従業員エンゲージメントを向上させるアプローチとは?メリットやプロセスも解説

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2025.06.10
  • 経営戦略/経営改革
  • 人的資本経営
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昨今、ビジネスを取り巻く環境が急速に変化する中、多くの企業が変化に適応し、生き残るためのさまざまな変革に取り組んでいる。そうした変革の原動力となるのが「人材」であり、日本企業において経営指標としての「エンゲージメント」が重要性を増している。これは従業員の企業への貢献意欲を示し、企業の生産性や顧客満足度などにもポジティブな影響を与える指標だ。

日本では2022年8月に内閣官房が、人的資本に関して開示が望ましい項目の1つに「エンゲージメント」を提示、翌年の2023年3月期決算以降、有価証券報告書を発行する大手企業4,000社を対象に人的資本の情報開示が義務化された。人的資本経営の実現に向けて、各社には従業員エンゲージメント向上の取り組みが求められている。
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本インサイトでは、日本の労働市場の変化を踏まえ、従業員エンゲージメントを向上させるメリットとアプローチについて、具体的な事例を交えながら紹介する。

従業員エンゲージメントとは

まずは、基本的な考え方として、従業員エンゲージメントの定義と、似た概念の用語を説明する。

従業員エンゲージメントの定義とは

従業員エンゲージメントとは、従業員が自分の勤め先に対して抱く愛着や、貢献したいという意欲を指す。従業員が企業の理念や方針に共感し、誇りを持って自発的に仕事へ取り組んでいるかどうかを示す指標として、昨今多くの企業で活用されている。

エンゲージメントという言葉自体は、「婚約」「契約」「約束」など、深いつながりや関係性を意味する言葉である。もともとはマーケティング分野で「顧客が企業に対して持つ愛着度」を表す概念として使われていたが、それが発展して従業員と企業との関係性を示す用語として広まった(図1)。

図1 従業員エンゲージメントの定義 図1 従業員エンゲージメントの定義

従業員エンゲージメントと混同しやすい用語

次に、従業員エンゲージメントと似た概念の用語を3つ紹介する。

従業員満足度との違い

従業員満足度とは、業務負担や待遇、職場環境などに対する従業員の満足度を示す指標である。期待していた職場環境と実際の職場環境のギャップといった、企業に対する一方的な満足度を意味する。一方、従業員エンゲージメントは企業への貢献意欲といった双方向の関係性に着目している点が違いである。

ロイヤリティとの違い

ロイヤリティは「忠誠」を意味し、従業員と企業の長期的、継続的なつながりを示す。一方、従業員エンゲージメントは企業への積極的・主体的な貢献意欲という意味合いが強い。

エンプロイヤーブランディングとの違い

エンプロイヤーブランディングとは、企業が「魅力的な雇用主(Employer)」としてのブランド価値を高め、優秀な人材の獲得、定着を促すための取り組みを指す。エンプロイヤーブランディングは従業員エンゲージメントを高める手段であると同時に、エンゲージメントの高さ自体が企業の魅力を内外に示す力となり、双方がブランド価値を高め合う好循環を生み出す。

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従業員エンゲージメントが重要視される背景とは

従業員エンゲージメントはアメリカで広く普及してきたが、近年、日本でもエンゲージメントを経営指標として活用する企業が増え、重要性が増している。その背景に迫る(図2)。

人材の流動化

従業員エンゲージメントが注目される背景には、少子高齢化で採用市場・雇用形態が変化したことによる人材の流動化が挙げられる。労働人口が減少する中、転職や再就職が一般化し、企業はこれまで以上に優秀な従業員の離職防止や採用力強化に注力するようになった。そこで従業員のモチベーションや意識を可視化し、管理しようとする動きが加速したのである。

コミュニケーションの非対面化

2020年には新型コロナウイルスの蔓延でリモートワークが浸透した。非対面の勤務形態はコミュニケーション不足を生み、企業への帰属意識の希薄化が進むという危機感から、従業員のモチベーションを定量化するニーズが高まった。

