しかし、日本企業のCXの実現度はいまだ低いと山根は懸念を示す。
「外部機関の調査によると、日本の多くの企業は一様に“CXは重要”と考えているにも関わらず、わずか10%程度しかその取り組みが進んでいないことが示されています。これは、データだけではなく、私たちが実際にさまざまな企業や組織の変革を支援するなかでも、多くがこの段階にいるのではないかという肌感覚と合っています」
デジタルテクノロジーの進展や世界的なパンデミックによって日本企業を取り巻く外部環境は大きく変化した。顧客の価値観の多様化、購買行動の変容、さらには環境意識の高まりによって、商品や企業運営そのものにサステナビリティが問われるなど、さまざまなテーマが複雑に絡み合い、よいものをつくれば、あるいは機能が優れているものを提供すれば、顧客がついてくる時代は終わりを迎えたと言えるだろう。企業は顧客に選ばれ続け持続的に成長するために、顧客との関係性を見直す時期に来ており、CXをより重要視する潮流が生まれているのは間違いない。これは、B to C企業に限らず、最終的な消費者がいるB to B to C企業も同様だ。
そうした状況にも関わらず、日本企業のCXの取り組みが思うように進まないのはなぜだろうか。山根はその要因のひとつは、従来型の組織構造にあると考えている。
「顧客との関係やそこでの体験創造は本来ビジネスそのものであるはずです。にも関わらず、CXを気にかけているのはマーケティング部門など一部の部門に留まってしまっていて、会社全体のレベルではまだまだ理解が及んでいない。例えば売り上げがKGI(Key Goal Indicator)だと仮定しても、CXの要素はKPI(Key Performance Indicator)に落とし込まれていません。CXを掲げはするものの、CX戦略をもたず、それが経営指標、事業計画に反映されていないのです。組織が分断されサイロ型になり、それぞれの部署が個別に企業側からの視点でカスタマー・ジャーニーを描いている。これが日本企業のCXが進まない要因のひとつです」
本来、CXは企業が提供する価値を起点に、顧客との関係を軸にビジネスを再創造する取り組みのはずで、マーケティング部門だけで推進できるものではない。さらには顧客の価値観は、社会情勢やテクノロジーの発展はもとより、個々のライフステージによっても変化する。求められる顧客体験が常に変化を続けるなかで、企業はサステナブルな対応が可能な組織をつくらなければならない。しかしいまはまだ、“企業側からの視点”に立脚しているため、顧客側からの視点の取り組みになっていないばかりか、従来型の組織構造がそれを堰き止めてしまっているという。