このように、ユーザーのニーズと規制動向に沿った形でテクノロジーを活用するユニークなプレイヤーが登場し、スピードとパワーを得てGame Change、またはイノベーションを実現するというのが、FinTechが注目される最たる理由です。
一方で「ニーズ」「規制」が異なれば当然、最適解も異なりますので、グローバルでのトレンドと日本国内での動向については同列に語ることができません。特に規制産業である金融業については、その色合いが強いと言えます。
例えばスタートアップへの投資が旺盛、かつ「ミレニアム世代」と呼ばれる若年層向け訴求が非常に重要という米国の環境は、日本とはまったく異なるものですし、アリババグループのAnt Financial社が莫大な投資を行いながら各種金融サービスを一手に提供する中国も、規制環境や他プレイヤーとの関係性という意味で日本とは比べにくい状況です。
EUにおいては各国が協議を重ねて域内の経済活動の合理性と自国の競争力を高めるために政府・行政のリーダーシップが際立っていますし、東南アジアやアフリカといった地域では、FinTechは金融サービスの「破壊者(Disruptor)」とは逆の存在、すなわち、それまで基本的な金融サービスさえ提供されていなかった人々にとっての最初の提供者になる(Financial Inclusion)など、その位置づけがまったく異なります。
では日本において、このFinTechという流れに対して金融機関はどのように取り組むべきなのでしょうか。われわれは特に重要な「3つの挑戦」があると考えています。
1点目は「変化できる組織への挑戦」です。金融機関向けの業務改革などに携わっていると、おそらく他業種では考えにくい「組織・ルールの壁」にぶつかることが多くあります。例えば「担当者が手続きして書類に印を押す、別の担当者がもう一度確認して印を押す、上席が全体を再確認して承認印を押す」
といったルールがあると、ITを活用した業務のはずなのにまったく仕事が減らない。「業務のためのルール」のはずが、「ルールを守るための業務」になっているケースさえあります。これでは新たなアイデアやサービスをつくっても、競争力向上につなげていくことは難しいでしょう。
国内でもFinTechへの取り組みで先行しているメガバンクなどでは、システム企画・開発の考え方やプロセス、システム部門の組織も変え始めています。FinTech専門部署を立ち上げるだけでなく、彼らの活動を全社のパワーに変換できる体質が不可欠なのです。
2点目は「オープンイノベーションへの挑戦」です。従来、厳しい業法の制約とITに対するチェックを受けてきた金融業界は他業界と比べて、どうしても「異業種とのコラボレーション」「新規事業の立ち上げ」「独自サービスの創出」といった取り組みには不慣れな面が否めません。テクノロジーの活用という点でも、企画段階から構築、プロモーションに至るまで自前主義の体質が色濃いと言えます。とはいえ、ひとたび他業界に目を転じてみれば、第三者との協業やアイデアの共有による変革、つまりオープンイノベーションという方法論が時代に即していることは明らかです。前述したようなルールやプロセス面での課題はありますが、海外の成功事例なども参考にした取り組みにトライすべきと考えています。
最後に、「FinTechへの取り組みを通じた新ビジネスへの挑戦」が挙げられます。例えば銀行業界では、銀行法の改正により業務内容への制約が減少しつつある一方で、資金決済法などの整備によって従来銀行のみに認められてきた業務が一部の他業界にも開放されつつあります。
このように「金融機関が果たす役割」が流動的になってきた今こそ、FinTechへの取り組みを通じて身につけた、テクノロジーへの感度やイノベーションを実現できる体質といった財産を活用し、自社の強み・戦略を最大限に活かして、社会における新しいポジションを獲得するチャンスと考えるべきではないでしょうか。
これまでも「ワンウェイ規制」という、コンビニやECモールが銀行を始められるのに銀行がコンビニやECモールを始められないのはなぜかという議論がありますが、その気になれば金融機関が強みを生かせるのはコンビニやECモールに限らないはずです。
その第一歩として、国内においてもすでに地域創生をテーマにした旅行業への進出や農業への取り組みが見受けられます。
すべての産業でDigitalizationが進展する今日、今後も進展すると思われる規制緩和の波に乗って、自社の強みとビジネスを再定義することこそが、元来、情報産業である金融業界にとってのDigitalizationであると言えるのではないでしょうか。