「ケイパビリティ型人材マネジメント」で日本企業の低生産性・人材不足に挑む 第3回 ②人材ポートフォリオマネジメントの実践プロセス

インサイト
2026.03.31
  • 人的資本経営
  • 人材/組織マネジメント
  • 経営戦略/経営改革
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日本企業が直面する低生産性と人材の需給ギャップの現状を踏まえ、本インサイトシリーズ(全6回)では、日本企業特有の構造問題を解決する新たなマネジメントモデルとして、「ケイパビリティ型人材マネジメント」について解説している。

参考インサイト:「ケイパビリティ型人材マネジメント」で日本企業の低生産性・人材不足に挑む 第1回 なぜ今ケイパビリティ型なのか、背景とアプローチの全体像

第3回では、「ケイパビリティ型人材マネジメント」において人材充足・生産性向上の中核を担う「②人材ポートフォリオマネジメントの実践プロセス」をテーマに、人材の生産性および充足状況をどのように把握・評価し、人材ポートフォリオを構築・活用していくべきか、その具体的な進め方を解説する(図1)。
人材の量の把握にとどまらず質を評価することで、経営・事業ニーズとのギャップを可視化し、課題の特定から具体的施策の実行へと導く、持続的で実効性のあるアプローチを提示する。

図1 ケイパビリティ型人材マネジメントの全体像

執筆者情報

  • 淺見 伸之

    Principal

現在の人材を質で評価する

慢性的に人材不足が生じる理由

人材ポートフォリオとは、企業の経営戦略やビジネスモデルの変化に応じて、必要とされる人材の質と量を柔軟かつ迅速に再配置・再構築する仕組みを指す(図2)。これは、適所適材・適時適量の人材配置を実現するための戦略的な人材マネジメントの枠組みである。
しかしながら、多くの企業における要員計画は、常に右肩あがりとなりがちであり、事業の現場では慢性的な人材不足感が生じているのが実態である。その背景には、人材の質に踏み込んだ可視化が十分に進んでおらず、量で不足を補おうとする発想にとどまっていることが挙げられる。
労働人口の減少や、人材獲得競争の激化といった外部環境を踏まえれば、持続的な企業価値向上を実現するには、自社の人材の質を可視化したうえで、最大限の活躍と生産性向上を引き出すための適所適材・適時適量の実現に向けた取り組みが、今まさに不可欠となっている。

図2 人材ポートフォリオのイメージ

質を評価し人材不足の実態を可視化

人材ポートフォリオは、事業戦略と人材戦略を結びつける「設計図」のような存在であり、その作成には一貫したステップを踏む必要がある。単に人材情報を集めるだけではなく、「どの職務に、どのようなスキルを持った人材が、どのレベルで従事しているか」を構造的に把握することが求められる。

人材ポートフォリオを作成するための5つのステップを簡潔に紹介する。

  1. 職務の定義(人材の量の可視化)
    従業員が担う役割を業務の流れを軸に「職務」として定義し、分析可能な単位に整理する。過度な細分化を避け、全社視点で適切な粒度を設計する。
  2. 担当者の確認(人材の量の可視化)
    定義した職務ごとに担当者を整理し、兼務や担当割合も含めて把握することで、職務別の人的リソース配分を明確にする。
  3. スキルの定義(人材の質の可視化)
    職務ごとに必要なスキルと習熟度を定義し、スキル評価の基準を設定する。職務横断で比較可能な枠組みを整備する。
  4. スキルの評価(人材の質の可視化)
    等級ではなく、発揮された行動・成果にもとづきスキルを絶対評価する。目的は処遇ではなく、配置・育成・戦力把握である。
  5. 職務遂行レベルの判定(人材の質の可視化)
    スキル充足度をもとに、模範人材・即戦力人材など人材を類型化し、職務遂行の質を評価する。戦力把握の判断に活用し、現場と人事の共通認識形成を可能にする。

※各ステップの詳細については、以下のインサイトを参照いただきたい。
参考インサイト:人材ポートフォリオとは?作成方法や重要性が増している理由、企業事例を解説

上記の取り組みには一定の工数を要することが想定される。一方で、昨今のAIの進展により、人事データにおいてもAI活用が進んでいることが、追い風になっている。具体的には、スキル評価の領域では、目標評価シートや職務経歴書などのテキストデータをもとに、個人の保有スキルやスキルレベルを推論するといった活用が広がっている。持続的かつ実効性のあるプロセス構築のためには、AIテクノロジーの積極的な活用を視野に入れた検討が不可欠である(図3)。

 

図3 人材ポートフォリオマネジメントの全体像

生産性上の課題を分析・特定する

人材データと現在の人材ポートフォリオとの掛け算による分析

先述のとおり、人材ポートフォリオは、事業戦略と人材戦略を結びつける「設計図」の役割を担うものである。重要なのは、作成した人材ポートフォリオをいかに分析し、実践的に活用していくかという点にある。

