【イベントレポート】生成AIを「使う会社」から「使いこなす会社」へ ~ AI時代の意思決定・組織・人材のリデザイン ~

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2026.08.03
  • 経営戦略/経営改革
  • AI

日本経済新聞社主催の日経フォーラム「GDS2026 世界デジタルサミット~Technology for Humanity~」が、2026年7月21日・22日の2日間、ホテルニューオータニ東京にて開催された。AIをはじめとする先端テクノロジーが社会にもたらす変化を、国内外の有識者とともに考える本フォーラムに、執行役員 Principal/Manufacturing Business Unit Lead の佐藤亮介が登壇。「生成AIを『使う会社』から『使いこなす会社』へ ~AI時代の意思決定・組織・人材のリデザイン~」と題し、生成AI導入が成果に結びつかない企業の共通点と、そこから抜け出すための視点を語った。

導入は進むが、成果は出ていない

講演は、聴講者への問いかけから始まった。この1週間で生成AIを業務で使った人はほぼ全員が挙手する一方、その効果を金額や経営指標で説明できる人は大きく減る。佐藤はこの「差」こそが、本講演で扱うテーマだと切り出した。

実際、データもこの差を裏付けている。Stanford大学の調査によれば、AIを利用する組織の割合が1年で55%から78%に急伸し※1、日本企業も過半数が生成AIを業務利用しているという。その一方でマサチューセッツ工科大学(MIT)の調査によれば、生成AIパイロットの95%は損益に効果を生んでおらず※2、S&P Globalの調査ではAIの取り組みを断念した企業の割合が1年で2.5倍に増加した※3

「導入は進む。しかし成果は出ず、むしろ撤退が増えている」。多くの企業がこの原因を「データの整備不足」「AI人材の不足」「セキュリティへの懸念」に求めがちだが、佐藤は「その認識は本当に正しいのだろうか」と問いを投げかけた。

 

※1 Stanford HAI, AI Index Report 2025(https://hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report)

※2 MIT NANDA, The GenAI Divide: State of AI in Business 2025 (July 2025)
(https://mlq.ai/media/quarterly_decks/v0.1_State_of_AI_in_Business_2025_Report.pdf)

※3 S&P Global, Generative AI shows rapid growth but yields mixed results
(https://www.spglobal.com/market-intelligence/en/news-insights/research/2025/10/generative-ai-shows-rapid-growth-but-yields-mixed-results)

真因は技術でも人材でもない ―「シャドーAIの逆説」

その問いに答える象徴的なデータとして紹介されたのが、MITのプロジェクト 「NANDA(Networked AI Agents in Decentralized Architecture)」で明らかになった現象「シャドーAIの逆説」だ。会社公式の生成AI導入プロジェクトの多くが失敗する一方で、9割を超える企業では従業員が個人のAIツールを業務に活用し、成果を出し始めている※2。同じ会社、同じデータ環境、同じ人材でありながら、個人レベルでは機能しているという事実である。

米国のシンクタンクであるRAND Corporationの調査では、AIプロジェクト失敗の主因の84%が「リーダーシップ起因」とされ※4、MIT Sloan Management Reviewの調査でも、最大の障害を「技術」と回答したデータ責任者はわずか9%にとどまる※5。「データの整備不足」「人材不足」が真因であれば個人利用も同様に失敗するはずだが、現実は逆だ。「失敗しているのは、AIでも、データでも、人でもない。組織の、業務と判断の仕組みだ」と指摘した。

※2 MIT NANDA, The GenAI Divide: State of AI in Business 2025 (July 2025)
(https://mlq.ai/media/quarterly_decks/v0.1_State_of_AI_in_Business_2025_Report.pdf)

※4 RAND, The Root Causes of Failure for Artificial Intelligence Projects and How They Can Succeed: Avoiding the Anti-Patterns of AI (2024)
(https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA2680-1.html)

※5 Hoque, Davenport & Nelson, “Why AI Demands a New Breed of Leaders”, MIT Sloan Management Review. (MIT Sloan Management Review)
(https://sloanreview.mit.edu/article/why-ai-demands-a-new-breed-of-leaders/)