個人の価値観の多様性

コロナ禍の雇用形態の変化や働き方改革を経て、企業はリモートワークや副業など柔軟な働き方を認めるようになった。そうした中、勤め先の待遇だけでなく、ワークライフバランスや社外でのスキル活用に価値を見出す従業員が増加。従業員の多様化する価値観を把握する方法として、エンゲージメント調査の重要性が増した。

人的資本経営指標の開示義務化

日本では2023年3月期の決算から、大手企業約4,000社を対象に人的資本の情報開示が義務化された。2022年8月に内閣官房が策定した「人的資本可視化指針」では、人的資本の望ましい開示項目として7分野19項目が記載されており、そのうちの1分野が「エンゲージメント」である。
投資家にとっても、エンゲージメントは重要なチェックポイントだ。2022年2月に発表された内閣官房の調査資料(内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局 経済産業省 経済産業政策局「基礎資料」)によると、機関投資家が最も着目する情報は「人材への投資」であり、「企業の将来性に期待できるから」という理由が最も多かった。従業員エンゲージメントの向上が企業利益向上に直結するという考えが投資家に浸透してきているのである。

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図2 従業員エンゲージメントが重視される背景 図2 従業員エンゲージメントが重視される背景

従業員エンゲージメントを高めるメリット

従業員エンゲージメントを高めることで、企業にはどのようなメリットがあるのか。従来、多くの企業は、従業員の働きがいを測る指標として「従業員満足度」を使用してきた。しかし、「従業員満足度が高い従業員=ハイパフォーマー」と言えるのだろうか。

昨今の研究では、従業員満足度とパフォーマンスの間に相関はなく、むしろ「従業員のぶら下がり化」を生んでいるという指摘もある。そこで新たな指標として重要視されているのが、従業員エンゲージメントである(図3)。以下、従業員エンゲージメントを高める主なメリットを3つ紹介する。

離職率の低下

従業員エンゲージメントの向上は離職率の低下につながる。厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」でも、エンゲージメントと新入社員の定着率、従業員の離職率の低下には、正の相関関係があることが示されている。

持続的な成長

従業員エンゲージメントの向上は、企業の生産性向上にも寄与し、持続的な成長につながる。Gallup社の調査によると、エンゲージメントが高い上位25%の企業は下位25%の企業と比べて生産性が14ポイント高いという結果が見られた。

厚生労働省の統計(前述)でも、エンゲージメントスコアと企業の労働生産性には相関があると示されており、エンゲージメントが高い従業員は、自発的に仕事に取り組み、仕事を円滑に進めるために他のメンバーを積極的に支援する。それが質の高いサービスの提供に結びついていると言えるだろう。

顧客満足度の向上

従業員エンゲージメントの向上は、顧客満足度の向上にも寄与する。Gallup 社の調査によると、エンゲージメントが高い上位25%の企業は下位25%の企業に比べて顧客評価が10ポイント高いという。エンゲージメントが高い従業員が、高品質なサービスを提供することで顧客満足度の向上につながっているのである。

* 出典:Gallup「State of the Global Workplace」(2023)

図3 従業員エンゲージメントを高めるメリット 図3 従業員エンゲージメントを高めるメリット

従業員エンゲージメントを高めるためのプロセス

アビームコンサルティングは企業の従業員エンゲージメントを向上させるために、課題の可視化から、戦略の立案、企業が従業員に提供できる価値(EVP=Employer Value Proposition)の定義、施策の立案・実行、効果の測定、外部への訴求まで、総合的な支援を行っている。今回は、従業員エンゲージメントを高めるための主なプロセスを5つに分けて紹介する(図4)。

