『社会課題』を起点とした事業開発を成功させるには 第1回 社会課題起点での事業開発の6つのポイント

インサイト
2022.08.26
  • サステナビリティ経営
  • 経営戦略/経営改革
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企業経営においてなぜ「社会課題起点」の視点が求められるのか?

「グローバルトップ10や財務諸表といった数字にばかり意識が向き、社会やマルチステークホルダーに対する価値が創出できず、株価がアンダーパフォームした」
このような苦い経験から、本質的な社会的価値と経済的価値を追求する経営方針に切り替えた企業がある。それは食品メーカー大手、味の素株式会社(以下、味の素)である。
味の素は2018年度から業績の伸びが停滞し、「2017-2019中期経営計画」の目標達成が難しくなった。その理由を投資家だけではなく顧客や社会の期待に応えられていなかったことによるものだと分析し、経営層が主体となって「社会的価値と経済的価値の両立」を具体的に事業へ落とし込み、従業員へ浸透させることに邁進した。同社はハーバード大学のマイケル・ポーター教授らが提唱するCSV(共通価値の創造)を基に独自のASV(Ajinomoto Group Shared Value)を掲げ、「食と健康の課題解決」というパーパスを起点とした社会的価値と経済的価値の両立を促進している。
例えば、主力となる「食」と「アミノ酸」の知見を基に自社製品を用いた献立を提案する「勝ち飯」は、人々のたんぱく質・野菜摂取量を2016年度比7%増加させ、健康なからだづくりと充実した生活の実現に貢献したと同時に、家庭用製品の売上2016年度比3%増を達成している。このように実際の事業において二つの価値を両輪させることは可能なのである。
(引用・参考:Harvard Business Review 2021年10月号 「味の素が取り組むASV パーパスドリブン組織への変革で真のステークホルダー主義を実践する」)

今や「SDGs」という言葉を目にしない日はないといっても過言ではないほど、社会課題解決に向けた取り組みは大きなトレンドとなっている。元々SDGsとは2000年に設定されたMDGs(Millennium Development Goals)の後継目標として設定された。MDGsでは「途上国の開発」に重きを置き、貧困撲滅や衛生問題の改善、教育など8つの目標が設定されたが、その成果にはしばしば懐疑的な議論がなされていた。例えば、最優先課題であった貧困・飢餓の撲滅については、1990年に比べ世界全体で貧困者比率は半減したが、その大半が中国の経済成長によるもので、依然として南アジアやアフリカでは貧困数は増加している。更にはMDGsでは気候変動という最重要課題について、「⑦環境の持続性確保」という抽象的かつ低優先度で目標設定がなされたが、今この瞬間も海面は上昇し、いくつかの生物が絶滅し、感染症で亡くなる子どもが存在している。このように、MDGsに課題感が残る理由の一つとして、「主体が政府や国連であり、企業の経済活動の観点が含まれていなかった」という点が挙げられる。
そのため、現代社会における企業の新たな命題は「社会的価値と経済的価値を両立した経営を行うこと」と言える。そして前述した味の素の例が示すように、双方の価値の両立は企業価値そのものに影響を与えるものとなっている。

社会的価値/経済的価値の両立の難しさ

このようにこれまで相反すると考えられていた、ぶれない大義(社会的価値)と経済的価値の両立、すなわち統合価値の実現は、今後の企業経営・事業開発において重要となってくる。
しかしながら、統合価値の実現は一筋縄でいくものではなく、大きく分けて3つの特有の難所が考えられる。
第一に、「従来通り経済活動を優先に事業活動を行いつつ、副次的に社会貢献をしていくといった取り組みだけでは、真の社会的価値は生み出しにくい」という点が挙げられる。例えば、ブランドイメージ向上のためだけにエコを掲げた商品を作ることなどである。昨今は消費者のサステナビリティ感度も高まりつつあり、うわべだけの社会課題解決は「グリーンウォッシュ(=見せかけのエコ)」といったラベルと共に淘汰されていく傾向にある。
第ニに、「PR的な社会貢献活動などだけでは経済的価値を生み出すことは難しい」という点が挙げられる。CSR活動の一貫としてのボランティア活動などがこれに値する。もちろん社会貢献という観点では素晴らしい意義があるが、実際の事業への結び付け方は課題となる。
第三に、「従前の経済的価値を重視した企業活動とその評価が主たる日本社会では、社会的価値の訴求が難しい」という点が挙げられる。企業の組織構造や人事評価制度をはじめとした経営基盤は従来の経済的価値向上に重きを置いて構築されているため、たとえ社会的な企業目標を立てたとしても乖離が生じてしまう。企業全体で社会的インパクトを創出していくには、相応の時間とコストがかかると言える。

