アジア各国の中でシンガポールが先行して気候変動ストレステストを実施しているため、カウントされている内容のすべてにおいてシンガポールの金融機関が含まれている。このシンガポールでのテストに関し、欧米金融機関の中で参加した内容を開示しているところがあり、ESG地域別対応状況のような形で開示されているケースが見られた。
欧米金融機関では、1つの傾向として「未確定要素があれば数値の開示をしない」という金融機関が多く見られた。TCFDやTNFDの関連事項に関しては評価方法などで未確定要素があり、政府や金融当局などとの連携で評価方法を確立させることに寄与する姿勢を前面に出し、具体的な分析結果の数値は開示しないというものである。欧米金融機関では金融業界および自国経済を牽引する立場、アジアでは各国経済を牽引する立場というCSR的視点で評価方法を確立させることに注力する内容が多かった。
こうした傾向から、TNFDに関してはごく一部の金融機関を除き、大半は今回の調査項目に関して開示していない結果となり、現状の対応姿勢などは説明していても、その内容について幅広く開示している金融機関は欧州でもほとんど見られない結果となった。
② ガバナンス面
国内では「サステナビリティ推進委員会」といった専門委員会を新たに設置する形で気候変動対策をカバーする形が一般的であり、態勢が整ったかどうかの問題として集計結果に反映されているように見受けられる。一方で、欧米金融機関では態勢図の見た目自体は国内と似ていても、根本的な違いを感じさせる内容が多い。
具体的には、TCFDにおいて「気候変動リスクは新たなリスクカテゴリーができるものではなく、リスクドライバーの1つという位置づけ」という捉え方となっており、それが忠実に経営上の重要なリスクの1つとして認識され、既存のRAF(リスク・アペタイト・フレームワーク)態勢と連携している形になっていることである。図7で分かる通り、RAFの融合においてRAFという言葉すら出てこない国内金融機関は多く、「TCFDというものが要対応事項として出てきたから、そこだけ追加した」という印象を受けやすい説明になっている。
欧米金融機関の先進的なところでは、気候変動に関するリスクを見る専門機能と機会を見る専門機能があり、上部コミッティで総合的に判断するようなガバナンス態勢を構築し、戦略とリスクの両面を捉えているように見えるが、国内ではリスク管理高度化の延長線上で考えられている印象が強い。