1. 従業員エンゲージメントの可視化と分析

まず重要なのが、現状の従業員エンゲージメントを可視化し、分析することだ。事業と統計への理解をもとに、アクションに結びつくサーベイを構築し、プラットフォームを検討。そして、結果をもとに課題を抽出、分析する。ポイントは人事戦略・経営戦略上、重要視すべき課題のみを抽出することである。網羅的な分析は企業の全容を把握する上では必要だが、最優先課題を決めて取り組むことで、より迅速で効果的な成果を導く。

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2. 戦略策定・自社の働く場としての提供価値(EVP)の定義

次に、EVPを定義し、戦略を策定する。従業員や採用市場のニーズ、企業の施策、競合他社の施策など多面な観点から自社の「働く場」としての提供価値をポジショニングする。その過程では、自社の提供価値における強みを打ち出し、そこを集中して強化すること、また、自社の変革の姿勢をしっかりと従業員にアピールすることが重要である。

3. 会社の仕組み・従業員の気持ちを変えるための施策の実行

続いて、サーベイで可視化された現状とEVPとのギャップを埋めるため、「仕組み」と「気持ち」を変える施策を立案・実行する。自社の目指すべき姿に合わせた魅力的な仕組みを構築し、EVPを従業員に浸透させる。また、従業員の前向きな気持ちを作り出すコミュニケーション施策の立案も欠かせない。面白味や現実味のない施策は、従業員の興味・関心を引き出すことができないだろう。さらに、従業員が自社の取り組みを自分事として捉えられるようなクリエイティブを作成、展開することで、従業員の「気持ち」の変化につなげていく。

4. 効果の継続的なモニタリング

施策実行後は効果を継続的にモニタリングする。例えば、「従業員のキャリアプランが不明瞭な状態の解消」という課題があれば、キャリアプランを描けている従業員がどれだけ増えたかを定量化する。施策の形骸化を防ぐためにも、改善サイクルを生み出すことが不可欠である。

5. 社内外への訴求(採用市場・投資家)

企業の変革に向けた取り組みを社内外に訴求することも忘れてはならない。「働く場」としての企業のブランドイメージを自社媒体で発信することはもちろん、広告などを活用して外部へ訴求することで、改めて従業員が自社の変化を実感する効果は大きい。また採用市場や投資家にとっても、企業価値を判断する好材料となる。 

図4 従業員エンゲージメントを高めるためのプロセス 図4 従業員エンゲージメントを高めるためのプロセス

従業員エンゲージメントの測定方法

従業員エンゲージメントを図るにはいくつかの調査手法がある。これらを組み合わせて実施することにより、効果を高める方法もある。以下、代表的な手法と質問の例を紹介していく(図5)。

エンゲージメントサーベイ

従業員エンゲージメントの測定方法は、年1回のエンゲージメントサーベイがベースとなるケースが多い。エンゲージメントサーベイでは、従業員の体験にもとづく設問を投げかけ、エンゲージメントに影響を与える要素を分析する。質問の例を以下に示す。「非常にそう思う」「どちらともいえない」「そう思わない」などの選択肢から回答を選ぶ。

  • 仕事を通して個人として達成感を得ている
  • 仕事を成し遂げるために求められる以上の貢献をしようという気持ちになる
  • 担当業務遂行に必要な権限を与えられている
  • 会社では学び、成長する機会に恵まれている
  • 本調査の結果によって、前向きな変化が起こると確信している

そのほか、後述する組織文化や従業員の心理・特性を把握するための各種サーベイと組み合わせてクロス分析することで、企業や個人の傾向をつかんでいくことが重要である。

パルスサーベイ

パルスサーベイとは、月または四半期ごとにエンゲージメントを測る調査で、エンゲージメントサーベイでスコアが低い部分について深掘りすると効果的である。課題に対して会社が適切なアクションを起こしているか、アクションの効果が出ているかなど、効果測定の位置付けもある。

