクノロジー、人材、運用をつなぎ、現場の意思決定と行動の変容まで伴走すること。そして、外から始まった変革を、その企業や組織自身が次の変革を起こせる力へ変えることである。
環境変化が加速する中、勝ち続けられる固定的な戦略は困難。昨日の正解が今日の正解とは限らない。だからこそ、経営者が必要とされるともいえる。
「自戒を込めて言えば、先が見えないことは、判断を先送りする理由にはなりません。むしろ、先が見えない時代だからこそ、リーダーは、みずからの判断軸を明確にし、何を選び、何をやめるのかをタイムリーに決め、実行する責任があります。そして、結果だけでなく、なぜその判断をしたのかを説明する責任も、リーダーに属します」
何を判断軸とし、誰と対話し、どの未来を選ぶのか──それは読者に投げかける問いであると同時に、山田が自身に問い続けていることでもある。
※「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー」2026年9月10日発売号記事より転載
相談やお問い合わせはこちらへ