現在、海外および国内エネルギー業界は大きく変化しつつある。
本インサイト「エネルギーバリューチェーンの変革」では2回シリーズにて、国内エネルギー市場における最新の動向および今後のビジネスの方向性について解説していく。
第1回目は、国内エネルギー市場起きている市場変化の概要について解説していく。
現在、海外および国内エネルギー業界は大きく変化しつつある。
本インサイト「エネルギーバリューチェーンの変革」では2回シリーズにて、国内エネルギー市場における最新の動向および今後のビジネスの方向性について解説していく。
第1回目は、国内エネルギー市場起きている市場変化の概要について解説していく。
2019年、大手石油会社ロイヤル・ダッチ・シェル社がドイツの蓄電池スタートアップ企業であるsonnen社を買収するなど、欧米を中心とした海外エネルギー市場ではイノベーション競争が加速している。
すでに全面小売自由化が進展している海外(欧州、米国、豪州)エネルギー市場の競争環境は3つのステージで変遷している。価格のみで競争する「価格競争」から、商品・サービスを付加価値として提供し差別化する「サービス競争」を経て、「イノベーション競争」に移行している。
「イノベーション競争」環境下では、単純にコモディティ化した電力やガスを供給するのではなく、再エネや蓄電池等のDER(Distributed Energy Resources)と呼ばれる分散型エネルギー資源と、IoT、データ利活用、AI等のデジタルテクノロジーとの組み合わせにより、新たな付加価値を提供するビジネスモデルが構築されている。(図1参照)
その結果、従来の大型発電所から需要家に対して1方向でエネルギーを供給するエネルギーバリューチェーンは、VPP/DRアグリゲーターなどの新たなプレーヤーが参入し、需要家(プロシューマー)とエネルギー事業者が双方向にて電力を取引する新たなエネルギーバリューチェーンに変遷している。(図2参照)
2016年の電力小売自由化のスタート以降、国内エネルギー市場においては「価格競争」とともに、「サービス競争」も同時にスタートし、各小売事業者の利益は急激に減少している。その結果、大型電源を保有している大手小売事業者が、電源を保有しない小売事業者を傘下へ統合していくという業界再編が起こりはじめている。
その一方で、顧客であるエネルギー需要家におけるニーズも急速に変化している。
パリ協定に基づく世界的な脱炭素化への対応の必要性から、グローバル展開する企業を中心にSDGsへの対応に伴う再エネ比率拡大ニーズが増加している。
国内におけるPVによる自家消費型ビジネスは、既に家庭用だけでなく一部の業務用・産業用でも採算性を確保しており、オンサイトPVや蓄電池との組み合わせによる自家消費型での導入ニーズが急速に拡大している。
その結果、エネルギー市場環境はこれまでの単純な電力小売の競争から、自家消費型モデルとの組み合わせによる小売ビジネスでの競争、つまり第3ステップ「イノベーション競争」へと移行している。
イノベーション競争への移行に伴い、従来のエネルギーバリューチェーンの既存プレーヤーたちの経営環境に大きな影響が及びはじめている。
発電事業者のうち、特に石炭・ガス発電等の火力発電は、今後の再エネの主力電源化の影響だけでなく、省エネの普及、人口減少による国内全体の電力需要の減少により総発電量(設備稼働率)が減少するため、長期的には市場全体の発電容量は減少せざる得ない状況となる。
その一方で、PVや風力等の気象条件により発電量が変動する再エネ電源が拡大することで、火力発電の総発電量は気象条件により変動する。そのため火力発電事業者はこのような事業環境下において、いかに既存資産の稼働率および効率性を向上させるかとともに、LNG等の発電燃料の調達変動リスクをいかにヘッジするかが重要な経営課題となってくる。
送配電事業者は2020年の法的分離により規制料金は維持されるものの、中立性・公平性は担保される。しかし、系統電力需要の低下により収入の減少が想定される市場環境下において、今後の系統設備の高経年化対策や、大規模災害対応を含めたレジリエンス対応および再エネの主力電源化への対応などさらなる設備投資が必要となる。
そのため現在政府では、送配電事業者の収益源となる託送料金制度を従来の「総括原価方式」から一定の収入の確保を認めた上で、既存事業の効率化によって生み出される原資を需要家に還元するとともに、新たな設備投資に活用できる欧州等で既に導入されているレベニューキャップ・プロフィットシェア型の「インセンティブ規制」の導入も視野に入れ検討を進めている※1。
これに伴い送配電事業者として既存の電力品質を維持しつつ、既存事業の更なる効率化を進めるとともに、必要となる投資資金を確保していくことが今後の重要な経営課題となる。
国内の電力小売市場は、旧一般電気事業者の小売事業者を中心に、今後いくつかの企業グループが形成されていくと予想される。その一方でエネルギー需要家におけるエネルギーに対するニーズは経済性に加え、脱炭素化への対応ニーズも拡大する。その結果、小売事業者間の競争は、従来のコモディティとしての単純な電力・ガス供給における競争から、再エネによる自家消費型発電を含めた複合的な競争に移行するため、小売事業者としての収益および利益はこれまで以上に低下することが懸念される。
小売事業者としてはいかに競合他社と差別化し、新規顧客獲得の拡大と既存顧客の離脱の抑制を図るとともに、小売業務プロセス全体を効率化し、いかに事業採算性を確保し続けるかが事業の継続のための重要な経営課題となる。
次回以降のインサイトにおいては今後の国内エネルギー市場の「イノベーション競争」への移行に伴い、生み出される新たなビジネス機会に関する示唆を提示していく。
主典:経済産業省 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会
「脱炭素化社会に向けた電力レジリエンス小委員会 中間整理」(2019年8月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/datsu_tansoka/pdf/20190730_report.pdf
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