以下はキャリア形成を課題とした質問例である。

  • 上司は、自己理解を深める支援をしてくれている
  • 自分にとって成長につながる機会を把握している
  • 会社は自分のキャリアを考える参考となる情報を提供している
  • 自身のキャリアプランが描けている
  • 自身のキャリア実現のために、学ぶべきスキルなど課題が見えている


     

また、以下のようなサーベイは個人や組織の状態を可視化し、エンゲージメントサーベイの結果と組み合わせることで従業員の状態をより深く理解するために用いられる。

360度調査・行動特性診断

360度調査・行動特性診断とは、対象者がパフォーマンスにつながる行動をどの程度できているかを、同僚や上司、部下など複数の視点からフィードバックをもらう調査だ。

主な質問は以下の通りで、設問で問われる行動の頻度を回答する。

  • タイムリーに意思決定を行う
  • 強い影響力を発揮する
  • 失敗を責めるのでなく、学ぶ機会として捉える
  • 職場の安全性を広く提唱する
  • 意見が合わないときでも、常に相手を尊重して接する

リーダーシップスタイル診断

リーダーシップスタイル診断は、360度調査の回答をもとに対象者のリーダーシップを診断する。アビームコンサルティングが独自で開発したサーベイで、スタイルごとの傾向を示し、注意点を具体的に提示する。質問内容は360度調査と同様である。

組織文化診断

組織文化診断は、アビームコンサルティングが独自で開発したサーベイで、企業文化の傾向を深掘りし、企業の目指す姿と現状のギャップを可視化する。

主な質問は以下の通り。

  • 会社では、新しいアイデアはすぐに受け入れられる
  • 従業員は1日の中で多くの作業量をこなすことが期待されている
  • 経営陣は、従業員の仕事を厳しく管理しようとする
  • 会社はとても内向きで、社会・市場の動向にほとんど関心がない
  • 経営陣は、仕事の作り方や進め方などにおける「伝統」にこだわる

法定ストレスチェック

法定ストレスチェックとは、常時50人以上の従業員を雇用している事業場に年に1回実施することが義務づけられており、定期的に従業員のストレスの状況を確認する検査である。エンゲージメントサーベイと法定ストレスチェックを組み合わせることでエンゲージメントが高く、ストレスも高い、いわゆる「燃え尽き症候群予備層」の把握や、エンゲージメントが高く、ストレスが適切な値である理想状態の要因分析にも用いることができる。

主な質問内容は以下の通り。

  • 非常にたくさんの仕事をしなければならない
  • 最近1カ月間で、活気がわいている
  • 上司とはどのくらい気軽に話ができるか
  • 周りの人はどのくらい頼りになるか
  • 仕事、家庭環境に満足しているか
図5 従業員エンゲージメントの測定方法 図5 従業員エンゲージメントの測定方法

組織における従業員エンゲージメントを高めるための施策

次に、実際にアビームコンサルティングが企業の従業員エンゲージメントを高めるために取り組んだ具体的な施策事例について、施策の効果や注意点を踏まえて紹介する。

各組織長からメンバーへの結果開示とアクションを宣言する

エンゲージメントサーベイの結果は、従業員に透明性高く開示し、具体的な改善アクションの宣言につなげることが重要である。調査結果を経営層だけに開示するのでは、回答した従業員が、その回答を踏まえて自社がどう変化するかの期待が持てず、形骸化した調査として捉えられ、意義自体が失われかねない。

あるシステム運用会社では、エンゲージメントサーベイの分析レポートを部署別に作成した。さらに、社長メッセージとして、サーベイによって判明した自社や部署の強みを紹介し、日々の取り組みを評価する一方、各設問のエンゲージメントスコアを提示し、今後の組織運営の改善点も明記した。各部署の組織長は、レポートをメンバーに共有し、改善アクションを立案・推進したことで、翌年度には、エンゲージメントを大幅に向上させた。