分析における第一の観点は、個々の職務と人材の質を評価することである。すなわち、各職務・ポジションにおいて想定される能力を十分に発揮できているか、あるいはスキルアンマッチの状態で滞留されていないかといった視点から、人材配置の妥当性を検証することである。

そうすることで、個々の職務遂行能力を高めるために育成すべきスキルを明確にし、育成プランの立案に活用することもできる。従来の育成は、上司との対話を通じた定性的な目標設定や行動計画プランの立案が基本となっていたが、定量的なスキルギャップを可視化することで、獲得すべきスキルと具体的な行動プランをより精緻に設計することが可能になる。

加えて、部門内全体の人材ポートフォリオを俯瞰して評価することも有効である。部門内における職務遂行能力の構成比率を把握することで、人材不足が本当に量の問題なのか、それとも職務遂行能力が十分でない人材の比率が高いことによって生産性が低下しているのかを見極めることができる。

すなわち、一定の要員数を確保しているにもかかわらず、生産性を高められていない背景にスキルアンマッチが存在していないかを部門単位で正しく評価し、「適所適材」の状態を全社的にモニタリングしていくことが必要となる。

一方で、部門単位での分析は、職務に対して能力が高い人材の「抱え込み」が起こっていないか、といった「適所適材」を検証するうえでも重要である。部門最適を追求してきた結果、職務に対して能力が過剰な、いわゆるオーバースペック人材が特定の職務や部門にとどまっているケースも少なくない。
アビームコンサルティングが2025年に実施した「企業内の人材ミスマッチ実態調査」によると、回答企業の約8割で「職務要件以上の人材(オーバースペック人材)」が配置されているという状況が明らかになっている。

参考インサイト:「企業内の人材ミスマッチ実態調査」 ~人的資本経営を進化させる新たな人材マネジメントモデル~

生産性について評価する際には、単に十分な成果を発揮できていないという状態だけではなく、より高い付加価値を生み出す可能性を持つ人材に対し、適切な職務やポジションを提供できていないという観点にも着目する必要がある。こうした、全社視点と部門視点の双方から、人材ポートフォリオを分析することが求められる。

さらに、なぜ特定の部門において不適切な構成比率が生じているのか、その要因を深掘りする活用も重要である。この際に有効となるのが、保有する人材データとの掛け合わせによる分析である。
例えば、エンゲージメントとの相関分析を行うことで、職務遂行能力が十分に達していない人材は特定のエンゲージメント項目が低いといった傾向が明らかになる場合がある。各社各様の状況が想定されるため、エンゲージメントスコアの他にも、年齢、女性比率、報酬水準といった多面的な軸で分析を行うことで新たな示唆が得られ、構造的に生産性低下を招いている人材マネジメント上の原因特定に寄与する。

 

【事例】スキル評価データを起点とした人材ポートフォリオ分析の有効性

ある製造業では、事業部の年代別にどの部門でも共通するスキル(汎用スキル)の獲得状況を並列で比較分析をしている。この結果、20代から50代にかけてスキルが成長している部門と、30代以降でスキルが伸び悩む部門があるという傾向が明らかになった。
この要因を探ると、部署長の方針・仕事の与え方といったマネジメントの違いがこのような結果を生み出していることが分かった。

また、人材の抱え込み状況をデータにより可視化するため、職務に求められる要件を上回るスキルを保有する人材を「オーバースペック人材」と定義し、その分布を分析した。その結果、多くの事業部において、模範的人材に求められるスキルを超える人材が多数存在していることが明らかになった(図4)。
個別最適を優先した人材配置の結果、本来はより高度な役割を担う素養を有しているにも関わらず、特定の職務にとどまっている状況が生じ、全体最適の観点から見た生産性向上を阻害する要因となっていることが、データによって示された。

 

図4 オーバースペック人材の抱え込み

これらは、あくまで一例ではあるが、スキル評価のデータを活用することで、事業部門との連携を図り、人材ポートフォリオ形成における構造的課題の分析につなげている好事例といえる。

データにもとづく事業との対話から構造的課題を特定

今回の取り組みにおいて重要なのは、人事部門内に閉じた議論としないことである。事業戦略にもとづく要員計画や人材戦略の検討主体は事業部門であり、事業目標達成に向けた人材調達戦略は各部門が担うものである。一方で、各部門の要員計画を全社で積み上げていくと、人件費計画を超過するケースも少なくなく、全社最適の観点から要員増加の要否をめぐる調整が不可欠となる。