図1 社会的価値と経済的価値の両立の難しさ 図1 社会的価値と経済的価値の両立の難しさ

社会課題起点の事業開発を成功させるポイント

これまで述べてきたように、企業価値を向上させるためには、社会的価値・経済的価値のいずれかではなく双方の両立が必要だが、市場で評価され受容される事業を創り出すにあたっても、同様に2つの価値の両立が非常に重要となる。
それでは、事業開発において社会的価値と経済的価値の両立を実現し成功を収めるためには、何が求められるのだろうか。本インサイトシリーズでは、全4回に渡って、社会課題起点の事業開発を成功させるための6つのポイントを解説していく。第1回にあたる今回は、6つのポイントの概要をお伝えする。

まずは、社会的価値設定の観点でのポイントである。
第1のポイントは、「強みを活かし規模も稼げる土俵選び」である。前述のとおり日本企業においてもSDGsに関する取組みが増加傾向にあるが、対応すべき社会課題テーマは多種多様である。
その中で明確な基準をもって自社にとって最適な社会課題を選定し、新事業の土俵を選択することが必須となる。
第2のポイントは、「共通価値の結節点の見極め」である。選定した社会課題の真因を突き止め、顧客のペイン(切実な悩み)に組み込むことで「社会課題の解決策とビジネスモデルを結節させる1点」を定めることが可能となる。

続いては、経済的価値を獲得するためのポイントである。
第3のポイントは、社会課題起点のビジネスにおいても「勝てる仕組みづくり」が必須になるということである。自社・パートナーの「活動」で「顧客のペイン(切実な悩み)」を解決するにあたり、いかに経済的合理性を持った仕組み(ビジネスモデル)を構築できるか、そして、その中に社会課題解決の要素を組み込めるかが勝敗の決め手となる。
第4のポイントは、「戦略的パートナリング」である。事業開発では自社リソースだけでは実施できない活動について、パートナーと継続的に協業できる仕組みを築くことが大切である。特にこれまで経済的観点でビジネスモデルを考えてきた企業は、行政機関やNPO法人、財団などこれまで関わりの薄かったソーシャルセクターなどの専門家などとの協力も見据えながら、社会課題起点のビジネスモデルを構築することが求められるようになる。
このように、「社会的価値の設定」と「経済的価値の獲得」の両方を掲げることで、多くのステークホルダーにとっての魅力を発信でき、共創を促していくことにも繋がる。

最後のポイントとして、社会的価値と経済的価値を両立したビジネスを運営していく中で、その成果を正しく測定し、外部に開示することの重要性が挙げられる。
第5のポイントは、「社会的/経済的価値の可視化及び企業価値への融合」である。ステークホルダー資本主義が高まりを見せる現代においては、従来の株主に対する短期的な成果(売上・利益など)に留まらず、中長期的な株価向上へのインパクトや株主以外のステークホルダーへの期待値に答えていくことが求められ、それらを融合する形で企業価値を再定義することが必要となる。また、そうした企業価値を再定義するためには、DXを活用するなどして非財務指標を可視化し、企業価値への相関を明らかにしたうえで、企業経営を行っていくことも求められてくる。
第6のポイントは、「社会的・経済的インパクトの評価と積極的な対外発信」である。インパクトについては、短期的な経済的視点、中長期的な経済的視点、社会的視点の3方向から正しく評価をする必要がある。そして評価結果と評価に結びつく自社の取り組みを積極的に外部発信していくことで、顧客に「イメージベネフィット」を感じてもらうことができる。このように自社社員を含むステークホルダーを巻き込み、理解促進を図ることで、事業を超え企業として強くなっていくのである。

図2 社会課題起点の事業開発を成功させる6つのポイント 図2 社会課題起点の事業開発を成功させる6つのポイント

次回のインサイトでは、この6つのポイントを踏まえて、社会的価値と経済的価値を両立させる事業開発をどのように実現するか、詳しく解説していく。

 

※本インサイトは下のコラムの再掲になります。

『社会課題』を起点とした事業開発を成功させるには 第1回 社会課題起点での事業開発の6つのポイント|共創型イノベーションプラットフォーム ABeam Co-Creation Hub

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