経営者の本気と社員の本音をぶつける対話の場を創出する

経営層の本気を従業員に伝え、社員の本音を経営層にぶつける対話の場の創出も必要だ。多くの企業で問題として挙がるのが、「声を上げても会社は変わらない」という改善への諦めの空気が社内にあることである。従業員が自社や経営層の変化に期待を持てないと、企業への愛着や貢献意欲の向上は望めないだろう。その諦めの空気を払拭するには、経営層が率先して従業員の声を聞くことが重要だ。

キャリアの解像度を高めるキャリア開発プログラムを実施する

従業員自身のキャリアプランが不明瞭であることも、エンゲージメントを押し下げてしまう要因の1つである。従業員エンゲージメントの調査において、従業員のキャリアは頻出する課題である。キャリア目標が不明瞭だと、自分の強みをどうやって仕事に活かすか、同僚やクライアントとどのように関係を構築していくべきかなどを考える機会が少なく、仕事のモチベーションを保つことが難しいだろう。キャリアの解像度を高める施策は多々あるが、各ステップによって異なる施策を一元化したプログラムの実装が重要となってくる。取り組みの詳細は次章で後述する。

アビームコンサルティングでは、自身や上司が従業員の働きがいへの理解を深めるツールとして、思考や対話のきっかけとなる診断や、対話のサポートツールを開発・展開している。タロットカードのような仕様で働きがいを診断するツールや、診断結果を深掘りするためのワークシート、対話の糸口となるテーマを記載したサイコロなど、従業員を楽しく、前向きにさせるクリエイティブを作成し、「気持ち」を変える施策を実行している。

業務の達成感を認知するための課外活動を実施する

希望部署に配属が叶わなかった従業員のエンゲージメントが低いといったことも問題として挙げられる。そこで、課外活動への参加で自社ブランドの魅力を実感してもらい、業務の達成感につなげた例もある。

ある製造会社では、会社の代表的な製品部門での仕事を希望して入社したものの、別の部門に配属された従業員が、現在の担当業務で達成感が低いという問題があった。だからといって組織としてすぐに希望した部署に異動させることもできない。そこで、子ども向けの製品に触れるイベントの企画、運営への参加を促した。従業員はイベントの運営を通し、自社ブランドの意義を実感する機会を得ることができ、エンゲージメント向上に寄与した。

従業員エンゲージメント向上の成功事例:株式会社愛三工業

最後に、アビームコンサルティングが支援し、従業員エンゲージメント向上に成功した株式会社愛三工業(以下、愛三工業)の事例を紹介する。

可視化と分析

まず実施したのは、従業員エンゲージメントの可視化と、課題の分析である。同社は自動車部品の製造会社で、当時、既存のパワートレイン製品事業から、電動化製品やクリーンエネルギー技術活用などの新事業にポートフォリオをシフトする転換期だった。

エンゲージメントサーベイでは「継続勤務意向」や「企業としての心地よさ」は高いスコアをマークした一方、「達成感」や「変革」など働きがいに関するスコアが軒並み低かった。従業員に「ぶら下がり」の空気が蔓延しており、事業ポートフォリオの再編を阻む壁であることが判明。そこで同社は、「働きやすさ」の改革から「働きがい」の改革に移行すべく、エンゲージメント向上の取り組みをスタートした(図6)。

図6 初回のエンゲージメント調査から明らかになった示唆 図6 初回のエンゲージメント調査から明らかになった示唆

「働く場」としてのポジショニング策定

次に、実施したのが「働く場」としてのポジショニング策定である。エンゲージメントサーベイの結果から、労働者のニーズをパーパス、キャリア開発・イノベーション、活躍環境・チームワークの3つの軸でチャート化した。

同社は活躍環境・チームワークについては高いポジションにあるが、パーパスとキャリア開発・イノベーションで低いポジションにあった。そこで、EVPを明文化し、「①どんな小さなあなたの声も、会社を変える原動力に」「②キャリアを描く、あなたの色で」「③寝る前に、幸せを感じられる毎日を」という3つを愛三工業が「働く場」として提供する価値として設定。人材獲得上の競合と比較した上で、目指すべきポジションを決定した。