差を分けるのは「業務プロセスへの組み込み」

では成果を出す企業は何が違うのか。MIT NANDAのデータでは、外部パートナーとプロセスを共同設計した導入の成功率が67%であるのに対し、内製アプローチは33%にとどまる※2。日本国内でも財務省がJUAS(一般社団法人 日本情報システムユーザー協会)のデータを分析し、効果が期待を大きく上回った企業は生成AIを単なるツールではなく、業務プロセスの一部として正式に組み込んでいたと報告している※6

佐藤は、電力やコンピュータといった過去の汎用目的技術も、導入だけでは生産性が上がらず、仕事の設計を作り直して初めて効果が現れた「生産性Jカーブ」※7を引き合いに出し、「成果に必要なのは、良質なデータやAI専門人材よりも、仕事と判断の設計にある」と述べた。

※2 MIT NANDA, The GenAI Divide: State of AI in Business 2025 (July 2025)
(https://mlq.ai/media/quarterly_decks/v0.1_State_of_AI_in_Business_2025_Report.pdf)

※6 財務省 広報誌「ファイナンス」経済トレンド134(2025年8月、JUAS「企業IT動向調査2025」等を分析)
(https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202508/202508f.html)

※7 McElheran, Yang, Kroff & Brynjolfsson, The Rise of Industrial AI in America: Microfoundations of the Productivity J-Curve(s), U.S. Census Bureau Working Paper (2025)
(https://www.census.gov/library/working-papers/2025/adrm/CES-WP-25-27.html)

企業ITの半世紀:「材料の提供」から「意思決定そのもの」へ

講演では、メインフレーム(M/F)からERP、CRM、クラウド、RPAに至る企業ITの歴史も振り返られた。これまでのテクノロジーは一貫して、人間が判断するための「材料」を整える役割を担ってきた。データを集め、統合し、見える化する。しかし最後に判断するのは、常に人間だった。

生成AIとAIエージェントは、ここが根本的に違います。材料の提供ではなく、判断そのものに踏み込んでくる。これが、過去のIT導入の延長線でAIを扱うと失敗する理由です。

ERP導入と同じ発想で生成AIを導入しても成果にはつながりにくい。問われるのはデータの蓄積・出力ではなく、人間の「意思決定」そのものをいかに再設計するのかだと強調した。

「業務」ではなく「意思決定」に着目する

では意思決定とは具体的に何を指すのか。講演では、企業のバリューチェーン(コーポレート、R&D・商品企画、調達・生産、マーケ・営業、SCM・物流、アフターサービス)と、経営・事業マネジメント・現場個人という3つの階層を掛け合わせ、代表例だけで72個に及ぶ意思決定の一覧が示された。

M&Aや市場参入・撤退のような経営判断だけでなく、需要予測に基づく生産量の決定や、欠品時に優先する顧客の選定、検査品の合否判定まで、現場では日々無数の判断が下されている。佐藤は「『営業部門にAIを入れる』ではなく、『見積り金額の初期提示をAIに任せるか』。この粒度まで下りて、初めて議論が具体的になる」と述べ、AI委譲の検討は一つひとつの判断単位で行うべきだと説いた。

生成AI導入レベルと、委譲を判断する3つの軸

意思決定へのAI関与には段階がある。情報収集・整理を担うレベル1から、判断材料・選択肢の提示(レベル2)、推奨案とリスク・根拠の提示(レベル3)、条件付きの自動実行(レベル4)、そして自動実行・E2E最適化を行うレベル5まで、車の自動運転に近い形で段階的に権限を引き上げていく発想だ。佐藤は「今、多くの企業がレベル1〜2で止まっている。成果が出るのはレベル3以降、判断に踏み込んでから」と指摘した。

どの意思決定をどのレベルまで委ねるかを見極める基準として提示されたのが、「誤りの影響(可逆性・金額や安全・顧客への影響の大きさ)」「判断の定型度(ルール・基準の明確さ、例外の頻度)」「データと検証可能性(学習できる元データ、監査可能性)」の3軸である。3軸すべてがAI向きであれば委譲レベルを引き上げ、混在する場合は「AI提案+人間承認」の協働、致命的なリスクが1つでもあれば人が保持する、という仕分けを行う。