近年の人事部門(特にHRBP:事業部付の人事部門)には、こうした事業部門の要員計画立案を支援する役割の重要性が一段と増している。
しかしながら、その議論が過去の経験や勘に依拠したものにとどまったり、発言力の強い部門の意見が優先されたりすることで、本当に必要な要員計画を立案できない懸念も存在する。
こうした状況に対しては、現状の人材ポートフォリオの実態や、多面的な分析軸でのデータを事実として参照し、事業部門との対話に活用することが有効である。データにもとづくことで、単なる前年対比による人数補填の是非に終始することなく、①各部の職務遂行能力にもとづき、要員構成上のどこに問題がどこにあるかを確認しながら調達計画(内部育成、外部調達など)を検討・立案することが可能になる。
さらに、②短期的な視点に陥ることなく、持続的な事業成長を阻害している人材マネジメント上のボトルネックや構造的課題について、議論を深めることができる。

全社の人材戦略・人材マネジメントの高度化を担う人事部門にとって、こうした②の事実をデータとして獲得することは、大きな資産となる。全社人材戦略の立案にあたっては、中期経営計画・事業計画にもとづく視点が不可欠であるが、トップダウンのアプローチのみでは、論理的には正しくても、事業の現場で起こっている本質的な課題と乖離し、十分な理解や期待した成果をあげられない恐れがある。
こうした懸念を払しょくするためには、データにもとづく事業部門との対話を通じて、構造的課題を特定し、事業が求める人材充足を実現するための人材マネジメント上の打ち手を検討し、具体的な施策に落とし込んでいくことが求められる。

 

経営・事業が求める人材とのギャップを可視化する

生産性と、経営・事業が求める「ケイパビリティ」との2つのギャップ

ここまで、各部門の生産性を質の面から正しく測り、持続性のある適所適材・適時適量を実現するための具体的なアプローチについて述べてきた。
人材ポートフォリオを最大活用するためにはもう一つの視点が求められる。それは、本連載の第2回「経営・事業戦略と連動した人材戦略の実践プロセス」で解説した経営戦略の視点から組織が獲得すべき「ケイパビリティ」を特定するという点である。

事業は常に変化と変革を伴いながら、成長を目指すものである。このため、現状とあるべきとのギャップを測り、それを埋めるための活動も当然求められる。さらに、将来にわたり企業が保有すべき「ケイパビリティ」の獲得に向けたギャップを捉え、計画的に充足させていていく活動も、同時並行で推進する必要がある。

 

個別最適と全体最適の視点で、それぞれのギャップの打ち手を整理

そのためには、将来の人材ポートフォリオをいかに描くかが重要なポイントとなる。将来目指す人材ポートフォリオは、目標とする財務KPIと、企業が保有すべき「ケイパビリティ」を軸に、業務やバリューチェーンの変化点を捉えたうえで、具体化していく必要がある。

こうした観点から人材ポートフォリオの充足状況を測っていくことは、将来保有すべきケイパビリティの充足に主眼を置くことであり、全体最適の観点から、いわば変革の状況をバックキャストでモニタリングするということに他ならない。
一方で、事業の持続性を担保するためには、現在の人材ポートフォリオにおける生産性を把握し、個別最適の視点で状況の改善をフォーキャスト的にモニタリングしていくことも求められる。
人材ポートフォリオマネジメントの本質は、この2つの視点を併せ持ち、継続的にモニタリングしていく点にある。「あるべき人材ポートフォリオとのギャップ」を検討する際、これら2つの概念が混同され、議論の軸足が定まらないケースは少なくない。
だからこそ、全体最適と個別最適のそれぞれの視点で、ギャップを切り分けて整理することで、ギャップに対して講ずべき打ち手を的確に立案することができるのである(図5)。

 

図5 人材ポートフォリオマネジメントの全体像(AsIsとToBeの人材ポートフォリオのギャップを埋める)

まとめ

本インサイトでは、人材ポートフォリオマネジメントに取り組む意義と、その具体的な実践プロセスについて詳述してきた。
人材ポートフォリオを構築するにあたり、将来目指すべき姿や解消すべきギャップが不明確なままでは、人材ポートフォリオが企業価値向上にどのように寄与しているのかが実感しづらく、成果が見えない状況に陥りがちである。
解消すべきギャップをいかに定義し、それを埋めるために人材ポートフォリオをどのように活用していくのか。本インサイトで示したプロセスにもとづき、人材ポートフォリオマネジメントを実践することで、動的な人材充足の実現を図ることが重要である。

アビームコンサルティングは、人材を質の観点から評価し、人材ポートフォリオを構築・分析する独自のアプローチにより、人材ポートフォリオマネジメントの確立を支援している。単に人材ポートフォリオを作り上げることを目的とするのではなく、経営・事業戦略との連動、そしてギャップを埋めるための施策設計まで伴走し、価値創出に資する人材マネジメントの確立を支援していく。

次回以降は、人材ポートフォリオのギャップを埋めるためのより具体的な施策立案のフェーズへと移っていく。次回のテーマは、「適所適材」実現の要諦である、人材のマッチングを通じて社内の流動性を促進する「タレントマーケットづくり」の実践論を展開する。

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