施策の立案・実行

そして、同社は施策として「どうせ会社は変わらない」という諦めの空気を、「みんなで会社を変えていける」という前向きな期待に変えるため、社員と経営層の対話会として「愛三カタリバ」を企画(図7)。年間で150回以上開催し、1600人以上が参加した。
対話が一方通行にならず、また上滑りしないように「コラージュトーク」の手法を採用。内容は、「働きがい」が生まれる職場について、自分のイメージに近い画像を直感的に選び、そこから言語化・発話するもので、従業員は新鮮な取り組みを楽しみながら本音を発信していった。
さらに、対話のホストとなる経営層は、全員が「聴く」ためのトレーニングを受講した。経営層が先頭に立って、どうしたら社員の本音を引き出すことができるかを学んだのである。

図7 「愛三カタリバ」に向けた経営層の本気をつたえるコミュニケーションと社員の本音を引き出す新しい手法 図7 「愛三カタリバ」に向けた経営層の本気をつたえるコミュニケーションと社員の本音を引き出す新しい手法

また、従業員一人ひとりがキャリアの解像度を高めることを主眼に、新たなキャリア開発プログラム「愛三キャリアキャンパス」を展開した(図8)。
まず、従業員がキャリアストーリーに興味を持ち、キャリアを考えるきっかけにしてもらうために簡単な診断機能を実装。アンケートに答えた内容からキャリアの価値観が診断され、おすすめのキャリアストーリーに案内される内容である。

また、従業員がキャリアを語る場の雰囲気はどうしても固くなりやすい。そこで、チームのメンバーで対話をしながらキャリアを考えるワークショップを開催した。活用したのは本施策のために作成した「キャリアトランプ」。カード一枚一枚に「組織へ貢献する」「公私のバランスを大事にする」「誰かの夢を応援する」など、多様な価値観が絵柄とともに記されている。自分が大切にしたい価値観のカードを引いていき、その後、決まった数になるまで捨てるのを繰り返すことで、ゲーム感覚で自分のやりたいことやなりたい姿を言語化する。従業員が楽しみながら、キャリアで大切にしたい価値観の解像度を上げる仕掛けだ。

図8 自律的にキャリア目標を描く支援を多角的に行う「愛三キャリアキャンバス」 図8 自律的にキャリア目標を描く支援を多角的に行う「愛三キャリアキャンバス」

以上の取り組みにより、愛三工業の従業員エンゲージメントは3ポイント向上した。その中でも「自社への将来性に関する項目」が15ポイント、「経営陣への信頼に関する項目」が12ポイント上昇したことは、特出すべき効果である。

内容の詳細は事例ページもご覧いただきたい。

出典:愛三工業「統合報告書2024」

まとめ ~従業員エンゲージメントの向上を目指して~

ここまで従業員エンゲージメントを高める方法を紹介してきたが、これらを推進するために最も重要とも言えるのが、経営層のマインドである。サーベイ結果を経営層がいかに真剣に受け止め、具体的なアクションを起こすかが、成功に向けた重要なファクターだ。
エンゲージメントの向上は、企業の離職率の低下や持続的な成長、顧客満足度の向上に結びつく。より高い効果を生み出すためには、適切なプロセスを経て施策を実行することが重要であり、「仕組み」に加え、従業員の「気持ち」を動かすコミュニケーション施策の立案・実行が大きなカギを握る。

アビームコンサルティングは、エンゲージメントの可視化、課題の抽出、EVPの定義、施策の立案・実行、外部への訴求に至るまで、クライアントのエンゲージメント向上に向けてトータルで伴走支援している。
今後も企業の変革パートナーとして、真の人的資本経営の実現に向けて貢献していきたい。

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