「分担」から「創出」へ ― AI前提の新しい仕事をつくる

既存業務の中で自動化できる部分をAIに寄せるだけの発想には限界があるとも指摘された。佐藤は、リアルタイムの全社最適や複数エージェントの自律協調、人間では追えない粒度・頻度の意思決定など、「AIにしかできない仕事」を新たに構想し、既存の仕事・意思決定そのものを再設計することにこそ、本当の競争優位の源泉があると語った。

段階的なロードマップと、変革を担う人材

全社の意思決定を一足飛びに最適化することはできない。講演では、レベル1〜2で土台をつくる「Foundation」期、レベル3〜4で推奨・条件付き自動化を業務フローに組み込む「Expansion」期、AIを前提とした経営・事業運営へ移行する「Transformation」期という3段階のロードマップが示された。ポイントは、生成AI導入レベルの引き上げと「組織・人材」の変革を並走させることであり、ここが噛み合わないまま導入だけを先行させると、成果は期待できない。

その担い手として挙げられたのが、3階層の人材像だ。全従業員が目指す「エージェントボス」はAIを部下として使いこなし、出力を鵜呑みにせず検証する人材。各部門に数名配置される「ディシジョン・アーキテクト」は、任せてよい判断といけない判断を見極め、熟練者の暗黙知をAIに移植し、採否の最終判断と結果責任を引き受ける。そして全社に数名、経営直下に置かれる「マスター・ディシジョン・アーキテクト」が、全社の変革ロードマップとガバナンス設計を担う。

「ディシジョン・アーキテクト」や「マスター・ディシジョン・アーキテクト」といった判断設計者は、AIの専門家である必要はありません。自社の業務と判断を深く知っている人です。おそらく、皆さまの会社にすでにいます。人材戦略の勝負どころは、採用ではなくここだと考えています。

明日から取るべき5つの行動

講演の締めくくりとして、聴講者が明日から着手できる5つの行動が提示された。

  1. フォーカス:意思決定を棚卸しし、最初にAI化する判断を3つ選ぶ
  2. 段階的な委譲:「AI提案+人間承認」の協働で小さく始め、判断ログを取る
  3. 人材の育成:判断設計者を任命し、全従業員のエージェントボス化を始める
  4. パートナー:外部パートナーを「共同設計者」として吟味し、巻き込む
  5. 成果への執着:利用率ではなく意思決定の質(速さ・精度・結果への影響)をKPIにする

「1と2は、最初の90日で着手できる。必要なのは、どの判断から変えるかを決めることだけ」と述べ、大がかりな投資よりもまず着手することの重要性を強調した。

目指すのは「生成AI導入」ではなく「意思決定の変革」

講演の最後に、AIの導入そのものはもはや差別化要因ではなく、問われているのは「どの判断を、どう変えたか」だと総括した。強みは守るものではなく、AIを前提に作り直すものであり、意思決定にフォーカスし、段階的に委譲し、人材を育て、パートナーを巻き込み、成果で測る。この意思と計画性を持って進めた企業だけが、実際に成果を手にし始めているという。

生成AIを『使う会社』から、意思決定を変革し『使いこなす会社』へ。皆さまの会社の、どの判断から変えますか。

そう会場に問いかけ、講演を締めくくった。


登壇者プロフィール

佐藤 亮介(Ryosuke Sato)
アビームコンサルティング株式会社
執行役員Principal/Manufacturing Business Unit Lead

1998年、国内大手システムインテグレーターに入社し、産業システム分野で営業・企画から設計開発まで幅広く経験。2004年、外資系総合コンサルティングファームに入社し、ハイテク・製造業クライアントを中心にコンサルティング/テクノロジー/アウトソーシングを横断したサービスを提供。2013年に同社マネジング・ディレクターに就任し、テクノロジーコンサルティング部門・ハイテク産業のリードを歴任。2025年、アビームコンサルティングに入社し、CEO Officeにて全社Go-to-Marketイニシアチブ等に参画。2026年、執行役員Principal/Manufacturing Business Unit Leadに着任し、製造業クライアントのAI・DXを含む変革支援を統括している。
約30年にわたり、製造業・ハイテク産業の意思決定とITの間に一貫して立ち続けてきた経験を、本講演のテーマと接続した。

アビームコンサルティング株式会社 執行役員Principal/Manufacturing Business Unit Lead 佐藤 亮介


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